冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
彼は計略を用いて、五摂家の切り崩しを行うことにするのだった。
これまでのあらすじ
天のゼオライマーのパイロット木原マサキは、20年以上前の冷戦時代に転移していた。
そこは、宇宙怪獣BETAからの侵略を受けた並行世界だった。
BETAをミンスクから駆逐するパレオロゴス作戦。
作戦に関与した彼は、ソ連KGBの計略と戦う事となる。
激烈な戦闘の末、KGBを下した彼は、作戦を成功させる。
勝利に導いたマサキは、勲章授与を理由に東ベルリンを訪問する。
だが、それはゼオライマーの驚異的な性能に目を付けた東ドイツ政府の奸計だった。
陰謀を知らないマサキはユルゲン・ベルンハルト中尉と再会する。
その際、一人の女性を紹介される。
ユルゲンの妹・アイリスディーナとの出会いが運命を変える。
マサキは、彼女と関わるうちに、次第に引き込まれていくのであった。
開けた年は、1979年。
この異世界では、日本帝国の今後を左右する曙計画が終了した年である。
曙計画とは、1976年に始まった日米合同の戦術機研修である。
同計画は、米国が戦術機開発支援として、日本に提案した話が元になっている。
事の始まりは、1972年までさかのぼる。
この年、日本政府は世界に先駆けて、米国で発表されたばかりの新兵器の導入を決定した。
マクダエル*1社が開発した、F-4戦術歩行戦闘機である。
本来ならば、1974年に日本での戦術機納入が始まるはずであった。
だがソ連でのBETA進撃を受け、欧州に新規生産分のほとんどが回されることになる。
後にF-4ショックと呼ばれる事件で、日本政府に与えた衝撃は計り知れないものであった。
その余波に関しては、後日機会を改めて語りたい。
さて、曙計画の研修は、主に米国国内で行われた。
戦術機開発と運用の研修は、軍民合わせ、216名の日本人が関わった。
また米国側も、極東における最重要同盟国として、日本を厚く
米国内にある軍事施設は元より、戦術機に関する情報には自由にアクセスできる状態であった。
航空機企業も熱心に、日本政府に協力した。
F-4を開発したマクダエルは元より、ノースロック*2、グラナン*3などである。
日本が、ソ連機を導入することを防ぐ意味合いもあるが、納品遅延の罪滅ぼしの面が大きかった。
対応する米国側の人員も、これまた豪華であった。
マサチューセッツ工科大学*4出の一流技術者や米海軍戦闘機兵器学校*5の教員などである。
その中には、グラナンのF‐14の設計をしたハイネマン博士とその研究班も加わった。
戦術機の操縦技術と設計ノウハウを学んだ、200
彼等は、1979年3月末までに、日本への
3年の月日をかけた一大プロジェクトは、今まさに終盤を迎えようとしていた。
その年の始め。
木原マサキは、一月元旦というのに、京都の帝都城に来ていた。
年賀のあいさつと、一連の欧州派遣軍の結果報告のためである。
彼は、
まず上着は、詰襟で丈がひざ下まであり、肩には深い切込みが入っていた。
大元のデザインは、平安朝の頃、貴人たちが好んで着た
ズボンは、
ただひざ下まである革長靴を履き、上着の丈で隠れてしまったので大して目立たなかった。
美久も全く同じような服を着ていたが、婦人用の場合は着丈が足首まであり、腰が
恐らく実用性を考え、奈良時代の
雪がちらつく寒空の中、一個師団の人員が着剣した小銃を構えて、中隊ごとに整列していた。
マサキも名簿上所属しているとされる中隊150名と共に待っていると、号令がかかる。
着辛い礼服を着て、寒さに震えていたマサキ。
彼は気だるそうに、着剣した64式小銃*6で
現れたのは、紫色の斯衛軍礼服を着た若い男だった。
5尺*7はある長い黒漆で塗られた鞘の
その後を、青や赤の
マサキのいた場所は、列の真ん中ほどであったが、よくその男の顔が見える位置だった。
あれが
俺は、あのような男に頭を下げているのではない。
あくまで、日本の統治大権を持つ唯一の人物である皇帝に頭を下げているのだ。
このBETAに侵略されつつある世界であっても、変わることはあるものか。
そう、心の中で、将軍と
新春年賀の閲兵式が終わった後、
あの重苦しい礼服を脱ぎ去って、いつもの茶褐色の上下に、ネクタイの勤務服に着替えていた。
普段は襟が開いていて、着辛く寒い服と感じていたが、斯衛軍の礼服よりは温かく感じた。
雪に濡れて、湿っていたビニロン*8生地の服は、軍服として役に立つのかと思うほどだった。
ビニロンは、確かに摩擦強度が高く、防風性と難燃性には優れている。
登山用のビントヤッケ*9でも多用されるし、今も農業資材では重宝される。
