冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
他方、マサキは英国に出向く。
夜霧の漂う魔都で、彼を待つものとは……
ソ連の爆撃隊が通過して、間もなく。
マサキの駆るグレートゼオライマーは、単騎、ジャフナ要塞上空に現れた。
ジャフナ要塞は、ポルトガル人が16世紀にたてた要塞である。
オランダや英国の植民地時代を通じて、その当時を形を残す貴重な史跡であった。
だが、今は匪賊の手に落ちて、一大軍事拠点へと改造されていた。
グレートゼオライマー接近を察知した匪賊は、自身の持てる航空戦力のすべてを、敵に向けた。
だが、天下無双のマシンであるゼオライマーにとって、それは無意味な攻撃であった。
指にあるビーム砲で、追いすがってくるCOIN機*1や、武装ヘリを難なく撃ち落す。
両足に搭載した精密誘導ミサイル、およそ100発。
それらは、要塞や市街にある対空火器に向けて、順次発射されていった。
対空陣地にある機関砲は、狼狽を極めて、急に防戦してみた。
だが、敵機は、一気に高度1万メートルの上空に飛び上がった。
何もかも、間に合わない。
グレートゼオライマーから発射されたミサイルによって、彼らは
ところが、基地の諸所にあたって、ドドドと異様な音がするので、慌てて斥候を送り出してみた。
斥候の報告よりも、早く基地一体は、火の海と化していた。
硝煙の光、ロケット弾の火光などが火の渦となって入り乱れている間を、轟音が響く。
その音は、たちまち、耳も
「あっ、夜討だっ」
首領は、ピストルだけを持て、わずかな手勢を引き連れて、脱出を試みようとした。
車庫にあるジープにさえ行けば、大丈夫だろうと思っていた矢先である。
そこに、一台の戦術機が立ちふさがった。
虎縞模様のサーブ35とは違う、見あげるばかりの大きさの、白い戦術機。
「邪魔だ!その戦術機をどかせ!」
白人の護衛は、バズーカ砲を取り出すと、白い機体に向けられる。
間もなく、機体から深緑の戦闘服を着た、東洋人の男が下りてくる。
その両方から、同じような迷彩服姿をした仲間がおよそ十数名、じわじわ詰め寄って来る。
そこに、インド系の男が両手を広げて、止めた。
「待て、撃つな……」
銃を突き付けられながらも、不敵の笑みで見返す、戦闘服姿の東洋人。
首領が、彼に、向き直って訊ねた。
「うぬは、何者か!」
それを横目に、M16小銃を持つ男は、からからと笑う。
ひるみかけた兵をしり目に、こう名乗った。
「俺は、木原マサキ。
天のゼオライマーのパイロットだ!」
「き、木原マサキだと……」
男は輪の中へ割って入って、急に押し黙った面々を見まわして、彼から訊ねた。
「どこに依頼された!
言え、CIAか、KGBか、それともシュタージ、あるいはBNDか……
いくら貰った!いくら貰ったか言えば、俺がその報酬の倍を出してやるッ」
マサキは、
「依頼主などいなければ、報酬も貰ったわけではない」
土匪の首領は、なにか怒っていた。
「な、何ぃ」
「国際テロリズムにつながるやつらを……
特に共産主義に関わる人間を狙って、俺の意志で始末に来たのだからな……」
マサキは、あわれむような深い眼差しを、じっとこらして、
「そこの白人の二人は、コンゴ動乱に関わったワイルドギースの兵隊だろう……
ミスター・プラバカラン、俺の狙いは、英国人傭兵グループだ。
だから、そのおびき出し役としてアンタを標的に絞った。
もうアンタは
首領は、体のふるえを堪えながら、努めて冷笑して見せようとした。
「フハハハハ、籠の鳥は、お前ではないか。
ハハハハハ、何ができるというのだ、ハハハハハ」
今度は、首領からいった。
マサキは、笑みをつつみながら、反論した。
「俺は、この基地を自由に爆破できる」
「何ッ」
「もうじき、俺の仲間の
シーンとした闇の中で、マサキのはっきりとした声が、皆の
「お前が、戦争ごっこのために集めた秘密資金や有価証券、金銀財宝……
全てが、灰になり果てるのだ!」
答えは、唇の端に
低い一声、静かな呼吸の一つも、もういたずらに費やすことはできないものになっている。
銃を握って佇んでいた護衛たちの顔は、途端にさっと蒼ざめた。
いかに勇猛な者どもも、こうした破綻を目の前に立つと、日頃の顔色もない。
「待ってくれッ、よし、分かった。と、取引をしようじゃないか」
首領は急に動顛したのであろうか。
ふいに横からいった。
「アンタらの本当の狙いが、英国のMI6というのならば、私がその全容を明らかにしよう。
それでどうだッ、ソ連兵の誘拐の件からも手を引こう!」
その瞬間、プラバカランは、後ろに立つ白人傭兵に脳天を狙撃された。
