冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
政府は関係者を一掃するべく、近隣の部隊に出動命令を掛ける。
習志野の第一空挺団、そして横須賀鎮守府。
最新鋭の防空システム、ターターミサイルの威力とは……
朝を迎えた東京市内の雰囲気は、いつもと変わらない物だった。
ただ普段と違うのは、2000名あまりの兵士が
深緑の野戦服に自動小銃を持った兵士がずらりと街頭に並び、同じように複数の戦車が交差点に止まっている。
決起部隊は、東京府の関係者の身柄を確保しただけで、危害を一切加えなかった。
これは周到に準備された計画で、
東京府関係者がもし殺害されていたのならば、即座に戒厳令が出されて軍部が主導したであろう。
しかし関係者全員が存命で、事態を収拾するために協議をしているとなるとそういう風にはいかない。
下手に将軍の意思を無視して、軍部や各派閥が動けば、事後の政権内の争いになるばかりである。
その為、
これは富士学校の吉岡少佐が立てた周到な計画であった。
東京
日の昇った午前6時の段階で、既にこれらの場所は、反乱軍の手中に落ちていた。
秋守中佐は、F-4J"
戦術機の計器から出る低音が、かすかに響いていた。
彼は光学装置を通して、広大な東京湾の埋め立て地を見つめた。
しかし、彼の心は全く別のもの、これからの戦いのことだった。
静寂を破ったのは、一つの暗号化された通信回線だった。
「アフターバーナの音がする」
それはF-4戦術機に装備されているエンジンより
ゼネラル・エレクトリック J79は、アフターバーナー推力を15000lbfを吐き出す強力なエンジンだった。
それを
目の前のレーダー画面が夜空の星のように輝き、脅威の接近を警告した。
それは速かった。
光は人間離れした精度でレーダー上を移動し、数秒のうちに彼の部隊に迫ってきた。
「全機散開!防御態勢を取れ!」
教導隊隊長が叫んだ。
ソ連の赤い星を付けた
彼らの戦術機は
彼らに近づく機体は、ビルの合間を駆け抜け、地形を巧みに利用して接近を隠した。
照準システムでロックをかけようとするたびに、機体は既に消え去り、画面上でぼんやりとしか映らなかった。
「奴はどこだ!?」
別の
次の瞬間、敵機が彼の目の前に現れた。
パイロットが反応する間もなく、その突撃砲が火を噴き、豪雨のように20ミリ弾が降り注いだ。
無数の弾丸を浴びた富士学校のパイロットは即死し、機体は火花をまき散らしながら、崩れ落ちる。
急旋回すると突撃砲が発射炎と共に咆哮し、肩に備えられたミサイルポッドから多連装弾の一斉射撃を試みた別の機体を撃ち落とす。
多連装弾は命中せず、敵機の砲は空中でそれらを撃ち抜いた。
ミサイルの轟音と爆炎が背後の夜空を照らした瞬間、教導団のパイロットは恐怖に包まれた。
「どういうことだ」
反乱軍のパイロットの一人が叫んだ。
その声には、未知の存在への
「うろたえるな、敵は一機だ」
隊長は、震える声で命じた。
しかし、射撃を狙うたびに、目の前の敵は既に動き出していた。
敵の射撃統制システムの使い方は見事だった。
反乱軍の攻撃を、優雅にかわしながら、管制ユニットを打ち抜いていく。
耳を
オレンジ色の砲火を
刃は迫り来る敵を、まるで熱したナイフでバターを切るように切り裂いた。
敵に勝ち目はなかった。一つ一つの動きは計算され、一つ一つの攻撃は連携していた。
黒色の瑞鶴が突撃を先導し、その刃は火花と硝煙の奔流の中でを斬り倒した。
彼の動きは信じられないほど速く、敵の間を駆け抜ける。
幾重にも発射された
秋守中佐は、目の前に迫りくる黒い機体が只者ではないことを悟った。
秋守は、突撃してくる黒色の瑞鶴に向けて、105ミリ弾を連射する。
