冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
彼の運命や、如何に……
この話は構成を変更していますので文字数が1万字超えになります。
長く読みづらいとは思いますが、ご容赦ください。
西ドイツ・ハンブルク
マサキは日本総領事館の一室で、次の行動に対して備えていた。
机の上には手入れ用具と銃弾が散乱し、今し方まで拳銃の手入れをしていたことを伺わせる。
重いセラミック製の防弾チョッキを長袖の下着の上から着け、美久に手伝わせた。
体に合わせなけば、効果は半減する。無論、次元連結システムのバリアを使えば、防弾に過不足は無い。
だが手札を隠すために敢て、重い
「
満面に笑みを湛えながら独り言ちると、美久が眉を
「さすがに相手も警戒しますから……」
「フフフ、奴等に分からせるのさ。一片の信用も無いとな」
半ば呆れた顔をする美久に、マサキは不敵の笑みを浮かべる。
「なあ、あの帽子男が護衛に着くと言うのは本当か」
雨でもないのに
ジュラルミンのアタッシェケースでも下げて歩けば、ただのサラリーマンにも見えなくはない。
意味ありげな事を言う男に関して、彼は不信感が拭えなかった。
あの男から感じる、不気味な感じ……
明確な政治的立場も無く、信念も無いように見える。
日本という国が形だけ残れば誰とでも手を組み、裏切る態度……
幾ら名うてのスパイとはいえ、個人に諜報を頼る日本政府……
些か不快感を憶える。
ズボンのマフポケットより『ホープ』の紙箱を取る。
服を着つける美久の邪魔にならぬように、口に紙巻きを咥え、火を点ける。
美久が着付けし
小国日本が、国際的地位を得た理由。それは信頼故ではなかろうか。
無論、四方を大海に囲まれて容易に侵略を受けにくく、また
10世紀にも及ぶ封建社会を経て、契約や法概念という近代化の基礎が整ったのもあろう。
それ以上に、米国から見て重要視されたのもあろう。
米国は建国間もない19世紀中葉には、既に通商の観点から日本の経済的発展や政治的安定性に注目し、早くから友好的な手段で日本との通義を望んでいた。
この事実は、事あるごとに国境周辺に出入りし、僻地を脅かした北方の
不幸にも4年の歳月をかけた大東亜戦争で、干戈を交えたがそれとて一度だけ。
確かに、原子爆弾や大都市圏への
わずかばかり賠償や口だけの謝罪の代わりに、米国は誠意を持って対応した。
一例を挙げれば、ガリオア資金*2やフルブライト奨学金*3という形で応じてくれたではないのか。
またデミング博士*4の様な品質管理の
自身に薄暗い感情として、米国への憎悪がある事は否定しない。
だが、冷静に考えれば、それを何時まで引きずるのだろうか。既にサンフランシスコ講和条約で終わった話。
既に存在しない『ナチス』や『日本帝国主義』の亡霊に怯えるソ連と、何ら変わりはないのではないか……
この異界に
たかが戦術機の納品時期が遅れた事で米国への恨み節を言う様には、呆れる。
都市部の空襲で数十万の人命が、原爆で20万人の人命が失われるより、害は無かろう。
『曙計画』と言う事で軍民合同の研修計画を立てているのだから、決して軽んじてはいない。
あの帽子男の態度は、米国の日本への信頼を傷つけるばかりではなく、ひいては国益を損ねるのではないのか。
米国は独立以来、君主制こそ経験しなかったとはいえ、慣習や契約を重視する封建社会の遺風が漂う社会。
WASPと呼ばれる人々も、見ようによっては貴族層。彼等は名誉や道義を重んじる……
1000年前まで、先史時代の続いたロシア社会とは決定的に異なる。
米国の好意にばかり甘えている日本帝国の様を、マサキは苦々しく感じていた。
その様な事を想起しながら、タバコを燻らせていると彼女が声を掛けてきた
「タバコを……」
見ると、美久の手には茶灰色のネクタイ。
艶がかっている所を見ると毛織であろうか……
右の食指と親指でタバコを掴み、灰皿に置くと、
ダブルノットで締め、両手で襟を正しながら、上着を羽織り、金無垢のボタンを閉め、軽くブラシを掛ける。
茶灰色の紡毛カルゼ織の服地は、無地でありながら、綾のうねりが光沢がかって見える。