首領の影が、ただ一発の弾音に、地上へころげ落ちると共に、タミル人戦闘員たちは、もとの道へ散っていった。
後に残ったのは、ワイルドギースの傭兵メンバーと、そのリーダーのみだった。
リーダーのマッドマイクは、談笑でもしている様に、こんな露骨な言い分をも、さも
「フォッフォフォ、結構、結構。
さすがは木原マサキ。悪の科学者だけは、あるな」
白人の男は、自動拳銃をホルスターにしまうと、
「お前たち、下がっていいぞ」
部下たちにその場から引き下がるように命じた。
「このマッドマイク、君たちの冒険心に敬意を表し……
木原博士と、戦術機での一対一の決闘を申し込む」
傭兵たちが引き上げて、間もなく、マイクは強化装備に着替える。
虎縞模様に塗装されたミラージュⅢ戦術機に乗って、マサキの前に現れた。
「部下は全て帰した。私一人だ……さあ、どこからでもかかって来い!」
マッドマイクは、すでにゼオライマーの前に、その運命をさらしていた。
マサキが、ゼオライマーに乗った瞬間。
男は、もう自分の運命がわかったような気がして、体がさっと冷たくなった。
「いくぞ!」
さっと、形相を変えるやいな、男は、マサキの駆るゼオライマーに躍りかかった。
マサキは、ゼオライマーの両腕で受け太刀ぎみに、だだだと、踏み退がる。
「いつまで、俺の剣から逃げられるかな」
そう言いながら、ミラージュⅢは、ゼオライマーのまわりを走り歩いた。
剣を数回、打ち合わせ、激しい格闘が、なお続いた。
ガキン!
火花とともに鳴り響く鋭い剣の音。
そして、その体勢をまだ持ち直さぬ間に、
「
マッドマイクの
マサキは、男が一瞬気が緩んだ瞬間を計って、飛び込んだ。
飛び込んだと思うと、ゼオライマーの指先から出るビーム剣が、戦術機の管制ユニットを突き通していた。
男の
一面の鮮血を見ても、男は案外、平然としていた。
「フォフォフォ、これで目的は達した」
差された腹を抑えながら、笑い止まないのである。
むっとしてマサキが、
「どういう事だ?」
かというと、その男は、なお笑って、
「知れたこと。お前は偽物に引っかかったのだ」
「偽物だと!」
男は、それに答えていう。
「今頃、本物のマイクは、センチュリーハウスのMI6本部に逃げ帰っているであろうよ」
この当時のMI6は、今日の様に、テムズ川の川沿いのヴォクソール交差点にある新庁舎ではなく、 ランべスにあるセンチュリーハウスという庁舎に本部を構えていた。
「地獄で待っているぜ!」
そう言い残すと、男は懐中からブローニング拳銃を取り出す。
勝ち誇ったように笑みを湛えて、この世から別れ去ったのである。
脱出するついでに、ゼオライマーは両腕から火焔を放出する。
ナパーム火炎放射である、フレア・ランチャーで、この場を燃やすことにしたのだ。
燃え盛る要塞をよそに、ゼオライマーはその場を後にした。
角を曲がり、また角を曲がり、おそろしい勢いで、市外へ向って、疾走して行った車がある。
普段なら、何事かと、すぐ人々の注目をうけるところだが、この
あれも出撃する部隊か。
或いは、各地の味方へ、伝令に行く密使か。
誰あって、怪しむものはなかった。
いや、怪しんでいる
「どけ、どけッ」
まるで、敵中へ、斬りこんで行くようなわめきだった。
夜ながら、白い排気ガスを立てて、数台のジープが基地の守衛へ、ぶつかって来たのだった。
ここは、要塞の入り口だ。滅多に通すべきではない。
だが、助手席から降りた一人が、いきなり門の鍵を勝手に外した。
非常事態だと、さっと押開いて、すぐまた助手席に跳び乗るやいな、まるで弾丸のように駆け抜けて行った。
もちろん、警備兵は、
しかし、次々と、関門を駆け抜けてゆくジープの運転手は、
「敵襲だっ、敵の襲撃だ」と、怒鳴って行った。
ところが、また再び、同じような車の音が、町の方から聞えて来た。
ぞくぞくと、かたまり合って、駆けて来る軍靴のひびきも耳を打つ。
忽ち、眼に見えたのは
軽機関銃、自動小銃、それから対戦車砲なども入り交じった100人ほどの軍隊だった。
「警備兵、警備兵ッ。
たった、いま敵国のスパイが、基地から逃亡した。
市街を警備する全部隊をもって、追撃するよう命令を出せ!」
警備を突破したのは、総勢100名の、米軍
彼らは白銀が参謀総長たちを救出している間、脱出できるよう準備をしていたのであった。
そして、行きがけの駄賃として、町中に爆弾を設置し、立ち去った。
突如の敵襲に、虚を突かれた「イーラムの虎」は、上を下へと混乱を極めていた。
そのあげく、
ここでは、徹底的に叩かれて、要塞にいた5000の兵士のうち生き還ったものは、100にも足らなかった。