だが巖谷の操縦する瑞鶴は、右に大きく機体を振り、秋守機の射弾を躱したのだ。
「逃がすか!」
罵声を浴びせながら、秋守の撃震は瑞鶴との距離を縮めた。
背中の兵装担架から発砲炎が閃き、赤い線が突きあがった。
多数の曳光が秋守機の右側を通過し、胴体上部から管制ユニットに振動が伝わった。
2,3発食らったが、貫通はしていないようだ。
秋守は弾倉を交換すると、2度目の斉射を行った。
瑞鶴は、今度は左に旋回する。
直後、青白い曳光が秋守の乗る撃震を貫いた。
巖谷は、撃震が回避する方向を見定め、砲撃を浴びせたのだ。
撃震は、火を噴いていないが、突撃砲は沈黙している。
巖谷の1連射が、撃震の火器管制システムを破壊したのだ。
これで終わりだ。
巖谷は、一瞬憐れむような表情を浮かべると、1斉射を放った。
弾丸は狙いを
大蛇のような炎が上がり、黒煙を噴出させる。
やがて機体は、力尽きたように機首を下げ、地面に突っ込むと爆散した。
「《ロック》より《グロウスビーク》へ。
晴海埠頭は制圧した」
「了解した」
巖谷はTACネームを用いて、司令部へ連絡をする。
ロックは巖谷の事で、グロウスビークは、第1斯衛大隊司令官である
このTACネームは、それぞれ英語から取ったものだった。
ロックは、巖谷の巖から。
グロウスビークは、英語で野鳥のイカルをグロウスビークと呼ぶことに由来する物だった。
「《グロウスビーク》より《ロック》へ。
一瞬だが、本隊の通信隊が、反乱軍と思われる無線を傍受した。
敵は霞が関方面へ集結しつつあるようだ」
東京湾の空を覆い尽くさんばかりの60機の武装ヘリは、船橋市にある習志野駐屯地に向かっていた。
そこで帝国陸軍の精鋭部隊である第一空挺団をピックアップし、都心に向かう計画である。
当初は
だが大型で目立ち、尚且つ鈍足のC-1輸送機は、対空火器の絶好の標的である。
それに高層ビルが林立する都心での落下傘降下は、自殺に等しい。
だが回転翼機なら、多少の荒天にも強く、大都市での使用にも耐えらる。
投入された第一ヘリコプター団の主力は、ベルUH-1。
帝国陸軍で運用されているのは、日本国内でライセンス生産されたものが中心だ。
機体は
しかし11人が定員のUH-1では、第一空挺団が擁する空挺歩兵連隊の兵員の全てを運ぶことが難しく、その不足を補うべく河崎 V-107で穴埋めがなされた。
これらに分乗し、霞が関方面に向かう兵士の数は、およそ800人で、第一空挺団の定数1600人の半数だ。
第一空挺団長は、河崎 V-107の貨物室に腰掛けていた。
ライカミング T53ターボシャフトの唸りが、冷たく鋼鉄の壁を貫く。
周囲では、第1空挺団本部中隊が静かに、しかし警戒を怠らずに席に着いていた。
彼らは、既に訓練を通じて、空挺降下の手順を熟知していた。
UH-1とAH-1Sは、空軍基地上空で準備を進め、再び混沌の渦中へと展開する体制を整えていた。
これはただの任務、ただの戦場に過ぎなかったが、今回はより危険度が増していた。
日本自体が崩壊の危機に瀕していたのだ。
第1空挺団長は座席に深く腰掛け、陸上で繰り広げられる反乱に思いを馳せていた。
独善的な帝国軍内部の統制派が、政府に対するクーデターを指揮していた。
統制派の青年将校らは、日本のために行動し、
しかし、第1空挺団長はそうではないことを分かっていた。
青二才のせいで、多くの人が死ぬことになるだろう。
ヘリの編隊が浦安市にある埋立地の上空を飛んでいた時、戦術機と銀面に塗装されたジェット機の一群が表れた。
押し寄せてきたのは、F-4ファントムとF-86”セイバー”だ。
旧式の戦闘機に乗った部隊は、反乱軍に参加した部隊である第二航空団の一部だった。
74式長刀を装備した機体が突撃砲を構えると、無警告で発砲してくる。
反乱軍を指揮する樽田大佐は、20ミリ機銃を連射した。
