冥王来訪(ハーメルン投稿版)   作:雄渾

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 敵の意表を突くために行われる、高度1万メートルからの自由落下。
特殊工作員の白銀は、軍刀を背負って、単身ゼオライマーから空に身を投げる。
白銀と、彼を支援するマサキの運命や如何に……


奇貨(きか)()くべし 後編(旧題:匪賊狩り)

 スリランカの最大都市・コロンボ。

市内にある、カトゥナーヤカ空軍基地。

滑走路には、整備員を始めとして、大勢の軍人が待機している。

 マサキの護衛を務める白銀(しろがね)は、身に(まと)う装備の最終確認をしていた。

 熊笹迷彩の降下服に、茶革の降下靴。

組み立て式の短機関銃などの小火器に、腕時計型の高度計など。

「中々似合う。うむ……」

御剣から渡された鉄帽(てつぼう)*1の顎ひもを締めながら、彼の話を聞いていた。

「木原は天才科学者だ、わがままで怖いもの知らずだ。

日本政府の信任も厚い。加えて世界一の戦術機ゼオライマーを持っている。

この男のバックアップなくして、BETA戦争の貫徹も難しい……

といっても、下手(したで)に出たくはない。

私も、武家としての誇りがある」

 航空機パイロットがつける58式落下傘*2を、装備の上から背負う。

 なぜ、そんな装備を付けるのであろうか。

今回の作戦は、自由降下で、相手の意表を突くのためである。

高度4000フィート*3から3万5000フィートの上空から降下。

約10キロメートルを滑空し、目的地に着地する。

 自由降下とは、高高度で空を飛ぶ航空機からの、落下傘降下の事である。

操縦性に優れたパラグライダー用の落下傘で降下し、隠密に敵地に潜入する。

「人間としては好きではないが、失うには()しい人材だ。

白銀……木原を守ってくれ」

「力の及ぶ、限りは!」

 既に、エンジンの温めてあるグレートゼオライマー。

それは、出撃を、今か今かとばかりに待ち望んでいるようであった。

 白銀は、押っ取り刀で、格納庫の方に走り込む。

マサキは、機体前面にあるコックピットの入り口に立ちながら、 

「早く乗れ」

 マサキは、さすがにゼオライマーのパイロットだけあって、敵地上空からの降下作戦に抵抗はなかった。

あれこれ準備している白銀の姿を見ると、むしろ笑って言った。

「何をしている!怖かったら乗らなくていいぞ。

乗らなければ、俺の護衛も出来ないだろう、フハハハハ」

「落下傘がいると思って準備させていたんです」

 するとマサキは、一笑のもとに、

「フハハハハ、俺はそんなものを一度も使ったことがない!

自分が作ったマシンにはそれなり信用をしているからな。ハハハハハ」

 白銀が後部座席に移ると、コックピットのハッチを閉める。

「出撃だ」

背面のスラスターから甲高い排気音を立てながら、滑走路を突っ切っていく。

 

