冥王来訪(ハーメルン投稿版)   作:雄渾

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 燃え盛る首都ベルリン。
木原マサキは命辛々、ソ連大使館を脱出。
単機、敵地を走り抜ける。


危機一髪 前編(旧題:国都敗れる)

 マサキは、窓から飛び降りると即座にゼオライマーの操縦席(コックピット)に収容された。

操作卓に触れ、現在地を調べる。

ブランデンブルク門にほど近い、ウンター・デン・リンデンに面した巨大な建物が、画面表示される。

場所は、駐東ドイツ・ソ連大使館*1と出た。

 周囲はすっかり暗くなっており、時刻を見ると20時を回るところであった。

此処より見えるシュプーレ川を挟んだ先には、ベルリン王宮を爆破解体して建てた『共和国宮殿』が見える。

白い大理石にブロンズミラーガラス張りの外観は、彼は悪趣味に感じた。

古い絵付け写真で見たバロック様式のファサードの方が美しく、(おもむき)があるように思える。

 

 彼は、事前に基地内にある資料室で、東独国内に配置されたソ連軍を調べ上げていた。

斯衛軍(このえぐん)曹長の立場を利用し、ARPANETに接続。

CIA発行の資料を取り寄せる事も行った。

記憶が確かならば、ベルリン市内には第6独立自動車化狙撃旅団が、近郊10キロの村落ベルナウ・バイ・ベルリンには第90親衛機械化師団が待ち構えている。

 動かないでいると人民警察とシュタージであろうか、パトカーの他に装甲車や武装車両が次々集まってくる。

超大型のロボットを見物しようと集まった野次馬を追い払うために、治安当局が寄越したのであろう。

 

 彼は、ソ連の機密資料を焼却処分される前に確保する様、美久に指示を出す。

周囲の気を引き付ける為、建物の破壊を始めた。

出力が3分の一以下になっても、あの鬱陶しい戦術機が出てこなければ十分間に合うと考える。

 美久は、強化服に機密兜(ヘルメット)という出で立ちで、敷地内に潜入した。

かき集めるだけ、集めて来るよう指示を出したから十分であろう。

資料は最悪、次元連結システムを応用して日本の仮住まいに転移させれば良いだけだ。

そうすれば、面倒な通関も、外交行嚢(こうのう)の手続きもいらない。

 

 偶々(たまたま)、所用で共和国宮殿に来ていたアスクマン少佐は、ソ連大使館前に呼び出された。

時刻も20時過ぎと言う事で、連絡を取っている最中。

近くを制服姿で通ったところ、呼び止められ、野戦服姿の衛兵連隊長と話し合う。

 

 『衛兵連隊』とは、正式名称を『フェリックス・E・ジェルジンスキー衛兵連隊』と言い、国家保安省の準軍事組織。

政府官庁舎及び党施設、党幹部居住区域の護衛任務にあたる専従部隊である。

国際的には警察部隊として認知されてる同部隊は、ベルリン市内に駐屯が許された数少ない戦力でもあった。

 

 彼等は、ソ連大使館内で何かが起きていることは察知したが、ウィーン条約の都合上、在外公館には手出しが出来ない。

しかも、ブランデンブルク門の近くと来ている。

チェックポイント・チャーリーからも銃火を交えれば、見えるであろう。

うかつに動けない状態が続いた。

 

 建屋の中から銃声が響く。

周囲を囲む人民警察と保安省の衛兵連隊に対して、ソ連の警備兵は着剣した自動小銃を向ける。

白刃を見せつける様にして周囲を伺う。

 

 アスクマン少佐は、万が一の事を考えて、ボディーアーマーを受け取る。

20キロ近い保護具を、メルトンのオーバーコートの下に着る。

肩に重量が架かり、動き辛いが、無いよりはマシであろう……

米軍の最新医療設備が利用できるなら、最悪助かるかもしれないが、新型弾の威力は未知数だ。

 

