冥王来訪(ハーメルン投稿版)   作:雄渾

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 破竹の勢いでBETAを打倒した天のゼオライマーと木原マサキ。
彼等の存在を恐れるのは、米ソばかりではなかった。
バッキンガム宮殿の主もまた、過ぎ去った大戦の事を振り返り、日本への憎悪を燃やした。
国際陰謀に巻き込まれた、マサキとゼオライマーの運命は如何に……


奸黠(かんかつ)() 前編(旧題: 姿を現す闇の主)

 かつて、七つを海を支配した大英帝国。

6年の長き歳月をかけた先次大戦に勝ち、国連常任理事国という地位を得た。

核保有国として、欧州における独立国としての地位を保つも、衰微(すいび)した。

 インド洋やアラビア半島、サハラ以南のアフリカ諸国にあった広大な植民地。

経済的破綻と核戦力の維持費の為に、それらを手放し、いまや僅かな支配地を残すばかり。

ロンドンから全世界を睥睨(へいげい)した栄光さえも、隔世(かくせい)(かん)を覚えざるを得ない。

 だが全世界に張り巡らされた情報網は、旧植民地を始めとして、いまだ健在であった。

モルディブは英国より独立はしたが、依然、英連邦の構成国であった。

故に、マサキ達が会場にしたホテルからの情報は、政府中枢にそのすべてが伝わっていた。

 

「日ソの急接近は、ゼオライマーという超マシンを共産圏に売り渡すことになる。

ソ連が超マシンの量産化に成功した暁には、月面はおろか、火星に赤旗が翻る。

悪夢のような事態は、何としても、阻止せねばならない!」

「……しかし、総理。

それはゼオライマーを過大評価していると思うのですが……

現在の日本政府に、それほどの科学技術はないと思います。」

 興奮する首相をよそに、外相は淡々と事実を語った。

「そりゃぁ、ハイヴの一つ、二つは攻略できるでしょう。

……ですが、惑星の一つを攻略することは無理かと……」

「イスラエルの諜報機関(モサド)は、そうはいっておらん!」

 首相の色は、何時になく激しいものだった。

そう言って、テルアビブからの報らせを机の上に放り投げた。

「ゼオライマーを、世界最強のマシンと評価している。

とにかくその操縦士の男、木原マサキは、無敵の人物とだとも言ってきている」

 モサドの報告によるメイオウ攻撃の強大さを、大いに怖れて動揺した。

首相の怒りは、極度にたかぶった。

「昨日の友は、今日の敵、とも成りうる。

やはり、木原マサキという男は、この世に存在しない方が良い。

日ソ会談をつぶすと同時に、始末しなさい」

痛嘆を飲んでいるものの如く、情報部長はただ首相の血相に黙然としていた。

 

 夕刻。

 情報部長は、マサキ討伐の任をうけ、密かにバッキンガム宮に上って、国王を拝した。 

そして国王は、人払いをした所で、初めて口を開いた。 

「情報部長、木原については、どうなっているのかね」 

「パレオロゴス作戦の後、西ベルリンの情報員が、しきりと変を伝えてきました。

それによると、東ドイツの議長は、旧怨を捨て、自分の娘を木原の妻として嫁がせたそうです。

その婚姻の引出物に、秘密資料(シュタージファイル)の大半も、木原に渡したということです」

 国王は行政に関して決定権は持っていなかったが、意見を述べることは権利として認められていた。

国王の意見は政治的な裏付けはなかったが、場合によっては議会を通り越して閣僚たちの判断に影響することがあった。

 それゆえ、情報部長は、国王の意見をもって、英国政府を動かすことに決めたのだ。

マサキの力を警戒したほうが賢明ではあるまいかと、思うところを述べた。

「要するに、日独、二者の結合は、当然、わが英国へ向って、何事か大きな影響を及ぼさずにはいないものと……

ダウニング街*1においても、みな心痛のまま、お達しに参りました」

「なに。東独議長の養女が、木原へ嫁いだ……?」

 国王は思わず、手に持っていた筆を取り落した。

そのおどろきが、いかに大きく、彼の心をうったか。

国王は、とたんに手脚を張って、茫然と、空の雲へ向けていた放心的な眼にも明らかであった。

「とにかく、これ以上の東側の増長は危険だ。

早急に、ソ連つぶしの工作を仕掛けよ」

 国王の目には、涙があふれかけていた。

情報部長は、恐懼して、最敬礼をしたまま、宸襟(しんきん)*2を痛察した。

 ああ、大英帝国の、この式微(しきび)

