冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
その裏での各国の動きとは……
今ここで、日本最大の秘密作戦が行われようとしていた。
1979年10月18日0時のロンドンで話を聞いた木原マサキは、
理由は、種子島宇宙センターから打ち上げるロケットを利用するためである。
当初は、文部省管轄の東京大学鹿児島宇宙空間観測所*1から
だがM-3Cロケットの構成上、積載可能重量が乏しく、マサキが運搬しようとした武器を運べなかった。
そのため、急遽、
ただこの計画において、米国の関与を排除できなかった。
理由としては、日米宇宙協定の関係、そしてマクドネル・ダグラスやサイオコールのライセンスのためである。
マサキは、N-1ロケットの打ち上げを種子島宇宙センターにある大崎射場から見送った後、直ちに2機のゼオライマーで発進した。
地球低軌道上でロケットに接触した後、そのまま月に乗り込むためである。
出撃に際し、彩峰少佐や軍関係者は、マサキ達の姿を、敬礼をもって見送った。
遠巻きにいる
たなびく白い噴煙が、幾筋になって重なり、青空に長い尾を引いている。
種子島近海にいた、空母ミッドウェイ(CV-41)。
その甲板上では、エディ・インマン・“ホージー”・カーマイケル艦長と参謀たちは、静かにその光景を見守っていた。
テオドール・エーベルバッハは、西独に亡命して1年以上が過ぎていた。
1978年3月1日に東独政府から国外追放の命令を受け、家族ごとハンブルクに移住していたのだ。
この1年、様々な事があったが、何よりも変わったのは隠れて西ドイツのTV放送を見ることが無くなった事である。
東独の全域は無知の谷と言われる電波が受信できないドレスデン一帯を除いて、西独のTVが視聴できた。
そのため、東独市民は夜間隠れて自宅の居間で西独のZDF*2や様々な西のTVを見ていた。
テオドールも無論その一人で、毎日19時のニュースを見るのを日課にしていた。
東独時代と違うのは分厚いカーテンを引いて、音を最小限にし、こっそり聞き入るという事をしなくなったことである。
これが自由化と最初の1週間は感動したが、今ではすっかり日常の風景だ。
養母が作った手料理を義妹や養父母と囲みながら、TVを見るのは既に生活の一部である。
「次は、月面戦争関連のニュースです。
まずは、ワシントンから中継をご覧ください」
次の瞬間、画面が切り替わり、ワシントンDCを映した。
その風景を見て、養父トマス・ホーエンシュタインが呟いた。
「あれは、ザ・メイフラワー……」
画面に映るZDFのレポーターが、中継に応じる。
「今日の正午、このザ・メイフラワー・ホテルでは、ソ連代表団のアナトリー・ドブルイニン大使と、国務省のニューサム次官らの和平交渉が行われようとしています」
そしてホテル周辺にいる深緑色の服を着た海兵隊員や黒い制服を着た騎馬警官の姿に、画面が切り替わる。
「現場では3000人体制の警備が敷かれ、物々しい雰囲気に包まれています」
テオドールは、思わず叫んだ。
「すげえ警備の数だ」
テオドールの驚きとはよそに、義妹リィズは静かな反応だった。
「今回こそ、本当に米ソの交渉は上手くいくのかな」
リィズ・ホーエンシュタインは、15歳という年齢の非常に賢い女性だった。
この国務省とドブルイニン大使の交渉が、最初から成功裏に行くとは見ていなかったのだ。
リィズの疑問に、父トマスが答える。
「この大行事は目くらましだ。
表での行事の裏では、意外な工作が行われているものさ」
同じころ、東独では。
アイリスディーナたちもまた、TVを見ていた。
東独軍人は西独のTvの視聴を禁止されていたが、実際は形骸化された規則だった。
多くの軍人や将校は自宅や寮で隠れて見ていたのである。
「外交筋は、今回の会談は外交セレモニーの一環とみなしており、ドイツ連邦政府は事態を注視しています」
画面には、ザ・メイフラワーホテルの遠影が映し出される
「やはりだ」
TVを見ながら、東独軍中尉であるカシミール・ヘンペルが答えた。
かれは第一防空団きってのインテリだった。
「米軍とソ連軍は、部隊を月に派遣することで大義名分とし、双方が全滅することで、今回の件を手打ちとするつもりだ」
ヘンペルの答えにビックリしたのは、脇で黙って見ていたアイリスディーナだ。
思わず普段なら消して言わない調子で、ヘンペルに返した。
「そんな、本来なら自国の軍人は、BETA戦争の最高の功労者じゃないですか。
それを国の最高幹部が、こんな形で切り捨てるだなんて」
この家の主人で、アイリスディーナの上司でもあるオズワルト・カッツェもまた同様に驚きの色を隠さなかった。
明朗快活なカッツェは、思う所を好き勝手に述べた。
「そんな事をする奴らは人間じゃねえ。
人間のする事じゃねえ」
もしシュタージが聞いていたらとヘンペルは一瞬思ったが、家の中までは覗くまい。
いちいちカッツェのような手合いを逮捕していたら、東独から労働者がいなくなってしまう恐れがあるからだ。
「奴らは、自分たちの保身しか考えてない」
ヘンペルは言葉を切ると、タバコに火を点けた。
「とすると、やはり・・・・・・木原博士が危ない」
昼下がりのホワイトハウスは大混乱だった。
国務省関係者から防衛関係者、そして大統領補佐官たちが入り乱れ、立錐の余地もないほどだった。
所用で訪れていた国務長官サイラス・ヴァンズは、見たことのない喧騒に呆れかえっていた。
そのとき、補佐官の一人が声をかけて来た。
「国務長官、お待ちしておりました。
実は……」
ヴァンズはやや疲れた顔で答えた。
「待て、待て。
私はたった今、ホワイトハウスに来たばかりだ」
