冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
彼の陰謀と、その結末は……
ベオグラード市内のサバ川近くのビジネス地区にあるインターコンチネンタル*1。
今年*2建てられたばかりの一室に、マサキたち一行は宿泊していた。
その日の夕刻、ベットの枕元においてある真新しい電話が鳴り出した。
受話器を取ると、マサキは耳をそばだてた。
「もしもし」
「チトーです」
先ほどあったばかりの老元帥チトーの声。
話し方は、国家元首というより物腰の柔らかな老主人といった感じだ。
「連絡が遅くなってすみません」
「いや」
「ユーゴスラビア共産主義者同盟の幹部会の結論を申し上げます。
われわれユーゴスラビアは、木原先生の誠意を見せてもらってから対応を決めたいと思います」
電話の内容は、事実上の先送りだった。
マサキは、タバコに火を点けながら答えた。
「分かった。
一両日中に満足のいくものを示そう」
通話が途切れた後、マサキはゆっくりと受話器を置いた。
そして、机の上にあるCZ75拳銃を掴む。
遊底を後ろに強く引き上げると、鈍い金属音が部屋中に
賽は投げられた。
俺の行動が、休火山だったバルカン半島を噴火させることになるのだ。
同時刻。
ミュンヘン近郊にあるメッサーシュミット・ベルコウ・ブローム*3本社の会長室に電話のベル音が鳴り響いた。
会長ヴィリー・メッサーシュミットは、プッシュホンのスピーカーボタンを押すと交換手の声が響いた。
「会長、
若槻とは、木原マサキの偽名の一つである。
これだけ世間を騒がせている木原マサキの名前で、おいそれと電話を掛けるのは不味い。
ヴィリー・メッサーシュミットに迷惑を掛けまいと、マサキなりに気遣って名乗った名前だった。
「メッサーシュミットです。木原先生ですね」
「忙しいところ、申し訳ないが……。
今回どうしても、会長のお前に相談したい事があってな」
「その口調ですと、電話では簡単に話せないことのようですね」
「ああ」
「分かりました。
今夜21時、マリエン広場近くのホテル
フィヤー・ヤーレスツァイテン・ケンピンスキー*4は、1858年創業で、ミュンヘン第一の格式を誇る高級ホテルだ。
バイエルン王マクシミリアン2世*5の命を受け、国をあげて建てられ、ラウンジにはその名の通り、バイエルンの四季を描いたステンドグラスが施されている。
この宵、ホテル
メンバーは、メッサーシュミットの他に、西独首相のブラント、首相府特命担当大臣である東方問題担当のエゴン・バール*6。
ホテルの一室では、マサキが来る1時間前から待っていた。
「ブラント首相のユーゴ訪問?」
驚くメッサーシュミットに、マサキが返す。
「
その手始めとして、まずベオグラードで戦後補償と国家賠償にけじめをつける共同宣言を出すのさ」
マサキの言葉に、ブラントが口を開いた。
「この切羽詰まった状況でですか。
そんな
その時、ココットは、お茶くみとして会議の様子を見ていた。
まあ、この人達は、なんという
今更、戦後補償をするくらいなら、どうどうと
部屋の隅で、あくびを噛んでいた。
「いや、こんな状況だからこそやるんだ」
言葉を切ると、マサキはタバコに火を点けた。
「その仲介役に米国に来てもらうんだ。
大統領補佐官とか国務長官という重要閣僚を呼んで、ソ連の手出しのできないようにする」
2、3服の煙草をくゆらしてから、マサキはゆったりと立ち上がる。
「ブラント首相のベオグラード訪問は、その為の大義名分になる」
燃焼剤の入った巻紙の燃えるつんとした匂いと、甘い香りを持つバージニア葉の
「しかし、ブレジンスキー補佐官が、ソ連の圧迫を受け、形勢の悪いベオグラードに……
本当に来るのでしょうか」
一瞬間を置いた後、ブラントはマサキに問いただした。
彼の声の裏には、予想されていたものと、
「ユーゴと米国は30年来の関係にあると聞いていますが……。
メッサーシュミットも、同様の態度を見せる。
するとマサキは、それを一笑の下にふして。
「ブレジンスキーに、アポイントは取ってある」
エゴン・バールはマサキのいう事を信じていない様子だった。
「第一、東独の反応が……」
その時、マサキが
「そいつは大丈夫さ。
