冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
そんな彼の元に、一人の怪紳士が現れる。
会社員を名乗る、謎の男の狙いとは……
マサキは夕刻、一人、ゼオライマーの中に居た。
出撃可能な様に整備を進めながら、次元連結システムの簡単な動作確認をしていた。
数日前、ウクライナのセバストポリを化け物共が襲った。
少なくとも自身がカシュガルハイヴと呼ばれる構造物を地中深くから崩壊させて以降、目立った動きはなかったはずだ……
思い当たる節があるとすれば、その攻略の際、地中奥深くで遭った異形の化け物*1。
その化け物との接触の際に受けた攻撃……。それを解析して特定の周波数を突き止めた。
事件前日に、戦地で一時的に生け捕ったBETAへ、解析した周波数を照射した事が影響したのであろうか……
確かに、BETAは活発に活動し始めたが、即座に次元連結砲で灰燼に帰した。
或いは、宇宙其の物から異次元のエネルギーを変換させる次元連結システム。
その作用が、この異世界に与えたのか……
この禍々しい化け物自身を構成する物質に、何かしらの時空間への影響を及ぼす作用が有るのか……
消滅したはずの自身とゼオライマーを呼び寄せる存在……有るのであろうか。
確かめてみたいし、知りたくもない。その様な相反する気持ちに悩む。
気分転換にと、機外に降り立ち、駐機場の端に向かう。
灰皿用に赤く染めたペール缶の前に立つと、胸ポケットからレギュラーサイズ*2のタバコを出し火を点ける。
頭を冷やして考える。
今までは遊びを優先で事を進めてきた。
だが次元連結システムの作用により、怪物に何かしらの影響が出る様では怪物共を素早く片付けねばなるまい。
そして、この世界の人間どもを様々な策を
水の張った灰皿にタバコを投げ捨てると、機体に向かう。
操縦席に乗り込むと
美久が駆け寄ってきた。
普段着て居る
一旦降りて、機体の足元で腕組みをして待つ。すると声が聞こえた。
「お待たせしました」
腰を曲げ、両腕を膝に付き、肩で静かに息をつく彼女が居た。
垂れ下がる長い髪の隙間から見える首筋は、
我ながら、形状記憶シリコンと推論型AIの完成度に満足した。
「お前自身が機械なのだから、あんな
彼は後ろを向くと再び乗り込む準備をし始める。
『ペルシャへ、冷やかしに行く』
無論、連中には既に話は通してある。
すっと潜って、巣穴を焼いて帰ってくるだけ。簡単な作戦……
そう思っていると、奥より見慣れぬ人影が表れる。
『ドブネズミ色』の背広姿に、茶色の膝下丈のトレンチコート。
オーバーのマフポケットに両手を突っ込み、此方へ歩み寄る。
およそ軍事基地には不相応の姿格好。
まるで決まりきったサラリーマンのような
彼は上着を押し上げ、ズボンのベルト右側に挟んであるインサイドホルスターに手を掛ける。
私物の8インチ*3の銃身を持つ拳銃をゆっくり取り出した。
脇に居る美久にも目配せする。
彼女の手には、米軍貸与の大型自動拳銃がすでに握られていた。
「動くな。ここをどこだと思っているんだ」
ゆっくり右手で構え、丁度ズボンのベルトのあたりに向けて照準を合わせる。
左手を右ひじに添える形で保持し、撃鉄を上げる。
男は、両腕をだらりと下げた侭、笑いながら足を止めた。
再び、彼女に目配せをする。
銃を構えた右手を勢いよく天井に向けると、一発撃つ。
倉庫内に、雷鳴の様な爆音が反響する。
強烈な音と吐き気を
思わず、マサキは顔を
男は、猶も笑ってはいるが、若干顔色が悪くなった程度だった。
「次は貴様を撃つ、両手を上げて、官姓名を名乗れ。
さもなくば、伏せて身動きするな。
俺の気は短いぞ、忠告は一度だけだ……」
男は敵意を無いのを示すように、両腕を腰のあたりまで上げる。
掌をこちらに向け、止まる。
「もっと上げろ、万歳の姿勢まで上げろ」
右掌を包むように左手を添え、拳銃を相手の顔面の位置まで上げる。
拳銃の
.44レミントン・マグナム弾*4であれば、確実に殺せる。