 まざまざと感じる死の恐怖……

喉が渇き、不感蒸泄(ふかんじょうせつ)で全身が湿らせるのが判る。

彼は、近くの兵より水筒を受け取ると、忽ちの内に飲み干した。

拳銃の弾薬数を数え、若しもの事態に備える。

 

近くに居た連隊長が、青白い顔をする彼に問う。

「同志アスクマン少佐、大丈夫ですか」

色をすっかり失って、ぶるぶると体が震えているのを心配して声を掛けたのだ。

「君、武者震(むしゃぶる)いだよ」

苦笑いを浮かべながら、右の食指を、ソ連大使館の方角に向ける。

「あの者たちに、対応せねばなるまい」

その行動が、仇となった。

 

 その場に、銃声が響き渡る。

「同志少佐!」

勤務服姿の男が、勢い良く地面にぶつかった。

唸り声が、響き、周囲の兵は自動小銃に弾倉を差し込む。

「救急車を呼べい」

連隊長は叫んだ。

 

 ソ連兵は混乱状態であった。

建屋内での爆発と銃声……、一向に来ない上官の指示。

其処に保安省少佐が表れ、指で自分達を指した。

 

攻撃の合図かもしれない。

そう勘違いした衛兵は、咄嗟に銃を撃ってしまったのだ。

恐怖にかられたソ連兵が一斉に銃火を開く。

全自動(フルオート)で連射し、通りを行きかう自家用車や、アスクマンを救護しに来た救急車を狙い撃つ。

周囲の動く物を打ち始めたソ連軍に対し、人民警察と保安省職員は、自衛の為に自動火器を用いて応戦する。

交通警察は、ソ連大使館に通じる道路をすべて封鎖した

 

 

 

 

 共和国宮殿の前を、国籍表示のないT-55戦車の部隊が通り抜ける。

宮殿の窓より、その様子を議長は目視すると、事態の深刻さを理解した。

「アーベル、此奴は飛んでも無い事になったぞ。

連中は恥知らずにも、市中で戦争をおっ(ぱじ)めるつもりだ」

 

 タバコを吹かす議長の脇で、腕を組んで立つアーベル・ブレーメは、眼鏡越しに外の様子を見る。

偶々、通産官僚として議長に講義をしている時、事件に遭遇。

彼の脳裏に、1953年のベルリン暴動や、1961年のチェックポイント・チャーリーでの出来事が思い起こされた。

 

「お前さん、坊主が気になるかい」

右の食指と中指に両切りタバコを挟み、話しかける男に、彼は無言の侭、その横顔を見る。

「俺もだよ」

男は、そう告げると、両切りタバコを再び口に挟む。

両手で覆う様にして、ライターで火を点けた。

常々(つねづね)、聞きたいと思っていたが……」

ゆっくりと紫煙を燻らせる。

「言えよ。俺とお前さんの仲であろう。気にはせんよ」

彼は、(こうべ)を垂れる。

「君は、やはり死んだ息子さんと、ユルゲン君を重ねているのかね……」

アベールの問いを聞きながら、勢いよく、紫煙を吐き出す。

「最初の妻と子供と言う物は、忘れられぬのよ……。

アイツが生きていたら……、年の頃も同じで、しかも、金髪だ」

 

 アベールは右手で、眼鏡を持ち上げる。

「まるで、そっくりに思えちまう……。良い美男子で、馬鹿正直だ」

彼は冷笑する。

「君らしくないな」

男は照れを隠す様に、タバコを深く吸い込んだ。

「俺は、あんな男が父無子(ててなしご)扱いされてるのを見てな、不憫(ふびん)に思った訳よ」

男は、精神病院奥深く幽閉されているヨゼフ・ベルンハルトの事を思い起こす。

シュタージの策謀で酒漬けにされ、暗黒の監獄へと消えて行った元外交官を悲しんだ。

 

