冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
彼を待ち受ける物とは……。
マサキ達は、2週間後、中共から離れた。
天津からコンテナ船にゼオライマーを載せ、一路神戸へ向かう。
待機期間中、ほぼ大使館の中で軟禁状態に近い形で過ごした。
職員達は、深くは探ってこなかったが、色々と世話をしてくれた。
夜半に目が覚めると、ドアを開け、船室から甲板に向かった。
夜風に当たるために、外に出ていると、「帝都城出入り御免」と話す、例のビジネスマン風の男が居る。
脹脛まで丈の有るダスター*1を着て、タバコを吸っている。
彼から、声をかけられた。
「あんた、どうするんだい。この先よ……」
彼の言葉が、響いた。
マサキ達は、この世界では、寄る辺なき漂流者なのだ。
頼るべき家族も、友も、集団も、国家も、無い。
この異世界、そして今から向かっている日本とも何ら関係は無い。
名前が同じだけで、別な道を
冷静に考えると、危険な橋を渡っている様な感覚に
偶々、大使館の職員が来てくれたから良かったが、接点は無い所へ向かうのだ。
秘密結社鉄甲龍*2に背き、反逆の末、輸送機、双鳳凰で日本に逃亡。
しかし助けを求めた日本政府に、簡単に裏切られる。
計略により治安当局に暗殺された彼は、不信感が拭えずに居た。
仮に肉体的に死んでも、ゼオライマーの中にある記憶装置さえあれば、スペアの肉体で、自分の記憶を容易に《上書き》出来る。
そして、美久を鍵とする、次元連結システムがあれば立ち回れるが、その秘密を知られれば、方策はない。
もっとも、スペアの肉体を用意するにしても、この世界の化学水準は不明だ。
仮にクローンや人工授精の技術があっても、鉄甲龍に居た時の様に簡単に携えるとは限らない。
この際、こいつ等の策謀に乗った振りをして、逆に利用出来る様、策を練ろう。
前回暗殺されたように、政治や社会と距離をとるのではなく、手出し出来ぬ様な立場を得ねば、
その様な思いが
「で、どうする。俺たちに協力するほかあるまい。
アンタは帝国では根無し草だからな。
日本人だと言う事で迎えに来たが、帰る家も家族もないだろう……
協力するならば、整えてやるよ」
そう言うとタバコを、海に放り投げた。
「そうか。じゃあ協力してやるよ。条件を飲むならな」
マサキは顔を上げながら、答え始めた。
「俺達には拠点も無ければ、生活手段もない。
ある程度、自由に動ける権利も欲しい。
それが無ければゼオライマーも、
男は驚いたような声を出した。
「脅しかね。ならば……」
「違うな、要望だ。
要望を聞いてもらえねば、手伝えん。
このゼオライマーがどれ程の物か、知らないと思うが、只で動かせる様な安物では無い」
マサキは、振り返って男の方を向き、
「まず、家だ。都心に近い方がいい。
そして自由にゼオライマーを動かすことを考えると……
何かしらの、官職に就いていないと
その言葉に、男は、顔をしかめた。
「
聞きなれぬ単語を聞いたが、無視して続ける。
話しながら、ここが異世界だと言う事を忘れるほど興奮していた。
「後は、身の回りを世話する人間を2,3人用意して呉れれば良い。
俺は、貴様らの社会に疎いからな。
欄干から離れて、男に近づき、
「最後に裏切る様な真似をして見ろ。
俺は、
すれ違いざまに、こう放った。
「3つの約束を守ったら、お前らに協力してやるよ。フハハハハハ」
彼は、高笑いをしながら、その場を後にして行く。
「しっかり言質は取らせて貰ったぞ。木原マサキよ」
そう呟くと、男は甲板を後にした。
さて数日後、神戸港から日本に入ったマサキは、驚いた。
あの大戦により焼失した建物、失われた社会制度、慣習が息づく姿に……
大都市圏は、ほぼ『元の世界』の戦前の影響を色濃く残る。
解体されず残った帝国陸海軍、複線型の学校制度……
不思議な感覚に陥った。
二台のセダンで、京都へ向かう。
道路事情は多少は良くなっているが、何か立ち遅れた感じがしないでもない。
高速道路網も、空襲や世銀*3の借款が無かったせいか、少ないように感じる。
妙に、変なのだ。
