冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
事件の行く末は、如何に……
その頃、マサキたち一行は、3台の海軍の公用車に分乗して京都市内に向かう最中だった。
行動を共にしていた藤堂百里基地司令は、白の第二種軍装に着替えて、先頭車両の後部座席に居た。
車は、二条にある
屋敷の客間に通されると、そこには主人の
マサキと藤堂が席に着くなり、斑鳩はこれまでの経緯を事細かに説明し始めた。
「なんですっと!」
藤堂は驚きの声をあげた。
「じゃあ、
「間違いない」
斑鳩は、驚くマサキ達を余所に、話を先に進めた。
「奴らはわしらのような長老がいる限り、何時までも権力の座に付けんという事で、焦ってクーデターを起こしたのだ」
「しかし、
あの二人は閣下にしっぽを振っていたではありませんか」
藤堂の疑問に対し、斑鳩は軽くうなづいた後、こう答えた。
「それが政界という物だ。
わしらもかつて軍部が絶対権力を握っていた時代、軍部にしっぽを振って甘い汁を吸って来た。
しかし、大東亜戦争講和で軍部が弱体化したとき、親米派を
藤堂は一瞬、隣に座る若い学者の方に目を向けた。
木原は、顔を歪めているが黙って聞いている。
「今、あの二人はわしと
斑鳩はおもむろに煙草盆に手を伸ばした。
愛用するマイルドセブンのソフトパックをつかんだ。
「そして、これは単に政界の権力抗争ではない。
軍部や財界の権力抗争でもあるのだよ」
斑鳩は、言葉を切るとタバコに火を点けた。
「……と仰いますと!?」
「
「あッ!近畿商事の壹岐正」
近畿商事は、繊維問屋をしていた
その一連の事業を成功させたのが龍崎一政こと壹岐正であり、彼は近畿商事の相談役だった。
元軍人という立場故に社長職には就かなかったが、陰で暗躍したのだ。
「そうだ。
政界工作で後れを取り続けていた近畿の壹岐が、
その話を聞いて、マサキはある結論に行きついた。
すべては政界の空転だ。
五摂家の崇宰と斉御司によるクーデター劇だ。
2人の裏には、政財界のフィクサー、壹岐がいる。
壹岐の裏には、KGBがいる!
まさか、今回の件もKGBが暗躍していたのではないか。
思い返せば、元の世界での事の始まりもソ連の陰謀のために俺は死んだのだ。
ゴビ砂漠に潜んでいた
その理由も、時の防衛庁長官が、日ソ友好の為にソ連へゼオライマーを献上しようとしたことが発端だった。
幸い、ゼオライマーの秘密は美久と、自分の遺伝子情報をコピーさせたクローン受精卵の
その時、偶然にも
元の世界同様、いやそれ以上にソ連の魔の手が、蜘蛛の巣を張り巡らせたように広がっている。
己の野望を実現するにしても、この世界の日本を戦後体制の呪縛から救うにしても……
アイリスディーナやユルゲンの家庭を引き裂き、彼等を不幸のどん底に追い込んだKGBを再起不能にせねば、再び奴らは蘇る。
前の世界の時のように、ソ連邦崩壊という形だけの降服で手打ちをするという甘い態度ではダメだ。
マサキは気分を落ち着かせようと、煙草に火を点けた。
紫煙を吐き出しながら、
アイリスディーナ……
東と西の対立のために翻弄された哀しい娘……
俺は、もうアイリスディーナを楽にしてやりたい。
KGBの呪縛から解き放ってやりたい。
日本でクーデターを起こしたKGBの幹部をKGBの手で始末するように仕向ければ、疑心暗鬼に陥るはずだ。
今がその絶好の機会だ。
「股肱の臣といわれた崇宰公が、そんな極端な行動に走るとは……」
ホープを咥えたマサキはガスライターで火を点けながら、答えた。
「裏で絵を描いているのは、KGBだろう」