だが、親水性で吸湿性の高いビニロン生地は、簡単に湿り、濡れた。
氷点下の気候の中では、体から蒸発する汗をビニロンが吸うと、スルメの様に硬く凍ってしまう。
せめて、ノーアイロンのテトロン*10生地でもあれば、どんなに良かったことか。
マサキは、国産可能な繊維として、ビニロン繊維を選んだ国防省を恨めしく思っていた。
さて、
マサキに一礼をした後、名刺を差し出してくる。
名刺を見ながら、マサキは目の前の男に尋ねた。
「詳しい話は、
F-4ファントムの改造計画はどうなっているか、説明してほしい」
頭をきれいに剃り上げた男は、深く一礼をすると、
「木原先生、ご足労頂きありがとうございます。
社長の
そう言って、マサキの目の前に座ると、資料を広げた。
「まず、自動操縦支援装置ですが、電装系を大幅にいじることになりました。
戦術機に搭載してあるレーダー観測装置は、従来と比較して2000メートル先まで検知可能に。
次に、一定の条件下では戦術機自体が自動運転を行うシステムの開発のめどが立ちました。
ただし、非常時には操縦士自身が運転操作を行わなければいけないという問題があります。
そして最後に、搭載するカメラの数を10個ほどに増やしました。
危険の認識を早くするためです」
マサキは、やや戸惑い気味に図面を見てから、恩田に視線を向けた。
「人工知能の搭載は、考えていないのか。
俺は、この技術があれば、衛士の生還率を向上できると考えている」
「実は先生から話を聞いた後、帝大*12と京大の
まず、その為には極小の半導体記憶装置が必要なのです。
我が国は今、10マイクロメートルの
京大の
いつもなら反論するマサキも、遠田の
前の世界でマサキが最新鋭の半導体技術を用いることが出来たのは、
マサキは、前の世界において、世界征服の資金稼ぎの為、国際電脳という会社を作った。
そこで世界中を結ぶ電信事業と並行して、電子製品や半導体技術の研究も行った。
苦心の末に、100ナノメートルの
2020年代を生きる我々にとって、すでに半導体メモリーといえば、10ナノメートルは当たり前である。
だが、1970年代の時点では、100ナノメートルは、空想の領域であった。
市場において一般化したのは、2000年代初頭である。
それが、
半導体技術は長い間、マイクロメートルを基準に生産されていたのだ。
マサキは気分を落ち着かせるために、タバコを取り出す。
紫煙を燻らせながら、
「半導体技術の開発援助と、米国からの横やりをどうにかせねば実現不可能だな」
「木原先生も、そうお考えですか」
「地球上のBETAが駆逐されたこととソ連の急速な弱体化……。
そうなってくると、敵がいなくなった米国の矛先は、どこに向かうか。
それから導き出されるのは、日本つぶしだ」
遠田に対して、まるで教えるような口調だった。
それは、近未来を知る異世界から来たマサキにとっては、無理もない事だった。
近いうちに、アメリカ国内から、強烈な日本たたきが始まる。
過ぎ去った1970年代や1980年代を知っている彼にとっては、常識だった。
日米半導体交渉や、プラザ合意など……。
日本の経済的進展をつぶす米国経済界の陰謀は、彼の脳裏に焼き付いていたからだ。
「貴様も自動車の輸出関連で手ひどい扱いを受けたから知っていよう。
間違いなく米国議会は、急速な電子工業化を進める日本を危険視する。
BETA戦争で疲弊して力を落とす欧州と比べて、無傷の日本の産業界。
これは、だれの目から見ても、脅威であることは明らかだ」
遠田は、マサキの言う通りだと思った。
それよりも、なぜ、まるで過去の出来事を見てきたように話すのかは気になった。
「量産を度外視した極小半導体なら、極端な話、研究室でも出来る。
だが、ある程度の品質で量をそろえるとなると、企業も工場も必用だ」
マサキは出された茶菓子を食べた後、ティーカップを無造作につかんだ。
ぬるくなった紅茶を、一気に半分ほど飲み干す。
「経済関係の役所の援助もなくては、外圧に負ける」
マサキの話を聞いて、戸惑った遠田は、おもわず苦笑をたたえた。
「策は、ないわけではありません」
遠田は、そういうばかりで結論を濁した。
「どういうことだ?」
「今の殿下と対立している五摂家に、
その崇宰の当主のお力を借りて、役所の裏口から手を回すというのはいかがですか」
「どんな方法を」
今の遠田の一言には、マサキもおもわず生唾を飲み込んだらしい。
じっと、その顔を睨むように見て。
「危険な事を言うが、くだらない冗談ではあるまいな」
「いやいや」
と、遠田は正面のマサキを向いたままで。
「もし、計略をほどこすとすれば、それ以外に手はないと考えられます」