向こうの政府は、
メッサーシュミットとバールの2人は、顔を見合せた。
「分かりました……
東欧諸国へは、私が説明いたしましょう」
ブラントは、覚悟した表情で答えた。
「むしろこの機会を利用して、ドイツの立場を説明、統一に向けた動きを東欧諸国に認知してもらうのが重要だろう」
かつて彼は、1970年代初頭に東方外交と呼ばれるソ連や東ドイツなどの共産圏との関係改善を目指した。
だがシュタージのスパイ作戦であるギヨーム事件が発覚し、その志半ばで首相の座を降りざるを得なかった。
「戦後35年、ドイツは分断を理由に、東欧諸国に再軍備や戦後補償問題を棚上げしてきたまま、歩んできた面がある。
だが、誰かがどこかで、戦後に幕を引かねばならない。
引かねば、ドイツは永遠に戦後という傷を背負って、生きていかねばならない」
この遠謀が、木原マサキの
もちろんブラントとて、全運命を賭けて踏みきった戦局である。
それには人知れぬ読みの苦心も存していたに違いない。
だがこの、若い東洋人の科学者を我が陣営へ招き入れたことが、どんな結果を招くに至るか。
そこまでは、ブラントも思い及んでいなかった。
会合は、インターコンチネンタル・ベオグラードで行われることとなった。
議場には、ソ連、ブルガリア、アルバニア以外の東欧諸国の政府高官や将官が来ていた。
オブザーバーとして呼ばれていた米国のブレジンスキー補佐官とブラウン国防長官は、一応会議には参加した。
だが、彼らは他の参加者から求められるまで、一言も発しなかった。
まずブラントは、西独政府部内で行われた議論の経緯と結論について簡潔に述べた。
そして東独を始めとする各国からの非難に関して、全く釈明するつもりがないことを改めて表明した。
寧ろ行動の認知とその評価を、各国に求めたのであった。
「ブラントさん、あなたはドイツと東欧を40年前に戻したいのですか」
チェコスロバキアの外相は、そういってブラントの方を向いた。
1938年に行われたズデーテン地方の領土交渉を引き合いに出したのだ。
ブラントは、男の問いを一笑に付した。
「いや、ドイツと東欧の40年後のために、ドイツの本音をぶちまけたいのです」
チェコスロバキアの外相は、たずね返した。
「40年先……」
ハンガリーの外相もつられて言う。
「本音」
ブラントは後ろを振り返り、東方問題担当のエゴン・バールの方を向いた。
「バール君、説明を……」
エゴン・バールはまず東欧諸国が先の大戦で軍事支配下に置いた過去を念頭に、ドイツへの警戒や脅威論を持つに対して一定の理解を示した。
その上で、3億の人口と、210個師団300万の常備兵力を持つソ連赤軍の脅威について、触れた。
「あなた方の国も、そのソ連の脅威に脅かされてきたのではありませんか」
それまで明らかに敵意をむき出しにしていたポーランドやチェコスロバキアの関係者の声が静まった。
バールがたずねたときには、関係者の誰からも、明確な答えは聞かれなかった。
みな自国の軍だけはほぼ実態もつかんでいたが、総括的なこととなると、誰にも分からないのが、実状なのだった。
「違いますか」
バールは強く念を押す。
「……だが所詮、ドイツを含め、あなた方の国は小さい。
小さい国が超大国に対抗するには、どうするのか」
バールは席から立ちあがる。
「ドイツ、東ドイツを含む東欧諸国との相互友好条約締結がその一つ。
同時に各国の
それにより、国際社会での確固たる地位を築く」
チェコスロバキアとハンガリーの代表はうなずいた。
これなら、うなずける。
そして心の内で
KGBを始め、ソ連を
「そのためにもドイツには、力が、再統一が必要なのです」
ポーランドのヤルゼルスキ将軍が立ち上がった。
「今の件に関して、私個人の見解を申し上げたいと思います」
ブラントは、ヤルゼルスキの先をうながした。
「どうぞ」
ヤルゼルスキは軽く会釈をした後、続けた。
「たしかに我がポーランドを含め、東欧諸国は現在最もソ連の動向を注視しております。
貴国の言う相互友好条約締結は、ソ連に対して有効かつ貴重な意見として評価します」
ブラントの口裏には、もっとさしせまった目前の何かが言われ尽くしていない風だった。
ヤルゼルスキは待ちきれず、そこを突いて。
「ですが!
