冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
各社は秘密連絡員を送り、G7諸国に現金をばらまく。
彼等の魔の手が、マサキの元に迫る。
マサキの対応や、如何に……
BETA戦争において、勝敗の
初期のソ連トルキスタン*1方面における遅滞戦術で、主役を飾ったのは多連装ロケット砲である。
地対地ミサイル「
黒海周辺やペルシャ湾岸などの沿岸部では、戦艦やミサイル巡洋艦による艦砲射撃や巡航ミサイルによる攻撃も効果的であった。
以上の経緯から、米海軍は戦術機の格闘戦能力よりもミサイルキャリアとしての能力を求めることとなった。
米海軍は、計画段階で、すでに100機の発注をするほどの期待の入れようであった。
この新概念の戦術機に関して、米海軍は新型の空母の建造を決定したほどである。
それ故に、ユルゲンが参加したF-14の展示飛行は、世界各国の熱い視線が注がれていた。
「F‐14トムキャットの登場によって、これまでの戦術機はすべて過去の遺物になった」
ラスコー・ヘレンカーター提督の送った最大級の賛辞で幕を閉じた公開引き渡しセレモニー。
この合衆国海軍への新型機引き渡しセレモニーは、世界へと衝撃を与えた。
ラスコー・ヘレンカーター提督の送った最大級の賛辞ばかりではない。
史上初の量産型第二世代戦術機への期待はさることながら、新型兵器はそれ以上であった。
AIM-54 フェニックスミサイル。
ヒューズ飛行機が作った、アクティブレーダーによる誘導方式の大型クラスターミサイルである。
元々は、ソ連の洋上爆撃機を迎撃する目的で、長距離空対空ミサイルとして開発された。
ソ連の長距離空対艦ミサイルKh-22とその発射母機である
セミ・アクティブレーダーによる誘導方式で、最大有効射程距離、150キロメートル。
航空機に搭載された
BETA戦争の戦術機部隊の損失の多さを受けて、米海軍は対BETA用に転用した。
その際、誘導方式をアクティブレーダーに変更し、大型クラスター弾を追加装備したものである。
一基当たりの値段は、その為、47万ドルから85万ドル*2に高騰してしまった。
とはいっても、その脅威は、決して減じることはなかった。
この最新鋭の戦術機と長距離空対空ミサイルの事を、ソ連は過剰に恐れることとなった。
今回のF‐14公開セレモニーの招待国は、以下の通りだった。
急速に勢力を伸ばすソ連海軍に対抗して海軍の近代化をはかる日本。
その他に、イスラエル、サウジアラビアなどの中東の親米国。
オーストラリア、カナダといった英連邦加盟国であった。
空母の試験導入を決めていたスペインも検討に入った。
だが、予算の制約上、断らざるを得なかった。
彼等以上に、F‐14戦術機に対して、ひときわ熱い視線を注ぐものがいた。
中東有数の親米国家、帝政イランこと、パーレビ朝イランである。
ここで、すでに歴史の中に消えていった国家、帝政イランに関して説明を許されたい。
パーレビ朝イランとは、今日のペルシャ地域にあった君主国である。
ガージャール朝*3イランが、英国とソ連の侵略と立憲君主制を求める騒擾事件との内憂外患に苦しむ中、陸軍総司令官であったレザー・ハーンが起こした軍事クーデターによって成立した国家である。
クーデターの後、議会を掌握したレザー・ハーンは、ガージャール朝の廃位を決めると、レザー・シャーという名前を名乗り自身が帝位についた。
帝政イランは1925年の建国以来、ソ連の脅威に悩まされてきた。
加えて、建国の父の外交政策もあって、対英関係も消して芳しいものではなかった。
故に、初代のレザー・シャーはナチスドイツに近づき、その結果として英ソ両軍の進駐を許すこととなった。
レザー・シャーの退位を受けて即位した二代目の国王は、引き続き英ソ関係に苦難した。
親ソ派首相による石油国有化政策により起きたアーバーダーン危機の際、国王はCIAに救いの手を求めた。
国王の救援要請は米英の石油資本にとって、将に蜘蛛の糸だった。
ソ連によるイランの共産化防止を口実に、アジャックス作戦と呼ばれるクーデターを起こす。
親ソ派の首相は追放され、国王派の将軍が政権を奪還し、親米政権が樹立された。
二代目の国王*4は、ソ連の脅威から軍の近代化を進めた。
高性能の武器に、ミサイルシステム、そしてF-4、F‐5などの最新鋭ジェット機である。
パーレビ国王は、戦後急速な経済発展を進める極東の小邦、日本の姿に注目した。
ケネディ政権からの要求にこたえる形をとって、日本をモデルとして、急速な近代化政策を進めた。