 他方、米国は栄え、新型爆弾の威は振い、かのニューヨークの摩天楼など、世の耳目を集めるほどのものは聞く。

 だが、ここサクス・コバーグ・. ゴータ朝の宮廷は、さながら百年の氷河のようだ。

宮殿は排煙に煤け、幕体は破れ、壁は所々朽ち、執務室さえ寒げではないか。

「情報部長、忘れては、おるまいな。

かつて英領インドの地を、日本が支援した独立運動で奪われた事を」

 先の大戦の折、日本は英領インドにいる独立運動家を物心ともに支援した。

チャンドラ・ボース*3などの国民会議派の左派に接近し、インド国民軍を組織する。

 日本軍は彼らとともに、自由インド仮政府を立ち上げ、インド独立へ邁進した。

実施されたインパール作戦において、英領ビルマまで進撃するも、武運拙く敗れ去った。

 しかし、その影響は大きく、結果として、英帝国はインドから撤退した。

結果として、大東亜戦争の終戦から3年後の1948年8月15日、インドは独立を得ることとなった。

「……あの折は、戦争に勝って、政治に敗れた。

だが、この度の日ソ会談の由を聞いて、いかに余が心待ちしていたかを察せよ……」

 情報部長は、悲嘆のあまり、しばしは胸がつまって、うつ向いていた。

国王は、彼の涙をながめて、怪しみながら、ふたたび下問した。

「月面攻略作戦は、目前に迫っている。

仮にゼオライマーのおかげで作戦が成功すれば、その評判は広く四海(しかい)*4に及ぶ。

日本の奴らが、米国にとって代わる危険性もあるのだ」

 宸旨(しんし)を受けた情報部長は、思わず顔を上げた。

龍顔(りょうがん)咫尺(しせき)に拝すれば、滂沱(ぼうだ)の悲嘆に暮れている。

「かならず、宸襟を(やす)(たてまつ)りますれば……

陛下も、何とぞ、御心つよくお待ち遊ばすように……」

情報部長は、泣いた目を人に怪しまれまいと気づかいながら、宮殿から退出した。

 

 

 日ソ和平という世界平和の入り口もなりうる、今回のエネルギー共同開発の会談。

なぜ、英国政府は、日ソ間の接近を過剰に恐れたのであろうか。

 それは17世紀以降急速な勢いで、領土拡大を進めるロシア国家を恐れての事である。

しかし、理由はそればかりではなかった。

欧州の各国政府や王侯貴族までも自在に操る上位の存在。

彼等が、ソ連という共産国家の存在を受け入れなかった為である。

 

 欧州の各政府を操る、上位の存在とは何か。

それは、ナポレオン戦争の最中に資金を蓄えた金満ユダヤ資本家である。

 彼らは、ワーテルローの戦いに際して、情報をうまく操作した。

英国軍勝利の事実をいち早く知り、ナポレオン勝利の誤報を流して相場を操作し、莫大な富を得た。

それを元手にして、長い年月をかけて欧州の金融業界を自分たちの影響下に置いた存在である。

 急速な資本主義の発展のために力を失いつつあった王侯貴族に資金援助し、その見返りとして爵位を得たりもした。

 また20世紀に入ると、シオニズム運動*5に共鳴し、イスラエル再建を陰ながら支援した。

 