 グレートゼオライマーは、高度10000メートルを飛行しながら、スリランカ北部に接近した。

次元連結システムのおかげで、防空システムやレーダーには反応しなかった。

その為に敵の迎撃機や、対空ミサイルの洗礼を浴びずに済んだ。

「敵基地に単身、落下傘降下して、捕虜を救出する」

 白銀の話を聞いた、マサキには、不安で仕方なかった。

いくら、最新のMP5短機関銃でも、数百名が潜む基地に乗り込むのは自殺行為。

白銀は、そのほかに鞘袋に入れた軍刀を背負ってはいるが、不安はぬぐえなかった。

「どうするのだ……」 

「切り込みます」

「何!」

「上杉謙信公は、かつて、こう申されました。

死中(しちゅう)(せい)あり、生中(せいちゅう)(せい)なし』

 敵地に潜入するからは、覚悟のまえだった。

この()になって、もがくこともない。

 精一杯、この一瞬を生き残る。

白銀の悲壮なまでの決意に、マサキは圧倒されるばかりだった。

「日本人に、帝国軍人にのみ、出来る戦い方です」

 そう言って、背中にある軍刀のひもを解く。

鞘ごと握って、マサキの目の前に突き出した。

「だから、これを持ってきたんです」

その話を聞いて、マサキは、白銀の猪武者(いのししむしゃ)*4ぶりに、呆れる事しかできなかった。

 まもなくすると、北部最大の都市、ジャフナの市街地の上空に差し掛かった。

まるで、地上に夜空をばらまいたかのように、街の明かりが眩い。

「ジャフナ市街だ」

酸素マスクとゴーグルをつけた白銀は、

「博士、降下準備をして下さいッ、飛び出しますッ」

「よし」

 ゼオライマーの機体が反転すると、コックピットのハッチが開いた。

その瞬間、白銀は鞘袋に入れた軍刀を体に縛り付け、飛び出していく。

間もなく、内蔵されている落下傘が自動展開すると、地表に向かってゆっくり降下していった

 目的地に着陸した白銀は、落下傘装備を脱ぎ捨て、用意した深緑色の野戦服をまとう。

トンプソン短機関銃と、日本刀や手投げ弾といった武器を持ち、暮夜(ぼや)密かに基地に侵入した。

 

 

 不意の襲撃に、寝耳に水の驚きを受け、敵基地は、上を下へと、混乱を極めていた。

暗さは暗し、「イーラムの虎」の戦闘員は、右往左往(うおうさおう)するばかり。

到る所で、同士討ちばかり演じた。

 白銀は、トンプソン機関銃を片手に、思う存分、あばれ廻った。

たちまち、諸所に火の手があがる。

 それに呼応するように、マサキはグレートゼオライマーで暴れまくった。

内蔵しているミサイルを全弾発射し、敵の目を引き付けた。

 物の10分もしない間に、戦術機2個小隊が、着陸したゼオライマーを取り囲む。

闇夜の中、10機以上の戦術機が、次々と基地の滑走路を着陸(ランディング)していく。

深手(ふかで)()わせても殺すな!

彼奴(きゃつ)は、日本を脅迫する材料になる」

 一斉に突撃砲が、グレートゼオライマーに向けられる。

「撃てッ!」

 轟音と共に、粘着榴弾(りゅうだん)*5が105ミリ滑腔砲から発射される。

その刹那、グレートゼオライマーは、両手を広げ、榴弾を(さえぎ)った。

指の先から出るビームの剣によって、ザっと雨霰(あめあられ)とくる砲弾を()ぐ。

 そして、両方の下腕部にある冷熱光線発生装置から、一気に寒波を浴びせかかる。

それは、水のガロウィンの必殺技の一つであるブリザード攻撃であった。

 熱帯のセイロン島で、突如降りかかった猛吹雪(もうふぶき)

戦術機のパイロットたちは色をなして、逃げまどう。

部隊の後ろに立つ隊長は、激昂しながら、 

「ここは常夏のインド洋、吹雪など、奴の幻術だ!

