冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
彼等は斜陽するソ連の形勢逆転の為に、天のゼオライマーを欲したのだ。
KGBに誘拐された、木原マサキの運命は如何に……
米国と並び立つ大国として、世界を二分した、超大国・ソ連。
しかし、今はBETAの侵攻もあって、嘗ての都モスクワから9000キロも離れたハバロフスクに落ち延びていた。
地の底より湧き出る石炭・石油資源や金銀を代表とする希少金属の数々……。
戦費調達の為に、資源採掘権や石油採掘の証文を、諸外国に売り払う。
だが、
其の殆どは、6年近い戦争の結果、失われた。
其処に、東ドイツに居る工作員から情報が届く。
一騎当千の大型戦術機と、その設計者。
予想を上回る性能と、測り知れないエネルギー効率。
亡国の
ソ連・ハバロフスク
ソ連首脳を集めた秘密会合で、早速ゼオライマーに関する話が上がった。
一人の四十絡みの男が冷笑する。
「どうやら他国の手まで借りて、お作りになられた『ESP発現体』とやらは、失敗のようですな」
対面する老人が、睨む。
「君ならば、成功すると言うのかね」
彼は、その老人の方を振り返る。
「ただし、KGBから人手は、お貸し頂きたい」
ソ連陸軍大将の服を着た男が、答える。
「お前に、その
彼は、苦笑する。
「失敗したお方が、その様な大口を叩いて良いのでしょうか」
陸軍大将の男は、右の食指で彼を指差す。
「何の根拠があって、その様な自信を持てるのだ」
男は、立ち上がると、自信満々に答えた。
「我が科学アカデミーに於いて、先日特殊な
向精神作用は、
極端な話、水に混ぜて、市民にばら撒けば一定の効果を得ましょう」
男の言葉に、陸軍大将は苦言を呈した。
「貴様は、あの『ウルトラMK作戦』*2を我が国で行うというのか。
「何を仰いますか。我が国とて、批難出来ますまい。
政治犯に対して
ヴォズロジデニヤ島*5などでは、ドイツ人捕虜を大量に『消費』したと聞き及んでいます」
彼は、冷笑する。
「その新開発の蛋白質を、捕縛してきた男に摂取させ、超兵器の設計図を描き起こさせる。
そして我が国が誇る科学アカデミーの学者達に、その製作ノウハウを学ばせるのです」
彼の話を、
「随分と、その超兵器に入れ込んでいる様だが、それほど素晴らしいものなのかね」
周囲の人間が、声の主の方を振り向く。
声の主は、ソ連邦の議長であった。
彼は、平身低頭し、応じた。
「議長、何でも鋼鉄の装甲を簡単に貫通するビーム砲を兼ね備えていると聞いております。
かの、
そう述べると、彼は着席した。
議長は、彼の言葉に思い悩んだ。
西側に露見した時のリスクが高すぎるのだ……
同席したKGB長官も、同様の見解を示す。
「今、我が国は存亡の瀬戸際だ。その様な時に、西側と相対する真似はしたくはない……」
暫し思い悩んだ末、結論を絞り出す。
「科学アカデミーが、全責任を取るという形ならば、名うての工作員を貸し出しても良い」
ソ連陸軍参謀総長の顔色は優れなかった。
GRU*6肝煎りで進めた、『虎の子』のオルタネイティヴ3計画。
去年の末、謎の攻撃によって水泡に帰した……
聞いた噂話によると、彼が欲する超兵器によって消された。
それが事実ならなんという皮肉であろうか……
ドイツ国家人民軍に、駐留ソ連軍を通じて問い合わせる事を考える。
『プラハの春』で、
小生意気な科学アカデミーの若造の企みを潰す為にも、奴らを利用させてもらおう。
議長は、その場を締めくくる様に、告げる。
「では、その日本人を聴取して、超兵器の秘密を入手せよ。方法の
その場にいる人間は、議長へ、了解の意を伝えた。
西ドイツ・西ベルリン
マサキは、休日を利用して、西ベルリン市内に来ていた
動物園駅で、屋台のカレー・ソーセージ*8を頬張りながら、
遠くに見える、先次大戦の空襲で壊された廃墟を眺め、考える。
朽果て様とするカイザー・ヴィルヘルム記念教会*9の姿を
偶々流れ着いた異世界。
思ったより深く関わってしまった。それ故に、不思議な感情を抱くようになった。
この、何とも表現できぬ焦燥感に悩む必要も無かろう……
その様にしていると、ホンブルグ*10を被り、外套姿の4人の男に周囲を囲まれる。
傍にある屑籠に食べ
「何の用だ……」
其の内の一人が、流暢なドイツ語で返してきた。
「貴方が、木原マサキさんですね。我々と共に、来ていただけませんか」
見ると、既に胸元には、ソ連製の自動拳銃が押し付けられている。
奴等に聞こえる様、日本語で漏らす。
「俺の意思は無視か。蛮人の
左側に立つ男が、眉を動かすのが見えた。
日本語のできる工作員も居る様だ……
彼は、正面を向くと、こう伝える。
「良かろう。俺もこんな所で雑兵ごときに殺されては詰まらぬからな」
暫く、其の儘で待つと、年代物のセダンが近寄ってくる。
外交官ナンバーの付いたソ連の高級国産車、チャイカ。