 金満ユダヤ資本は、ロシアの地に関して複雑な感情をいだいていた。

長い歴史の中で繰り返し行われてきた、ポグロムと呼ばれるユダヤ人迫害。

その多くが、東欧やロシアの地で盛んであった為である。

 有名な反ユダヤの著作である「シオン賢者の議定書」などは、帝政ロシアの秘密警察(アフラナ)の影響を抜きには語れない。

かの怪文書は、瞬く間に全世界に流布したが、元の文書が出たのは、1903年のサンクトペテルブルグ。

当地にあった反ユダヤ系新聞『軍旗』において連載され、後に一冊の単行本にまとめられた。

 初期のボリシェビキ政権は、首魁レーニンを初めとし、元勲の9割近くがユダヤ系。

その事も、ソ連や東欧地域でのユダヤ人迫害に拍車をかけた。

 先次大戦の折である。

 ソ連領内に入ったナチスドイツをはじめとする同盟国軍は、解放軍として受け入れられた。

反ユダヤ感情の強い西部ウクライナなどでは、パンと塩*6をもって、厚く遇すほどであった。

 バルト三国などでは、沿道に居並ぶ人々から、ドイツ国防軍の兵士は花束を手渡されりもした。

ソ連の強制併合の経緯から、彼らはソ連を倒す救世主として、もてはやされた。

反ユダヤ意識のある住民にとって、ユダヤ系のソ連政権は受け入れがたいものであったのだ。

 さて。

なぜ、英国の金満ユダヤ人とユダヤ系のボリシェビキ政権が対立していたのだろうか。

 同じユダヤ人であるのに、と思われる読者も少なくなかろう。

 端的に、レーニンらボリシェビキ政権の考えを述べたい。

国家の経済独占を狙うボリシェビキ政権にとって、外国の影響を受けた企業は国の利益を盗む泥棒のように見えた。

 ユダヤ人マルクスの思想で、ユダヤ人の血を4分の1ほど引くレーニンが、ユダヤ資本家と対立する。

このような奇妙な構図は、1917年の暴力革命以来、ずっと続いた。

それは神学校出のスターリンが一貫して、宗教への弾圧政策を取ったのと同じである。

 ソ連は、出自や経歴よりも、ソ連政権への盲信が重要視された。

時には、敵国である日本人やドイツ人さえも、ソ連共産党の幹部として招き入れるほど。

ソ連共産党に否定的な立場をとるものは、例外ではなかった。

 たとえトロツキーのような、革命の元勲であっても、同じだった。

亡命先のメキシコに、手練れの暗殺団を送り込み、その一家さえも抹殺したのだ。

 

 白軍のコルチャーク提督を支援し、列強のシベリア出兵をすすめた英国。

彼等にとって、ソ連政権は、内心受け入れがたいものであった。

 極東最大の自由陣営の拠点で、2000年来独立を保つ日本。 

彼等が自分たちの影響下から離れて、ソ連の影響下になるのは避けたい。

そういった理由もあって、今回の日ソ会談をつぶすことにしたのだ。

 

 ロンドンのランべス区にある、センチュリーハウス・ビル。

ウェストミンスター橋に隣接するこの建物には、MI6本部が、1964年からおかれていた。

 その最上階にある長官室に数名の男たちが呼び出されていた。

「マッドマイク、以下20名。

お呼びにより、南アフリカより参りました」

 ロッキングチェアに座った長官は、葉巻に火をつける。

銘柄は、香りの強いキューバ産のダビドフ*7であった。

「これからワイルドギースの諸君は、モルディブへ飛べ。

日ソ会談を潰すんだ」

「はいッ」

 ワイルドギースとは「灰色雁」を指す英語である。

そして16世紀から18世紀にかけて活動したアイルランド人傭兵を指す言葉でもあった。

 1960年代にコンゴ内戦で活躍した白人傭兵の首領、マッドマイク。

彼はアイルランド出身であった事から、傭兵集団はいつしか、灰色雁と呼ばれるようになった。

 MI6長官は、マッドマイクが元英印軍のSAS所属ということに目を付けた。

傭兵課業を失敗し、資金難に苦しむ彼を、200万ポンド*8でリクルートしたのであった。

 

 日ソ会談をつぶすには、どうしたらよいのだろうか

MI6を統括する情報部長は、次のような行動に出た。

 まず手始めに、モルディブの政府機構を混乱させる。

そしてタミール・イラムの虎に潜り込ませたスパイを用いて反乱を起こさせる。

彼等をモルディブ近海に招き入れ、日ソの艦艇や戦術機を攻撃することにした。

 

「マイク、君は、ソ連赤軍参謀総長と、その女秘書を誘拐しなさい。

ただし、手荒に扱うなよ。彼はソ連の外交政策にも一定の影響を持つ人物だ。

出来れば、無傷で返したい」

「はい」

「まず、資金として50万ドル*9を渡すから、自由に使いなさい」

「ありがとうございます」

「お前たちは、反インドを掲げる毛沢東主義者というのが良いだろう。

事件の背後関係は、タミール・イラムの虎という定番だな!」

 タミールイラムの虎とは、1979年に出来た毛沢東思想を母体とするスリランカの赤色テロ集団である。

スリランカ政府はおろか、インド、モルディブの各国で、武装闘争を行った。

「はい」

「暴れても、土人(どじん)*10以外は殺すなよ」

「はい」

「20人で、徹底した破壊工作をやれ。

そして、時々インド軍とやり合ったり、外人観光客に迷惑を掛けたり、マスメディアに出るんだ。

大英帝国が背後にいると、露見するのは、非常に不味(まず)い。

だから、スエーデン製の戦術機に、米国の自動拳銃を使いなさい」

「はい」

「お前たちは、無敵の戦士だ。

一朝(いっちょう)(こと)ある時には、英帝国を守る兵士として戦えッ!