タバコを4箱ほど左右の腰ポケットに入れ、茶灰色の軍帽を掴み、
「KGBの奴等は、公衆の面前で平然と暗殺をする。備えるに越したことはない」と呟く。
不安そうにする美久の事をさすがに悟ったらしく、マサキは快然と笑って、美久の顔色をなだめた。
領事館の前に立つトレンチコート姿の男は、右手をドアに向け、
「乗り給え、木原君」と声を掛けて来る。
マサキは、周囲を見回し、
「70年型のリンカーン・コンチネンタル*5か」と驚いて見せた。
不敵の笑みを浮かべた男は、一瞬目を閉じる。
「世事に
思わず一瞬顔を
「政府の一部局が、8000ドル*6は下らないものを良く用意した物だ……」
と答えた。
男は、マサキの方を振り向き、
「特別な手法さ……」と答え、珍しく哄笑した。
笑う男を尻目に、靴ひもを結ぶ振りをして車体の下を覘き、仕掛け爆弾が無いかを確かめた。
両足の短靴を整えると、車両に乗り込む。
大型セダンが
今よりハンブルク空港に向かい、北海経由でソ連ハバロフスクに向かう途中であった。
ソ連政府からの招きに、情報省がマサキ自身や外務省の反対を無理に押し切る形で応じたのだ。
マサキが後部座席に寄り掛かる様にして座っているとで、左隣に居る男が尋ねて来た。
「防弾チョッキとは、恐れ入ったよ」
マサキは、左側を振り返り、
「あんたも、人の事は言えんだろう」と嘲笑う。
「え……」
彼の一言に唖然とするも正面に顔を戻し、
「体付きの割に、胴回りが若干太く見える。
それにトレンチコートを愛用しているのは、
「流石だ」と一言漏らし、乾いた声で哄笑する。
「何か飲むかね」
そう言うと男は、箱より丸みを帯びた独特の形のガラス瓶を取り出す。
「悪酔いするから、酒は飲まぬ」
そう言って、マサキはむっとした表情でスーパーニッカ*7の瓶を突き返すと、男は受け取った瓶の蓋を開け、グラスに注ぐ。
「パイロットが、車酔いとはね……」
男は苦笑を浮かべながら、先程の箱より常温の水を取り出し、注いだ。
男より、瓶入りのオレンジジュースを受け取ると栓抜きで開け、一口に呷る。
飲み終えると、瓶ごと男に返した。
その様を見て不敵の笑みを浮かべる男に、マサキは、
「仮に俺が撃たれた場合はどうする……」と問うた。
質問を受けると、男は真顔になり、
「直ぐに
と答える。
そうしていると、ベルトのバックルにある警報装置が振動する。
次元連結システムを応用した装置には特別なレーダーが備え付けてあり、感応する仕組みになっていた。
彼は周囲を警戒した後、バックミラーを覘くと、背後より高速で近づいて来る一台のオートバイがみえた。
バイクは黒に近い深緑色をしており、単車の右側には側車がついている。
運転手は、フルフェイスのヘルメットに黒革製の上着。
フラノ製の茶色のズボンに、こげ茶の革長靴姿でバイクに跨り、突っ込んで来る。
側車にはジェットヘルメットの下から覆面をして、折り畳み式銃床のカラシニコフ自動小銃を持った人物が居るのが判った。
(「おそらくバイクはソ連のウラル*8。その上に手練れの暗殺者か……」)
「如何やら、雪辱を果たされるのは俺達の様だ」
右手を懐中に入れ、8インチ用ショルダーホルスターから回転拳銃を取り出す。
「応戦したほうが良いな」
男は、
コッキングレバーを引き、射撃可能なようにすると、手動ハンドルで全開にした窓から身を乗り出す。
左側からくるオートバイに対して、撃ち放つ。
電動工具に似た轟音が鳴り響き、薬莢が勢いよく地面に散乱する。
男は、左手で、帽子を押さえながら社内を振り向き、
「飛ばせ」と叫び、速度を上げるよう促した。
運転手は急加速させるも、回転数が上がった車のエンジンからは、悲鳴の様な音が聞こえて来る。
対するオートバイの方は、ウイリー走行をしながら避ける。
マシンガンの間隙を縫って、単射で数度反撃してくる。
マサキは、冷静に事態の推移を見つめた。
男は、運転席を守ろうと懸命に銃弾を振りまく。
これが、右ハンドルの国産車であれば違ったであろう……
そう思いながら、数度弾倉を変え、射撃する。
バイクは、機関銃の射撃に当たることなく走り去っていった。
結局、バイクには損害らしい損害を与えられず、此方も被害はなかった。