イスラエルとの国交樹立、婦人参政権の許可、土地改革や国営企業の民営化である。
特に、ヒジャブとよばれるスカーフの着用廃止例は、保守的な地方やイスラム法学者の反発を招いた。
後に、ホメイニ*5師による、イラン革命と呼ばれる一連のクーデターを招くことになった。
現実世界の史実を振り返ってみたが、なぜ異界において、1979年に滅んだ帝政イランが存続しているのか。
そのような疑問をお持ちの読者もいよう。
ここで、端的に帝政イランが存続できたかを説明したい。
イラン革命の発端の地とされるマシュハドは、1974年にアフガニスタンとソ連のトルクメン*6からBETAが進撃してきたことによって荒廃してしまった。
イラン軍の航空波状攻撃や、ソ連からの核飽和攻撃もむなしく、同地にハイヴが建設された。
その際、イラクに亡命していたイラン革命の首領であるホメイニは、不慮の事故に見舞われ、亡くなった。
一説には、イランの情報局員による暗殺とも、CIAによる殺害ともいわれているが定かではない。
事件の結末は、5000キロ離れたパリのベルサイユ宮殿の前にさらされるものであった。
前年イラクにいたホメイニの長男が、不審死した事件があったばかりである。
マシュハドという根拠地とホメイニという思想的な柱を失ったイスラム革命をもくろむ反体制派は、次の指針を示せなかった。
BETA戦争の混乱の渦に巻き込まれる形で、彼らは歴史の闇へと消えていった。
イランはイスラエルに次ぐ親米国家であり、中東第二の空軍力を持つ近代国家である。
そしてトルクメン方面やアフガン方面から南下してくるソ連を押しとどめる防波堤でもある。
米国は早くから対ソ防衛網の拠点として、軍事力の強化を進めた。
新型兵器の供与は、1972年5月のニクソン大統領のイラン訪問時に決定していたことであった。
イランは隣国ソ連から度々領空侵犯をされており、ノースアメリカーナ*7製のF‐86戦闘機*8では対応できなかった。
ソ連の高高度偵察機を撃墜する兵器の提供は、同年11月には議会を通り、1973年の春の段階では装備と人員を送るばかりであった。
しかし、事態は暗転する。
1973年4月のBETA侵攻である。
新疆から全世界に向けて進撃するBETAを受けて、米軍はソ連に新型の戦術機を供与し、隣国イランにも同様の措置を取った。
F-4、F‐5などの最新鋭戦術機だけではなく、開発中のF-14まで供与することが内定していた。
ここでひとたび、視点を戦術機開発の方に移してみよう。
F‐14は、史上初の量産型第二世代戦術機として、華々しく世界に売り出された。
従来のF-4とは、一線を画す運動性能と火力投射能力である。
グラナンは、これまで以上の販路拡大を目指し、東独やユーゴ*9などの関係者を招いた。
しかし機体価格の高騰から、各国政府は導入を躊躇することとなった。
後に、F‐14ギャップと称される事態になるのだが、後日改めて話をしたい。
さて、グラナンの動きに焦りをみせたのが、航空機製造大手のロックウィード*10であった。
ベトナム戦争終結とBETA戦争による航空機需要の減少によって、軍事部門・民間部門合わせて赤字経営に転落していた。
ロックウィードは、戦術機開発にも出遅れており、その遅れを挽回すべく各国に、様々な資金工作を行った。
同社は西側各国に秘密代理人を置き、各国の政府高官に多額の賄賂を渡して、航空機P-3Cオライオンの売り込みを図っていた。
この事件は、米本国のみならず、蘭、ヨルダン、メキシコなど多くの国々の政財界を巻き込んだが、日本も無関係ではなかった。
ロックウィードの秘密代理人は、政府首脳や国防省関係者だけではなかった。
国防大臣や国防政務次官の榊だけではなく、参謀本部直轄の技術部門にまでその手を伸ばした。
実弾という隠語を用いて、多額の現金を用意し、次期戦術機選定に潜り込む。
ロックウィードの狙いはそこだった。
ある夜、京都郊外にあるマサキの家の前に、黒のBMWの5シリーズが止まった。
1972年式のセダンの中からは、見慣れぬ男と共に、紋付き姿の紳士が現れた
マサキの元を尋ねた男は、 ロックウィードの秘密代理人。
紋付き袴姿の男は、
突然、夜半にこんな人物が来たので、美久は慌てた。
奥の部屋で休んでいたマサキを宥めて、引っ張り出して来ることにした。
「話とは何だ」
急な訪問に面を食らったのは、ほかならぬマサキだった。
寝巻の上からウールの丹前を着て、顔には
ちょうど風呂に入って寝る準備をしていたマサキにとっては、いい迷惑。
さっさと帰ってもらうつもりだった。
ロックウィードの秘密代理人は座るなり、アタッシェケースを机の上に置いた。