 親指で、タバコを弾き、灰を灰皿に捨てる。

「今の立場に居る間は、奴の実績を積ませたい」

再び、右手に持った煙草を吸いこむ。

「いざ倅だと思うと、甘やかしちまう。シュトラハヴィッツ君やハイムに教師役をやらせるにも不安がある。

いっそ、雑事が済んだら、米国に出して『武者修行』させたいと考えている」

彼は組んでいた腕を解いて、腰に回した。

「君、その話は……」

アベールは仰天した様子で、力なく両腕を垂れる。

「義父になる貴様に話したのが初めてだ」

 

男は真剣な表情で、彼の方に振り返った。

「どうせ、この国は吹っ飛ぶ。俺は店仕舞の支度をしてる番頭にしかすぎん」

男は、再び窓外の景色を見る。

「俺としては、半ば押し込めに近い形で、前議長(おやじ)を追い出して得た権力だ。

常日頃から、民主共和国は正統性が問われてきた」

灰皿に、火が点いたタバコを投げ入れる

「10年前の憲法改正や、各種の法改正も記憶に新しいであろう。

もっとも君はそれ以前の事から知る立場であろうが……」

懐中より『ジダン』の紙箱を取ると、タバコを摘まむ。

「おやじは、ボンの傀儡政権ではなく、アメリカの消費社会を見つめた。

それは、なぜか。民衆は、確かに西の豊かさを壁伝いに聞いているし、欲している。

おやじとて、政権を取って以来、民衆がアメリカの消費社会に焦がれている様を知っていたからだよ。

君等とてそうであろう……」

 

タバコを唇に挟むと、再び火を点けた。

「それ故、アメリカに歩み寄る姿勢を見せ始めたのだよ。

俺は、そのおやじの描いた絵を、ある意味なぞっているにしか過ぎぬ……、そう思えてきたのだよ」

 

「貴様に行っておくが、今年の秋までに普通選挙(ブル選)をやりたい。

社民党(SPD)*2にいる元の共産党の仲間にでも声を掛けろ」

彼は、ブルジョア選挙という、男の一言が信じられなかった。

 

 1946年4月末に社民党(SPD)は、共産党に吸収合併され、社会主義統一党(SED)になった。

目の前の男は、国禁の自由政党を復活させようとしているのだ。

 

「正気かね……」

悠々と煙草を燻らせる。

「俺も策はある。今は下野してる社民党は野党だから工作がしやすいのよ。

目立つ人物を連れてきて、若手官僚を引っこ抜いて、党の支部を作りたい」

「何故だね」

再び、灰をはじく。

「此の儘、自由社会に入って見ろ。今のガキ共は指示待ち人間だ。

あっと言う間に、西の連中に弄ばれて、男は乞食、女は娼婦の真似事をするやもしれん。

俺は、そんな姿、視たくは無い」

男は、振り向く。

「お前さんの娘も、そんなことにはさせんよ」

彼は再び腕を組んだ。

 

 

 

 男達が密議をしていると、ドアがノックされる。

許可を出すと、息も絶え絶えの人民警察大佐が入ってきた。

明るい緑色で、陸軍制服に似た意匠(デザイン)の制服を着て、胸には略綬が下がっている。

「議長、退避下さい。危険で御座います」

男はタバコを握ったまま、腕を組んだ。

「まさか、戦術機でも出たのか」

「日本軍の大型戦術機がソ連大使館に出現しました」

 

 彼等は、驚嘆した。

「まさか、ゼオライマーが……」

アーベルは、思わず右手で、眼鏡を持ち上げる。

「ゼオライマーとは何かね……」

男は驚きのあまり、タバコを持った手で彼を指差した。

「例の、支那で大暴れした機体だよ」

男は、人民警察大佐の方を向く。

「同志大佐、君は急いで、近隣住民の安否確認を所属する警察部隊にさせよ」

人民警察大佐は、敬礼すると、大急ぎで駆けて行った。

 

