冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
そこで基地司令の藤堂に逢い、その赤心に心を打たれたマサキは、己が野望を明らかにするのであった。
9月10日深更、
それに伴って、同機を陸海軍航空隊の基地へ移送するための作業に着手した。
翌11日
百里飛行場が選ばれたのには理由があった。
同地は、都心から近く、戦前から
また
そういう事情の為、
陸軍航空隊所有のV-107に乗り込み、空路、百里飛行場へ向かった。
V-107は、バートル*5が開発したタンデムローター式・ターボシャフト双発のヘリコプターだ。
1958年4月22日に初飛行をした後、米海軍に採用され、HRB-1/CH-46A "シーナイト"として知られる機体である。
日本では川崎重工がライセンス権を取り、KV-107として、およそ110機が発注された。
少量ではあるが、タイ王国やサウジアラビア王国向けとして輸出された。
これはボーイング・バートル社の方針であり、米政府の意向を反映したものであった。
役割分担で、バートルは軍事最優先、川崎は民需向けと決まっていた。
マサキはヘリから白銀たちと降りると、そのまま基地の
そこで待っている基地司令と面会する約束だった。
「基地司令の藤堂です。
まあ気楽になさってください」
髪こそ
まだ、
背はすらりと高く、肌にはシミもほとんどない。
だが総身から発せられる気迫は、将官のそれを思わせた。
「まずは、ご足労頂き感謝いたします」
彩峰は、一礼してから答えた。
相手が海軍将校なので、傍からも緊張しているのが分かるほどだ。
「技術本部付の
閣下のご歓待ありがとうございます」
司令官は一瞬戸惑ったが、笑みを浮かべて彩峰に返した。
目の前にいる将校は、
海軍式の呼び方を知らなくても、仕方があるまい。
「……実際の調査が始まるは、早くても明日以降。
それまでは、
彩峰は、この壮年の海軍将校に感謝を感じた。
「ご厚意、痛み入ります」
マサキは一連のやり取りを見て、国防省も悪趣味な事をするものだと。
陸海軍の統合を進めるというお題目の為に、こんな
夕方、百里基地から木原マサキを迎えに来た一台の車が出て行った。
百里基地司令とマサキを後部座席に乗せた車は、要人が愛用したメルセデス・ベンツやリンカーンではない。
トヨタの、MS110系クラウン・2000スーパーサルーンだった。
塗装は、グレーに近いクリスタルシルバーという色で、今年*79月に発表ばかりの車種だ。
2.8L 直列6気筒SOHCエンジンに、クルージング・コンピュータ搭載の最新モデルという点も目を引く。
マサキは、クラウンの車窓から、黄昏に染まっていく筑波山を眺めていた。
遮光加工の施された窓ガラスからでさえ、降り注ぐ夕陽の生暖かい空気が感じられる気がする。
もっとも、吊り下げ式の冷房装置によって、車内は十分なほど冷えていたが。
どの国でもそうであるが、軍や法執行機関の職員は、基本的に官衙の2キロ圏内に住むのが一般的である。
現代日本には、緊急参集要員住宅というキャリア官僚や幹部自衛官の為の宿舎が存在する。
だがその多くは粗末な作りで、中には建設から30年以上経たものも少なくない。
その為、現代ではキャリア官僚や幹部自衛官などが、民間の住宅を借り上げて、そこに住むことが黙認されている。
百里基地の藤堂司令官もその一人だった。
彼は、地元の
マサキとの密議は、その
マサキが連れて行かれた家は、洋館風の外装をした建物だった。
現在の所有者が
家に上がると、ワックスを塗ったテーブルと椅子が二脚ある奥の部屋に招かれた。
やがて、藤堂の
「木原さん、改めて礼を言います」
百里基地司令の藤堂衛中将が、180センチ近い長身を折り曲げて来た。
「ソ連のスパイからこの国を守ってくださいまして……」
年齢の割に、体は細く鍛え上げられており、今でもパイロットとして空を飛ぶことが出来そうだ。
まるで憐れむような表情を隠すかのようにして、レイバンのサングラスをかけている。
灰色の背広型の常装第1種夏服。
上下純白で詰襟姿の常装第2種夏服とは、違った印象を受ける。
肩には、海軍中将の肩章。
黒の台布の上にベタ金が載り、金属の桜が2つついている。
「いや、そんな大それたことをしたつもりは……」
「しかし驚きましたな。
ゼオライマーのパイロットのあなたが百里くんだりまで直々に足を運ぶとは」
「まさか海軍の部隊にまで名が知られているとは、驚いている」
マサキは部屋に入ってからも、何気ない様子を装いながら、藤堂の様々な事情を聴いていた。
「私は、幕末から4代続いた海軍軍人の家の出です。
日本を愛し、守ってきた自負があります」
藤堂の来歴は、マサキが文筆業者であったならば、題材の一つにすることができるほどの人物だった。
系図を
「それを外国からのよそ者がどかどかと入って来られたのでは、ご先祖様には申し訳が立たない。
ましてや、ソ連の様に数で有無を言わせないやり方は許せないんです」
「同感だ」
マサキは、そっけない返事を返した。
「もしソ連が乗り込んでくるようなら、我々は徹底して戦うつもりだ。
アッツ島の如く、最後の一兵になっても闘う覚悟です」
藤堂の覚悟に、マサキは複雑な気持ちになった。
祖国には、生命よりも大事なものがあると教わった世代ゆえの物であろうか……
この男の忠君愛国の赤心を、利用するのも悪くはあるまい。
マサキはそう考えて、自分を納得させることにした。
「首都圏防衛の拠点であるこの地に、貴様のような気骨のある軍人がいることを知っただけで、俺は百里にまで足を運んだ甲斐があったという物だ」
「木原先生は、どうして百里へ?
