冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
戦術機で戦場を駆り、迫りくるKGB相手に、
ここは、東ドイツ領・リューゲン島。
バルト海上の同島は、戦前には、リゾート施設の立ち並ぶ景勝地の一つであったが、東西分割後の今は軍事拠点として整備されている。
人民海軍の基地もあり、また東独唯一の特殊部隊・第40降下猟兵大隊の駐屯地でもあった。
リューゲン島の人民海軍基地はドイツに近づく不審船を感知すると、直ちにベルリンに通報。
時を置かずして、ベルリンの国防省本部から、
「未確認機、多数飛来」と、東独精鋭の第一戦車軍団に連絡が入る。
基地内にある戦闘指揮所では、深緑色の野戦服を着たハンニバル大尉が、
「同志ベルンハルト中尉、君は精鋭10名を連れてソ連機の対応に当たれ」
と、真向かいに立つユルゲンを指差すと下命した。
敬礼を返すと、強化装備姿のユルゲンは、
「同志大尉は出撃されぬのですか」と大尉に尋ねる。
ハンニバル大尉は、
「
だから、
と、金色の
「思う存分、暴れてこい」と、彼らを励ました。
また東ドイツ国内には従前のソ連製の機動防空システムが配備されていたことを、KGB特殊部隊は甘く見ていた。
BETA戦での航空優勢の喪失は、対空防御への関心を低下させ、軍事部門の
この世界にあって、それが常識となっていた。
軍の再編成が不十分で遅かった東ドイツ軍にとって、この事は幸いした。
冷戦下の対空火器が温存されたことによって、戦術機部隊に対しての即応が可能となったのだ。
「回せ!」
戦術機部隊に
操縦席に座ったユルゲンは、深く息を吸い込む。
直後、通信が入り、色を失ったヤウクが、
「怪我だけはするなよ……。僕は奥様が
「分かっている」
「分かってるなら良い」
「有難な」
「ユルゲン、君は色んな筋から標的にされてる。おそらくソ連のKGBにも。
KGBは、
と、ユルゲンに、弱音を漏らす。
「愚痴だ……。忘れてくれ」
不安に感じたユルゲンは、項垂れるヤウクを見るや、
「貴様らしくないぞ。思う存分暴れようではないか」
声を高らかにして、
血色を戻したヤウクは、
「ユルゲン……」と呼び掛けると、安堵したユルゲンは、
「一足先に行ってるぜ」と、揚々と格納庫を後にした。
そう言うと両手の親指を立て、モニター越しに整備員に親指を立て、合図する。
駐機体制から飛行体制を意味する『チョーク外せ』のポーズを取った後、彼の機体は滑走路に向かった。
そして跳躍ユニットを吹かして、勢いよく出撃するとみるみるうちに小さくなっていく基地。
エンジンを全開にして、匍匐飛行で目的地へ向かった。
東ドイツ ヴァンペン・シュトランド近郊
洋上に向け、ミサイルや砲弾が
煙を出しながら、海面に急降下していく様を見るや、
「護衛のヘリが……」と、兵達が口々に嘆くも、隊長は、
「有りっ丈の弾をばら撒け、弾倉には3万発あるんだ。気にせず使え」
と、そのあとからついて来る、戦術機隊に檄を飛ばした。
大佐は、
「何機、残っている」と、僚機に尋ね、
「1、2、1、2、……」と、男はしばらく数えた後、
「36機ほどです」と答えた。
「半数も食われただと……」
直後、僚機が攻撃を受け、黒煙を上げながら、急降下してゆく。
管制ユニットを撃ち抜かれた僚機が、爆散する様を、網膜投射越しに眺めていた。
猛烈な対空砲火と東ドイツ軍の必死の抵抗によって、KGB部隊は足止めを喰らっていた。
破損した砲を投げ捨て、後ろに引き下がると、直後、爆散した。
「
振り返ると頭部には、まるで中世の武人の兜の前立てを思わせる大型の通信アンテナを付けた、朱染めの機体が、接近戦闘短刀を手裏剣の様に投げつけてきたのだ
噂に聞く
KGB大佐は、不敵の笑みを浮かべ、
「同志大尉、私は隊長機をやる。君は、緑色のファントムに乗った副長を仕留めろ」
と、画面越しに移る大尉に指示を出し、彼は、大佐に、
「了解」と頷く。
大佐は、
「狩りの時間だ」と、呟き、火を点けた。
ユルゲンはゆっくり着陸させると、左手に構えた突撃砲を、面前の黒一色の機体に向けた侭、相対する。
国際緊急周波数243.0MHz*1にダイヤルを合わせ、通信を入れ、
「警告する。貴機は