マサキの言に、藤堂は驚愕の色を浮かべた。
その話を聞いて、藤堂には思い当たる節があった。
元陸軍少佐の壹岐は、モスクワでNKVDにスカウトされたという出所不明のうわさである。
海軍の自分には関係ないと無視していたが、あの話は本当だったのだと。
藤堂は意を決して訊ねた。
「じゃ、じゃあ、今度のクーデターはKGBが仕組んだという事ですか!」
マサキは努めて冷静に答えた。
「斑鳩の話から類推するに……
奴らが俺を倒すために政界ルートを通じて、今回のクーデターを
マサキは、それまで吸っていたタバコを灰皿に放り投げる。
「おそらくKGBはラストボロフ事件に前後する形で、壹岐に近づいたのだろう。
壹岐とつながりを持つことで、KGBは単に親ソ団体からだけではなく、日本の政財界をも動かし、俺たちに戦いを挑んで来ている」
マサキたちは、一旦、斑鳩邸を後にして、京都御所に向かうことにした。
そこで皇帝奪取をはかるKGB部隊と戦うつもりだった。
武装した海軍兵を乗せた3台の車は、京都広河原美山線を直進した。
車中、マサキは百里基地からついて来た海軍将兵に指示を出した。
藤堂は、その提案を納得しつつも、こう答えた。
「分かった。
で、どうやってKGBとの連絡を断ち切るつもりなんだ」
「このスパイネットワークは壹岐が一人で作って、壹岐の信用で保っていると言っていい」
マサキは持ってきていたチェコスロバキア製の拳銃に弾を込める。
それは、9ミリパラベラム弾が装弾出来るCZ75自動拳銃だった。
「その壹岐が消えれば……」
早く決着を付けねば、これ以上に若い人間の血が流れる。
その為には、壹岐を消すしかあるまい。
覚悟を決めたマサキは、単身、壹岐が潜んでいる帝都城に乗り込むことにした。
場面は変わって、大阪府豊中市にある在大阪ソビエト連邦総領事。
そこの総領事室では、密議が凝らされている最中だった。
「そうか、第二航空団が、横須賀鎮守府の第1護衛隊群に仕掛けたか」
ソ連共産党国際部第一副部長を務めるイワン・コバレンコは満面の笑みを浮かべた。
「はい、これで元帥府と反乱軍は戦わざるを得なくなりました」
「崇宰の知恵袋である壹岐が、KGBのスパイとしてスカウトされた人物とは知らずにな!」
壹岐正は、1943年の冬、特使としてモスクワに来た際、NKVDにスカウトされた。
陸大を首席で卒業した彼は、米軍への講話を探る軍部と政府の手緩さに不満を持っていた。
そこにNKVDが付け入り、彼をスパイとしてスカウトしたのだ。
「無理もございません!壹岐のスカウトは、35年前のモスクワで極秘に行ったことですからな」
先ほどの情報員とは、別な男が答えた。
「それも日本侵略の為の駒として動かすために!」
コバレンコは失笑を漏らす。
「KGBの東京大侵攻の尖兵をやるために!
狙い通りになりましたな」
コバレンコは、笑みを浮かべながら答える。
「統制派の青年将校も、今をときめく御剣一派に一発撃ちこんで我らにやる気を見せたのであろう。
誉めてやろうではないか」
そこに大使館職員の男が駆け込んできた。
「副部長!木原を発見しました」
表向き書記官の肩書の男も、またKGBの工作員であった。
「舞鶴に姿を現して、車でどこかに向かっているそうです。
今、現地工作員が尾行しています」
コバレンコは表情を改めた。
「木原か……泳がせて何をするのか見てみたかったが……
反乱が始まったとなると、そうはいかん」
部下の男は、コバレンコに問いただした。
「どうなさるおつもりですか」
コバレンコは椅子から立ち上がるなり、部下に命じた。
「抹殺せよ!