どけていた食指を用心金から引き金に移動させ、左目を
「ほう、スミスアンドウェッソンのM29*5ですか。
良い
男は日本語で、話しかけてきた。
「減らず口を叩ける立場か、貴様。俺は警告したぞ。
手順通りやったから、後は
美久、同時に仕掛けるぞ」
僅かに、顔を彼女の方にずらす。
「貴方方が噂のアベックですか。色々、先々で話は伺って居ますよ。
しかし素晴らしい戦術機ですな。
これほど大きなものを御一人で組み上げたとは、いやはや関心致しますよ」
彼は顔を顰める。
「貴様、何処の
男は、なおも笑みを浮かべたままだ。
マサキは再度、美久の方を見る。
「火災報知器のベルを鳴らせ。曲者だ」
彼女は、その場から素早く拳銃を二発撃つ。
爆音が響き、
放たれた弾丸は、防火用の非常ベルの保護カバーを破壊し、警報が作動する。
けたたましい騒音が鳴り、火災発生を知らせる無線が場内に響く。
マサキは冷笑を浮かべる。
「これで貴様は袋の鼠だ」
銃を構える美久に檄を飛ばす。
「おい、紐を持てい!」
彼女は其の侭、防災用品の入った棚へ向かう。
彼の指示通り、捕縛するために紐を取りに走った。
「恐らく、10分もしないうちに警備が来て、お前は捕まる。
詳しい話は、後で聞かせてもらうぞ」
5人乗りのジープが2台、倉庫の前に止まる。
まもなく、白地のヘルメットにMP*6の文字が掛かれた腕章、黒革地のサムブラウンベルトを締めた兵達が降りて来る。
「おい!木原、氷室、大丈夫か」
別な方角から、野戦服に
小銃を抱えた数名の兵を連れ、やってきたのだ。
彼は、警報音により複数の足音が近づいて来るのに気付かなかった。
遠くには、白い
巖谷が来た前後、米軍の
「いや、失礼しましたな。木原マサキ曹長。
もう少し歓談を楽しみたかったのですが、どうやらMPが来た様で……」
軍刀を手にして駆けてきた篁達が近づく。
彼等を押しのける様に彩峰が、前に出る。
軍帽に、オーバーコートを着ていたが、下は白いフランネルのシャツ一枚であった。
押っ取り刀*7で来たのであろう。
「貴様等は、毎度毎度騒ぎばかり起こして、我々を侮辱しているのか」
走ってきた将校達は、一斉に右手に握った刀を、左手に移す。
彩峰は刀に手を掛けると、叫ぶ。
「
男は観念したかのように目を瞑ると、
不敵にも高らかに笑い、彼の方を向く。
「君も……、無粋な男だな……。
暗に五摂家の関係者と近いことを匂わした。
男の態度を不快に感じたマサキは弁明する。
「俺は悪くないぞ。この帽子男が名乗らずに陰から出てきたので、
消防車のサイレンが聞こえる。如何やら、大騒ぎになってしまった様だ……
彼は、天を
騒ぎは基地内で済む話で終わらなかった。
不審に感じた彩峰は、駐在武官経由で国防省に問い合わせたのだ。
返答があったのは城内省。逆に篁、巖谷の両名に当てた『叱責』する電話が来た。
城内省を仕切るナンバー3の軍監直々の『苦情電話』……
慌てぶりからは上層部、特に五摂家の関与を感じさせた。
一番怪しまれた情報省からの連絡はなかった。
彼等は沈黙を通した。
「おい、
机に腰かけ、腕を組む彩峰は、目の前で平謝りを繰り返す大使館職員達を一喝する。
彼は、京の将軍御所に出入りするワカサギ売りの商人という前提で話を進めた。
「そもそも何で
巖谷が、逆に彼に問うた。
末席とはいえ
「私が、当人から以前聞いた話だと『光菱重工*9北米事務所の
篁が、そう呟く。
ミラとの逢瀬の件が、殿中はおろか、
己が、脇の甘さを恥じた。
「北米担当が何で西ドイツに居る。おかしいではないか」
仕立ての良い両前合わせの背広を着て、立つ姿はまるで壁の様に見えた。
彼は、弁明する巖谷等の話を聞き流して、懐中に手を入れる。
『ホープ*11』の箱からタバコを取り出すと、火を点ける。
そして近くにあった椅子に座ると、独り言を言った。
「随分と雑な
五摂家の
周囲の気を引く発言をわざとして、秘密を聞き出す算段であった。
「何がしたい」
誰かが、そう言った。
