冥王来訪(ハーメルン投稿版)   作:雄渾

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 木星に続き、土星偵察を続けるマサキ。
一方その頃、米国では新型爆弾の完成が発表されるのであった。


威力(いりょく)偵察(ていさつ) 中編

 土星は太陽系の第6惑星で、これまた巨大なガス惑星であった。

木星との大きな違いは、土星の赤道上を平行に囲む環であった。

 1610年にガリレオ・ガリレイが発見し、最初は耳として紹介された。

今のように環であることが判明したのは、1655年にホイヘンスが確認してからである。

分厚い板のように見える土星の輪は、無数の微小天体の集まりであることが判明している。

 ガス惑星である土星の表面は,厚い大気層に覆われていた。

大気の主成分は、大量の水素・ヘリウム・メタン・アンモニアなどである。

 また土星の衛星・タイタンは厚い大気に覆われており、大気層を含めれば、木星の衛星ガニメデを凌駕する大きさであった。

 別な衛星・エンケラドスは、表面を厚い氷に覆われた白い星であった。

だがこの衛星には、ガニメデやタイタンとは違う変わった傾向があった。

 有機物と謎の熱源、そして液体の水の3つの要素が全て揃っている。

生命体が存続可能な条件がそろっており、地球外生命体の根拠地の一つと推定されるほどであった。

 マサキは、土星そのものではなく、タイタンやエンケラドスなどの衛星に注目した。

土星の衛星は、資源が豊富であり、またタイタンには大気層がある。

そしてエンケラドスには地下に大規模な水源と、マグマを中心とした熱源がある。

 この二大衛星を秘密基地に改造すれば、BETA撃滅の前線基地に仕えるかもしれない。

人工知能を搭載した作業用ロボットを使って、大規模な戦術機工場を作る。

 あるいは巨大戦艦の建造基地にするのも、良いかもしれない。

そんなことから、木星攻略から日を置かずに、土星の攻略にかかったのだ。

 

 衛星・エンケラドスの地表は、全くの暗闇だった。

数万を超えるBETAの影が、目を赤く光らせながら、黙々と行進していた。

 その時である。

突如として起きた大地震と共に地中から、地下のマグマ層が噴き出してきた。

 発生した地震はマサキが引き起こした人工的なものだった

グレートゼオライマーの必殺技で「アトミック・クエイク」

マグニチュード10から12クラスの振動を加えた後に、核ミサイル飽和攻撃を実施する技であった。

 

 また熱泉も天高く吹き上がり、エンケラドスを覆っていた氷の層を溶かしてゆく。

瞬く間に、エンケラドスにはマグマによる小さい沼がたくさんにできてきた。 

氷の熱い表層は酷い泥濘になり、戦車級は、ぬかるみに没し、要塞級は動かない。

加えて、それとみて、いずこから現れたの戦術機隊が、横ざまに機関砲を撃ちかけてきた。

サンダーボルトA-10、6機、F-4Jファントム、6機、計12機である。

 地球からはるかに遠い場所で、推進剤の補給も心もとない場所に、何故戦術機が現れたのであろうか。

それは、マサキが作った人工知能搭載の戦術機部隊であった。

美久に搭載した推論型AIの100分の一の人工知能で、マサキの指示に完璧に動く者であった。

 もちろん人は載っていないから、軌道も回転も制限がなかった。

その上、機関砲の振動も気にしなくてよかったので、余計な心配はほぼなかった。                                                                                

 

 泥のようになったBETA勢は、急転して、マサキが引き連れた戦術機隊へ、突っこんで行った。

 ざ、ざ、ざッと泥飛沫が2万の怪獣に煙り立った。

 と見るまにである! 