驚いたのは琵琶湖運河掘削計画だ。
これは『元の世界』*4でも計画された。
だが立案者*5が病死したことで、立ち消えになった愚案。
何より衝撃的な事実は、都が、
自分は、東京郊外の心算で言ったのに、交通事情の悪く、蒸し暑く底冷えする盆地になど住む気など更々無かった……
京都へ向かう車中。
マサキは、渡された書類を見ながら、同行する人間に問いかける。
「なあ、
脇に座る男が、振り返り、ひとしきり悩んだ後、
「
「城内省、なんだそれは……」
男は呆れた様子で、彼に説明を続け、
「皇帝陛下より大政を委任されている政威大将軍、つまり殿下をお支えする機関です」
(『ということは、将軍直属の親衛隊に……。抜かった』)
「もっとも今は殿下も《表》に、お出ましになる機会も少なくなってしまいましたが」
こちらを
「外国に長く居らしたと聞いておりましたが……」
マサキは、落ち着いた様子で、返す。
「正直、俺はよく知らん。美久も同じだ。
そう思って応対してもらえば助かる」
(『で、誰と会うんだ』)
彼は車窓を覘いた。
車の窓から通り過ぎる風景を
(『着けばわかるか……』)
彼の心中は不安に苛まれていた。
マサキは、数名の男が待つ、京都郊外のゴルフ場に連れて行かれた。
別にプレーをする訳でも無く、ゴルフコースに出ていたのは訳があった。
それは防諜上の理由で、あえてゴルフ場を選んだのだ。
「大臣」、「閣下」という単語から類推するに、恐らく政治家と軍人。
彼は、渡されたポロシャツとスラックスに着替えて、男達と歩きながら話した。
「君が木原君かね。詳しい話は聞かせてもらっているよ」
初老の男が声をかけてきた。
「そうだ。で、何を頼みたい」
持っていたゴルフクラブを、キャディーに渡しながら、
「ならば単刀直入に言おう。来年度中に欧州で大規模な攻勢計画があってね。
君には、我が国の観戦武官と共に欧州戦線を詳しく確認してきてほしい」と続けた。
当事者ではない日本にとっては、関係のない話にも見える。
初老の男は、脇から若い秘書と思しき男に書類を渡されていた。
「
榊と呼ばれた若い男は、カートに資料を取りに向う。
マサキは、例の資料について訊ねた。
NATO案による、白ロシア・ミンスクハイヴ攻略作戦仮計画書、だという答えが返ってきた。
「ソ連にまで行って、ゼオライマーのテストでもするのか」
初老の男は、笑いながら答える。
「話が早い。それもあるが……。
実は、その気に乗じて欧州戦線において我が国の立場を明らかにしたい。
その為の、ミンスクハイヴ攻略作戦の《観戦》だよ」
話をしている内に、榊が戻ってきた。
「大臣、『例』の資料を持って来ました」
厚いB4判の封筒に入った資料が、彼の手に渡された。
「一旦、休憩にしましょうか」
マサキは、左手に付けている自動巻きの時計をながめた。
時刻を確認すると、
その後、休憩室に場所を移し、秘密計画に関する話が始まった。
大臣と呼ばれている男が口を開き、
「中共での話は聞かせてもらった。だいぶ暴れたそうじゃないか」
出されたコーヒーを飲みながら、マサキは
「実は今回の作戦には、ソ連が秘密作戦を行うという話を聞いてね。
ハイヴに突入した君に聞きたい。
早速だが、
カップを置くと、マサキは、語り始めた。
「貴様らの資料を見せてもらったが……
戦闘経験から言うと、あの化け物共に到底人間と同様の思考能力が備わっているとは思えない。
意思疎通が出来るとかいう、学者は気が狂ってるとしか思えん。
奴らは、まるで
マサキは、遠くにあったガラス製の灰皿を引き寄せた。
机の上にある、封の開けられていないチェリーの箱を取る。
「もし意思があるなら逃げるか、別な行動を示すはずだ」
チェリーの包み紙を開け、タバコを取り出す。
気分を変えるべく、紫煙を燻らせる事にした。
「それに、なぜソ連は核攻撃をしない。
ミンスクぐらいなら、仮に核で焼いてもソ連経済に影響はあると思えないが……」
大臣は、マサキの発言に唖然とした様子であった。
男は目を閉じ、深くタバコを吸うと、マサキに静かに語った。
「西側が見ている目の前で、そのような暴挙には出られんのだろう。
