冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
連れて行かれた先は、
京都盆地の寒さは、想像以上だった。
城内省からあてがわれた邸宅が、古い
前世で温暖な静岡に住んでいた為か、非常に寒さが身に染みたのだ。
静岡では氷点下になることは珍しく、真冬でも日中は10度近くまで上がった。
その点が京都とは違うと、しみじみと思い返していた。
マサキは布団から抜け出し、濃紺のウールの
眠れぬ夜を紛らわそうと、使い捨てライターで、ホープの箱から取り出したタバコに火を付ける。
紫煙を燻らせながら、この異世界のロボット兵器を考えた。
戦術歩行戦闘機。
この異世界の、人型ロボット兵器の正式名称である。
マサキが前の世界で作った作った、大型破壊兵器、
その八卦ロボとの大きな違いは、その操縦方法であった。
衛士強化装備という特定のパイロットスーツから測定した脳波や体電流。
そこから、装着者の意思を数値化、蓄積されたデータを基に次に行う操作を予測。
機体の予備動作に、反映させるというものである。
一連の動作を間接思考制御と称されるものであった。
この高度な情報反映は万人が成功するものではなかった。
思うに、戦闘機パイロットであったユルゲンやヤウクなどが、機種変更を成功させた理由。
BETA戦争初期の段階であったために、ソ連側から丁寧な指導を受けられた為であろう。
陸軍下士官出身のクリューガー、ヘリ操縦士のヘンペルも同じであろう。
時間的余裕のあったころに教育を受けた将兵の技量は、目を見張るものがあった。
第二次大戦時から婦人兵を重用したソ連であっても、婦人操縦士の割合が少ない。
それは、過酷な訓練や勤務体系ゆえではないか。
最前線になりかけていた東ドイツでも、婦人操縦士は指折り数えるほどでしかなかった。
アイリスディーナやベアトリクス、ユルゲンの同級生であるヴィークマン。
いずれの人物に共通するのは、運動神経が抜群の人物であるという事だ。
ユルゲンから聞いた話によれば。
ツァリーツェ・ヴィークマンは、155センチほどしかない小柄な女。
彼女は、柔道・空手の黒帯で、ミュンヘン五輪*2の強化選手候補であった。
あの
マライに関しては、制服の上からも分かるほどの揺れる乳房、
160センチ代前半という、東ドイツ婦人の平均身長の割には、
人は見かけによらぬものだと、マサキは
アイリスディーナは、自他ともに認める水泳の名人。
幼少のみぎりから水泳に慣れ親しみ、県*3大会に出るほどの実力の持ち主だった。
ベアトリクスとの出会いは、シンクロナイズドのペアを組んだことからだという。
ベアトリクスとユルゲンとのなれそめも、その水泳に関連するものだった。
もしBETA戦争がなければ、大学か実業団に入っていたであろう。
今頃アイリスディーナは、ベアトリクスと一緒に大学で、教職の勉強をしていたかもしれない。
厳めしい迷彩服など着ずに、
BETAという宇宙怪獣が、
マサキは、つくづくBETAという存在が憎くなった。
グレートゼオライマーには、自分が作った八卦ロボのあらゆる特徴を盛り込むつもりだ。
これが完成すれば、惑星の一つや二つは簡単に消せるだろう。
そうすればBETAの前線基地はおろか、母星も滅ぼせよう。
マサキは、アイリスディーナを援助してやるのが、楽しくて仕方なかった。
特に地球征服の前段階としての東ドイツへの工作という理由を忘れ、若くて美しい彼女に
新しいホープの包み紙を開けながら、
そのうちに、あの娘を救ってやろうという気持ちが、何も自分だけではないという考えに至った。
兄ユルゲンだって、宇宙飛行士の夢を
だから、自分以上に
自分の身に置き換えて、そう違いないという確信に至った。
いつしかマサキは、己の中に熱い情熱を感じ始めていた。
それは、今までの世界征服の野心とは、全く違った感情だった。
いずれにしろ、沸き上がった不思議な感情を落ち着かせるには、タバコを吸うしかない。
マサキは、何かにせかされるように、紫煙を燻らせた。
もし、自分がこの世界の戦争に介入せねば、
その想像は、
既に過ぎ去った、
マサキの意識は、あの民族の
ソ連やナチスドイツと違い、自由で立憲君主制を引く日本では、戦時動員体制に入るのに長い時間を有した。
だが、それでも慢性的な下級将校の不足からは、逃れられなかった。
大勢の青年将校を最前線で失った日露戦争の教訓から、様々な制度を整えていた。
だが支那事変が始まって、数年もすると日露戦争以上の人不足に陥った。
航空要員も同じであった。
既に、そのことを見越して、帝国陸海軍は少年飛行兵の訓練を実施していた。
だが、
今もそのことが教訓となって、自衛隊に生徒教育隊とか少年工科学校と呼ばれるものがある。
一般的に、古代より少年兵を使うのは国家の
毛沢東やカンボジアのポルポトのように少年兵を重用することが常態化した場合。
およそ人倫や社会が崩壊するのは、目に見えている。
戦後に我が国を荒らしまわった少年犯罪が沈静化したのは、高度経済成長まで待たねばならなかった。
敗戦国の日独伊だけではなく、米ソ英仏でも同じであったという。
だから、つくづく無益な戦争は避けるべきではないか。
もし戦争をするならば、短期決戦で完全勝利せねばなるまい。
圧倒的な力をもって、相手の戦意を削ぎ、完封する。
それが、あの戦争を知るマサキなりの結論であった。
既に夜は明けて、外は
ずっと、このような過去の
マサキはそう考えると、再び布団の中に潜り込んで寝ることにした。
