冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
不穏な動きを察知した米国政府は、不測の事態を憂い、対策を協議する。
マサキの、ゼオライマーの運命や、如何に。
さて、ここはソ連の臨時首都がおかれているハバロフスク。
その市内にあるKGB本部の一室で会合が持たれていた。
「今回、最新型の戦術機部隊をドイツに差し向けた。読みが正しければ、東ドイツの議長と懇意な木原は、ゼオライマーを駆って出てこよう」
灰色の将官
「その際、ドイツ駐留軍内に仕組んだ工作員により、破壊工作の指示を出してある」
言外に特別部の破壊工作を暗示すると、冷笑を顔に浮かべ、
「木原が出てこなくても、出ざるを得ない様、仕向けた……。
仮に、我が隊が敗北した場合は、
如何に大型戦術機とはいえ、核弾頭ロケットの前では消し飛ぶはず……」と説明した。
ゼオライマー諸共、木原マサキを消す……
その様な情念の炎を燃やす男の様を、チェキストたちは遠巻きに見ていた。
「同志諸君、これはソビエトの為の聖戦なのだよ」
男の声を合図に、室内に
その後、KGB長官は、黒塗りの『ジル』111Gに乗り込み、市中へ繰り出す。
移動する車中で、隣席に座る特殊部隊『アルファ』司令官は、
「同志長官、お聞かせ願えますかな」と、木原マサキ抹殺の理由を問い質した。
「あの男は生かしておいては危険だ……、何れは我らソ連が覇道の阻害になる。
危険な芽は早めに摘むのが一番……、奴にはパレオロゴス作戦開始前に死んでもらう」
と長官が始めて意を明かすと、さしも豪胆な大佐も、びっくりした。
革張りのアタッシェケースより一枚の紙を取り出し、
「もし、今回の件が失敗した場合は、この密書に書いた通りに事を運べ」
と、深刻な面持ちで告げた。
すると、途端に、男の表情が曇り、
「国連職員に化け、米国のド真ン中で日本への帰国途上の木原マサキを暗殺……、中々厳しい注文ですなぁ」
と、冷ややかに言った。
長官は、眉をひそめ、
「ルムンバ大学*2の外人留学生を主とした、工作員チームで行く。そうすれば、KGBだと足もつくまい」と告げた。
大佐は、KGB長官を取り持ち、
「その暁には、木原の首で、
車中に、男達の哄笑が響き渡った。
しばらくして、バルト海洋上に数隻のタンカーが展開された。
戦術機を複数搭載可能なように改造された軍船へ、暗殺隊を乗せ、東ドイツに向かう。
そのタンカーの艦内で、男達が密議を
すでに強化装備を身に着けた、暗殺隊隊長から、
「諸君、今回は特別任務だ。ゼオライマーごと、木原マサキを抹殺する」と説明がなされる。
野戦服姿の隊員が、ぶっきらぼうに
「あのいけ好かない
隊長の大佐は歩き回りながら、説明を続けた
「我々、KGBが水面下で進めていた東ドイツのクーデターをベルリン民族主義政権と共に邪魔した」
雄々しい声と共に、軍靴の音が、室内に響き渡る
「その事を近々開かれるニューヨークの国連総会で、暴露するとの情報が入った」
先程の隊員とは、別な男がいかにも憎々しげに口を歪めて言った。
「
大佐は、立ち止まると、隊員の方に振り返り、
「そこで、我らが出番だ。これよりベルリンの民族主義者共に懲罰を与える」
両腕を腰に当て、力強く叫び、
「この船に搭載された戦術機を使い、奴等に恥を知らせようではないか」
男達は戦術機に乗り込むために船室より甲板に移動した。
「我等は、東ドイツの戦術機部隊に陽動をかける」
春先の冷たい海風が、
「ゼオライマーは出てきても相手にするな。30分後にミサイルをぶち込む手筈になっている」
不安を感じた男は、大佐に、
「同志大佐、NATOへの宣戦布告になりませんか」と尋ねる。
大佐は、甲板にある煙草盆の前に立ち止まると、彼等の方を振り返り、
「諸君らの懸念している人的被害は最小限度で済む」と答える。
手に持った『カズベック』*3の紙箱の封を乱雑に開け、
「既に深夜だ。操業している漁船も貨物船も、この海域には居ない」
懐中より取り出した紙マッチの封を開け、千切ったマッチで、タバコに火が点けられた。
「ベルリンの民族主義政権は、この中距離核ミサイルで震えるであろう」
悠々と紫煙を燻らせる大佐に、隊員の一人は、
「同志議長の狙いはそこにあると……」と、尋ねた。
男はなお、
「皆まで言うな……」と、不敵の笑みを浮かべる。
口つきタバコを深く吸い込むと、漆黒の海にタバコを放り投げ、
「この後には、皆で30年物のバランタイン*4 でも飲もうではないか」と、隊員たちを一瞥する。
無事帰った際は、30年物の醸造酒の封を開けることを約束し、
「そいつは楽しみだ」と、闇夜に男達の哄笑が響いた。
バルト海上に展開された、数隻のタンカーの甲板構造物が吹き飛び、周囲に爆音が響く。