機銃弾は、あっさりとV-107のテールローターをもぎ取った。
列機が樽田に続く。
オレンジ色の発砲炎が煌めくと、V-107の操縦席は粉砕される。
凄まじい黒煙を上げた機体は、海面に向かって落ちていく。
水面に衝突するよりも早く、機体は爆散した。
第二航空団の戦術機隊は、敵の戦術機がいないことを確認すると引き返していった。
残ったヘリの多くは、大した武装を持っていない。
そこで随伴してきたF-86に任せることにしたのだ。
ベル UH-1の軽装甲ならば、F-86に搭載されている12.7ミリ機関砲で十分だと考えての事だった。
戦術機隊は東京湾に停泊している連合艦隊の方に向かった。
いくら大口径の艦砲を積んでいても対空能力に欠ける旧型戦艦なら勝てると踏んでの事だった。
樽田は、F-4ファントムの機体を緩降下させていった。
戦術機が得意とする、低空での格闘戦を始める為であった。
東京湾の入り口にあたる浦賀水道の方面には、
最新鋭のターター・システムを搭載し、艦隊の防空をつかさどる防空巡洋艦
戦後再編された第1護衛隊群の旗艦を務める船である。
対空迎撃が可能なボフォース機関砲を2門搭載した駆逐艦
そして防空用の近代改修を施した戦艦
1920年に作られた戦艦長門は、大東亜戦争において、米海軍のモンタナ級*11及びアイオワ級と数回に渡る激戦を戦った経験*12を持つ。
戦後、
戦艦長門も一度米国に接収されたが、朝鮮動乱の折、日本政府に援助の形で返還された。
再び軍務についた長門は、既に数度近代改修がなされており、
防空ミサイルとしては、天津風に導入されたターターシステムと、日本海軍初のシースパローミサイルを搭載したMk 25 GMLSをそれぞれ前後に2門づつ装備している。
1944年の段階で13基あった対空機銃はすべて廃止され、その代わりとして、ボフォース70口径40mm単装機銃とエリコンKD 35 mm 機関砲の2連装型をそれぞれ前後に2基配備している。
エリコンKD 35ミリ機関砲は、今日西側諸国が採用しているCIWS*14のバルカン・ファランクス*15に比べて、発射速度は550発/分と遅い。
だが最大有効射程距離が5000メートルほどあり、有効射程1500メートルのバルカン・ファランクスの三倍強だ。
またエリコンKD 35 mm 機関砲は、信頼性という面で開発中のファランクスより優れていた。
西独軍のゲバルト対空戦車や87式自走高射機関砲などの兵器での使用実績もある。
35mm機関砲の命中率は優れているものの、射程は戦闘ヘリコプターや航空機に搭載されるミサイルや誘導爆弾より短いため、アウトレンジ戦法により破壊される可能性が大きく、現代の戦場では実用性が低いとも指摘されている。
対策として特性の異なる短SAM *16と相互に補い合うガン・ミサイルコンプレックスと組み合わせることで防空能力を発揮する装備品と位置づけられている。
これらの軍艦は 横須賀から海軍陸戦隊を乗せ、東京湾に向かっていた。
事件は、既に引き返すことのできない地点まで到達していたのだ。
東京湾に入港したそれらの目標に対して、第二航空団に所属する戦術機隊は
「国籍不明機接近!3時の方向。
機数20、高度5000」
天津風に搭載されたAN/SPS-39レーダーは、正確かつ確実に敵を補足した。
レーダースコープに移った点に気づいたオペレーターは、素早く複数の数値を読み取り、報告した。
「距離は……」
「2万5000ヤード*17」
帝国陸海軍では基本的にメートル法を基準に兵器が運用されている。
だが例外もあって、国際海里の他に、米軍との連携の都合上、ヤード・ポンド法が使われる場合があった。
「本艦の進路からして……」
「3時といえば、船橋です」
「敵だ」
天津風の艦長は軽く首を振った。