 アヴェンジャーGAU-8ガトリング砲が、咆哮をあげ、火を噴いた。

30ミリ機関砲に当たって、そこに倒れ、かしこに倒れ、血を噴いて、呻くものが、列をみだし始めた。

 血けむりの中へ、後続の1万5千の部隊は雲の如く前進を開始して来た。

マサキの方では、それまでの戦闘を、戦術機隊にまかせて、後方で寂としていた。

「よしッ!かたを付けるぞ」

颯爽と、戦術機体の目の前に現れ、射撃形態へ変形を開始した。

「ジェイカイザー、発射準備」

 BETA勢は、グレートゼオライマーを目がけて、幾たびも近づいて来た。

射撃準備が整うまで、無人操縦の戦術機12機が、マサキを護衛した。

ガトリング砲、フェニックスミサイル、滑腔砲などが、無数の敵を撃滅させた。

 だが、彼らはひるまない。

敵は、後から後から繋がってくる。

 無人誘導の戦術機は、粘着性の高い油が充填された、ナパーム弾を投擲する。

戦車級も燃え、突撃級も燃え、要塞級も燃えた。

 ジェイカイザーは次元連結システムを搭載する以上、本来、充填は不要である。

マサキが時間をかけたのは、試射を経ずに、第一射でBETAを殲滅する為であった。

 美久がもう一体のゼオライマーに載っているので、標準を手動でするしかなかったためである。

「発射!」

 ジェイカイザーの一撃は恐るべきものであった。

 大地はとたんに狂震し出した。

山も裂け、雲もちぎれ飛ぶばかりである。

硝煙は周囲をつつみ、まるで蚊の落ちるように、その下にBETAは死屍(しし)を積みかさねた。

 

 

 

 突如として起きた、土星軌道上にある衛星の謎の大爆発。

世界最大を誇るヘール望遠鏡によって、衛星・タイタン消滅の一部始終が観測されていたのだ。

 その件は、直ちに米国の国政の中心であるホワイトハウスに知られることとなった。

それはマサキが基地に帰って、二日後の事であった。

 

 会議の冒頭、NASA局長は、米国大統領に、

大統領閣下(ミスター・プレジデント)

すでに今週に入って、太陽系の各惑星で謎の衛星爆発があったことは聞いておりますね」

「ああ」

「閣下。NASAの方では、これらの事象は人為的なものと考えております」

「それで……」

「実は土星までパイオニア計画で無人機を飛ばしたのを知っておりますね」

「1962年の事だったね」

「閣下、その通りでございます。

あの時に木星と土星にそれぞれ10号と11号が接近し、ガニメデとタイタンから映像を得ました。

何かしらの構造物や生命体らしき存在を、認知しておったのですが……」

 懺悔(ざんげ)とともに、NASA局長が言った。 

「時勢も時勢でしたので、公表はケネディ大統領によって差し控えられておりました」

「ダラス事件がなければ、変わったかね」

「それは何とも言えません」

 

「NASA局長、続けたまえ」

「我々はそれから再分析したのですが……BETAの支配域であることは間違いのない事実でした」

 NASA局長は詫びぬくが、しかし閣僚たちは、ただ笑っていた。

少し離れた位置にいる国防長官が、ようやく口を開いた。

「問題は、大規模な戦闘兵力をいかに素早く送ることですな。

現状ですと、スペースシャトルによる(ネズミ)輸送しかありません」

 

 (ネズミ)輸送とは、大東亜戦争時に帝国海軍が行った駆逐艦による輸送作戦の事である。

当時のガダルカナル島では米軍に制空権を奪われていた。

 その為、同島への部隊輸送・物資補給は困難を極めた。

低速の輸送船ではたちまち戦闘機や潜水艦の餌食になる。

 そこで海軍軍令部が思いついたのは、高速の駆逐艦を利用して行った輸送方法である。

駆逐艦に積める物資を、何度繰り返すことで日本軍の補給路を維持する。

その規模があまりに少なく足りなかったため、前線部隊がそのように揶揄したのであった。

 

 

「だが、他にも方法はある。輸送船は何もスペースシャトルとは限らん」

「!」

 