マサキは、ちらりと横目で脇の男を窺う。
拳銃を向けても顔色一つ変えなかった男が、青筋を立て、肩で息をしている。
どうやら、怒り心頭の様だ……
マサキはタバコを掴み、火を点けながら、不敵の笑みを浮かべ、
「いくらKGBとはいえども、唯では済ませる心算は無い」と独り言ちる。
暗殺者の襲撃後、再び総領事館に呼び戻されたマサキ達は別室で待機していた。
領事館員等の相談を待つ間、脇に立つトレンチコート姿の男を一瞥する。
25口径の自動拳銃を
「貴様の本当の名前を聞かせてもらおうか」
男は不敵の笑みを浮かべ、オーバーコートのマフポケットより両腕を出すと、力なく下げた。
マサキは左手で、ゆっくりとコルト・オート25*9の遊底を引き下げる。
「ナイフや小型拳銃を隠し持ってるのは、分かっている。ゆっくり、捨てろ」
男は不敵の笑みを湛え乍ら、観念したかのように、掌を開くと、ナイフを床に落とす。
マサキは真鍮と合成樹脂で作られた柄の折り畳みナイフを見ながら、
「ほう、BUCKのレンジャーナイフか。俺もそれくらいのナイフで人を切ってみたいものよ……」
と感心したかのように呟いた。
男は、人を小馬鹿にするように不敵の笑みを湛え乍ら、
「いやはや、私にここまでさせる男は君が初めてだよ。木原君。本日は特別サービスだ」と呟く。
マサキは男から目を逸らさない様に気を配り、やや慎重に用心金より引き金へ食指を動かす。
「勿体ぶらず、さっさと言え」
彼が銃を向け、急かしても、なお男は平然としていた。
出し抜けに、勝ち誇る様にして、
「聞けば、必ず答えが返ってくると思っているのかね」
と答えた後、男の哄笑する声が静かな室内に響く。
男の言葉に、彼は満面に朱色をたぎらせて、大声で笑い返す余裕さえ見せた。
「アハハ!全くふざけた男だ……、
男は絶句し、一瞬焦りの表情を見せる。
目を見開き、身動ぎせず、その場に立ち尽くす様を、マサキは見ながら、
「如何やら図星の様だな……」
と堂々と言い放つと、続けざまに右の食指を再び用心金に移動させた。
鎧衣は、見た事のない様な表情で、
「どの様に知り得たのかね……」と尋ねて来る。
男の言葉を受けて、マサキは満面に喜色を
「フフフ、必要な情報の入手と解析……、これが出来なくては科学者というのは務まらぬのさ」
と答えた後に続け、入手していた情報を、
「良かろう。俺が知り得た事をこの際、明かしてやろう。
氏名、鎧衣左近。2月16日生まれ、日本国籍。情報省所属の国家公務員。
表向きは、二条城出入り御免の卸売り業者で通っている。
しかし、その裏の顔はソ連や東欧諸国に潜入する帝国政府の専属工作員っといったところか」
と勝ち誇ったように披露する。
その様にしていると、ドアをノックする音が聞こえ、身動ぎせず、声だけで応じた。
「取り込み中だ。誰か知らんが……」
「氷室です」
美久の声に、一瞬、顔をドアの方に向け、返事をした。
「美久、後にしろ」
其の隙を突き、男はマサキに飛び掛かる。
あっという間に、彼の右手首を掴むと、背中に向けて拳銃ごと右手を捻った。
マサキは苦悶の表情を浮かべ、
「ああぁ!」と思わず悲鳴を上げる。
「流石の物だ……、木原マサキ君。冥府の王を自称するだけの自信は、ある様だね」
彼の右手より、自動拳銃を取り上げると引き金を引く。
反動で遊底が作動するも、ばねの音のみ、
「驚いたものだね。空の拳銃を使って私を脅していたとは……」
「もし、お前が俺のピストルを奪ったら……どうする。間違いなく狙うであろう」
男はマサキの方を振り向くと、不敵の笑みを浮かべ、
「いやはや、君を甘く見ていた様だ……」
と呟いた。
その時、ドアが静かに開くと、M1ガーランド自動小銃を構えた美久が立っていた。
後ろには拳銃を握った
普段より情報省の事を信頼していない綾峰が、不測の事態に備えて、すぐさま乗り込めるようにさせていたのだ。
鎧衣に腕を掴まれたまま、マサキは、
「貴様には、色々と聞くことがある」と強がって見せる。
鎧衣は、深緑色の筒の様な物を取り出し、周囲に見せつけ、
「私もやらねばならぬ事があるので……、ここは、痛み分けと言う事で、どうかね」
