冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
秘密情報を探るとともに、各種の工作を開始することにした。
場面は変わって、米国の首都ワシントン。
「何、カナダ国内の金の相場が下がっているだと」
「はい。
なんでも、すでに市場関係者の間では、多量の純金が出回っているとのうわさが……」
「
「早急に対処します」
マサキが、カナダ国内に200トンの無刻印の純金を持ち込んだ。
その事は、北米の金市場に大きな影響を与えた。
米国の金融政策を取り仕切る
金の保有量が増えれば、ドル建て資産を長期保有する利点は薄れるのではないか。
カナダにおける、米国の影響力の低下を懸念する動きも出てきた。
「何者かが、金融市場に対して、金の供給量を増やしているのは間違いない。
これは、連邦準備制度、ひいては合衆国政府への宣戦布告ともいえよう」
FRB専務理事の一人であるゴールドスミス議長は、憤懣を露わにした。
彼は、クーン・ロブ商会*1系の銀行から来たビジネスマンだった。
「BETAの侵略に合わせて、金本位制を復活させる案を潰しに来るとは。
いったい何者が、こんな事を……」
事態を重く見た、主要7か国の首脳は、早急に電話会談を行い、蔵相会合を行うことを決定した。
そして、日本の第二の都市、東京で開かれることとなったのだ。
ここで、金本位制という物に関して簡単な説明を許されたい。
金本位制とは、1816年に、英国で始まった金貨を通貨の価値基準とする制度である。
その後、19世紀末に国際金本位制が成立したが、第一次世界大戦前後に停止した。
第一次大戦の際、各国が武器購入の代金として金塊を取引し、国庫から流出したためである。
大戦後、世界各国は、米国を皮切りとして、再び金本位制に戻す。
だが、1929年以降の世界恐慌下での深刻な金融不安の為に、金本位制は廃れることとなった。
第二次世界大戦の最中、米国は、
1944年のブレトンウッズ会議以来、経済不安からの戦争を避ける目的で、再び金本位制を導入した。
各国通貨と米ドルの交換比率を固定し、ドルだけが金と交換比率を固定するという、ドルを間に挟んだ金本位制だった。
これはブレトン・ウッズ体制と呼ばれ、1971年のニクソンショックまで続いた。
日本が占領中の1947年から1971年まで、日本円は、1ドル=360円と固定された。
日本にとっての円安の効果を生み、輸出が増大し、戦後復興の大きな要因であった。
そして1973年2月以降、変動相場制に移った。
なお、国際通貨基金を作ったリトアニア系ユダヤ人、ハリー・デクスター・ホワイト。
彼は、ソ連のNKVDにリクルートされた秘密スパイであった。
1941年10月、偽文書をもってして、対日戦を避けていた米政府の方針を変えた人物である。
後に雪作戦と知られる秘密工作だが、それに関する話は改めて機会を設けたいと思う。
さて、マサキに視点を戻してみよう。
彼は、金融市場の動きを注視はしなかった。
マサキの本当の狙いは金融市場そのものではなく、その混乱により表に出てくる影の存在を探ることであった。
この宇宙怪獣が闊歩する世界において、日本を支配する存在を探ることであったのだ。
彼は、京都市内の
遠田技研では、社長室という物がなく、重役と社長が同じフロアを使っていた。
なので、こういった話し合いのたびに、マサキは
待合とは、人との待ち合わせや会合のために席を貸すことを主とした飲食店である。
今日でいうところの
ただし、京都以外の場所で、茶屋という言葉は、出会い茶屋や色茶屋であった。
今でいうところの、連れ込み宿*5や、性風俗店の類を指す言葉である。
なので、使用にはくれぐれも注意が必要である。
「遠田、お前の方で政財界の資金源を調べてほしい」
「はい」
「
五摂家とは、日本帝国を事実上支配している、
この異世界では、
近代的な帝国議会、内閣、
現実世界に当てはめれば、イラン・イスラム共和国を構成する革命評議会とイラン政府の関係に例えられよう。
「それは、まさか!」
「たとえば、
奴らの政治資金の源泉となっている銀行の一つを調べるのよ」
マサキは、ホープを取り出すと火をつける。
「そうだな。