ええぃ、何をしておる!撃て、撃てぃ!」

 その刹那、グレートゼオライマーは、ブースターを吹かして、隊長機に躍りかかった。

「貴様の様な雑兵の相手は、飽きたわ」

 そう言い放つと、一刀のもとに、両手から出るビーム剣で切り捨てた。

サーブ35の機体は、噴き出す推進剤と燃料によって、どす黒く染まり、一瞬にして爆散した。

 敵の注目がゼオライマーに集まっている間、白銀は、市内のヒンズー教寺院の門前に来ていた。

警備兵の目をかいくぐって、ナッルール・カンダスワミ寺院の内部に潜り込む。

鎧衣(よろい)の事前偵察によれば、捕虜が収容されているという。

 何もない堂の真ん中に、樹の前に腰かけている骨と皮ばかりな老僧がいた。

しかし老僧は眠っているのか、死んでいるのか、空虚な眼をこちらへ向けたまま、答えもしない。

 白銀は、左手で、老僧の肩を叩いた。

老僧は、やっとにぶい眼をあいて、(きら)めく軍刀を持つ白銀を見まわした。

和尚(おしょう)、我々の願いを聞いてくれますか」

 白銀は、老僧に優しい英語で丁寧に、これまでの経緯とここに来た理由を教えた。

誘拐されたソ連人の特徴を説明し、彼らの居場所を聞いた。

「わしは何度か、白人の連中を見ておりますが、寺院の奥の部屋におるとしか……」

「和尚、ありがとうございます」

白銀は、僧侶に感謝の意を示すと、剣を片手に先を急いだ。

 遠くの空から、エンジンの轟音が聞こえ始めてきた。

それと共に、市中に空襲警報の音が鳴り響く。

 寺院内にいる警備兵たちは、途端に狼狽(ろうばい)し始めた。

捕らえていた虜囚(りょしゅう)の事はどうでもよく、彼らは逃げ惑った。

 白銀は、動揺する警備兵を捕まえて、物陰に引きずり込んだ。

無言のまま、軍刀の柄に手をかけ、さっと抜くなり、刃を捕まえた男の目のまえに突き出した。 

「白人の二人組の部屋は……」

「一番奥の右側」

(にぶ)く光る白刃(はくじん)を首へまわして、

「鍵は……」

 警備兵は、やむなく、肌深く持っていた鍵束を差し出してしまった。

すると、白銀は、左手で、さっと()り上げて、男の腹に、刀の柄で一撃を叩き込んだ。

 

 白銀は、混乱する警備の目をかいくぐりながら、部屋の前にたどり着いた。

鍵を外し、ドアを開けると、ベットの上に腰かける二人の男女が目の前に現れた。

 赤軍参謀総長とその女秘書は、若干疲労の色は見えるが、衰弱した様子はなかった。

白銀は、さっと刀を構えて、外から入ってくる敵を警戒した。

「同志参謀総長。お迎えに、上がりました」

「君は!」

「詳しい話は、後で」

 白銀は、鍵束を女秘書に放り投げた。

彼女は赤軍参謀総長の両手にはめられた手錠を外すと、彼に自分の手錠の鍵を外してもらう。

「お仲間が首を長くして待っています。さあ出ましょう」

「わかった……」

白銀の説得に、ソ連兵たちは、納得した様子だった。

「私は、白銀影行(かげゆき)

 そういうと、二人の手を引いて、牢屋から脱出する。

空襲警報で混乱する、寺院の大伽藍(だいがらん)に躍り出る。

途中で敵兵との遭遇戦を切り抜けながら、一気に駆け抜けた。

 無言のまま、白銀は、男女一組のソ連兵を連れて、大廊下へ流れ出した。

戛々(かつかつ)とした軍靴のひびきと、3名の足音が一つになる。

 長い廊下や階段を幾つも上り降りした。

眼を塞がれるような闇も歩かせられた。

「敵が来るぞ」

 白銀は慌てず、装備の中から手投げ弾を取り出す。

そして、驚くソ連兵たちの前に見せつけた。

「これが何だか、わかりますか」

 正規の軍人教育を受けた彼等には、即座に分かった。

彼が手にしているのは、米軍が開発配備している、M26手榴弾だった。

 勢いよく放り投げると、敵兵が驚く間もなく爆散した。

「君は、無茶苦茶だ」 

「自分をとらえるには、2、30人の兵士では無理なのです」

白銀は、2人のソ連兵をかえりみて、にこと微笑しながら大言を吐いた。

 赤軍参謀総長は、白銀の態度を疑い、むしろ不安をすらおぼえた。

彼が装備しているものは、トンプソン機関銃と2尺3寸*6の日本刀のみ。

精々、隠し持った武器といえば、手投げ弾と拳銃ぐらいだ。

 一たび弾薬が尽きれば、白刃を()み、肉弾をうつ、白兵戦となるのは必至。

自分たちはピストルの一つはおろか、短剣すら持っていない。

 このまま、大部隊と遭遇すれば、全滅ではないか。 

赤軍参謀総長は大いに怖れた。

「これからどうする」

彼の不意の問いに対して、白銀はそれに答えて、

「まもなく、お迎えが来ます」

「ほう……誰だ、知り合いか」

白銀は、何を答えるのも明晰で、妙に怖れたりするふうなど少しもなかった。

「ゼオライマーです……」

 

 

 