「対空戦闘用意!」
天津風の艦内に大音量で戦闘準備を告げる警報が鳴り響く。
随所で命令の復唱と確認が行われた。
既に多くの者が配置についていたが、朝食の時間帯だった。
朝食を取って居た兵士は呪詛を述べながら、握り飯を口に運びかけていた手を機銃の発射装置や砲塔の旋回ハンドルに持ち替える。
「戦艦
敵機接近、来援を乞う」
艦長はそう命令を下しながら、来援は間に合うまいと感じた。
艦載しているF-4ファントムが緊急発進し、最大速度のマッハ2で来ても4分から5分。
どう考えても間に合わない。
艦長はほぞを固めた。
「敵編隊、4000に降下!」
砲術長は刻々ともたらされる状況報告を受け、冷静に命令を下した。
「ターター、準備。
主砲、機銃は第二群に対処せよ」
Mk 13発射機のみならず、追加改修で装備されたエリコンKD 35ミリ機関砲、50口径76ミリ連装速射砲2機が旋回し、彼方からの敵に備える。
「ターター発射始め!」
天津風に搭載されたMk 13発射機が上を向き、ランチャーから火箭が白煙を上げ、上空に消えた。
随伴する戦艦長門も同様の行動をとったらしく、3つの火箭が艦隊に迫りくる敵に向かって放たれた。
第1護衛隊群を攻撃したのは、F-4J撃震を駆る第2航空団の精鋭だった。
艦艇を
そんなわずかな希望を胸に、20機のF-4J撃震中隊は突撃を掛けたのだ。
だが天津風を始めとする第1護衛隊群の防空は想像以上に強力だった。
降下を開始しようとした20機の編隊は、ターターシステムの手荒い洗礼を受けることとなった。
「ミサイル発射確認!」
2隻の艦上にミサイル発射の閃光を認めたパイロットが叫ぶ。
「外せ」
隊長の樽田は命令を下すと、一斉に回避運動を始めた。
太陽光の方角に向かって飛び、ミサイルの赤外線誘導を
だがターターはレーダー誘導式であり、サイドワインダーミサイルの様に欺瞞が通用しなかった。
電波照射式レーダーの反射波に乗って、F-4J撃震に接近した3発のターターミサイルは、至近距離で
一機のF-4J撃震は破片が燃料タンクに直撃し、機体が火の弾に代わった。
別な一機は胸部装甲を粉砕され、管制ユニットは血と肉で朱に染め上げられた後、黒煙を吹き出しながら海面に落ちて行った。
高高度にいた部隊は、10秒後に発射された第二波、20秒後の第三波により、一発の弾を撃つ前に撃墜されていった。
降下している部隊は、エリコンKD 35ミリ機関砲、50口径76ミリ連装速射砲、ボフォース70口径40ミリ単装機銃の暴風雨に遭っていた。
台風の横殴りの雨を思わせる様な弾雨に向かって、生き残った6機のF-4J撃震は突撃していく。
もうこうなれば勝敗などどうでもいい。
仲間への復讐が優先された。
また一機、また一機と40ミリや35ミリに貫かれ、
やみくもに105ミリ砲を発射しながら、機体を上昇させる。
105ミリ弾の一部が、比叡に積まれた72式射撃指揮装置1型の円形パラボラアンテナに直撃した。
爆炎をあげる様を見て、樽田は歓喜の声をあげる。
「ざまあみろだ!」
その直後、長門から発射された2発のターターミサイルが、樽田の乗るF-4J撃震に衝突した。
爆発の衝撃で機体は爆散し、樽田は一瞬にして燃えるたいまつになり、この世から永遠に消え去った。
ご感想お待ちしております。
ソ連の今後に関して
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核不使用の軍隊
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体制そのままに資源50パーセントオフ
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クーデター