大蔵省の破綻金融機関リストに載っていて、今は経営が回復した銀行を探って来い。
公的資金の注入がなされた銀行のリストが欲しい」
この時代では、民間銀行の監督管理は、大蔵省が行っていた。
金融行政が大蔵省から分離されたのは、平成10年*7の行政改革以降である。
「五摂家の、金の出どころさえわかれば、日本の政界を牛耳るのは簡単だからな」
マサキは恐ろしい事を、まるで世間話をするように淡々と告げる。
遠田は、暗い表情で答えた。
「では、いよいよ乗っ取る算段を……」
マサキは、煙草を2,3服吸うとニヤリと笑う。
紫煙を燻らせながら、男の問いに答えた。
「金の流れさえ止めれば、俺の本当の敵が出てくるはずだ」
俺が動きさえすれば、必ず奴らは阻止しようと動いてくるはずだ。
この世界を
その時の武器は、情報と金、そして天のゼオライマー。
銀行の一つや二つを乗っ取って、闇資金の個人名簿さえ手に入れば……
俺は、この手を血濡らさずして、権力と真っ向から戦える。
夕刻。
マサキは、再び
理由は、個人用の大型コンピュータが、屋敷の別棟にあったためである。
この時代のコンピューターは、非常に高価なものであった。
IBMのIBM 5100ポータブル・コンピューターなどの卓上型コンピュータが、日本国内でも発売されていた。
だが一台当たり最低価格が8000ドル*8以上と大変高価であり、昭和58年*9の段階でも300万円ほどした。
車よりも高かったので、基本的には、大企業などの限られた部門が購入できたに過ぎなかった。
しかも処理能力は、今日の携帯電話やスマートフォンに劣るほど。
その為、ある程度の計算はIBMのSystem/370の様な大型コンピュータに頼らざるを得なかった。
篁は、戦術機の設計をする都合上、System/360、System/370を個人的に購入していた。
IBMの日本法人から市価の半値ほどで、購入し、特別の
ブラウン管とにらめっこするマサキに、後ろから声をかける人物がいた。
屋敷の主である篁であった。
「どうだ、ソフトウエアの解読は出来そうか」
マサキは、火のついていない煙草をくわえながら、
鍵盤を打つカタカタという音が、部屋中に響き渡る。
「パスワードは説いた」
「そうか、それなら……」
マサキは、篁の言葉を遮った。
彼は焦ることなく、ブラウン管の出力画面を注視していた。
「慌てるな。
ただ、その建物の入り口に入ったにしかすぎん。
こいつにはRSA暗号という特殊な仕掛けがしてあって、鍵の長さが100桁以上を超えた難物さ」
「分かるように説明してくれ」
「暗号とは、元のデータや通信内容を第三者や外部から解読できない状態にする処理のことだ。
RSA暗号とは、2つの素数を使って暗号化と復号を行う仕組みで、
こいつを解こうとしたら、その規則性を探すだけで何年もかかるのさ」
RSA暗号とは、
昭和52年*11に、三人の米国人によって開発された。
「高速演算処理能力のあるスーパーコンピュータが、必要だが……。
そんなもんは、この世界にはそうそうあるまいよ。
おそらく、米国のIBMか、
そのどこかに、1,2台あるぐらいさ」
その時、ミラが部屋に入ってきた。
彼女は、マサキと篁のために、焼いたばかりのクッキー*12と、熱いコーヒーを持って来たのであった。
「私は学生時代に、MITの電算室に行ったことがあるけど、そんなものを計算できる代物はなかったわ。
せいぜいIBMのSystem/370が、ずらっと並べてあったぐらいだわ」
一瞬、マサキの表情がほころんだ。
ミラが食いついてきたことに気を良くしたマサキは、思わせぶりに、
「この情報さえ、分析できれば、無敵の武器を持つことになる」
「無敵の武器?」
これは誘い文句だった。
案の定、興奮していたマサキは、引っかかった。
「フフフフ、今からの時代、情報というのが一番の武器さ」
「えっ」
ミラは、わざと意味ありげな表情をして、問いただした。
マサキが食いついてきて、説明してくれると踏んだからである。
「この世界を揺るがす、極秘情報さ。
そもそも、ユングとかいうマタ・ハリ*13に目を付けたのは、この情報があったからさ」
ミラは、マサキのペースに乗っていると思っていた。
この美人妻は、俺の協力者。