それはドイツの再統一を認知するという物ではない。
安全保障問題は、ドイツ抜きでも可能なのです」
ヤルゼルスキは、どこまで淡々とした言葉の調子を外さなかった。
「ヤルゼルスキ閣下!」
東独軍のシュトラハヴィッツは、東独外相のかたわらで、突然、いきり立った。
「たしかにポーランドは、過去の歴史的経緯から我が国の力に対する脅威は当然の感情であり……
閣下のご意見も、十分に理解できるつもりであります」
元々、ドイツとポーランドとは、遠いタンネンベルクの戦い以来の深い因縁がある。
「ですが、お考え下さい。
この中で積極的に戦おうという国はありますか」
「…………」
シュトラハヴィッツがなんと答えるかを待つような、ヤルゼルスキの眼差しだった。
するとシュトラハヴィッツは、はじめて、唇のあたりに苦笑をみせた。
「BETA戦争の時を、思い起こしてください。
我々には無尽蔵な程の補給に支えられた重層的な砲撃支援も、数を頼みにした機甲師団や攻撃ヘリ部隊もなかった。
贅沢な支援を受けて、戦争は出来なかった……
いつも、ギリギリの状況での防衛戦をするしかなかった……」
シュトラハヴィッツは、怖ろしい
「我々は、カザフで、ウクライナ、白ロシア*7コーカサス*8で、そんなギリギリの戦いをしてきたのです。
限られた国家資源と人間を元手に、BETAと戦ってきました。
BETAを直接倒す最も有効な兵器が、戦術機という航空機の代用しかない状況で……」
いくら歯に
返事にこまる。
「…………」
ヤルゼルスキは黙って、シュトラハヴィッツの顔を見ていた。
「無いはずです。
戦えば、国は疲弊し、国民は傷つき困窮する……
それは世界の歴史が証明しています」
シュトラハヴィッツは中将になってから、トレードマークの顎髭を剃ったのだな。
そしてこれがヴォロシロフグラード*9に拠ってBETA数万の大兵を200日もの間食い止めていた。
のみならず、しばしば味方であるソ連赤軍の
ヤルゼルスキには、つらつらと、シュトラハヴィッツの
将官には、将官の気風、軍人には軍人の骨柄があるものだが、シュトラハヴィッツには、そんな
それも、しいてしている低姿勢とは見えず、人前に臆しがちな
いってみれば、シュトラハヴィッツは、そこらの市中や役場でも、ざらに見かけられる平凡な五十男といった程度の人としか思えない。
「小国は戦ってはいけない。
この提案は、小国が戦わないための政治的手段なのです」
やがてブラントは、一度途絶えた言葉を、また声低くつづけていた。
「同じ中東欧の国として、我がドイツも加えてほしいというお願いなのです……」
シュトラハヴィッツは
その姿の内にあるものを、ブラントはじっと見抜こうとするらしく目を
もし味方に加えて大望の一翼とすることができたらとさえ
それは
カザフ、ウクライナにおけるシュトラハヴィッツなるものに遠くから注目しだした頃からの
士は士を知る。
男が男に
シュトラハヴィッツにそれほどな色気があればこそ、自分を狙い寄った間者のギヨームもわざと東ベルリンへ返してやったのである。
ただシュトラハヴィッツがここでそこまでのブラントの腹を読んでいてくれるかどうか、疑問ではあった。
いや、そこは心もとない。
シュトラハヴィッツは、律義一偏だ。
今夜も観みているに、シュトラハヴィッツとは、物事の表裏を余り疑わない人間らしい。
東欧の上から政治改革が、
それへ自分の思い描いている完全併合に等しいドイツ再統一の
どうだろう。いや、これはあぶない。
ブラントの心が、その目の内に
「これはあくまで非公式なものですが……」
言葉を発したのは、ルーマニアの外相シュテファン・アンドレイ*10だ。
「我が国としては、NATOと東欧との相互安保条約を積極的に推進したい。
その前段階として、我が国はドイツに対して、一つの要望がございます」
「要望?