持っていた発煙筒の栓を抜き、放り投げる。
驚いた綾峰たちは、咄嗟に避け、地面に伏せるも、ほぼ同時に小さい爆音とともに緑色の煙が広がる。
充満した煙を防ぐため、マサキは咄嗟に床に倒れ込む。
「俺も、甘く見られたものだ……」
けたたましく鳴り響く警報音に、顔を顰め、両耳を抑えながら、
「火災報知器が作動したのか……」
と呟くと、次第に意識が遠のいていった。
ソ連・ハバロフスク
「な、何て恐ろしい事をしてくれたのだ。気でも違ったのかね」
初めてマサキ暗殺計画と、工作員を借りうけて襲撃した事実を知り、
「今、木原の立場はソビエトが招いた
目の前に立つKGB長官に向かって、肩を震わせながら、拳を握りしめ、
「その彼を襲うとは……」と、口を極めて、その無謀をなじった。
怫然とする第二書記を横目に、KGB長官は感心したかのように笑みを浮かべて、マサキを誉める。
「抜け目のない男よ。
顎に当てていた手を、机に伸ばす。
「ロケット弾を撃ち込めば良かったかもしれぬな」
机の上に置いてあるシャシュカ*10と呼ばれる刀剣を掴むと、鯉口を切り、滑らかに刀身を抜き出す。
「木原を招くことは政治局会議の既定路線……。
この采配を反故にすることは、議長の信用に関わる。どうする
男は、第二書記の言葉を言い終えるのを待っていたかのように持っていた刀を振りかぶる。
そして刀を勢い良く振り下ろすと、机の端を切り落とした。
KGB長官の脇に立つ首相は、その様を見て、
「嗚呼!」と思わず絶叫する。
KGB長官は、再び刀を振り上げると、
「戦うまでだ」と言って、切っ先を椅子に腰かける老人に向ける。
「議長、貴方はソビエト連邦共和国の最高指導者。
戦慄する議長を目の前にして、
「『
左手で、置いてある金属製の鞘を掴む。
「貴方自身の体面保持の為、党益はお捨てなされ」
右手に握った刀を、ゆっくりと鞘に納める。
「同志首相、連邦共和国の行政を一手に握る貴様が、何を恐れるのだね。
自由に差配できるではないのか」
鞘尻を下にして、柄頭を持ち上げ、杖の様に構える。
「是よりKGBに招集をかけ、参謀総長を抹殺する。
参謀本部とGRUに巣食う反革命分子を一掃すれば、党は自在に動かせる」
「ソビエトを二つに割る心算か!」
男は、
「では同志スースロフ*11、イデオロギー担当の貴方に聞くのは、猿に木登りが出来るか問うのよう愚かな話だが……。
ソビエトが常に一つであった試しが、あったかね。」
力強く右手を挙げ、壁に掛かった肖像画を、食指で指し示す。
「同志レーニンが1898年に社会民主党を創設して以来、常に内部闘争の歴史が繰り返されてきたのをお忘れになられたか」
右掌を天に向け、ゆっくり持ち上げる。
「反革命分子の
これらがあって、初めてソビエトは形作られたのではないか」
勢い良く、唖然とする老人の方に右手を差し出す。
「議長、貴方が主体的になって、今度の闘争を勝ち抜かねばならない。
木原の首とミンスクハイヴ攻略という果実、議長退任への花道を飾る良い機会ではないか……」
其のまま、目一杯の力で拳を振り上げる。
「反革命的傾向のある赤軍への闘争を是より始める」
満面に朱色を湛えた男の言葉に、
「我等に残された道は、闘争しかないのだよ」
その言葉に観念したかのように、漏らす。
「
帝国・京都
そのころ、国防政務次官である
彼を、戦術機部隊の責任者として推薦した経緯もあり、人一倍、動向が気になった。
嘗て学窓で、共に過ごした朋友からの定時連絡を、今か今かと待っていた。
机の上に有るファクシミリ付き電話のベルを気にしていて、何も手が付かない。
灰皿にある山盛りになった吸い殻……
紫煙が立ち昇る様も、気にならない様子で、電話をじっと眺める。
思わず、左腕に嵌めた腕時計を見る。20時になる頃か……
そろそろ引き上げようかと考えていた矢先、電話のベルがけたたましく鳴り響く。
「はい、此方榊……、遅かったではないか」
受話器越しに綾峰が言う。
「なあ是親、
受話器を左側に変え、右手にボールペンを持つ。
「何があった」
「情報省の
声色から焦りを感じた彼は、然程深く尋ねなかった。
「俺の方からも根回ししておくよ……」