場面は変わって、ここは英国の南東部に位置するバッキンガムシャー。
ここにある邸宅、『ワデズドン・マナー』*6の豪奢な屋敷の一室で、密議を凝らす男たちがいた。
屋敷の主人と、英国首相、MI6部長などである。
「木原の暗殺は、失敗したか」
「申し訳ありません」
「今日限りで、MI6長官の職を
「分かりました……」
MI6部長は、屋敷の主人に問いただした。
「男爵様、ただ、一つお尋ねしたいことがございます」
「うん」
「なぜ、そこまで
男爵様と呼ばれる、このユダヤ人の男は、英国一の金満家。
総資産は、1
その為、ロンドンのシティはおろか、英国政界のみならず、王室さえも自在に操れた。
彼の祖先は、ドイツのフランクフルト・アム・マインにあったユダヤ
赤札通りといわれる地域の出身者であった為、屋号を「
「奴は、我らが宿敵となったドイツ民族の統一を望んでいる」
「まさか……」
「奴は、東ドイツのシュトラハヴィッツを支援して、KGBの影響力を東ベルリンから
「それがどうして……」
「シュトラハヴィッツは、その見返りとして木原の行動を手助けしている。
このまま放っておけば、東西ドイツは再び手を結んで、EUに加盟する。
酒蔵から持ち出した年代物のワインを、グラスに注ぐ。
秘蔵の酒は、帝政ロシア時代にクリミアで作られたスパーリングワインであった。
「ナポレオンの力をもって、崩壊させた神聖ローマ帝国。
戦争まで仕掛け、引きずり込んだ米国の手で、ようやくつぶした、第二帝国、第三帝国。
それの
ワイングラスをくるくると回したあと、口に含む。
100年前の豊潤な白ブドウの味が、口に広がった。
「我らが血のにじむような思いをして作り上げた、ロンドンの富も……
この金融の世界も、危うい……。
故にあのアジア人のパイロットを殺し、ゼオライマーというマシンを破壊することにしたのだ」
「大変、申し訳ございませんでした」
「首相、形ばかりの謝罪などどうでもいい。
私はすでに200億ポンド*8の金を払っているのだ、君の選挙のために。
その金額に見合う働きを、してもらわないと困る」
男爵が、選挙に多額の資金を使った話をした直後である。
その刹那、部屋へ、黒の詰襟姿の男が入ってきた。
「それで俺の命を狙ったのか」
「貴様!」
突如としてあらわれた不気味な東洋人。
彼は、不敵の笑みを満面にたぎらせて、
「お前たちは、俺の世界征服の後にいいように使ってやろうと思っていたが……
気が変わった!」
首相たちが、自動拳銃を取り出すよりも早く、男は拳銃を向ける。
男の持つ武器は、スミスアンドウエッソンの8インチのM29
「ここで、俺のために死ね」
その瞬間、部屋の電気が消えた。
続いて、火花と銃声が数回響く。
「馬鹿な奴等よ。
目先の利益のために、この俺に喧嘩を売るとは……」
暗い室内に、不気味な笑い声が広がった。
「フハハハハ、人間の欲ほど
それがある限り、戦いは終わらないという事か」
そういうと、男は屋内へ、持ってきたガソリンをぶちまける。
マッチを擦り、火を放つけた。
邸宅は見るまに、燃えあがった。
男は、紫煙を燻らせながら、屋敷を後にした。
その夜半。
バッキンガム宮に来た英国王は、パンチェン・ラマ10世*9との会見の場に急いだ。
支那から来た高位のラマ僧は、ダライ・ラマと並び称される活仏である。
インドに亡命したダライラマとは違い、共産支那に恭順するも、次第に自立の姿勢を見せ始めた。
1962年、1959年のチベット動乱後の窮状を憂い、7万字の
毛沢東のチベット抑圧政策を非難した事によって、彼は追放の憂き目にあう。
昨年*10まで、支那の奥深くにある労働改造所と呼ばれる暗黒監獄に押し込められていた。
改革開放を
宮殿の奥の間に、黄色い
彼は、後ろ向きの格好で、
部屋には、様々な
数個の掲げられている遺影に移るのは、英国首相、MI6長官、ユダヤ人男爵。
マサキを暗殺しようとした人物たちの、生前の姿であった。
「
何やら香のような物が
茶色の髪を結った東洋人の女は、悲しみのあまり、しきりにハンカチで顔を抑えていた。
椅子に座る仏僧は、
「パンチェン・ラマ
その瞬間、
目を隠すように、レイバンのミラーレンズのサングラスをかけていた。
「貴様!パンチェン・ラマではないな!」
その瞬間、若い仏僧は、両手で立帽子とサングラスを取った。
たしか、パンチェン・ラマは、四十がらみの男だったはず。
大分、聞いた話より若い男で、僧形にふさわしくない黒々とした有髪だった。
龍顔が、さっと曇った。
王は、口を極めて怒りをもらした。
「お前は誰だ!」
僧形の男は、満面に喜色をたぎらせる。
「俺は、木原マサキ!