 男は、室内にある電話を取ると、ダイヤルを回す

通話が始まると、次のように告げた

「米大使館へ電話を入れろ」

電話を一旦切ると、受話器を置く。

彼の方を向いて、こう告げた。

「お前さんは、一旦家に帰れ。申し訳ないが、今から緊急閣議だ」

彼は頷く。

 

「最後に、言っておくが茶坊主共が何をしでかすか、解らん」

ソ連の茶坊主と呼ばれるモスクワ一派。その首領格のシュミット保安少将……

策謀に気を付ける様、男は彼に釘を刺した。

 

「女房と、娘さんは何処か、頼れるところに預けさせる準備でもしておけ」

彼は顎に手を置く。

「娘は、軍の学校に居る」

「そいつは安心だ」

彼は右手を上げる。

「一旦寝に帰ったら、また来る」

男も右手を上げて応じる。

「お前さんも無理するなよ」

「お互い様であろう」

彼は、ドアを閉めて通路に出ると、急ぎ足で警備兵の案内を受け、宮殿を後にした。

 

 

 

 

 

 東ベルリン・ソ連大使館

 

 警官隊との撃ち合いを続けるソ連警備隊は、対戦車砲まで持ち出して、応酬を繰り返す。

丁度同じころに、川の向こう側に国籍表示のしていないT-55戦車が姿を見せる。

部隊の撤退を決めかねていた連隊長は、その様に度肝を抜かれた。

 

 戦車隊の砲門が定まらぬ姿を見て、衛兵連隊長は、部隊の撤退を決断。

装甲車両を盾にしている警官隊の方に向けられれば……、これでは戦死者が出る。

そう判断したのだ。

 万事休すか……。彼は、野戦服からタバコを取り出して吸い始めた。

悩んでいる間に、目前の白い機体が動く。

 

 

 

 

 

 化け物(BETA)が来ても、相も変わらず続く社会主義国の内訌……。

その様をゼオライマーから見ていた、マサキは、呆れた。

 本心では、矢張りロシア人への複雑な感情を抱くドイツ人。

30年の支配に在っても、忘れぬ反抗心。

彼等の事を見て、何処(どこ)か安心するような気持ちにもなった。

 

 美久が大量の資料を数度持って往復している間、大使館側からロケット弾が着弾する。

『RPG-7』と呼ばれる携帯式対戦車擲弾発射器(ロケットランチャー)で、数度攻撃を受けたが、被害は思いのほか軽傷。

煤けた程度で、装甲板は貫通していない。

 その度に、衝撃波と重力操作で応戦。

ゆっくりと(なぶ)り殺しにしてやろうと思い、低出力で攻撃する。

最も、美久が機外で暴れているから、出力は上がらぬのだが……

 

 警告音が機内に鳴り響く。

対空レーダーが近づく飛翔物の反応を示す。

 回転翼の航空機やミサイルか。それとも、戦術機か……。

()しものソ連も、国都で戦術機部隊は使うまい。

 

万が一の事を考え、操作卓のボタンを押し、美久に連絡を入れる。

「おい、家探しは一旦中止だ」

彼女が応じる。

「ですが、あと一回でほぼ持ち運べます」

彼は、右手を額に移し、髪をかき上げた。

「それを運んだら、即座に対空戦闘の準備に入る」

 別画面に目を移す。

ソ連兵数人が、対戦車地雷を足元に巻き付けている。

 

彼は、思わず独り言を漏らした。

「無駄な事を……」

ゼオライマーの右手を下げて、手の甲の球体より衝撃波を放つ。

衝撃を受けた対戦車地雷が爆発し、ソ連兵共々吹き飛ぶ。

画面から目を背けると、暴政の下で露と消えたソ連兵を哀れむ。

苛政(かせい)は虎よりも(たけ)し』

周代の先人の諺を沁々(しみじみ)と思い浮かべた。

 