「ああ、助かる」
ボールペンを、机の上に置く。
「ソ連の連中は一筋縄ではいかん……、身辺に気を付けてくれ」
「お互いにな……」
そう言い残すと、電話が切れた。
受話器をゆっくり置くと、潰れた紙箱よりタバコを取り出し、使い捨てライターで火を点け、軽く吹かす。
紫煙を燻らせながら、安堵にも似た気持ちで友を思うた。
思えば国政の場に道を選んだことを考え直す。
竹馬の友は、
衆院の三回生議員として、国防政務次官にはなって見たものの、改めて自分の無力さに気付いた。
当選したばかりの頃は意気揚々と議場に足を運んだものだ……
この国を変えるには、矢張り首相になるしかない。
お飾り職とはいえ、政務次官になった事を足掛かりにして、与党内に自分の政策研究会を立ち上げる頃合いであろうか。
25年、否、20年以内に首相に上がれるようにならなくては駄目だ……
BETA戦争が終わった後に、世界情勢の変化は必須……
形骸化しつつあるとはいえ、中ソ両国は依然として国連常任理事国。
この機会を利用して、綾峰が押すゼオライマーに暴れてもらいたい。
事と次第によっては、
積年の夢でもある国連常任理事国入り、叶うかもしれない……
かのパイロットの青年には気の毒だが、日本の為に犠牲になってもらうのが一番であろう。
下手に生き残れば、間違いなく米国が欲しがるのは必須。
それに、斯衛軍では持て余しているとも聞く。
仮に帝国陸軍には転属したところで扱いきれるであろうか……、不安は拭えなかった。
そう一人で
静かに受話器を取ると、向こうより初老の男が声を掛けてきた。
「榊君、急いで私の所まで来てくれないか」
状況の今一つ掴めぬ彼は、力なく返事をすると受話器を置く。
忽然と立ち上がると、近くにいる秘書を呼び出す。
「今から、国防省に車を回せ」
急ぎ、車を手配するように伝え、
部屋を後にすると、車の待つ駐車場に急いだ。
国防省に着くと、大型モニターを前にした円卓に居並ぶ会議室へと案内される。
樺太とソ連沿海州の地図が投影された画面を前にして陸海軍の幕僚たちと大臣が討議していた。
大臣に一礼した後、席に着くと尋ねる。
「これは一体……」
濃紺の海軍第一種軍装*12を身に着けた男が、彼の方を振り向く。
「ソ連極東艦隊に動きがあった……」
そう言って、地図上にある間宮海峡の位置を指揮棒で示す。
「パレオロゴス作戦の一環で艦隊移動をしていたと思ったが如何やら違うらしい」
周囲の目が、画面に向く。
「欧州戦線への派兵であるのならば、揚陸艇や戦術機運搬船が居るはずなのだが見当たらない。
詳細は不明ながら、戦艦2隻*13と巡洋艦数隻の編成で、間宮海峡を南下し始めている」
榊は思わず、驚きの声を出す。
「まさか……」
「ゼオライマーパイロットの誘拐失敗の報復……、可能性もあるかもしれん。
事と次第によっては、北海道と南樺太*14には特別警戒を出すつもりだ」
よもや武力衝突と為ったらどうするのであろうか……
「舞鶴港より最上、三隅を向かわせることにした。旧式艦ではあるが牽制には為ろう」
机の上で腕を組む大臣が、力なく、
「最悪の場合、呉で改装中の大和、武蔵を出す準備をしている」と告げる。
男の言葉に周囲が騒がしくなるも、
「新潟にある戦術機部隊にも、待機命令は既に下した」と答える。
周囲が静まるのを待ち、青白い顔で、
「諸君、覚悟して呉れ」と答えた。
赤軍とKGBの対立は日々深まっていると聞く。
一党独裁を堅持する上で、軍とKGBの対立構造。
独裁維持の常套手段として、不合理なシステムは存在すると聞く。
時勢によっては何方かを立て、何方かを貶めることで党の支配権を保持してきた。
失策続きの赤軍が存在価値を高めるために日本への脅かしをする。
我々には理解できない常識で、彼等は動く……
日本を取り巻く情勢の推移に、余りの衝撃に色を失った榊は、
「嗚呼……我々はとんでもない物を呼び寄せてしまったのかもしれない」と呟いた。
そして、ただゼオライマーの存在に唖然とするばかりであった。
ご意見、ご感想お待ちしております。
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