そして、傭兵として、栄光ある死に臨め!」

 

 

 

 英国政府は、会談の地となったモルディブやインド亜大陸において、かつて植民地という権益を持っていた。

1947年のインド独立に際して、各地に『スリーパー』というスパイネットワークを残してきた。 

 スリーパーとは、眠るものという意味の英語である。

文字通り、目標となる時期が来るまで寝ているスパイの事である。

彼らは指定された時期が来るまでひたすら眠り、時期が来れば武装蜂起や破壊活動に従事する。

 英国情報部MI6は、日ソ会談に合わせて、作戦開始の暗号を打った。

『ガンジス川を渡る象』という写真広告を、インドの日刊紙『タイムズ・オブ・インディア』に掲載したのである。

 インド・モルディブ・セイロン*11・パキスタン・バングラディッシュ。

旧英領インドの同時破壊の指令を受けた、スリーパーたち。

彼等が、一斉に動き出すこととなったのだ!

 

 

 その頃、マレ島の市街を、二組(ふたくみ)の男女が散策していた。

彼らは、ソ連人将校で、若い男女の組み合わせがグルジア人大尉とラトロワ少尉。

親子風の男女は、赤軍参謀総長とESP兵士のソーニャであった。

 参謀総長は、薄い灰色の夏季勤務服(キーチェリ)ではなく、インドの民族衣装に着替えていた。

白の詰襟姿で、薄手の黒い長ズボンの後ろポケットに、ピストルと短剣を忍ばせていた。

 またソーニャの方も、南インドで広く着られている民族衣装のパンジャビをまとっていた。

有名な民族衣装サリーは、ヒンズー教徒や仏教徒の衣装であった。

 12世紀に来訪したアラブ人によって、イスラム化したモルディブでは一般的ではなかった。

またサリーは5メートルの布地を全身に巻き付ける為、ソーニャには着こなせる技術がなかった。

 ガウミリバースと呼ばれる民族衣装や、回教圏らしいヒジャブ*12に長袖の服装は、ロシア人の彼女には暑苦しく思えた。

本当は胸元の空いた半袖の開襟シャツに、半ズボンという服装をしたかった。

だが、警察とのトラブルに巻き込まれる可能性が大だった。

故に、比較的おとなしい印象のパンジャビ・ドレスを着ていたのだ。

 大尉は、動きやすい服装という事で、黒無地柄の開襟シャツにチノパンといういでたち。

ラトロワは、ソーニャと色違いのパンジャビであった。

 市中にある、サルタン宮殿公園を散策している折である。

参謀総長の目に、怪しげなアラブ人の一団が目に留まった。

 モルディブは、古代から南インドとアラブ世界をつなぐ位置にあったため、アラブ人が多かった。

 常夏のモルディブであって、トープと呼ばれる足首まである長い白装束。

そして、揃いに揃えた様に、赤白の千鳥格子頭巾(シュマッグ)姿は、余りにも奇異だった。

銃火器の持ち込みが禁止されている場所で、大型武器を隠し持てる事を誇示しているかのよう。

 これは、何かが起きる前兆ではないか。 

そう考えた彼は、ラトロワたちにモルディブの歴史を説明していたソーニャに注意を投げかけた。

「ソーニャ、あのアラブ人の服装をした連中は奇妙だと思わないか」

「おじ様もそう思われますか」

「いくら敬虔なアラブ人のビジネスマンでも、常夏の国でトープを着る義務はない。

それに彼らの履いていた物はサンダルではなくて、黒い布製軍靴(ジャングルブーツ)だ」

 その言葉を聞いた瞬間、ソーニャは理解した。

件のアラブ装束の男たちは、ビジネスマンや観光客ではない。

 おそらく、テロリスト、あるいは工作員。

長いローブの下には、ウージやスターリングと言った短機関銃が隠してある。

「おじ様、武器は……」

「キンジャール*13と、ПСМ(ペーエスエム)だけだ」

 ПСМ(ペーエスエム)とは、ソ連のイジェフスク兵器工廠で開発された高級将校用小型拳銃である。

おもに暗殺任務など、秘匿性の高い任務で使われた高性能のピストル。 

特別な消音器具(サイレンサーキット)を使えば、静粛性に優れた暗殺用の武器であった。

「ソーニャ、君の道具は」

「シャツの下に、ПМ(ペーエム)*14が、一丁入っています」

「そうか」

 