 先頃イランで、中近東の兵達が、死力を持ってBETAに対抗している様を見た。

この異星起源種の害よりもプロレタリア独裁の悪政が、惨状を生んでいるのではないか。

米国は一撃で破壊したハイヴ。奴等は、10年近い歳月をかけていても進展さえ、出来ない。

自分の推論の正しさを改めて、確信した。

 

 

 

 

 その頃、リヒテンベルクにある国家保安省本部では、ソ連大使館正面での武力衝突の対策が練られていた。

思わぬ事件に遭遇し、混乱する本部の一室で、開催されているモスクワ一派の秘密会合。

右往左往する彼等を前にして、シュミットの口から驚くべき計画が打ち明けられていた。

 

「諸君等も驚嘆したであろう」

派閥の幹部達は、困惑を隠しきれていない様子で、ある職員が、シュミット少将の言葉を復唱した。

「この民主共和国に、核戦力を持ち込むとですと……」

その一言で、周囲が騒がしくなる。

「そうだ。秘密裏に、ソ連より譲り受けた核を配備し、防衛要塞を設置。

他に類のない軍事力を兼ね備え、この国を支配する権力を手に入れる」

不敵の笑みを湛えた顔を持ち上げるシュミット少将の色眼鏡に、光が反射する。

「その為に、密かにこの秘密部隊を集めた」

レンズの奥から妖しく眼光を光らせた。

 

 彼等の面前に、プロジェクターから4体の戦術機・MiG-21バラライカが映し出される。

迷彩塗装も無ければ、国籍表示、部隊を表す番号もない……。

灰色に塗り上げられた4機の戦術機は、全てが最新式の77式近接戦闘長刀を装備しており、突撃砲を3門兼ね備えてある。

 

「我々は、持てる頭脳と力を駆使して、プロレタリア独裁の権威を永遠とさせるのだ」

シュミットは、内に秘めたる野望を口にし始める……

「今までは指導部を立ててきたが、今日を持って決別する」

幹部の一人が、真意を訪ねる。

「どういうことでありましょうか。同志将軍」

彼は、派閥の領袖の地位を超えた事を、口にした。

「現指導部の采配(さいはい)は、何れはプロレタリア独裁の権威の失墜に繋がる」

彼は、声を掛けた職員の方を向く。

「この上は、私が総帥の地位に就き、この国を導く」

男達は、冷笑する。

「すると、面白い……、いよいよ国盗りですな」

彼は、男達を(たしな)める。

「諸君らは、まず焦って事を仕損じるのは、避けねばなるまい」

冷笑した男は、彼に尋ねた。

「手当たり次第に暴れ回れるとの、ご承認を得たと受け取っても良いのでしょうか」

シュミット少将は、正面を向くと、(うなず)く。

「早速、共和国宮殿を占拠し、党権力奪取の段取りを付ける」

 

 

 シュミットは、今回の混乱に乗じて権力奪取を図る事にしたのだ。

事前にKGBを通じて、ドイツ国内のソ連基地に戦力を隠匿。

戦術機の他に、数台の新型回転翼機まで工面した。

 

 急襲する別動隊が使う、新型ヘリの正式名称は、『Mi-24』

ソ連空軍汎用ヘリコプター『Mi-8』を原型とし開発された、ソ連初の攻撃ヘリコプターであった。

強力な武装で地上を制圧し、搭乗した歩兵部隊を展開。ヘリボーン任務を想定して開発された大型機体。

NATOコードネーム「ハインド*3」の異名を持つ回転翼機。

 

 彼は、灰色の勤務服より白色の大礼服に着替えた。

大型で連射可能な、ステーチキン式自動拳銃*4を握る。

予備弾倉4本と共に、本体を包む木製ケースごと、懐中に仕舞う。

 

 彼と共に、ソ連軍の軍服を着た一団が、ヘリに乗り込む。

『74年式カラシニコフ自動小銃』*5という、最新鋭の装備を持った特殊部隊。

彼等は、空路、ベルリン市の共和国宮殿に向かった。

 