黒色の鉄人は、幅広の77式近接戦用長刀を背中の兵装担架から抜き出し、手首を回転させ、逆手に構える。
対峙する朱色のMIG-21PFも、背面より長刀を抜き取る。
ユルゲンが手にした剣は、74式近接戦闘長刀。
ベルリンに来た日本使節団から親善訪問の記念としてもらった数振りの刀剣の内の一つであった。
使う人間の武勇と精神力に
KGB大佐は、見慣れぬ長剣を構えるユルゲン機に対し、
「御託は聞き飽きた。文句があるなら、俺を切ってからにしろ。
長剣を構えて、身動ぎすらせぬ両名の間に、何とも言えぬ空間が出来上がろうとしていた。
まるで触れることさえ、許されざる様な存在……周囲の兵達は、遠巻きに推移を見守った。
ユルゲンが、KGB隊長機と
彼は乗り慣れたF-4Rを駆り、迷彩塗装の施されたMIG-21と共に突き進む。
十人ほどの部下を従え、
識別番号も国籍表示も無く、メインカメラは赤色灯に換装され、全身には見慣れぬ突起や装甲も確認できた。
ヤウクは、射撃をしようとした仲間をファントムの空いている左手で、制し、
「降伏するのか……」呟くや、件の機体は、右手に構えた突撃砲を投げ捨て、
「二刀装備の
と、声をあげながら、背に負う長剣を引き抜くやいな、ファントムの肩口目掛けて切りつける。
ファントムは、右腕にマウントした短剣を左手で抜き払い、剣を弾く。
刃がぶつかり、火花が舞う。鈍い音が、闇夜の海岸に
ヤウクは、短剣で切り結つつ、
「その訛り*3……、カフカス*4人だな」と問いかけるも、黒染めのソ連機に乗る男は、
「
カフカス人から侮辱を込めて、
「プーシキン*6の名高い詩に書かれたカフカス人が、
そんな情けない格好、恥ずかしいとは思わないのかい」と煽り返す。
男はその一言に、怒りに身を震わせ、
「減らず口を叩くとは……」と、操縦桿を力強く握りしめるや否や、噴射を掛け、
「
黒色の機体は、勢いよく長刀を振り下ろす。当たれば、重装甲のファントムとも言えど無傷では済まない。
ヤウクは操縦桿を握り、難なく避けると、右手に持った長刀を横に薙ぐ。
黒鉄色のMIG-21を左腕の関節事、胴を切りつけると、逆噴射を掛け、右の肩間接に短刀を差し込み、其の儘後退。
長刀ごと、機体を突き放すと、一瞬屈んで、捨て置かれたソ連機の突撃砲を拾う。
止めの一撃を受け、爆散する機体を尻目に、またたく内に駆け去った。
「同志大佐……、同志大尉が撃墜されました」
ユルゲンと対峙し続けた大佐の下に、通信が入る。
その報告に、色を失った大佐は、
「何!」と、一瞬たじろぐ。
その隙をついて、朱色の機体の左手にある、突撃砲が火を噴く。
105㎜滑腔砲から放たれた砲弾は、複数の破片を飛び散す。
その様を見るや、大佐は、
「
その瞬間、ユルゲンの雄たけびと共に、朱色の機体から長刀が振り下ろされる。
頭部から管制ユニットに目掛け、唐竹を割る様に、長刀を
ユルゲンは、ベルリンに来た
フェンシングの名人であるヤウク少尉との、血の
長刀を背面の兵装担架に収納すると、噴出を掛け、跳躍した。
残存するKGB特殊部隊は、血路を開こうと、最後の突撃をかける。
生き残った指揮官は、突撃砲を連射しながら、
「東ドイツの衛士は口だけの雑兵よ。追撃して殲滅するぞ」
と、後退する東ドイツ軍の戦術機隊を追いかける。
巡航速度を上げ、轟音の鳴り響く噴射装置で、滑るように地面をを駆け抜け、敵の盲射に
「どうせ当たらぬ、突っ切るぞ」と、怯える兵達を追い立てるも、次の瞬間には爆散して果てた。
本作品の独自設定 その一
ヨーク・ヤウク専用F-4ファントム
米国貸与のマクダエル社製。
両肩の国籍表示マーク以外は、艶有りのダークグリーンで染め上げている。
両腕の関節は、肩から下はすべてバラライカ並みの強度に変更されており、77式近接戦用長刀の使用に耐えられるようにカスタムされている。
背中の可動兵装担架システムは、77式近接戦用長刀とWS-16A突撃砲の両方をマウントできる特注品。
ウクライナ戦線で、レーザーヤークトの際に、半壊したバラライカの代わりに乗り回し、以後ヤウクの愛機となっている。
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