同志アンドロポフの
載っているのは貨物ではなく、分解された戦術機とそれを操縦する衛士だった。
その後ろからついて来る5台のマイクロバスの中には、観光客風の外人の集団がいた。
彼等は在大阪ソ連領事館の職員で、その全員がKGBアルファ部隊とGRUスペツナズである。
男たちは二条城の近くになると目出し帽に迷彩服姿になり、編上靴を装備する。
中共軍が愛用するチェストリグと呼ばれるベルトに負い紐の付いた腹掛け式の弾帯を締め込む。
二条城の前についたと同時に、男たちはAKMを持って外に躍り出た。
「攻撃開始」
RPG-7を担いだ兵士の一人が、ロケットを天守閣に向けて発射した。
それと同時に連続した射撃音が起こった。
ロケット弾は天守閣に衝突し、爆音を深夜の街に響かせた。
突如とした襲撃に城を守る近衛軍も無策ではなかった。
同時に銃声がした。
その一発を合図に、数十発の銃声が一斉に起こる。
突入してきた兵士は、三方向から射撃を浴びせられ、殺されていく。
たちまちスペツナズの死体が、帝都城の門前に目立った。
「迂回しろ!」
指揮官は
激しい弾雨の中、また一人、一人と隊員は倒れていく。
指揮官はAKMの弾倉を交換しようと、弾帯に入った弾倉の数を数えた。
30連マガジンの本数は3本だから、残り90発。
ここで志半ばで死ぬかもしれないが、せめてもの抵抗として全弾打ち切ってから果てよう。
そう考えた男は素早く弾倉を交換すると、セレクターを半自動の位置に切り替える。
そして再び意を決して、集中豪雨のような銃弾の中に消えていった。
マサキが帝都城についた時、既に銃撃戦が始まっており、乾いた音が響いている。
至る所で火の手が上がり、物見櫓は真っ赤に燃えて、付近は真昼のような状態だ。
30メートルほどの先を小銃や槍で武装した警備兵が駆けていく。
本丸までの距離は、70メートルもない。
マサキは、UZI短機関銃を撃ちつつ、帝都城の中を突き抜けようとする。
その時、黒い目出し帽に見覚えのある白樺迷彩服を着た一群に遭遇した。
AK47自動小銃やSKSで武装した一群は、ソ連の特殊部隊だった。
ソ連兵がここにも!
マサキは一瞬混乱した。
銃を乱射しながら、一目散にその場から駆け出す。
「しまった!木原だ」
「こんなにも早く来るとは!」
マサキの存在に気が付いたソ連兵が、トカレフ拳銃を二発発射してくる。
マサキは同じように二発射撃し、その場を駆け抜けていく。
相手が怯んだので、マサキは構うことなく走り出した。
「追え!逃がすな」
マサキは乱脈に駆け巡りながら、反撃をした。
敵は二手に分かれて、マサキの左右から接近してくる。
その時、マサキがいる右側の方向が光り、聞き覚えのあるRPG-7の発射音が轟く。
夜目にも白く尾を引いて、一直線にこちらの方向に向かってくる。
ロケット弾か!
そう思ったマサキは、反射的に身をかがめた。
地面全体が揺れ、マサキの体が転がった。
爆風と火が、低く伏せたマサキの頭上の上を、ものすごい速さで駆け抜けていく。
衝撃波と爆音で、マサキの鼓膜を痛めつける。
次の瞬間、オレンジ色の炎が前方を覆い尽くした。
駄目だ、逃げねば!
マサキは、韋駄天走りで駆けだした瞬間、元居た場所にめがけて斉射が撃ち込まれる。
一斉に、迷彩服姿の男たちがマサキを追いかける。
スコーピオン短機関銃を持つ男たちに取り囲まれるも、マサキは諦めなかった。
吶喊を上げると、UZIを左右に振り回す。
弾倉に込められた32発を打ち切った時、彼を取り囲んでいた敵は全て沈黙していた。
帝都城の中は、混乱の渦に包まれていた。
200名以上の工作員の襲撃に、大老の真壁は将軍の脱出を支持するほどだった。
だが、時の政威大将軍
帝都城内の武器庫にある将軍専用の戦術機を持ち出すように指示を出すほどだった。
「出陣じゃ! 馬を引けいッ!」
既に強化装備姿に着替えていた煌武院は、真壁たちが取り押さえるのを振り払って、戦術機に搭乗しようとしていた。
政威大将軍専用のF-4J改”
ひときわ目を引くのは、頭部にあるV字型の通信アンテナだ。
それはまるで