 

 アラブ人の男たちは、咄嗟にトープを脱ぎ去る。

長い衣の下に着ていたのは、タイガーストラップの迷彩服で、胸掛け式の弾薬納を付けていた。

 見ると、銃剣の密集したひらめきが、参謀総長に押し寄せていた。

つづいて、銃口を向けかえて、一閃(いっせん)の光を浴びせかける。

「うわあぁ」

 ドドドッと、銃弾のひびきがすさまじい音が聞こえる。

参謀総長は、咄嗟に、叫んだ。

「伏せろ!」

 危機一髪だった。

洪水の際、河水が堤防のすき間からあふれはじめるのと同じ、恐るべき瞬間だった。

もう一秒、(おく)れていたら、命は奪われていたに違いない。

「動くなっ」

 とたんに、大喝と共に、彼の眼にとびこんで来たのは、迷彩服姿の白人。

参謀総長には、見覚えのあるの男だった。

 自分の記憶が確かならば、男は、マッドマイクこと、マイケル・ホーア少佐。

1960年からコンゴ内戦介入や、南ローデシアでの軍事顧問団に関係した人物であった。

「大人しくしていれば殺しはしない。あきらめろ」

「たわけた雑言を……」 

「この話を飲めば、あんたの命は奪わない。

だが断れば……」

 さっと、形相を変えるやいな、上衣の下からピストルを取り出して、

「こうだ!」

 参謀総長の顔面に突きつける。

黒い革手袋から引き金を引き絞る、かすかな音が聞こえた。

「本気だぜッ!覚悟を決めな」

「むむむ……」

 要求を、聞き入れるか、入れないか。

参謀総長の肚としては、実は、敵兵に囲まれる最中で、既に決まっていたのである。

 いいかえれば。

肚を決めかねて、SAS少佐と問答をしたわけでなく、肚をきめた。

 なので、どうだろうと、一応、問答にかけてみたのである。

そこにも、彼の腹芸があった。

 もし、SAS少佐の要求を受け入れてやらないと、どうなるか。

自分たちの立場は、非常にまずいものになる。

 また、いきり立っている工作員たちの興奮は、ここで抑えても、ほかの場合で、何かの形をとって、復讐という形で現れるに違いない。

 それは、外交上の、大きな危険だ。

いや、それ以上にも、参謀総長がおそれたのは、SAS少佐に、不平を抱かせておく事であった。

放置しておけば、彼の背後にいる、老獪(ろうかい)な英国王が、必ず手を回して来るに違いない。

そう、思われることだった。

「……」

 多くの小さな鋭い音が一度に起こった。

それは、支那製の63式自動歩槍(小銃)を構える音だった。

「わ、わかった」

「よろしい!」

と同時に、銃をおろす音が聞こえた。

「では連れていけ」

「はいッ!」

 そうして、参謀総長とソーニャは、近くに止めてあったワゴン車に乗せられる。

そのまま、いずこへと連れ去らわれていった。

*1
英国首相官邸の事。首相公邸がダウニング街10番地にあった事に由来する

*2
天子の心。天皇や皇帝の内心について用いる

*3
スバス・チャンドラ・ボース、1897年1月23日 - 1945年8月18日。インド独立運動家。インド独立の為には手を結ぶ相手を選ばない人物で、ソ連、ナチスドイツ、日本などの援助を求めた

*4
四方の海。転じて、天下、全世界

*5
19世紀末に始まったユダヤ人国家の建設運動。ハンガリー系ユダヤ人のテオドール・ヘルツルが始め、エルサレムに帰還し、イスラエル再建国を目標とした

*6
ロシア文化圏にある遠方からの客を遇する慣習。そこから転じて、歓迎を意味する言葉や行動となった

*7
1968年に創業したダビドフは、当初キューバでの葉巻産業に従事していた。品質上の問題から1988年よりドミニカなどの非キューバ産の葉巻に切り替えて、現在はそちらの方が主力である

*8
1979年の円ポンドレート、1スターリングポンド=418円

*9
1979年=ドル円レート、1ドル=239円

*10
土地の人。土着の住民

*11
今日のスリランカ

*12
スカーフの一種

*13
全長50センチ、刃渡り30センチ程度の鍔のない短剣。カフカス地方で用いられ、主にコサックが愛用した

*14
Пистолет Макарова,マカロフ自動拳銃




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