冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
彼の口から語られる驚愕の事実とは……
翌日、西ドイツ、ニーダーザクセン州オスターホルツ郡、オスターホルツ=シャルムベック。
ガルルシュテットの米軍第2機甲師団の敷地の一部を間借りする形で建てられた仮設の事務所。
その建屋にある隊長室へ出頭要請の出ているマサキは向かう。
遊び半分で、入隊した
まさか合同部隊で、ドイツくんだりまで来るとは夢にも思っていなかった。
前の世界では、富士山麓の秘密基地から自由に出撃して、野放図に振舞う。
ラストガーディアン*1の沖*2達は、文句を言いながらも渋々我儘を認めてくれていたし、実力で認めさせていた。
些か読みが甘かったのだろうか……。
この際、隊長と引率役の斯衛軍将校二名に洗い浚い打ち明けてやろうか……
そう考えている内に隊長室に着いた。
ドアをノックした後、入室を促す声がする。
室内に入ると、机に備え付けられた椅子に腰かけた。
部屋の中を一瞥すると応接用の椅子に座る同じ姿の巌谷と
立礼*3をすると、その場で『休め』の指示が出る。少しすると美久が来た。
「どうやら揃った様だな」
彩峰が、此方に振り向く。
開口一番、マサキを問うた。
「木原曹長、貴様の目的はなんだ。国防省経由で調べさせてもらったが……貴様は去年の秋口まで戸籍が無かった。
一体何者なんだ……」
巌谷が黙ったまま睨む。脇に居る篁が訊ねる。
「城内省の基礎情報を探ったが、君に関する物は一番古くても去年の9月までの物だった。
中共以前の記録が無い。説明してほしい」
彼等の問いにマサキは冷笑する。
「長い話になる。まず座らせろ」
彩峰は、彼の言動に顔を
「俺は貴様等の言う通り、この世の人間ではない」
彼等は、俄かに信じられないのか、顔を顰めて驚いた表情を見せる。
「信じるか信じないかは自由だ。続けさせてもらう」
彼は、膝の上で手を組み、淡々と語り始めた
「俺と美久は、この世界に少しばかり似た世界に居た……。
そこで貴様等が言う大型機、詰りゼオライマーで戦闘中に自爆したはずだった……。
俺の肉体は、秋津マサトという男の物を借りて居り、その男の人格に全て書き換えられた状態でその世界から文字通り消えたはずだった。
だが、目が覚めると
そこで化け物共、貴様等が言う
押し黙っている巌谷が、身を乗り出す。
「光線級の攻撃を受けて、良く無事だった物だ……」
彼は巌谷の方を振り向き、答える
「詳しい話は後でする。話を元に戻すが、そこで人民解放軍に拾われた。
奴等の謂うカシュガルハイヴと言う物を焼き払って、一か月ばかり、支那に居た……」
彩峰と篁が勢いよく立ち上がる。
「ひと月でハイヴ攻略を成し遂げただと!」
彼は薄ら笑いを浮かべて、男たちを見る。
「ひと月ではない、一日だ。正確に言えば12時間ほどで最深部ごと吹き飛ばしたのさ」
彼等は顔を見合わせる。
目前の青年が語る事が、夢のような話に思えたのだ……
未だハイヴの中は人跡未踏の地。湧き出て来る無数の亡者が、あの
どれ程の
中共政権の徹底した情報統制の結果、彼等には知る由もなかった。
「その後は大使館員を名乗る連中に北京で会って、日本に来た。それだけの事だ」
彩峰は座るなり、懐中よりタバコの箱を出すと、封を開ける。
開いた箱より茶色いフィルターが顔を覘かせる。
3本取り出すと机に並べ、横にある使い捨てライターを握る。咥えながら火を点け、吹かす。
気分を落ち着かせようとして、深く吸い込む。
目を瞑り、ゆっくり紫煙を吐き出すと彼に尋ねた。
「貴様の真の目的はなんだ。冥府の住人であるならば、なぜ日本を選んだ。
なぜ、この世界に留まり続ける……」
乾いたマサキの笑いが、室内に木霊する。
一頻り、笑った後、マサキは彩峰の疑問に答えた。
「俺がこの世界を選んできた訳ではない。気が付いたら居たのだ。
差し詰め、『ハンク・モーガン』*4の如く、異界に居たのだ。
しかも過去の世界と来たものだ……。笑わずには居られまい」
眼光鋭く、彼等を見る。
「俺が圧倒的な力を持ってして、この世界の
何れ、BETA共が居なくなった後、対人戦が起きる。規模の大小は問わん。
その際、圧倒的な戦力差で、人類を屈服させ、世界を征服する。
それが俺の望みの一つよ。陳腐な表現かもしれぬがな!」
「俺は前の世界で、秘密結社・
だが些か急ぎ過ぎたのと、俺の人格を乗っ取った秋津マサトの妨害で失敗した。
故に、この世界で再び慎重さを持って、各国の政財界や軍などの動向を探り、機を見て行動すると決めた。