そう確信したマサキは、さりげなくユングの持ち込んだ秘密の解析計画に関することを話した。
「この管制ユニットに組み込まれた機密情報。
これは、戦術機開発メーカーの裏にいる銀行家や国際金融資本。
奴等の利益の源泉や、陰謀の一部に繋がっている。
マライから、その話を聞いた俺は、秘密の一端を暴く武器になる。
そう見立てて、この情報の解析を急いだ。
この機密は、いわば、敵を壊滅させるミサイルだ。
それを発射するための砲台が、必要になってくる」
「分析するにも、肝心のスーパーコンピュータは?」
「ただし、俺たちには、自由にできるスーパーコンピュータがある」
その時、ミラの手は、マサキの背中に置かれていた。
そして、肩に向かって撫でさすりながら移動していた。
「ゼオライマーに搭載された、スーパーコンピュータかしら」
その言葉を聞いたマサキは、途端に振り返る。
いつにない、驚愕の色を見せ、ミラをねめつけた。
「何故、それを!!」
思いがけない言葉であったのであろう。
マサキは、
「私は、F‐14の設計技師の一人よ。
F‐14戦術機には、最新鋭の火器管制用コンピューターが搭載されていた。
それは、誘導兵器運用のためと、空母への離着艦をスムーズに行うためである。
史実のF-14でも、最新鋭のマイクロプロセッサーが搭載されていた。
F‐14には、専用の
それは、高高度を高速で飛行する為に、必要とする、気圧高度・対気速度・外気温度などを出力する装置である。
そして、そのほかに専用のフェニックスミサイルを誘導するレーダー用に、強力な火器管制装置も同時に搭載していた。
ミラは、ゼオライマーの電子光学装置について、うすうす感づいていた。
1秒間に浮動小数点演算が、100
一度に、500発以上のミサイルを、正確無比に制御可能な火器管制装置。
ミラは、F‐14を設計に携わった経験から、グレートゼオライマーの事を、マサキが驚くほどに理解していた。
イージス・システム並みの物が、ゼオライマーには搭載されていると、見抜いていたのだ。
イージス・システムとは、 米海軍の開発した最新の防空システムを指す。
ミサイルなどの空からの攻撃に対し、高性能の防衛能力をもつ戦域防空用誘導ミサイル搭載の艦艇である。
そもそもイージスは、なにか。
ギリシャ神話の最高神ゼウスが、娘の女神アテネに与えた絶対的な防御をもつ楯に由来する。
それは「破邪の楯」と伝えられており、新しい防空システムは、イージスに例えられた。
数百キロメートル離れた多数の標的を追跡可能な高性能レーダー。
ソ連のミサイル飽和攻撃を、瞬時に解析できるコンピュータ。
標的を迎撃する防空用誘導ミサイルの組み合わせを、イージス・システムという。
イージス・システム搭載艦は、高度な情報処理能力とネットワーク機能をもつとされる。
このことから、今日、イージス艦は、海上での軍事作戦の中核を担っている。
「
ミラは、露骨な言い方をし、それとなくマサキの動揺ぶりを盗み見た。
驚愕しているのが、手に取るようにわかる。
「……」
淡々とミラが推論を話しているときに、マサキの気はそぞろだった。
余りにも、実際と同じをミラが言ったからである。
先ごろ生まれたばかりの、子息・
彼女に渡した、
そう思うと、率直にミラを計画に引き込んで良かったと、胸をなでおろしていた。
そして今回の件は、ミラを油断のならない女技術者と思いはじめたきっかけでもあった。
つまり、1,0000,0000,0000,0000,0000,0000,0000.の事である
今回は実験として、組織図の挿絵を追加することにしました。
好評ならば、今後も続ける予定です。
ご意見、ご感想お待ちしております。
誤字報告、批評などもよろしくお願いします。
簡単な諜報機関の組織図に関して
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KGBやシュタージの組織図が欲しい
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挿絵や図表は不要
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