ウクライナすら
目の前にある灰皿にタバコを置いて、続ける。
「ましてや、大規模な援助を米国に頼っているソ連がそんなことをしてみろ。
今度の作戦は、おそらくご
(『たしか、ソ連は元の世界でも穀物を500万トン弱*7を輸入していたな……。戦時下となれば、恐らくその割合はかなりの物になっているはず』)
「そこでだが、その弱り切ったソ連の中で形勢逆転の秘策があってな……」
英語で書かれた資料と共に、翻訳された文書が渡される。
報告書には太字で、こう記されていた。
"UN:Alternative3 commences"
_国連、オルタネイティブ3計画始動_
新しいたばこの箱の封をを開けながら、男は語った。
「これは米国務省経由で我が国に
『ESP発現体』
マサキは、文中にある、怪しげな言葉に興味を引いた。
「その資料にある通り、ソ連では思考を透視できる人間を作る計画が推進中だ。
なんでも超能力者を人工的に育てて、BETAとの意思疎通をとり、彼らの意図をくみ取ろうという計画だそうだ」
大臣は彼の方を向いた。
「大変な苦労を掛けるが、君にはこの作戦を通じてソ連の秘密計画を粉砕してほしい」
黙って聞いていたマサキは、答え始めた。
「今の発言は、どういう意図があってだ……」
深刻な表情をした大臣は、彼へ返答をする。
「仮にソ連に思考を透視出来る兵士の量産が実現してみろ。
それだけで我が国や西側社会にとって危険だ。
この混乱に乗じて、
男は、ゆっくりと新しいタバコに火を付ける。
「つまり、ソ連領内で破壊工作をしろと言う事か……」
タバコを吹かしながら、男は答える。
「ああ、そうだ」
マサキは、大臣を
「ほう、別に構わない。
だが、それ相応の見返りは必要だな。
大体、危険が大きすぎる。
それにこんな仕事は、あんたらの役目だろう。
もし捕まってみろ。間違いなく死ぬぞ。
そしてゼオライマーも奴らの手に渡る。
俺はそんな馬鹿な作戦には、ただでは乗らん」
マサキは机にあるチェリーをとって、火をつけた。
苛立ちを隠すべく、タバコを吸い始める。
「少なくとも時間があるはずだ。
よく考えてからにしてほしい。
俺はそれまでは動かんぞ」
後ろ手で手を組み、椅子に寄り掛かる。
「見通しが甘すぎる。
まあ、ハイヴを吹き飛ばすぐらいなら考えてやっても良い」
机にある資料をB4の茶封筒に、かき集める。
「時間が無いからよく理解できんが、この資料は全部頂いていくぞ」
マサキはタバコをもみ消し、立ち上がる。
「用件は済んだのか。じゃあ、次の場所に行かせてもらうぞ」
そしてドアを開けると、マサキは去っていった。
マサキの脳裏に、再び、前の世界での一度目の死の直前にあったことが思い浮かぶ。
亡命した彼を日本政府は、日ソ関係の改善の道具として利用し、ゼオライマーの技術を独占する目的で暗殺された。
目先の利益の為に日ソ関係改善に走った当時の防衛長官。
その時の政治事情が分からない故、結論は出せない。
だが、再度ゼオライマーの中にある意志として15年ぶりに目覚めたときは、その企みが不発で終わったことに内心安堵した。
ソ連。
国際法を
政治の為に科学すら捻じ曲げ、共産主義の教義に沿った「獲得形質遺伝」なる説を唱えた。
その結果、大飢饉や政変で多数の人命が失われる国家。
メンデル遺伝学を研究する学者を多数追放し、処刑した国家など科学者・木原マサキとしては受け入れられなかった。
その様な国家に関わることさえ、彼にとっては苦痛であった。
元居た世界に似た、この世界において、化け物共にソ連が、共産圏の大半と侵攻されていく。
その様を見たときは、何とも言えない気持ちに
――どうせ化け物共に飲み込まれて消えていく国だ。
関わり合いになりたくない――というのが、偽らざる本音であった。
あの大臣が言う事をすべて信じられない。
だが、この世界では何が起きてもおかしくはない。
18メートルのロボットが闊歩し、火星まで探査機が行く世界だ。
「待ってください」
その声で、マサキは現実に連れ戻された。
美久が左手を両手で掴んでくる。かなり強い力で……
「離せ」