彼は、その男の声を聴きながら返す。
「俺を道具のように扱う将軍とやらもそうだが、その《翁》とかいう人間が気に入らん。
かき回すだけ、かき回して、意味不明な言動をする。
貴様等に問いたい。その爺はどれ程の人物で、なぜお前らは恐れるのだ。
そんな
周囲を一瞥する。
一様に押し黙っている所を見ると、かなり深刻な話題の様だ……
これ以上、関わるのは得策では無かろう。
彼は、この件に関しては諦めた。
「大方、その素破とやらも、例の爺が用意した物であろう。一つ言っておく。
大掛かりな仕掛けを用意して、俺を
ペルシアにある化け物の巣穴を焼く様を見るが良い」
右手の食指で、声のする方を指差す。
「そしてその事を一言一句、
彼は勢いよく、立ち上がる。
「
そして、冷笑をしながら後ろを振り向く。
「無駄な被害を出したくなければ、CIAのテヘラン支局にでも電話して置け。
ホラサン州から兵力を極力下げる様にとな……」
彼は、出口の方に踵を返すと、ドアを開ける。
呆然とする職員達を目の前にして、其の侭部屋を後にした。
帝政イラン ホラーサーン州 マシュハド
帝政イラン*12有数の地方都市であり、シーア派の巡礼地である彼の地。
歴代王朝が建立した荘厳な霊廟や、回教寺院。
嘗てサファビー朝時代に築かれ、帝政ロシア軍が爆破したイマーム・レザー廟。
黄金で覆われた大伽藍に、モザイク模様の豪奢な拝殿。
羊毛で織られたペルシア絨毯が敷き詰められ、シャンデリアの吊るされた回廊。
この街を象徴する寺院の一つであり、重要な観光資源であった。
その都市は1974年10月のハイヴの出現によって事情は変わる。
巣穴から這い出て行く異星より来訪した禍々しい化け物。
隣国ソ連は予防攻撃と称して、中央アジアのトルクメン*13から核飽和攻撃を実施。
およそ300機の重爆撃機と1500発近い爆弾に、地上配備型の核弾頭搭載ミサイル数十発。
旧市街を含む、この都市の全てが、一瞬にして
その様な攻撃をもってしても、BETAの進撃にとっては時間稼ぎにすらならなかった。
マサキは、その核飽和攻撃をもってして為し得なかったハイヴ攻略を、数時間で行う。
《メイオウ攻撃》
ゼオライマーの胸部より発射される同攻撃は、全ての原子を無に帰す効果があり、照射時間も無限……
彼は鉄甲龍本部を吹き飛ばした同等の威力の攻撃を、重金属の雲に覆われた上空より実施。
カシュガルハイヴの時と同じように、光線級の強烈な対空砲火を恐れた。
BETAの群れは、ただ周辺を
紐の切れた操り人形の様で、その不気味さを訝しむ。
前回の時の様に縦穴から潜ると、内部から爆発させ、構造物を崩壊させた。
数十キロ先に退避させたイラン軍と派遣されている中近東諸国の連合部隊。
彼等が備える陣地を
kurou様、先日の誤字報告有難うございました。
注釈をつけるべきところに付け忘れ、字義や意味の理解が不十分であったことは申し訳なく思っています。
注釈は個人的にも
読みづらいな、難解だなと思ったらご意見下さい。
可能な限り対応させて頂く積りです。
脚注やフリガナに関して
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脚注やフリガナは必要
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脚注の数が多すぎる
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脚注の数が少なすぎる
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フリガナが多すぎる
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フリガナが少なすぎる
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現状維持のままでよい