まず、その足掛かりとしてBETA狩りを進んで行う。
そうすれば俺の名は売れ、無闇に手を出す阿呆共は少なくなるであろう事。
この様に計算して、俺はお前達の策謀に載った迄よ。マサトも、鉄甲龍の愚か者共も居ぬ。
今こそ、世界征服の野望も夢ではない様に思えてきたのだ」
再び彼は笑う。
不気味な声で、笑う様は狂人を思わせる様であった……
篁は、座りながら、マサキの面を見る。
笑顔ではあるが、目は据わっている。
笑い終えた瞬間、もの悲しそうな瞳で、淵に沈んだような
彼の本心はどの様な物なのか……
篁は、真意を図りかねる様な気がした。
「初めの頃は、この世界を消し去る事を考えたが、途中で考えが変わった。
俺の為に奴隷として馬車馬の如く働かせて、その様を眺める。
新しい遊び場として、この世界を選んだ。本心を言えば、そう言う事さ」
右隣に居る美久の肩に手を伸ばす。
右手で肩ごと抱き寄せる。彼女は満面朱を注いだ様になった。
「最も、貴様等との茶番に飽きれば、此処に居る美久と共に、この世界事消し去ってしまうのも容易い。
その際には、手始めとして、間近にある月や火星でも焼いてやろう。
地球に居ながら、月や火星が消える。
彼は冷笑する。
「或いは、世界各国の主要都市を衛星軌道より各個撃破する。
原水爆などを用いて、ロンドン、パリ、ニューヨーク等を焼くのも一興の内であろう。
最高の宇宙ショウと思うだろう」
巌谷が蔑む様な目で見ていたのを、彼は気付いたが無視する。
「貴様、言わせて置けば……」
彩峰の発言を聞きながら、彼は右手で美久の上着の中に手を入れ、首の間から胸元に向かい、指を這わせた。
「俺の話が本当か、どうか……。今から8時間ほど暇をくれ。
そうすれば、ソ連のウラリスクハイヴでも焼いて来てやる。吉報を待つのだな」
篁は、問うた。
「なぜ、ミンスクにしないのだ」
美久の反応に飽きた彼は、突き放すと篁の方に振り返る。
「ソ連の欧州戦力を削るためだ」
立ち上がると、不敵な笑みを浮かべ、周囲を窺う。
「質問はそれだけか。俺は早速ウラリスクを焼いて来る」
彩峰は、立ち上がって待つように声を掛ける。
「話を聞け、木原!」
彼は呼び掛けを平然と無視し、美久の右手を掴む。
「今日の所は勘弁してやるよ。貴様等の戯言で興が醒めた」
彼は、そう言い放つ。
『世界を睥睨するソ連を焼き消す』
楽しいではなかろうか……彼の脳裏に、その様が浮かぶ。
美久を右手で勢いよく引っ張り上げると、引きずりながらドアを開ける。
「邪魔したな」
一言告げた後、部屋を後にする。
室外から彼の冷笑が響くばかりであった。
自室に戻った後、美久はマサキの言動を問うた。
普段の冷静な彼とは違い、今日はまるで気が違ったような振る舞いをする様に驚いたのだ。
「なぜ、あの様な振る舞いをなさったのですか」
野戦服姿の彼は、防寒外被のファスナーとボタンを鳩尾の位置まで
椅子の背もたれに、斜めに座る。
左手には口の空いたコーラーの瓶を持ち、右手で目頭を押さえている。
「あいつ等には、ほとほと疲れた果てた。如何にあの化け物共を軽視してるか。解るであろう」
彼女は、冷笑する彼の方を向く。
野戦服ではなく、上着を脱ぎ、ブラウスの上から深緑の軍用セーターを付け、スカートの勤務服姿。
立ったまま、語り掛ける。
「昨日の……、あの対応は酷いじゃありませんか。幾ら他国の制度とはいえ、あそこ
彼は、瓶を下に置き、居住まいを直す。
「今は書類の上では自国だ。俺は東ドイツ人の率直な質問に応じた迄だ。
そもそも政威大将軍等という形ばかりの制度など不要であろう。政務次官より役に立たん」
『政務次官』
大正期、維新以来続いた各府庁の次官自由任用による政治的混乱を収めるために、代替案として始まった制度である。
しかし、政変や選挙の度に政務次官は変わり、役割も限定的、且つ不明瞭であった。
官僚出身の事務次官の代用には為らず、《盲腸》とまで表現されるほど……
当初の目標は形骸化し、人脈作りのポストとして看做され、1~3回生の衆議院議員に当てられるように変質した。
逆に、事務次官は政治の荒波のよる浮き沈みなも少なく、影響を保持、拡大する方向に成って行った。
彼は、摂家から選出される政威大将軍を、前世の制度に
「そもそも一つの血統ではなく、五摂家という曖昧なものにしてしまったのが間違いなのだ。
俺は、そんな物を有難がる馬鹿者共に媚びるつもりは毛頭ない。
鰯の頭も信心からという言葉があるが、人為的な教育の産物であろうよ。
まだ一統の材料として、
おそらく出発点は、政治的荒波から
連中は歴史的な経緯を忘れて、勘違いしている。