手を払いのけ、車まで戻ろうとした所を後ろから覆い被さる様にして、止められた。
「どうか、あの方々の真剣な言葉を聞いてあげてください。
悪意があってやってるようには見えません」
なおも歩き出そうとしている彼を、両手を脇腹に回して背中から抱き着いて止める。
「
ふと立ち止まった。
(『どうせ、拒否して無理やり行かされるぐらいなら……
堂々と正面から参加して、暴れてやれば良いか』)
彼女は抱き着いたまま、離れない。
「おい、美久。離れろ。鬱陶しいし、重い」
彼女はゆっくりと離れ、安堵の表情を見せる。
「お納め頂きましたか」
マサキは急に振り返り、彼女の顎を右手で掴み、
「ほう、推論型人工知能の癖に、主人にまで逆らうとは。
我ながらよく出来た物を作ってしまった物だ」
右手を彼女の左肩に寄せ、顔を近づけ抱き寄せる。
美久は、恐怖で
「お前を
おもむろに顔を上げ、
「一度乗った船だ。奴らには協力しよう。
だが俺と、ゼオライマーは奴らの自由にはさせん。
俺を
後方に立っている男を呼ぶ。
「おい、榊とか言ったな。俺は欧州に行くぞ、そう伝えて置け」
ゴルフ場を後にして、市内に連れ出されたマサキ達は、ある屋敷に、連れて出された。
まるで大時代物*10に出てくるような広大な屋敷。
数
恐らくこの国の支配層に近い人物であろうことは、察することが出来る。
広い庭で、長髪に着物姿の男と、例のビジネスマン風の男が立ち話をしていた。
使用人に案内されると、榊が深々と礼をしたのを見て真似てる。
「榊君、半月前に、支那で拾って来た男というのは、彼かね」
「そうです」と、榊は頷く。
「何でも、斯衛軍に入りたいと聞いたが、儂の方で出来なくもない」
と、答えた男は、例のビジネスマンに声をかけ、
「来年の夏ごろまでには仕上がるかね」
「
翁と呼ばれた男は、マサキ達を向くや、
「脇にいる
「サブパイロットだそうです。詳しい話は……」
男の言葉に、眉をひそめたマサキが口を挟み、
「おい、爺さん。俺をどうする気だ
。それと美久は唯のサブパイロットではない。
こいつが居なければゼオライマーは動かせんぞ」
鋭い眼光で、目の前にいる老人を睨みつける。
「ゼオライマーが無ければ、貴様らはその野望とやらも実現できまい、違うか」
翁と呼ばれた男は、喜色をたぎらせて、
「抜かせ、
所詮、大型の戦術機1台ぐらいでどうにかなると思っているのか」
と、マサキの
「じゃあ、ソ連の秘密基地破壊とミンスクハイヴを消したら、その時はどうする」
男は、険しい表情を見せるマサキの様を見ながら、なおも笑う。
「それ相応の態度を見せてくれれば、貴様の望み道理にしてやっても良いぞ」
マサキを
周囲の人間は一様に困惑した様であったが、その姿を楽しんでいるかのような様子であった。
「来年の暮れまでに結果を持ってこい。楽しみに待っているぞ」
翁は、そういうと屋敷の中に、従者たちと共に消えていった。
昨日の誤字報告有難うございました。
目は通しているつもりですが、かなり誤字脱字が多いと思います。
どんどん報告して頂ければ助かります……。
後、成人向けページの方でも本編で書けなかった話を書いてます……。
宜しかったら18歳以上の方は見てください。
脚注やフリガナに関して
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脚注やフリガナは必要
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脚注の数が多すぎる
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脚注の数が少なすぎる
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フリガナが多すぎる
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フリガナが少なすぎる
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現状維持のままでよい