「ええ、承知しております。
自分も実は3時間前から同じ立場です」
二人は、近くに置いてある喫煙用のテーブルに座った。
「で、この騒ぎは戦争です。
実はゼオライマーが動いたんです」
「何だって!」
場面は変わって、月面軌道。
そこにあるスペースシャトルの内部では、密議が凝らされていた。
会議に参加していたのは、第82空挺師団長ノーマン・シュワルツコフ大佐だった。
シュワルツコフは、同時に月面ハイヴに対する陽動作戦の総指揮官に任じられている。
シュワルツコフの通話相手は、トーマス・パッテン・スタッフォード中将。
表の顔は、研究開発・調達副参謀長だが、月面攻略軍をバックアップする将官の一人だ。
だがスタッフォード中将は、翌月である1979年11月には、退役が決定している。
そして、戦術機部隊の指揮官を務めるジェームズ・マクディビット空軍准将である。
スタッフォード中将は、部下に考えを伝えた。
「ゼオライマーが発進した……と言う訳だ。シュワルツコフ君。
急造の混成部隊を、君に任せることになって申し訳ない。
アポロ計画の時のように、十分な訓練期間も与えられなかった。
だが月面派遣軍で、君以外でこういうイレギュラーな用兵を指揮しうる者を思い浮かばん」
シュワルツコフは気負うことなく、淡々と、しかし目には静かな自信を湛えて言い切った。
「有難うございます、閣下。
まあ、何とかやってみましょう。
マクディビット准将、助言に感謝します」
マクディビット空軍准将が、静かに口を開いた。
「すまぬな。
大した助言も出来なくて、申し訳ない、シュワルツコフ君……」
シュワルツコフは、次席将校や参謀の部下たちと頷きあった。
「はい。
ミシェル・ロクジョルフ中将とは、先ほど通信で打ち合わせました。
英陸軍と西独軍の部隊長たちとも話を済ませています。
陽動作戦は、必ずやり遂げます」
陸軍参謀総長のエドワード・C・メイヤー陸軍大将が、通信モニター越しに言う。
「いいか、シュワルツコフ。
部下を統制することも大切だが、何より君自身が最後まで冷静に戦況を見極め、判断せねばならん。
まあ、ベトナムでの経験豊富な君には釈迦に説法だろう。
最終的には、マクディビット准将が、老体を押してまで責任を取って頂けるけどな」
メイヤーがマクディビットを、老体と表現したのには訳があった。
一度、1972年6月にアメリカ空軍を退役し、同時にNASAを辞任していた。
だが、今次作戦で急遽現役復帰した為である。
月面攻略作戦において、宇宙空間での経験が豊富な人物であり、またNASAと阿吽の呼吸が取れる人物である。
マクディビットが、民間から古巣に呼び戻されたのは、そのような経緯があったためだ。
メイヤーの問いに、シュワルツコフが気丈な声で返した。
「メイヤー参謀総長、そこまで、おだてないで下さい。
思わず、その気になってしまうではありませんか」
メイヤー陸軍大将が通信に加わっていたのは、陸軍から大規模な戦力を抽出できなかったことへの詫びと、現地で指揮を執る将兵への気遣いからだった。
陸軍が提供できたのは、選抜された戦術機3個中隊、総勢90名が精一杯だったのである。
シュワルツコフは、淡々と答えた。
「ご忠告、感謝します。
では、最後の準備に取り掛かりますので、これで……」
メイヤーは、画面越しに敬礼を送った。
「うむ……武運を」
スタッフォードも、続く。
「頑張り給え」
上官の2人と老将の姿が、通信モニターから消えた。
メイヤーとスタッフォードは、まだ二人とも50代ではある。
だが、マクディビット自身が、自分を老人と卑下しているので、部内では老将と呼ばれていた。
真っ黒になったモニターを見据えながら、シュワルツコフは脳裏で作戦要目を急速に修正し始める。
シュワルツコフは、口内でつぶやいた。
「全くメイヤー閣下は、下の者の使い方がうまい人だ」
一方、英軍のシャトル内では。
最終会議が開かれていた。
「これから見るのは、本年6月に行われたソ連軍の映像である」
そういって参謀長が、プロジェクターを動かし始めた。
英軍に参加しているヨーク・ヤウク東独空軍中尉は、静かにスクリーンに映る映像を、同僚たちと見守った。
「ルナ・ゼロ・ハイヴの大きさは、全長600メートル、全幅500メートル、内部の深度は不明。
参謀長の声を遮ったのは、英軍の司令官だった。
「もういいだろう。
要は、こいつらの基地は、ここだということが分かったという事だな」
つづいて次席将校である大佐が答えた。
彼は戦術機部隊の指揮官でもあった。
「そこがやつらの拠点か、前線基地かは不明だ。
第7機甲旅団戦術機部隊は、あのハイヴに突入する」
50名の隊員たちは、静かに見守った。
彼らは、さまざまな出身国であったが、全員が英陸軍第7機甲旅団の麾下で戦う戦術機パイロットであった。
「そして敵、
司令官は、最後にこう付け加えた。
「ソ連軍は、投入した1200名の人員のうち、救命艇に乗れた47名を除いて、地上部隊は全滅したという。
諸君らは、前車の轍を踏むような真似は避けてもらいたい」
ご意見、ご感想お待ちしております。
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国名・都市名の見出しがある方が読みやすい
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見出しなしの方が読みやすい
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どちらでもあまり変わらない
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