それ故、あのドイツ軍人の言動を用いて、気づかせてやった迄の事よ」
「何も揉め事を起こさなくても……」
彼は立ち上がって、右手で強引に美久を引き寄せる。
「だから、お前は人形なのだよ……。
何方にしてもあの場で、あのような発言をさせた時点で、政治的な問題にはなっている。
どう頑張っても荒れるなら、荒れ狂うほどにまで騒ぎを起こせばいい。
それに、奴等にも外からの新鮮な感覚を味わわせる良い機会ではないか……」
彼の左頬を平手で打ち付ける。
「話を
赤く鬱血した頬を右手で擦る。
彼女の右手を掴むと背中の方に向けて捻じ曲げる。
「覚えて置くが良い。誰が貴様を作ったのかをな!」
委縮する彼女を正面の椅子に向かって、突き放す。
その表情を見て、彼は満足そうに笑った。
「まあ、良い。後で……、それなりに可愛がってやるよ……」
左の頬に鏡を見ながら湿布を張る。
「俺が、なぜお前に似せて
今日は気分が良い。ついでに包み隠さず明かしてやろう」
手鏡を下向きにして机の上に置く。
「本気で世界征服を目指すなら、鉄甲龍の首領なぞは、むしろ男の方が良かった。
なぜ、女にしたのか。それは内側から瓦解させる為よ。
仮に美男の
例えば、シ・アエン*8、シ・タウ*9辺りを側女に置き、 寵愛の対象にするようプログラムして居たら、俺は大変な苦戦を強いられたであろう……」
正面の椅子に座る美久は、彼を真剣な眼差しで見る
「だが、俺は敢て幽羅を首領とし、
冷笑しながら続けた
「奴等は、俺と戦う前から、組織内で自らの仲間と戦い始めたではないか。
首領が男で、部下の殆どが女であったならば、等しく寵愛*12を授けるぐらい出来たであろう。
女では精々、対応出来ても二人ぐらいまでよ……。深い関係になって見よ。
もうその亀裂は修復不可能になる……、それ故そうしたのだよ」
彼は、椅子より立ち上がりながら続けた。
「俺は、女の指導者や……、女帝、女王の類は信用できん。
思い起こしてみよ。
彼の国は、
ぐるりと周囲を見渡す。
「ギリシャの
はるか遠い
あの女スパイ、マタ・ハリ*21が色香の為に、どれだけの人命が世界大戦で
俺は、女が……、女の指導者が怖いのだよ」
ゆっくりと美久の正面に向きを変えて、近寄って来る。
「無論、俺とて男だ。多少は、人肌が恋しくなる時もある……。
だが、この世界に在って、現世より信用為らん連中に囲まれている。
雲雨の夢*25を見るのも良し。
ゼオライマーの力を持ってすれば、実現は容易いであろう。
果たして、本当にそれで良いのであろうか。思い悩むときもあるのだよ……」
彼は内心にある
彼女は目の前にいるマサキを見る。
彼は、まるで遠くを見るような目で、窓の方を覘いていた。
夕日が沈むさまを眺める彼には、何時もの荒々しさは消えていた。
肉体は青年であっても、矢張り精神は、枯れ始めているのではないのか……
その様な心配が、彼女の電子頭脳に浮かぶ。
「飾り窓*27にお出掛けになって、
彼女は、設計者である彼への
「惨めになる様な戯言は止せ。俺達を駒のように扱う連中は褒賞*30と称して、
或いは、戻ってから
先々の事情も分からぬ内に、
お前も中々のガラクタだな」
手酷い扱いを受け、項垂れる美久……
彼は、その様を見て冷笑する。
「その推論型AIというのも、中々興をそそられる物だ。
久々に
彼はそう告げ、右手で彼女を引き寄せ、抱きしめる。
この回は、読者様のご意見を反映して書いた回です。
疑問や質問があれば、ハーメルンや暁問わずご意見いただけると幸いです。
無論、18禁版に関する事でも構いません。
頂いた意見は、必ず読ませて頂いて、自分の可能な限りでお答えする心算です。
脚注やフリガナに関して
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脚注やフリガナは必要
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脚注の数が多すぎる
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脚注の数が少なすぎる
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フリガナが多すぎる
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フリガナが少なすぎる
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現状維持のままでよい