お前の葬式をあげに、地獄から来た男さ」
笑いながら話していることだが、元々、マサキのそのことばには、
やましさのない真実の力は、微笑の内にも充分相手を圧して来る。
「今頃、本物のパンチェン・ラマは、BBC*16のスタジオさ。
そこで、単独インタヴューに答えている頃よ……
忙しい坊様から、ちょっと代役を頼まれて、
龍顔からは、血の気も失ってしまった。
威圧といえば、こんな酷い威圧はない。
「王よ、貴様の
「84だが」
「一般社会じゃ、引退している年齢だな」
さっと、
言葉を切ると、タバコに火をつけた。
「王よ、お前は政治を
「どういうことだ!」
いつにない激色である。
マサキは、冷静な眼で、相手の怒りを冷々と見ている。
「何、貴様の支配地をそっくりいただくという事さ」
突然、マサキは身を反らして、仰山に笑い出した。
「フハハハハ、お前たちは、釈迦の手の平で暴れまわる孫行者でしかない。
俺が望めば、何時でも潰せるのだ。
今回のユダヤ人男爵のようにな……」
孫行者とは、西遊記の主人公孫悟空の支那風の呼び方である。
マサキは、己の立場を孫悟空を懲らしめた釈迦如来と重ねて、そう脅したのだ。
「これは、せめてもの慈悲だ。
英帝室を存続させてやる代わりに、お前は譲位しろ。
そうすれば、この一件は水に流して、俺は英国と事を構えることを止めてやる」
瞬間、激色は激色ながら、龍顔の怒りは、ふと眉の辺に、すこし晴れたかの如く見えた。
「ひとつだけ、お前に聞きたいことがある」
「なんだ」
「なぜ、天才科学者の貴様は、ゼオライマーというマシンを作って戦いの中に身を投じた」
「普通の人間が50年かかってやることを……1日で為せるからよ」
マサキは煙草をもみ消すと、黄帽を被り、サングラスをかけた。
「あばよ」
彼は、紋付き姿の美久の肩を叩くと、その場を後にした。
『これほどな大事を、一人の男を動かされるなどとは……』
王は、しばらく
翌日の新聞では、一面に英国王の譲位が報じられた。
英国王室史上初の退位に、英国の国内は混乱し、世人は先を憂いた。
帝室の永続を危ぶんで、自決する者も少なくなかった。
三面には、一昨日の晩に起きたワデズドン・マナーの火事が小さく載った。
首相及び情報部長の逝去は、英国王退位の報道にかき消されてしまった形となった。
マサキは、スチュワーデスから手渡されたデイリー・テレグラフを受ける。
1日遅れの記事を読みながら何食わぬ顔で、国際線の機内にいた。
今回の日ソ会談では、何の成果もなかった。
手に入れたものは、精々、アイリスディーナに手渡す土産。
それと、インド旅行の、どうでもいい話ぐらいである。
ただ、世界を二分する金融資本家の一人を抹殺したことが成果と呼べるものであった。
これで、アイリスディーナが夢と描くドイツ統一の邪魔になる勢力は、いくらか減らせた。
『アイリスに、このことを話しても信じまい』
マサキは、年下の恋人の事を夢想しながら、相変わらず紫煙を燻らせるのであった。
暁の方の連載は6月から奇数週の隔週連載にさせていただきます。
読者の皆様には不便をおかけしますが、ご海容のほどお願いいたします。
次回以降は、第10章に入ります。
ご意見、ご感想お待ちしております。
コメントは必ず拝読させていただいてますので、どんどん頂ければ嬉しいです。
誤記や誤字報告も頂ければ、幸いです。
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