何ですかな……」
「我が国はソビエト連邦と国境を接しています。
したがって、ソ連の脅威に対して、今まで以上に軍事力の整備を進めねばなりません」
シュテファン・アンドレイは、ブラントへ
「ついては、その整備にかかる費用を西ドイツに分担してほしいのです」
「なッ!」
ブラントは仰天した。
だが、なおも念を入れて、復唱する。
「ひ、費用を……」
「我が国を含め、東欧の国々はまだ経済的に豊かではありません。
そこでG5の一角である貴国ドイツに、軍事費に関わる経済的援助をお願いしたいのです」
西独外相のゲンシャーは、笑って答えた。
「それは面白い意見かもしれませんよ、首相」
「確かに面白いかもしれない」
コールは、連立政権の与党の一つであるCDUの党首だ。
ブラントとは、74年の前政権時代から付き合いのある関係である
「その経済援助を、東欧諸国へのODAとして支出するのです。
これなら東欧諸国にあるドイツの戦争責任問題や戦後補償も大きく解決に踏み出す」
「下手な戦後補償より国民は納得する」
ブラントは驚きの目をみはった。
「ゲンシャー、コール」
東方問題担当のバールも、動揺の色を隠さなかった。
「連邦政府単独での戦後補償だが、これは 俺たちの統一計画には無い筋書きだ」
ゲンシャーは続けた。
「時代は流動的だ。
我々の計画も、当然その流れに合わせて変化しなければならん」
ブラントは今、そう言って、一度声を飲んだ。
「それは我々の計画の意図するところではない。
計画の真意は、ドイツ連邦軍の認知と東欧の
NATOによるドイツ、東欧を含む欧州諸国の一体化と国際社会における発言力の強化」
バールが代って答えた。
「たとえODAや軍事費整備の金とはいえ、東欧の国に金を払えば、それは果てしない戦後補償へと進む。
ドイツの統一と方向性が違ってくる」
コールが、それへ答えた。
「いや、方向性は間違ってはいない。
国家の原則に経済があるのは、認識しているはずだ」
コールに関しては、善意だった。
この一件に関する限り、彼はきわめて単純に、冷戦体制からの
「まず確固たる経済があって、初めてドイツという国が存続する」
ゲンシャーの狙いは、最終的に欧州統合のより一層の深化だった。
1970年代の欧州統合は、経済を基盤とした
ゲンシャーはそこを基軸とし、より発展した、共通の外交・安全保障を持つ
その頃、一方のベオグラード市内にあるチトーの私邸では。
そこでは、ユーゴスラビア共産主義者同盟の幹部が集まって、密議が凝らされていた。
「始まりましたな。
木原の書いていたシナリオ通りに……」
チトーはおどろいた。
一昨日、マサキが洩らした言を、いまさらのように思い出していたのである。
ドイツの再統一計画と東欧諸国との講和とが、日まで
「西ドイツのブラントが、東欧諸国との協議を提案する」
「我が国が交渉の一環として、ベオグラードでの会合の場を提供する」
「木原を狙っているソ連はその事に気が付き、我々が裏工作をしたと解釈する。
そして何らかの報復措置に出る。
このシナリオを知っているのは、ここにいる元帥と最高幹部会の人間だけ」
最高幹部会としては内心、自分たちが、戦時中からチトーを助けていたことが、ユーゴスラビアの命脈をささえて来た唯一の源泉力であったのだ。
彼等はそういう自負満々であった。
だが一応は口をそろえて、木原マサキの殊勲を共に讃え、後日の恩賞には、木原が筆頭であろうなどとも
「絵を描いた人間は我々ユーゴスラビアとは一切関係のない人間だからな。
KGBが調べても、ユーゴ国内や党組織からは出てこない」
「だがいずれは木原の策略だと気づくかもしれん」
「その時は、この戦争はソ連側の誤解から始まったものとなり、正義は我々にあることになる」
「国際世論は我々に同情し、ソ連への非難は強くなる。
その声が大きくなるほど、ソ連の立場は……」
「それが木原の意図するところだろう」
あの東洋人の、
「いずれにしろ、我々ユーゴスラビアは、ソ連と戦うことになった。
いつかはやらねばならないと思っていたが、その引き金を木原が引いてくれたという事だ」
やがてチトーが、呟くようにいった。
「あとは木原が逃げ切れるかという事だ」
「元帥の言い方ですと、まるで木原に逃げ切ってほしいという風に聞こえますが」
チトーは、その内心、木原マサキの事が気になっていた。
木原という男が何を考えているのか、自分の目で見てみたい。