 

 

 

 ほぼ時を同じくして、共和国宮殿で閣議に参加していた国防大臣の下に保安省の動向が伝えられる。

人民軍情報部は、潜入させてた二重工作員よりシュミットの野望を入手していたのだ。

 

 耳打ちしてきた従卒を送り返すと、国防大臣は席より立ち上がって、会議室を後にする。

彼の姿を確認する物はいたが、全員が閣議を優先してた。

日本軍の超大型戦術機、ゼオライマーの出現は、首都の混乱に拍車をかけた。

 

 国防相は、電話のある一室に着くと周囲を確認し、ドアを閉める。

ダイヤルを回すと、受話器を持ち、通話開始を待つ。

一分一秒が惜しい……。そう思いながら焦る気持ちでいると、相手先に繋がった。

「此方、第一戦車軍団」

交換手への呼びかけの後、目的の人物への通話に切り替わる。

手短に伝えると、電話を切り、彼は足早に、会議室へ戻った。

 

 一報を受けた第一戦車軍団司令部は、大童(おおわらわ)であった。

しかも、運が悪い事に今日は土曜日。

東ドイツではすでに週休二日制度が採用され、軍隊も例外ではなかった。

 

急遽、基地内に居る人員で出撃体制を整える。

 偶々、その場に居合わせたハイム少将は、シュトラハヴィッツ少将に問うた。

同輩は、何処からか持ち出したシモノフ式・半自動装填騎兵銃(セミオート・カービン)の手入れをしている。

 

「貴様がそんな銃など持ち出してどうした」

ハイム少将の言葉を無視し、シュトラハヴィッツ少将はボルト・キャリアの動作を確認を続けた。

「『兄貴』からの呼び出しがあった……」

銃の手入れを止め、ハイム少将の方を向く。

シュトラハヴィッツ少将の話を聞いた、彼は眉を動かす。

「貴様も、昔と変わらんな。今は同志大臣であろうよ。内輪で話す分には構わんが……」

彼は、面前の同輩にそう答えた。

「お前も来てほしい」

同輩は、彼を誘った。

「良かろう。体が鈍っていた所だ……」

 

 シュトラハヴィッツ少将は、勤務服の上から大外套を羽織る。

ハイム少将と共に、BTR-70装甲車に乗り込む寸前、男が駆け寄って来た。

彼は、その男の方を振り向く。

「どうした」

男は、強化装備のハンニバル大尉だった。

敬礼をするハンニバル大尉に、返礼をした後、彼は問うた。

「同志大尉、全機エンジンを温めて置け。最悪、戦術機同士の戦闘に発展するかもしれん」

ハンニバル大尉は、力強く答える。

「同志将軍、何時でも出撃準備は出来ています」

男の真剣な眼差しを見つめる。

「気を付けて行け」

短く告げると、装甲車の扉を閉める。

十数両の戦車隊は、ゆっくりと基地の門を出る。

前照灯を煌々と付けると、夜半の道路を、最高速度で駆け抜けて行った。

 

*1
ソ連は西ドイツとも国交回復を実施しており、国家承認していた。

*2
Sozialdemokratische Partei Deutschlands.ドイツ社会民主党

*3
Hind. 雌鹿のこと

*4
"9-мм автоматический пистолет Стечкина" 9x18mmマカロフ弾を使用する特殊部隊専用のマシンピストル。木製或いはベークライト製のストックがホルスター兼用している。

*5
従来のカラシニコフ自動小銃とは違い、弾薬は最新型の5.45x39mm弾。人体に命中した場合、射入口は小さいが、射出口が口径と比して大きく、筋肉血管を含む周辺組織に広い体積で損傷を受ける為、治療が難しいとされた。




ソ連軍の部隊名は露語を英訳した文章を参照し、重訳した物です
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