脇に止まった車を見ていた彼は、男達に押さえつけられる。
抵抗する間もなくトランクに、手荒く投げ入れられ、勢いよくドアを閉められた。
車は、轟音を上げながら、西ベルリン市内を後にした。
ソ連邦各構成国のKGBから選抜された特殊工作員。
彼等をもってして、「木原マサキ」誘拐作戦は実行に移される。
丁度、西ベルリン市内に居た彼を誘拐し、ソ連大使館公用車に乗せ、連れ去るという策は成功した。
しかし、連れ去るまでの過程を、西ベルリン市民に見られてしまう。
その失態を犯しても、猶、ソ連共産党は木原マサキという人物を欲しがったのだ。
乗り心地の悪いソ連車のトランクで、じっと身を潜めるマサキ。
彼は、停車した際の話声を聞き入る。
チェックポイント・チャーリーを超えて、東ドイツに入る手続きをしている所であることが分かった。
恐らく、奴等の大使館に連れ去らわれるのであろう。
これでは、
万が一のことを想定し、位置情報機能のある携帯次元連結システムの子機から、美久に連絡を入れる。
何かあった時の為に、ゼオライマーを瞬時に転送出来る様、操作し、次に備えた。
西ドイツ・ハンブルグ
西ドイツ・ハンブルグの日本総領事館。
予定時刻をはるかに超えて、
駐在武官との対応策を検討しているとき、ドアを叩く音が聞こえる。
「入り給え」
駐在武官が声を掛けると、ドアが開く。
大使館職員が、白人の男を引き連れて彼等の部屋に入る。
机に腰かける駐在武官は、職員へ声を掛けた
「
彼は直立したまま、応じる
「CIAの
周囲の目が、その男に集まる
男は流暢な日本語で応じた
「挨拶は抜きで話しましょう。木原マサキ帝国陸軍曹長がソ連大使館に拘禁されたとの未確認の情報が届いております。
状況からして、西ベルリンの動物園駅で拉致されたと、視て居ります」
立ち上がって、彩峰が応じる。
「奴の所属は帝国陸軍ではない、
短く告げると、椅子に再び座った。
男は、顎に手を置く。
「それは失礼しました。
話を戻しますと、ソ連大使館ですので、我々としても非常に扱いに困っているのです」
机の上で腕を組む、駐在武官が尋ねる。
「東独政権の反応は……」
珠瀬が、返す。
「現在、外務省と情報省で事実確認に努めて居ります……」
「君ね、ここは帝国議会じゃない。端的に申し給え」
彼の顔から、汗が噴き出す。
「参事官風情では話にならんな。君、帰っていいよ」
彼は、その一言を受けて
「して、ラングレー*12の意向は……」
駐在武官は、フィルター付きのタバコを取り出すと、弄びながら取次人に尋ねる。
男は、しばしの沈黙の後、応じた。
「ウィーン条約の件もあります。
何より、我々も本国の意思を無視してまでは、行動できぬのです」
男は、1961年に国際連合で批准された、ウィーン条約を盾に、断りを入れてきたのだ。
同条約は、在外公館の不可侵を定めた国際慣習法の規則を明文化した物である。
「最も、貴国は東独政権未承認の状態で、御座いますから、取りなす事が出来ぬ筈ではありませんかな」
駐在武官は、男に真意を訪ねる。
「何が言いたいのかね」
「我等が動きましょう……。貴国は対ソ関係で微妙な立場にあるのを十分理解しております」
彼は、タバコに火を点ける。
一服吸うと、深く吐き出す
「ベルリン政権との伝手はあるのかね……」
男は、不敵な笑みを浮かべる。
「我が通商代表部の関係者が幾度となく訪れて居り、議長との個人的な関係を構築した人物もおります。
その辺は、ご安心なさってもよろしいかと」
「貴官の提案は、痛み入る。早速、国防省に……」
ドアが開け放たれると、一人の兵士が入ってきた
「大尉殿、来てください。食堂で兵達が、木原曹長の奪還作戦の準備をしております」
彩峰は、脇に立掛けた刀を取り、立ち上がる。
「少佐、馬鹿者共を説得して参ります」
椅子に腰かける駐在武官にそう告げると、部屋を小走りで出て行った。
彼は、途中で巌谷と
部屋に入ると、鉄帽を被り、野戦服姿で銃の手入れをする下卒達。
彼等に向かって、彩峰は一括する。
「貴様等、今からどこへ行こうと言うのだ」
彼の左手が、ゆっくりと軍刀に触れる。
「どうしても行くと言うのなら、俺を切り捨ててからにしろ」
そう言うと、
「駐独ソ連大使館に、乗り込みたくなる気持ちも分かる」
彼は、刀の柄に手を掛ける。
「だが、それは我が国の国際的信用を地に落とすことにもなりかねない。
一番、その様な事を臨んでいないのは、ほかならぬ殿下だ」
篁が、彼の右手を力強く抑える。
「大尉、お待ちください」
彼は、篁の一言で冷静になると、鞘に納めた。
脇に立つ巖谷が、彼等に告げる。
「状況次第では、貴様等は、
主上ばかりではない、殿下、政府、貴様等の故郷、親兄弟……。
失った信用は、金銀より価値の重たいものだと、考えられぬのか」
左手から刀を離した彼が告げる。
「一度、下命されるまで、待て……」
兵達は、静かに銃を置いた。
彼等が休まる暇もなく、部屋に男が駆け込んでくる。