ほかに特殊装備として、ブローニングM2重機関銃が両腕に外付けされており、管制ユニットから操作できるようになっている。
ブローニングM2重機関銃は毎分650発だが、信頼性や完成度の高さから採用から80年近くたった現在でも使用されている。
米陸軍は21世紀になってもこれに代わる重機関銃の採用を見送るほどであった。
その頃、嵐山にある近衛軍の秘密基地では出撃準備が整えられていた。
F‐4"ファントム"、そのライセンス版である光菱"
雑多な戦術機をかき集めたような姿は、
斯衛軍は、帝国陸海軍とは別ラインの実力機関である。
UH-1ヘリコプター30機からなる航空戦力を有し*1、即応性に優れた機械化歩兵を中心に編成されている。
ほかに、M4A3E8中戦車が50両、M52 105mm自走榴弾砲が20両からなる騎兵連隊という名目の装甲車両部隊がある。
そして、五摂家各家がそれぞれ戦術機を管理し、合計で300機という師団規模の戦術機を運用している。
ただ、各家ごとに機種選定や改造を施した為、整備性を無視した編成となり、その様を見た世人はオモチャの兵隊を評した。
撃震、瑞鶴、そしてA-10 サンダーボルトⅡの簡易量産型の
篁の預けられた第20
斯衛軍内部で
口の悪い者たちは、不良兵を集めた陸軍
12機の戦術機からなる第20独立中隊は、2機ずつの
整備兵が帽子を振る中、攻撃隊は飛び立っていった。
あっという間に、二条にある帝都城に近づいた時、無数のロケット弾が空に打ち上げられた。
航空灯が煌々と焚かれ、硝煙が立ち込める京都市内の姿は、現実味に欠けるように篁には思えた。
まるで実働演習で仮想敵とたたっているような感覚におちいっていた。
「第20中隊は、二の丸御殿周辺の掃射をお願いします」
二の丸御殿は、各地からの増援を防ぐ目的で、GRUのコマンド部隊に占領された状態だった。
トレーラーの中から取り出されたシルカ対空自走砲と9A31自走発射機*3が、それぞれ2両づつ、御殿の周囲に据え付けられている。
「リード了解、各機……」
切迫したオペレーターの声に応じた時、篁の視界は真っ白になった。
それが対空ミサイルによるものだと気が付いたときには、すでに遅かった。
9M31地対空ミサイルが上空で爆発し、破片をまき散らす。
黒の撃震は、破片が燃料タンクに直撃すると爆散した。
もう一機も飛行ユニットに致命傷を受け、法成就池の水面に接触し、水柱を上げて、墜落した。
さらにもう一射、火箭が火を噴いて直進してくる。
篁とは、別な小隊の2番機が直撃を受けて、撃墜された。
「リーダより11番機へ。ミサイルは凄鉄のガトリング砲で黙らせろ」
「
帝都城の上空に近づく前に4分の一を失ってしまった。
篁は、内心の焦りを必死に抑えた。
「各機、増槽落とせ!」
鈍い金属音と共に、跳躍ユニットについた増槽がパージされる。
飛翔物接近の警報の最中、篁は跳躍ユニットを最大限にする。
ロケットエンジンに点火し、瑞鶴の最大速力をもって、帝都城内に急いだ。
18メートルの巨体は
降り立った帝都城は、まさに火の海だった。
至る所から現れる対戦車ロケットを携帯するスペツナズを、20ミリ突撃砲で斉射する。
「11番機、二の丸御殿へ一斉射!
4,3,2,1、
アヴェンジャー30ミリ機関砲2門が、一斉に火を噴く。
嵐の様な弾雨が二の丸御殿とともに、シルカ対空自走砲とそれを操作する兵士を吹き飛ばした。
無駄のない30ミリ弾の
14ミリの装甲はたちまち射抜かれ、
中にいる搭乗者は、弾薬庫の誘爆により、燃えるたいまつになり果てた。
RPG-7の砲声、機銃の掃射音、ジェットの爆音、爆弾の破裂音が響く中、斯衛軍兵士やスペツナズ隊員の怒声や絶叫が上がる。
それらも、新たに起こる銃声にかき消されていく。
混乱の最中、将軍奪取をはかるスペツナズ部隊は本丸御殿にたどり着いた。
銃撃もなく、簡単に侵入できた。
まもなく煌々と灯りが焚かれた御殿内に入ってから、無人である事に部隊長のアルメニア人大佐は違和感を覚えた。
これほどの建物の中が、人っ子一人にないことはあり得ないからだ。
考えられるのは、