 ソ連中央のウズベクにあるタシケント空軍基地を発進した、第79重爆撃機航空師団。

ソ連空軍のパイロットの多くは、Tu-95重爆撃機を操縦していた。

 世界で唯一の、量産型ターボプロップエンジンを使用した、Tu-95重爆撃機。

1950年にスターリンの指令で、米本土への戦略爆撃*7を目的として作られた重爆撃機である。

 その特徴として、高度1万2000メートル*8での飛行が可能で、航続距離1万5000キロメートル以上。

11トン以上の兵器を搭載可能で、哨戒任務や核実験に使われたことでその名を知られている。

 欠点としては、8基の量産型ターボプロップから出る騒音が非常に深刻であることだった。

そのエンジン音は、海中にある潜水艦の水中音響システムでも、探知できるほど。

 TU-95は、コピー元となったB-29フライングフォートレスと違って、優秀な機体であった。

民間機として使われているTu-114の大本となったり、Kh-20ミサイル空中発射型も開発された。

 ソ連空軍は、kh-20発射型のTu-95K重爆撃機を、47機生産した。

1968年に近代化し、Kh-22ミサイル発射可能な機体であるTu-95K-22を、24機ほど制作した。

この核攻撃可能な機体は、ソ連の核実験場であるカザフ*9のセミパラチンスクのフィロン飛行場に配備された。

 だが、BETA戦争緒戦で、セミパラチンスクが失われると、爆撃隊の扱いは宙に浮いた。

しかし戦争の進展の中で、光線級吶喊(レーザーヤークト)後における絨毯爆撃がにわかに効果を見せ始めると、状況は変わった。

シベリアでのモスボールを解除し、最前線に復帰させたのだ。

 爆撃隊には、航空支援用の戦術機として、MIG-21バラライカの他に、20機のSU-11を配備していた。

新型のSU-11は、スフォーニ設計局*10の作品で、F-5戦術機のコピーである。

 F-5との大きな違いは、頭部に付いたセンサーマストと呼ばれる通信アンテナである。

ハチの針に似た細長い通信用アンテナは、対BETA戦での近接密集戦闘を念頭に置いたもの。

 SU-11は、高度な電子戦装備を設置したMIG-21バラライカよりも安価であった。

だが、マクドネル社の低価格輸出攻勢と、ミグ設計局の政治工作によって、本来ならば日の目を見ることのない機体であった。

 事態が変化したのはゼオライマーの登場で、MIG-21が手も足も出なかったという事実を突きつけられた為である。

 ソ連参謀本部は、質よりも量を取った。

より安価で、製造しやすく、訓練期間の短い学徒兵でも扱いやすいSU-11の増産を決定した。

マサキがハバロフスクを襲撃するころには、コムソモリスク・ナ・アムーレの工場で試作機が完成した。

それらは、ソ連赤軍に約140機が納められることとなった。

 

 

 ジャフナ上空に現れたソ連空軍のTu-95重爆撃機、240機は一斉に爆弾倉を開いた。

計2600トン以上の爆弾が、このジャフナ王国の古都に降り注ぐ。

 不意を襲われて、あわて廻る敵陣の中へ、焼夷弾(しょういだん)の光は、花火のように舞い飛んだ。

 草は燃え、兵舎は焼け、逃げ崩れる賊兵の軍衣にも、火がついていないのはなかった。

半数は、すべて火焔の下に消え、少なくないものが逃亡を始めた。

 火は燃えひろがるばかりで、賊のいる尺地も余さなかった。

賊の大軍は、ほとんど、真夏の夜の打ち上げ花火のように爆散した。

 燃えたのは、土匪ばかりではなかった。

13世紀にたてられたジャフナ朝の貴重な古書10万冊や、ポルトガル・オランダ統治時代の建物。

 ヒンズー・回教・仏教の秘宝・古跡・名勝。

そのすべてが、灰燼(かいじん)()した。

*1
帝国陸海軍、自衛隊では、戦闘用ヘルメットの事を鉄帽と称した

*2
1958年(昭和33年)に航空自衛隊で採用された背負い式の落下傘。現在では射出座席に取って代わられたので自衛隊では使用はしていない

*3
フィートとは、人体の足に由来する身体尺の単位である。1958年以降、1国際フィート=0.3048 メートルと定められた。なお、その他に米国測量フィートという物があるが、今日も米政府機関で使われている公式の単位である

*4
猪の様に前後も見ずに突進する武士の事。向こう見ずな人間の事を言う言葉

*5
弾体内に可塑(かそ)性の高性能のプラスチック爆薬を充填した薄肉(はくにく)中空弾で、対戦車用砲弾の一種。目標に命中した際、着弾と同時に弾頭が潰れて起爆する様子から、粘着砲弾と称された

*6
一尺は、30.303センチメートル。一寸は3.0303センチメートル

*7
最前線の敵軍を爆撃するのではなく、敵国本土の産業設備の破壊、都市や交通遮断などの軍事戦略に基づいて行う爆撃

*8
共産圏であった旧ソ連およびCIS諸国、中国、蒙古などでは航空機の航続距離にヤード・ポンド法ではなく、メートル法を慣習的に使う。これは今日でも同じである

*9
カザフスタン

*10
現実のスホイ設計局




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