確か今、BETA戦争で各国への対応に追われているのでは」
「まあそうだが、
マサキは、不敵の笑みを浮かべる。
「藤堂、貴様が青年将校たちとやっていることをより大きな活動にしてほしいと頼みに……」
「より大きな活動?」
藤堂は、いぶかしげに応じる。
「尊皇派の勉強会を立ち上げてもらおうと思って」
「尊皇派の勉強会?」
藤堂は醒めた表情で、マサキの瞳を見た。
口調が、冷たくよそよそしくなる。
「計画を実現するためには、どうしても組織が必要だ」
「計画?」
マサキは事情の説明が終わると、いきなり本題に入った。
「
マサキは、微笑を浮かべた。
「藤堂、俺と一緒に計画を実現せぬか」
マサキはホープの箱を取り出すと、煙草に火を点けた。
「古い慣習で威張り腐っている五摂家を引退させて、尊皇派による新しい時代を築こうではないか」
藤堂は、
そういう男の
「木原さん、あなたは面白い男だ。
初対面の私に、大事な胸の内をここまでさらけ出すなんって」
この時、藤堂の表情に、ある種の恐れのような物が表れた。
マサキは、藤堂の反応を意に介さず、得意げに胸を張った。
「藤堂、貴様なら信に足り、共に戦う同志になれると思ったからだ」
藤堂は、笑いを含んだ声で答えた。
「私たち、尊皇派が群れとなって、旧世代から覇を奪い獲る。
面白いかもしれませんね」
「なんなら、同志となる
「
マサキは、上機嫌で述べた。
「そうすれば、お前たちに問題があった時、俺が駆けつけられる」
藤堂は、木原マサキという人物にある種の恐れを抱いた。
「即答しなければ、いけませんか」
「じっくり考えてからでも十分だろう」
マサキが一瞬席を外した際、藤堂の副官たちは内にある不安を明かした。
「司令、さっきの木原先生の話はどうする気なんですか」
「ありがたいことですが、あんなとてつもない話は信用できません」
マサキの話に懸念を表明した副官たちを、藤堂は宥めた。
「日本中の国民が、ソ連の事を恐れているのに、あんな壮大な野望を語れる人は面白いじゃないか。
俺は海軍軍人としての立場を守ることしか考えてなかったのに、ソ連を潰して世界制覇なんって」
藤堂は面白げな笑みを浮かべて、部下の顔を見る。
「野望ってのは、男にとって
一度その味を知ってしまったら、病みつきになって
藤堂は、皴の深くなった額に手を当てた。
木原マサキという学者は、数字弄りや実験で我慢できる人物ではないのを知っている。
女を守るのに、「学があっても戦争は出来ないが、それでも君を守る」と言う様な
出処進退を悩んでいた東独軍の将校に対して、
「自分の好いた女一人も救えない奴に、物を言う資格などない」と。
その話を聞いたとき、木原の中に情熱があり、愛する女の為に浮き立つ部分があるのを知って、どこか安心した気持ちがあったに気付いている。
木原マサキは、この国を変えるだけの、充分な実力も裏付けもある。
この男に足りないのは、軍人としてのプロフェッショナリズムだけか。
それは、他で補えばいい。
藤堂は、ゴロワーズに火を点けた。
煙草をふかしながら、楽しげに笑みを浮かべるのだった。
匿名でも構いません。
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