無人の建物に引き付けて、その建物ごと破壊するという荒っぽいやり方だ。
建屋の外、それほど遠くない場所からジェットの奏でる野太い轟音が響いて来る。
間違いない、ゼネラルエレクトリック社製のJ79-GE-17Aのそれだ。
もしかすると石川島播磨重工業のライセンス版、J79-IHI-17Aかもしれない。
その通りだった。
本丸御殿に居た老中、若年寄、側用人や坊主衆の類に至るまで既に秘密の地下通路で脱出した後だった。
秘密の通路は、地下鉄東西線と二条公園の双方に通じており、ソ連側を攪乱するためにその多くは地下鉄方面に退避していた。
老中の真壁は、将軍をハルシオン
二条公園は、元々徳川幕府の京都所司代の下屋敷があった場所だった。
近代以降は京都監獄となったが、今上帝即位の際に公園として整備された場所である。
斯衛軍はその広大な空き地に目を付け、先次大戦時に秘密の地下格納庫を建造していた。
格納庫には、非常時に備え、刀剣が1万振、ピストル500丁、M1ガーランド小銃*65000丁、弾薬50万発。
そして瑞鶴が10機、撃震が20機、M4A3E8中戦車が30両、52 105mm自走榴弾砲が10両ほど隠してあった。
まもなくフォード GAAV型8気筒ガソリンエンジンの怒涛を響かせてM4A3中戦車が乗り込んできた。
M4A3E8中戦車は、今から37年前の1942年に制定された戦車で、もはや最新鋭とはいいがたい。
だが長年の使用により、問題点や不具合個所の洗い出しが終わっていた。
T-72戦車やT-64戦車とは勝負にならないほどの軽装甲ではあるが、歩兵用の装甲車両としては十二分に役割を果たすものであった。
本丸御殿の周囲にたむろする襲撃部隊の群れを順序良く屠るべく、52口径76.2ミリ戦車砲を放った。
榴弾を受けた兵士は弾片によって体を切り裂かれ、彼らの立っていた場所は
直撃弾を浴びた兵士の中には、炎を背負い、水の張られた堀の中に飛び込むものもいる。
予期せぬ戦車の投入により、スペツナズの襲撃部隊は恐慌をきたし、もはや戦闘どころではなかった。
部隊長のアルメニア人大佐は無力感に包まれ、呆然とキャタピラの音を響かせる戦車の前に立ち尽くしていた。
着陸した篁は先陣を切って、帝都城内を進む。
東大手門を通り過ぎると、燃え盛る二の丸御殿が瞬く間に迫る。
「二の丸庭園に機影なし。各機続け」
篁の声に対し、各機から応じる声が続く。
「了解」
"瑞鶴”に続き、"撃震"に乗る衛士の声もあった。
事前の情報ではソ連兵たちは戦術機を持っていないが本当だろうか。
場外に泊まるトレーラーに、隠匿したのではなかろうか。
果たせるかな、敵の戦術機が姿を現した。
「来たな」
清流園の方から跳躍を開始する、見慣れぬ2機の戦術機。
記憶が確かならば、先ごろベルンハルト嬢が持って来たデータに記されたMig-23だ。
Mig-23は、F-4ファントムのライセンス生産品であるMig-21バラライカに高度な機動格闘戦能力を付与するために、ミグ設計局が再設計した機体で、ソ連初の独自戦術機である。
トーネードと同等の可変翼を跳躍ユニットに装備しているが、その能力はカタログにかかれている物より劣った。
ソ連製の兵器に代表されるように、整備性に劣り、また燃費性能も悪かった。
これはソ連の航空宇宙技術が劣っているわけではなく、潤沢な石油資源を背景にしたものである。
整備性や燃費を向上させるより、強力な推進力や速度を求めた結果であった。
篁が視線を投じた瞬間、二機は侵入者の存在に気付き、迎撃態勢を取る。
「各機、一斉射、
2機の撃震が持つ計8門の20ミリ機関砲が一斉に火を噴いた。
離脱し始めようとした機体は、高速で回転運動を行うもバランスを崩し、本丸御殿にある内堀の方に倒れ込む。
そのまま機体は、水堀の中に沈んでいった。
篁は、瑞鶴の背中に装備した長刀を抜き出すと、機体を直進させた。
突撃を受けた敵機は、瑞鶴の剣戟を避けようと後退する。
その際、2機の撃震が退路を断つように、20ミリ弾の
弾道の一つが、跳躍ユニットに直撃し、誘爆する。