 ここで読者諸兄も、月面に大規模な派兵に対して疑問に思うだろう。

2020年代の今ですら精々月に有人船を送るのは至難の業、ましてや1970年代は無理ではと。

 マサキが来た並行世界は、我々の知る世界の歴史と大きな乖離があった。

まず1944年に、日本が降伏したばかりではない。

1950年に米国主導で月面着陸が成功し、8年後に火星探査船バイキング1号が火星の調査を終えてた。

 火星の調査を終えた米国は、次の段階に宇宙開発事業を進めた。

それは、太陽系外への学術調査である。

 核パルスエンジンを使用した無人探査船の建造は、地球軌道上で行われた。

調査船発射用の宇宙ステーションとともに調査船イカロス1号も衛星軌道上で建造されたのだ。

 

 

「諸君は、フォン・ブラウン博士を知っておるかね」

 質問とともに、副大統領が言った。

すると、国務長官をはじめ、みな吹き出して、 

「あのV2ロケットを作りし、航空及びロケット工学の泰斗(たいと)

ゲシュタポにつかまった際には、ヒトラー手づから助命嘆願をしたそうですな」

「悪魔にすら魂を売った世紀の大奇人。」

「彼については、私も聞いたことがあります。

晩年はオカルト思想に溺れた狂人でしたな」

と交まぜかえした。

こんな冗談も出るほど、うち解けていたのである。

「それくらいにしたまえ。

さて、そんな彼は、BETAの太陽系進出を恐れ、ある遺言を残した」

 

「さあ、聞かせてもらおうではないか。フォン・ブラウン博士の遺言を」

「はい」

 

「博士は、この太陽系に人類が留まることを危険に感じていたのです……」

「博士が存命だった一昨年までは、ユーラシアの大部分はBETAに占領されていたからね」

「今も月面にはハイヴがございます。時間の問題かと……」

「うむ」

「では聞くが、人類にとって安全な場所はあるかね」

「お見せします」

 

 NASA局長は、部屋を暗くし、スクリーンを用意すると映写機を回し始めた。

 そこには、何やら建造中の巨大な宇宙ロケットのような物が映し出された。

建造作業に参加していた戦術機のと比較を見ると、およそ30倍ほどの縮尺であろうか。

 船体の大きさは、640メートル。

米海軍の最新鋭航空母艦エンタープライズ、その2倍ほどの大きさだった。 

 

 映写機が回る中、しばらくの間沈黙が続いた。

ホワイトハウスの老主人は、つぶやき、眼をほそめる。

「ほう、たいしたものだね。素晴らしい設備だ」

「お褒めにあずかり、光栄にございます」

 NASA局長は、最敬礼の姿勢を取った。

そして居住まいをただした後、画面に映る巨大戦艦の説明を始めた。

「これは、バーナード星系に行くためのロケットです」

 バーナード星系とは、地球から6光年以上離れたへびつかい座にある惑星群の事である。

天体観測から、人類が居住可能な惑星が存在するとされている場所である。

「博士は、バーナード星系こそ人類安住の地と思っていたのです。

我らが理想する、第4のローマ帝国を作り上げるのもバーナード星系でならばと!」

 男の驚くべき発言に、周囲も動揺していた。

6光年も先の、バーナード星系に移住する計画などというのは夢想だにしなかったからだ。

「15年かけて完璧につくった核パルスエンジンの宇宙船、このダイダロス10号。

合成ケロシン燃料や全固形燃料ロケットなどの、今までのガラクタとは、違うのです」

「そうだったのか」

 大統領は、ただ驚きあきれる。

それに対して、閣僚たちの反応は、様々だった。

「予想以上だ」

「素晴らしい。

私たちにもこんな手札が残っていたとは……」

 その話を黙って聞いていた副大統領は、同時に何か考えている風だった。

一頻り、バニラ風味の香りがするシガリロをふかした後、口を開いた。

「これで、合衆国はG元素爆弾の他に切り札を持ったことになる。

安心して、月面降下作戦の計画をすすめたまえ」

 副大統領に最初に質問をしたのは、国防長官は、

「近々行われる月面攻略に関してですが……」

 閣僚の中には困惑の色を示すものも少なくなかった。

FBI長官、保健教育福祉長官*1、運輸長官などの内政を担当する閣僚たちであった。

そんな彼らの事を気にせずに、国防長官は続けた。

「さしあたっては、合衆国の中から、精鋭100名ぐらい募ってはいかがでしょうか」

 話を聞き終えた副大統領は、しばし黙考した後、口を開く。

その様は、どこか満足げな風であった。

「では大統領閣下……

よろしければ、月面降下の計画を国防長官から説明してもらいたいと思いますが……」

 