爆風が消え去ると、箱のようなものが現れ、戦術機が縦に2列で6機づつ並んでいた。
「出撃準備」
大佐の軍令一下に、KGB工作員の一団は、戦術機に乗り込む。
「ベルリンのみならず、ボンのファシスト共を調教してやろうではないか」
複数の母船より、次々に戦術機が跳躍ユニットを全開にして、前方に向かい飛び上がる。
自然落下で、海面擦れ擦れに降下し、高所より飛び込むように跳躍する。
噴射跳躍をしたかと思うと、跳躍ユニットを全開にし、横一列に隊列を組んで、深夜のバルト海を低空飛行する。
水面との距離を取らないのは、レーダー対策で、戦闘機パイロット出身者にとっては常識であった。
「同志大佐、匍匐飛行では燃料は……」
「30分あれば十分足りる。
ファシスト達の首を抱えて帰ってきても、間に合おう」
戦術機の最大の弱点の一つ……
それは従前からある兵器とは違い、航続距離の短さで、戦闘行動半径は150キロメートル、巡航は600キロメートル。
戦前に設計され、第二次大戦と朝鮮戦争を戦ったF4U コルセアの4分の一以下の航続距離。
米ソ両国に在って、未だ通常兵器への信奉があるのは、此の為であった。
通信用アンテナの付いた戦術機よりKGB大佐の訓示がなされる。
「同志諸君、東ドイツの連中はかなりの手練れ。だが対人戦にはめっぽう弱いと聞く。
歓迎してやろうではないか」
いつにもまして、演説する大佐は、上機嫌だった。
西ドイツ・アウクスブルク
ここはNATO最前線の西ドイツ・アウクスブルクにあるNSAの通信傍受施設。
通称を『象の檻』と呼ばれる奇妙な建物の室内に、一本の電話が入る。
ベルの音を疎ましく思う男は、渋い顔をして受話器を取り、
「此方。アウクスブルク通信観測所……」と応じる。
機械の操作音が鳴り響く、受話器の向こう側から、力なき声で、
「カリーニングラードで、固形燃料ロケットの発射体制が整いつつある」と告げた。
受話器を右耳に当てた侭の男は、色を失い、
「情報収集艦『ヴァンデンバーグ』*5から連絡だ……」
と、失意の表情で、椅子に深く腰掛けた。
米海軍所属の
大型の通信アンテナに、微弱だがICBMに関する送受信が観測された事実にその場は混乱し始めたのだ。
奥にある基地司令の机から声が上がり、
「欧州軍本部に連絡だ」と檄を飛ばす。
ある職員が立ち上がり、司令に問いかけ、
「司令、ドイツ軍には……」
基地司令は、
「連中は恐らくバルト海上に展開している不審船の対応で手一杯であろう。
それに欧州軍本部の
と応じ、
「ペンタゴンに連絡だ」と即座に指示を出した。
米国 ワシントン.D.C
煌々と照明が輝き、不夜城のごとく
その一角にある大統領執務室では、将に、白熱した議論がなされ、
「閣下、白ロシアに先制核弾頭攻撃を実施すべきです」
「核攻撃のついでにハイヴごと吹き飛ばしましょう」と、ひしめきあった。
大統領は、甚だしく、自分の威厳を損ぜられたような顔をして、
「この状況下で、些か拙速ではないかね……」
と、
「諸君、74年の時とは、訳が違うのだよ」
そして、たたみかける様に、
「あの時は降着ユニットがアサバスカ湖*6周辺に堕ちてくれたから助かったものの……。
その時みたいに戦術核による攻撃を実施するには政治的決着も厳しい。
それにウラン鉱山の採掘に因る放射能汚染と言う事で土民*7を慰撫できたが。
対ソ戦でその言い訳は通用しまい」
と、いった。
大統領の言を受けるや、国務長官は
「ソ連の核攻撃に、黙って指をくわえて見ておれと言うのですか!」と歎いた。
CIA長官が、すっと立ち上がり、
「ゼオライマーに頼みましょう。あの木原という青年の
副大統領は、CIA長官を大喝して、
「正気かね。たかが一台の戦術機に国運を掛けるだとは、寝言も、休み休み言い給え」
と、怒りの表情をあらわにした。
見かねた国務長官が、口を挟み、
「彼の提案に乗りましょう、副大統領……」
周囲を見回しながら、続け、
「そうすれば、我が国への核攻撃は防げるかもしれません」
男の言葉を聞いた副大統領は、暫しの間、無言になり、
「それは、甘い夢の見過ぎではないのかね」
と、ずり落ちていた黒縁の眼鏡を、右手で掴み持ち上げる。
国務長官は、不敵の笑みを浮かべ、
「いや、この際、全責任をゼオライマーのパイロットと日本政府に負わせるのです……」
「友好国の一つを見捨てるのかね!」
「対ソ
私から言わせて貰えば、貴殿は些か、ゼオライマーに入れ込み過ぎている」
興奮する閣僚たちに、嚇怒した副大統領は、
「国務長官としての言かね……」
と、勢いよく机を両掌で叩いた後、
「CIA長官としての君の判断を認めよう……。だがゼオライマーの件が片付くまでは辞表は認めん」
とCIA長官を、戒めた。
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