跳躍ユニットの分離を確認できなかったので、恐らく機体は爆発と運命を共にしたのであろう。
篁は敵ながら政治の都合で死んだソ連兵に、
篁たちの前に背部兵装担架に長刀を二本装備した瑞鶴が現れた。
白色の塗装からすると、自分よりも家格が下な一般武家の出身者の様だ。
射撃を止めた部隊のほうに歩いて来た瑞鶴から、その直後通信が入った。
「篁、久しぶりだな。俺を覚えているかい」
篁は、男の声に覚えがあった。
篁はBETA戦争前、この男に航空機操縦のイロハを教わったことを思い出した。
今は確か、駐在武官補佐官として、駐バンコク
「椎葉さん、いつ日本に……」
椎葉は半年ほど前、バンコク総領事館から古巣の第10独立警備小隊に復帰していた。
理由は、病気療養のためであった。
「俺の事を思い出したのなら、戦うべきだ。
俺がお前よりも強かったのを証明してやるぜ」
椎葉の駆る瑞鶴は、突撃砲を構えながら、篁機に接近してきた。
「貴方とは闘いたくないんだ。椎葉少尉」
いきなり突撃砲の音が、つづけざまに響いた。
篁も牽制射撃を加えつつ、白い瑞鶴に接近する。
「戦う気がなくても、直ぐにそうさせてやる」
椎葉は
椎葉の駆る白い瑞鶴は、袈裟懸けに長刀を振りかぶる。
振り下ろされる長刀を篁は後方へ回避しようとするが間に合わず、自身の持つ刀で防ぐのがやっとだった。
篁は、74式近接長刀の設計者として、これまで何度も他の部隊との訓練を行ったことはあった。
だが対人戦となると、今回が初めてである。
それ故に、椎葉の太刀筋を確かめる必要があった。
ほぼ同時のタイミングで太刀を振り下ろす白と黄色の瑞鶴。
鼓膜をつき
はじき返された篁機はふたたび脇構えのまま、吶喊した。
椎葉機は、背中にマウントした2門の突撃砲で、間を置かずに牽制射撃をしてくる。
篁はエンジンのスロットルを切るとジェットを吹かした。
20ミリ砲の射撃を回避しながら、背中の兵装担架を前面に展開し、相手と同様に突撃砲を構えた。
105ミリ弾を連射しつつ、距離を縮める。
椎葉は迫りくる砲弾から逃れるべく、跳躍ユニットのエンジンを吹かそうとした瞬間、勝敗は決した。
第20警備中隊の隊員が気がつたときには、振り下ろした長剣がすでに白い瑞鶴の管制ユニットまで達していた。
白い瑞鶴は、糸の切れた操り人形の如く、その場に仰向けに倒れ込んだ。
崩れ落ちた瑞鶴から助け出された椎葉は、既に虫の息だった。
かろうじて見える両目で、側にいるのが篁と分かるほどだった。
椎葉がすでに今わの際であることを理解した篁は、遺言を尋ねることにした。
だが椎葉の返答は驚くべき内容だった。
「た……篁、おれは末期がんでな、男して終わりなんだ」
「どうゆうことですか」
「
椎葉が反乱軍に参加したのは、彼の病気が原因だった。
彼の問わず語りによれば、
男として社会的に死ぬのならば、せめて白刃の下で死にたいという理由からだった。
「篁、お前が
篁は、既に助かる見込みのない男の顔に耳を近づけた。
「お前には子があるという事だ。
俺のところは女だから、絶家だな……
逆賊の俺が子を持とうだなんて考えたから、
俺みたいな売国奴は、一生
椎葉は、半分しか開かない瞼から涙を流した。
「椎葉さん、奥さんと娘さんは何であれば、俺が面倒見ますよ」
篁は、思わず普段使う事のない俺という表現で椎葉の心に近づこうとした。
「篁、迷惑はかけねえようにしてある」
篁は一瞬その意味が理解できなかった。
だが、後になって考えてみればそれは恐ろしい答えだった。
椎葉は反乱への参加に際して、妻と一女を手に掛けたという事を伝えたのである。
「しかし悲しいな」
それだけ言うと椎葉は口から血を流して、眠るようにして息絶えた。
低依存で
だが、その手軽さから薬物乱用や
日本でも1982年に許可されるも、六本木のクラブ界隈で乱用され、「アップジョンする」という隠語まであるほどの浸透ぶりだった
大魔王パエリア最強厨様、ご評価ありがとうございました。
忌憚なき、ご意見、ご感想お待ちしております。
ソ連の今後に関して
-
核不使用の軍隊
-
体制そのままに資源50パーセントオフ
-
一億総懺悔
-
クーデター