作業服姿の整備兵は、肩で息をつくと、こう告げた。
「駐機しているゼオライマーが、目前より消えました」
その場を震撼させた。
「何だと!」
左手で、刀を握りしめた彩峰が告げる。
「奴の相方の
混乱する現場で、誰かが言った。
「今しがた、彼女も消えました」
唖然とする彼等に、篁が声を上げる。
「まさか……、空間転移」
彩峰は、振り返り、後ろに立った彼に尋ねる。
「何、空間転移だと……。どういう事だね」
彼は腕を組んで、答えた。
「自分は、側聞しか知りませんが、ロスアラモスの研究所*14では新元素を利用した戦術機開発が進められております。
G元素*15には未知の領域も多く、空間跳躍や大規模な重力偏差を発生させるとの試算が出されたと報告があります……」
目を見開いて、彼に問う。
「まさか、ゼオライマーはそのG元素を内燃機関にしていると言うのか……」
彼は、正面を見据えたまま、続ける。
「可能性は否定できません……。
木原自身がG元素の独占を図るためにハイヴを攻略しているのであれば、話の辻褄は合うかと……」
「それでは、氷室が消えた理由にはならん」
振り返ると、声の主は背広姿の男だった。
「閣下、何方に居らしたのですか……」
男は、在ボン日本大使館の主、特命全権大使であった。
「西ドイツ政府と、米領事館に行って居った。仔細は後程話す」
そう言うと、紙巻きたばこを胸より出して、火を点ける。
「氷室とゼオライマーが消えたのは無関係ではあるまい。私はベルリンの議長公邸に直電を入れる……」
「貴様、ここをどこだと、思っている」
大使の話を遮るように、彩峰が叫ぶ。
後ろを振り返ると、ドブネズミ色の背広に、茶色のトレンチコート姿の男が立っている
「まさか、皆さんお揃いでこんな場所にいるとは……」
男は、声の主を見る。
「いやはや、流石、青年将校の纏め役と名高い彩峰大尉殿ですな……」
マフポケットに腕を入れ、室内であるのにも関わらず中折帽を被っている。
「情報相の使い走りが、何の用かね……」
大使は、怪訝な表情をする。
「私は、しがない只の会社員。商人という関係上、シュタージとの少しばかりの伝手が御座います。
その線で、皆様のお手伝いを、と考えて居ります」
怪しげな男は、笑みを浮かべながら、
彩峰は、右の食指で男を指差しながら罵った
「胡散臭い奴め。何が、個人的な伝手だ。貴様等は、只踊らされているだけだ」
男は、マフポケットより両手を差し出すと、掌を彼の前に差し出す。
「その様な見方をされるとは……、
右腰から、私物*16の小型自動拳銃を取り出す。
「
先の大戦の折も、FBI*17に踊らされて、あわや無条件降伏*18という恥辱を得ようとしてたではないか」
男は、拳銃を突き付けられながらも涼しい顔をする。
左腕の腕時計を見る。
「失礼、貴方方とてCIAの手の上に有るとの変わりませんがな……」
そう言い残すと、彼の左脇をすり抜け、奥へ消えて行った
「この恥知らずが」
大使が、恨めしそうに吐き捨てる。
「閣下、取り敢えず……」
彩峰が尋ねる。
「彩峰君、国防省に連絡を入れなさい。事は急を要する」
脇を通り抜け、篁が、公電室に向かって行く。
恐らく城内省へ、連絡を入れに行くのであろう。
「私は、省に連絡を入れて、一時的にも彼を大使館職員の身分を与えるつもりだ」
奥で待機していた珠瀬が、何処かへ駆けて行く。
彼は、大使の発言に耳を疑った。
「本当ですか」
大使は、机に腰かけた。
「ここまで、舐められた態度を取られるのは、我慢ならぬ。状況によっては、我が国への最後通牒だよ」
腕を組んで、続ける。
「我々は、剣は持たぬとは言え、戦士。
外交という戦場で、国際法という武器を用いて戦う戦士なのだよ」
「ソ連という国を、60年前の様*19に国際社会から追放してやろうではないか」
男の内心は、ソ連への深い憎悪に燃えた。
問題点の指摘や作品への疑問でも構いません。
ご意見、ご感想お待ちしております。
必ず読ませてもらって、参考にさせていただきます。
脚注やフリガナに関して
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脚注やフリガナは必要
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脚注の数が多すぎる
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脚注の数が少なすぎる
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フリガナが多すぎる
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フリガナが少なすぎる
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現状維持のままでよい