あの東洋人が、いったいどこまで行って、どの様な行動を起こすのかと。
場面は変わって、米国カリフォルニア州ロサンゼルス。
そこにあるノースアメリカンの本社では、ある資料の分析が行われていた。
「主任、こいつをどう思いますか」
青焼きの図面を前に技師の一人は、横に座るハリソン・ストームズ*11に問いただした。
「なんだ、いきなり」
ハリソン・ストームズは、ノースアメリカンの社員で、アポロ指令船の設計・建造管理に携わった航空技術者だ。
技師の一人が広げた図面は、ドイツ語で書かれており、ソ連で使われる印刷の形式だった。
「ゼオライマーは、辛うじて納得できる技術の範囲です。
ですが、その設計思想は完全に異質ではありませんか」
ストームズは、タバコに火を点けた。
「それは……確かに根本から戦術機と構造が違うが。
それが何故、設計思想の話になるんだ」
険しい表情で図面を見つめる技師に対し、ストームズが問い返す。
技師は青焼きの図面の一部分を指した。
「主任は少し勘違いされているみたいですね。これをご覧ください」
それは、前腕部の関節の構造が詳しく記された図面だった。
1978年の1月に西ドイツのハンブルグ港で陸揚げした際に、シュタージの工作員が写真撮影した物から起こしたものである。
「この機体は、BETAとの戦闘を想定して設計されたものではないでしょう。
恐らくゼオライマーと同程度の機体、あるいは通常兵器と戦う事を想定して設計されていると類推できる点です。
合衆国ですら、想定していない設計思想や能力が、この機体には備えられているのです」
ストームズは鼻白んだ。
何を分かり切ったことを言っているのだと。
「それだけではありません。
後継機のグレートゼオライマーには、不自然な装置や空間が存在するという事です」
言いながら技師は、手早く別の図面に取り換えた。
今度の図面は、日本語と英語で書かれており、形式は日本の官庁に提出するものだった。
「不自然な装置と空間?」
「そ、その……ミサイルランチャーらしきものが……」
「つまり、核かね」
技師の突飛な発言に、ストームズは困惑しながら、何とかそれだけを口にする。
彼は決して、愚鈍な人間ではないが、流石に核ミサイルを搭載するとは想像の埒外だったのだ。
「新技術ばかりに、目が向いてしまいますが……。
木原博士の奇妙な点は、我々が持っていない概念を成熟した状態で世に送り出している点です。
博士が設計したとされる次元連結システムなど、そうでしょう。
異なる空間からエネルギーを転送させて、機体を運用しようなんて、想像できても実行できませんし……
何より実用化までに、どれだけの予算と時間が掛かるか、想像も付きません。
ですが、1977年7月7日に
この際、はっきり言いましょう。
木原博士は、本当に我々と同じ世界の人間なのでしょうか」
「木原マサキという男が、化け物だとでも言うのか」
技師の真剣な表情に、ストームズは言い返した。
ストームズの言葉に、技師は肩を竦めて答える。
「もしそうなら、人類は終末を迎えるかもしれませんね。
別な化け物の力に頼って、宇宙怪獣と戦ってる訳ですから。
でも案外、そうかもしれませんよ?」
「どう言うことだね」
「
どっちにしても、木原博士には気をつけた方が良いでしょうな」
今一つ理解できていないストームズに対し、技師は真剣な表情で告げる。
「人間の姿形をしていても、彼が私達と同じ論理で動いているとは限らないという事です。
もし彼の
逆鱗とは、龍の顎の下に1枚だけ逆さに生えている鱗のことである。
この鱗に触れると龍が激怒して人を殺すことから、君主や目上の人物の怒りを買う事を指す言葉である。
技師は、ゼオライマーの圧倒的な力を前にして、そう答えるしかなかったのだ。
「それはそれで、恐ろしいという事です」
ハリソン・ストームズは、1960年代後半の月面奪還作戦の苦い記憶を思い起こしていた。
3年にわたる月面戦争で、少なからぬパイロットや部下たちを死なせてしまったからだ。
天のゼオライマーの援助なくして、人類はこれほど早くBETAを地上から排除は出来なかったろう。
ただ気になるのは、木原とゼオライマーは、扱いを間違えれば、人類を滅亡に追い込みかねない力を持つという点だ。
ストームズはタバコに火を点けながら思った。
月面攻略が終わった後、いずれは米国と木原の対決は避けられないと考えるのであった。
ひと月ぶりの投稿になってしまいました。
ご意見、ご感想お待ちしております。