どうせ時間になれば、脇にいる美久が勝手に起きて、自分の目を覚ましてくれるだろう。
いくら
睡眠不足は、健康を害すどころか、思考力を低下させ、破滅的な事故につながる。
従事する
その様にあきらめると、しばしの休息を取った。
さて翌日。
昼過ぎに仕事から帰ってくると、グレートゼオライマーの図面を修正していた。
製図板を抱き込むようにして座っていると、
既にとっぷりと日が暮れた時間で不審に感じたが、一応来た理由を尋ねる。
「どうした、こんな日暮れに来て」
「私と一緒に、あるところまで付き合ってほしい」
その言葉に、
この男がそういう時はたいていよからぬ話だからだ。
「土曜日の午後ぐらい、ゆっくり休ませてはくれぬのか」
まだこの時代の土曜日は、出勤日だった。
当時の日本社会では土曜は休日の扱いではなかったからである。
午前中だけ勤務するのがあたりまえで、そのことを指して半ドン*6と長らく呼ばれていた。
一般社会で完全週休二日制が導入されるのは1980年代以降であり、官公庁は1992年*7まで待たねばならなかった。
マサキには一応年間の有給が残っていたが、アイリスディーナ関連で使うつもりでいた。
なので、平日は、他人の都合で休むつもりがなかった。
しぶしぶながらも鎧衣の対応に応じることにしたのだ。
連れてこられた場所は、
作りからすると、江戸中期に建てられた武家屋敷で、立派な門構えであった。
鎧衣が屋敷の前で、取次をすると、間もなく屋敷の大門が開く。
マサキは、くぐり戸から内玄関からではなく、式台がある本玄関に車で乗り付けた。
式台とは、玄関の土間と床の段差が大きい場合に設置される板の事である。
かつて未舗装の道が多い日本では、
それを避けて、貴人や主君を迎えるために、設けられた空間を指し示した。
いつしか、それは表座敷に接続し、家来の控える部屋を指し示す言葉となった。
マサキは、この異例の対応に驚いた。
自分は、この世界では何の縁もゆかりもない根無し草。
精々持っているのは、特務曹長の肩書と、
あとは、胸に下げる何枚かの
表座敷*8で、出された茶を飲んで待っていると、着物姿の篁が入ってきた。
だが、自宅というのに、茶色い
武家の慣習は、よくわからない。
篁の羽織姿を見た、マサキの第一印象だった。
篁は、帯ていた
そして着席するとまもなく、慇懃に頭を下げてきた。
「
マサキも形だけの平伏をして、それに答えた。
「面倒くさい挨拶は良い。俺を呼んだ真意を聞かせてもらおうか」
篁はマサキの
「実は、F-4の日本版である、
以前貰ったローズ・セラヴィーの関節が特殊だったんでな」
マサキは、遠慮せずにタバコを吸うことにした。
篁との話し合いだ。
見たところ、女子供もいないだろうし、何の
静かにホープの箱を取り出して、火をつける。
「言っておくが俺は戦術機に関しては、素人だ。
戦術機に使われている
ローズ・セラヴィーなら、内部フレームはゼオライマーと同じような作りになる」
夕方に来たから、茶菓子の一つも出ないのか。
案外、武家というものは質素な生活をしているのだなと、思った時である。
奥の方から
「え……」
思わず、マサキはつぶやいていた。
紺の色無地姿の女は、年のころは20代後半であろうか。
化粧はあまりしていないが、肌艶がきれいで人目を引くような端正な顔立ちである。
きりっとした水色の瞳は深い輝きを放ち、氷のような鋭さを感じさせた。
まるで
マサキは直感的にわかった。
これが、天才女技術者のミラ・ブリッジス。
これならば、篁が夢中になるのも分からないでもない。
思わず、タバコを口から取り落としてしまった。
「木原さんですね。
いつも、主人がお世話になっております。
ミラ・ブリッジスです。」
清楚で、繊細……それに笑顔が自然だ。
マサキは目の前のミラを、上から下まで眺める。
「ど、どうしたの。大丈夫」
「気にしないでくれ……何でもない」
肩まで伸びるセミロングの金髪は、
潤いのある前髪がふんわり額に垂れかかる眺めは、
身長は162、3センチ。
着物を着ているせいか、よくわからない。
だが女好きの篁が一目ぼれするくらいだから、恐らく
「木原さんって、
違うのかしら」
「え、いや、そんな……」
この瞬間、マサキは
それは、数十年ぶりに
たとえ、それが社交辞令であっても、
「
吉祥天とは、インドの
後に仏教に取り入れられ、守護神の一柱となった女神である。
弁財天は、又の名を弁才天ともいい、インドの神サラスヴァティーである。
水と豊穣の女神とされ、仏教の守護神として受け入れられた。
日本では、福徳の仏とみなされ、吉祥天と同一視する信仰まで生まれた。
「
何、水を差すようなことを口走ってしまったのか。
いや、口に出せない本音は、まだあるが。
心なしか、篁と美久からの視線が痛かった。
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今後、登場してほしいキャラに関して質問 その2(暁の方にも影響します)
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シルヴィア・クシャシンスカ
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范氏蘭
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イングヒルト・ブロニコフスキー