ジュラルミン製の鞄を開くと、1万円札がぎっしり詰め込まれていた
男は、手の切れそうな聖徳太子の絵柄が書かれた札束を取り出す。
そして、マサキに告げた。
「木原先生、貴方にこれを差し上げますよ」
「これを、俺に?」
マサキは訝しんだ。
額面にして、一千万円以上はあるのはまちがいなかったからだ。
「木原先生には、ぜひロックウィード社の研究施設に来てほしいのです
この5000万円は、ほんの手付け金です。
望めば、いくらでもお出ししますよ」
マサキはあきらかに感情をうごかしている。
しかしじっと押し黙って聞いていた。
だがやがて、その硬直を解くと、しずかに一笑をみせる。
「この木原マサキもだいぶ安く見られたものだ。
折角だが、こんなはした金程度では俺は気乗りしなくてな……」
九條家の当主は慎重な顔をして、しばらく代理人の顔を見ていたが、はっきり答えた。
「君、もう帰っていいよ」
代理人の男が部屋から退出すると、まもなく紙を机の上に広げて見せる。
国鉄のキヨスクなどでも売られている「男性自身」という低俗な雑誌のゲラ刷りだった。
「これは週刊誌のゲラ刷りだ。数日後には店頭に並ぶ」
――記事の見出しは、センセーショナルなものであった――
『現職軍人に黒い交際!?
陸軍木原准尉と東ドイツ軍某大尉との深い関係。
次期戦術機開発の裏に東側の影』
雑誌記事はこうだった。
ユルゲンの顔写真とマサキの顔写真が載った一面。
内容は、共産圏の東ドイツにマサキがたびたび訪れている。
ユルゲンと、家族ぐるみの深い交友関係があるとする、虚実入り混じった記事であった。
「これが出たら、どうなると思うかね……
私の一存でこの記事は差し替えることが出来る」
「それを条件に、戦術機開発から俺の身を引けと……」
「引退?
私がそんな事を望む人間に見えるかね」
九條はいきなり、ゲラ刷りの原稿を破り去った。
「木原君、君には貴族院議員になってもらった後、大臣のポストを用意する」
「何!」
「私は政治家だ。
ただ権力にしがみついているだけの男ではない……
貴族院への推薦は、私としての君への評価だ」
「……」
「15年だ、15年待ちたまえ。
そうすれば、君が思う通り、この国を動かせる」
「……15年」
「そうだ……いずれは武家をこの国を裏から操る地位を継いでもらうかもしれん。
悪い話ではないはずだ」
男の話を聞くなり、マサキは不敵に笑った。
マサキは、強いて一笑に附しながら、男の提案に
「フハハハハ、今すぐこの国を乗っ取れるなら、その条件を飲もう」
男はマサキの言葉に、途端に驚愕の色を表す。
「な、何ぃ!」
立ち上がったマサキは、見下すような目線を男に向けて、
「話は済んだ。
帰ってもらう支度をしろ、美久」
「わかりました」
男は、マサキの予想外の反応に、大いに慌てたらしく、美久にすがった。
「待ちなさい、氷室さん。君は木原を止めんのかね。
こ、これが発表されたら、君たちがやってきたことは全部水泡に帰すんだぞ」
振り返った美久は、冷たい一瞥をくれた。
「……九條さん、もし木原が貴方の条件に尾を振るような男でしたら……
木原も私も、この世界では、生き残って来れなかったでしょう」
男は、不敵な日ごろの顔も失っていた。
「一度、他者の軍門に下った人間は、そこで自分の意志と強さを失う」
マサキは言葉を切ると、タバコに火をつけた。
「たとえ、20年、30年かかっても自分の意志で生き、己の野望を築きあげる。
それが、この木原マサキという男だ。忘れるな」
男の腹を見すかしているように笑って、マサキは部屋を後にした。
気が付いたら、既にハーメルンに投稿して2年の日々が過ぎてしまいました。
途中、投稿を区切りのいいところでやめようかと思いましたが、退会者を含めて200名以上のお気に入りと20の評価を頂いているので、期待を裏切るのも忍びないと思い、投稿を続けてきました。
冷戦期を題材にした二次創作なので、幾分か小難しい話が続いていきますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
ご意見、ご感想お待ちしております。
簡単な諜報機関の組織図に関して
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KGBやシュタージの組織図が欲しい
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挿絵や図表は不要
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著者に一任する