「だが、いかに良い策があるとは、崇宰とあっては、
どうして、近づくことさえできるだろうか」
マサキは大きなため息をついた後、屈託もなく笑い飛ばした。
この世界での五摂家とは、われわれの世界の五摂家とは違った。
まず、われわれの世界の五摂家に関して、述べよう。
五摂家とは、鎌倉時代以降、摂政・関白の役職を任ぜられた特定の家柄の事である。
このBETA戦争の世界では違った。
慶応3年*13の大政奉還の際、江戸幕府を倒した有力な5大武家を指し示す言葉であった。
その後、従来からあった摂政・関白・征夷大将軍に変わって、
この異世界では、政威大将軍職に任ぜられる特定の家系を指す言葉であった。
しばしの沈黙は終わり、マサキに代わって遠田が口を開いた。
「木原先生は、真正面に過ぎます。
帝都城も、五摂家も世間のうち。
抜け目ない海外商社などは、崇宰様を通じて、うまい商売さえしております」
「商売を……」
「はい、それも東南アジア向けなどという小さい商売ではありません。アメリカ関係です。
そのほか、崇宰様を通してなら、どんなことも実現する。
そうと見て、何かと思惑を抱く
「なるほど」
「そこで、そうした崇宰様であれば、これは近づく方法がないでもない。
また、いつかはきっと、この計画のためにもなるものと考え、とうに道をつけておきました」
「では、貴様が直々に崇宰の所に行ったのか……」
「いいえ、裏で脚本を書く者は表には出ません。
それに、これからの筋書きもありますし」
マサキのやりくちは、その陰謀も行動も、人にやらせて見ているというふうだった。
胸には疑問を抱いていながら、判断と注意だけを与えるに止まっていた。
どんな場面においても、腹のなかのより大きな欲望はいつも忘れていなかった。
遠田の陰謀は、まもなく、その影響を二条にある帝都城まで及ぼし始めていた。
「崇宰様、お聞きなされましたか。
アメリカが規制を強化するという話を」
けれど、当の崇宰は、もとより世の常の男ではない。
人の告げ口や噂などに、すぐ動かされはしなかった。
崇宰の
その鳳がある日、崇宰の屋敷に来たおりである。
「
米国が近いうちに、日本の輸出産品への関税強化をするという話は知っておりますか」
崇宰家と鳳家は、親族同士だった。
同じ家から、姉妹を
「祥治、君までがそんな戯言を信じるのかね」
「私の話を聞かぬうちに、判断なさるつもりですか」
「根拠のない話ではないと、証拠はあるのかね」
「口の軽い他人は、いざ知らず……。
この私が、何でそんな軽はずみな事で、
鳳は言い切った。
本当の心情には違いあるまい、崇宰にもそう思われた。
それだけに、崇宰も鳳の言には、だいぶ心をうごかされたらしい。
だんだん聞き及んで行く内に、いつか理知の強い彼も
それを執拗に訊ねる様は、むしろ鳳以上な動揺を内に持ってきたふうであった。
「……まこと、いまの話のようならば」
と、崇宰はもう抑えきれぬ興奮の色を、顔中に見せて。
「何か、対策を打たねばなるまい……」
「ここでご思案などとは、遅いくらいですよ。
昨年の11月に、ニューヨークの国連代表部にいる
「何!御剣公が……」
「今のCIA長官は、経済界との深い関係にある人物です。
御剣に、日米貿易交渉に関する裏話でも告げたに違いありません。
そうでなければ、米国の諜報をつかさどる男が、わざわざ五摂家の者と会う必要があるのですか」
御剣とCIA長官が何を話したかは、秘中の秘だった。
米国におけるG元素爆弾完成の日近しとの話は、将軍と御剣しか知らなかったのだ。
想像は、想像を呼んで、崇宰は恐怖に体を震わした。
まさか、御剣はCIA長官をそそのかし、自分の領域である対米輸出産業をつぶすのではないか。
「御剣公に、勝てる策はあるのか」
「ないわけでは御座いません。
天のゼオライマーという戦術機を駆る男を知っていますか」
崇宰もマサキの事を全く知らないわけではなかった。
気にならないといえば、嘘である。
ただ、マサキも油断ならないところのある男だ。
今は忠義面を決め込んでいるが、世界征服の野望を抱いていると聞く。
一応、斯衛軍の将校ということになっているが、崇宰は気を緩めていなかった。
「まずは……考えておく」
立ち上がる際にふらついた崇宰の事を、鳳は
その実、鳳も足元が確かではなかった。
密議に
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近いうち、ミラ・ブリッジス関連の話に入ろうかと思っています。その際は、トータルイクリプスのタグが必要なのでしょうか
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