 国防長官の口から、月面降下の作戦が語られた。

NASAと米軍の案は、至極簡単なものだった。

 地上から飛ばしたスペースシャトルを、まず大気圏外にあるステーションに泊まらせる。

そこで、事前に建造しておいた戦術機用のカーゴ船を連結し、月面に向かう。

 地球上で行わないのは、シャトルの推進剤の使用量をわずかにするためである。

戦術機のような大規模な装備を送るとなれば、月面までの距離は遠い。

 それに莫大な燃料も必用だからである。

燃料が大量に残っていれば、月面から万が一の際に帰還できる。

降下作戦をサクロボスコ事件の二の舞にしないというものだった。

 

「以上の理由から、基礎的な素材を少し持ち込むだけで、月面攻略は難なく進むことでしょう。

ハイヴにあるG元素さえ、我が合衆国の手に入りさえすれば……

それを活用し、何でも作ることが出来ることは、疑いようもございません」

 国防長官の言葉をつなぐようにして、副大統領は相好(そうごう)を崩す。

「国防長官の案は私も検討しましたが、今の所、それがベストでしょう。

英国やフランスをはじめとするEC諸国にもアプローチし始めています」

 国防長官も同じだった。

この際、常任理事国の英仏も巻き込んでしまえと、まくし立てる。

「使い捨ての肉壁となる戦闘要員も、各国から集めつつあります」

 国務長官の言に、国防長官は冷ややかな視線を送る。

使い捨ての肉壁という言葉は、彼の気持ちに衝撃を与えたようだった。

「ただし、極めて厄介な問題がございます。

ソ連をどうやって納得させるかという事です」

 満座の者たちの意見は、ほぼ彼と同じだった。

たしかに、ソ連をどう納得させるかは重要であった。

 BETAに惨めに負け、ゼオライマーの元にも敗れ去った。

だが、いまだ世界最大の核保有国であり、ICBMの恐怖は変わりないのだから。

「これだけ大規模な作戦ですから、ソ連赤軍を刺激するのは必須。

上手く宇宙基地を作れたところで、核ミサイル攻撃などを受ければ……」

 副大統領の答えは実に明快であった。

閣僚たちの目が、彼の下に集まる。

「それについては、私の方で考えがある。

世界を黙らせる良い方法がある。

近いうちに、発表できるであろう」

 これで、月面降下作戦は実施できる。

副大統領の言葉は、大統領を満足させるに十分だった。

「実に欣快(きんかい)だ。

30有余年前のロスアラモスでの出来事が昨日のように思い出されてくる」

満面に喜色をたぎらせながら、

「よし、諸君!盛大な晩餐会を催そう」

 

 その夜、ホワイトハウスでは各界の関係者を集めた盛宴が開かれていた。

総勢、500名の来客を前に、大統領は挨拶を始める。

「今晩の催しに集まってくれた、紳士淑女の諸君(レディース・アンド・ゼントルマン)

私の生涯において、今日ほどうれしい日はない。

少年の日のような心のときめきすら覚える」

 ことばは世のつねのものだが、万感の真情と尊敬がこもっている。

料理も豪華で、贈答品も両手に余るほどだった。

大統領の演説に、万雷の拍手が鳴り響く。

「博士たちよ、よくぞG元素爆弾を完成させてもらった。

米国の知能である各分野の200名の権威者たちの内、3名の物がこれを成功に導いた。

このことは、地上に第4のローマ帝国を建設を可能にし、まさに望外の喜びである」

*1
1959年から1980年まで存在した米国の省庁




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