冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
一方、米国は、ゼオライマーの攻撃を支援のために、ミンスクハイヴ空爆を決定した。
ここは、支那、北京にある中南海と称される地区。
元は、金朝*1の折に、大寧宮という夏の離宮が建てられた折に、人工池を作った。
北海、中海、南海、と三か所あったが、それらを纏めて、中南海と称す様になり、何時しか離宮そのものを指す言葉になった。
そこにある古い官舎の中に、けたたましく鳴る電話のベル。
夜のしじまを破る様に、響く音の受話器を取ると
「もしもし……」と灰色の人民服を着た男は、聞き耳を立て、受話器の向こう側の声を聞き取る。
相手の男は、訛りの無い北京官話で、
「ハバロフスクで、何か動きがあったようです」と、つげると、男は、相槌を打ちながら、
「引き続き、赤軍の動向を探って呉れ」と、静かに受話器を置き、紫煙を燻らせた。
中国共産党は、1977年のゼオライマー出現によって、すんでの所で首の皮一枚を繋ぎとめた。
あの時、
新彊はおろか、
男の脳裏に、暗い未来が浮かんでは消えた。
プロレタリア文化大革命*2の混乱の中で、襲来した異界の化け物……
混乱の内に黄泉の国に旅立っていった国家主席*3。
その未亡人*4と取り巻き達*5は権力闘争に邁進したが、戦時と言う事で黙認された
だが、ゼオライマーの出現によって、情勢は変化し、BETA戦に一定の目途が着き、政治的な余裕が生じる。
文革の為、長らく下放*6されていた経済改革派の官僚や憂国の知識人達は、中央に呼び戻された。
彼等は、国家主席の死による政治的空白とBETA退治の決着という、この機を逃さなかった。
東ドイツの無血クーデターに
件の未亡人と取り巻き達は、逮捕された。
近々裁判が始まるが、どの様な末路を迎えるであろうか……
再び静寂を取り戻した室内から、庭園にある池に映る満月を眺めながら、男は再び深く沈潜した。
さて、マサキと別れ、支那に行った
北京駐在日本大使と共に、北京から東へ約300キロメートル離れた河北省の避暑地・
そこにある別荘の一室に、通訳や参事官たちと共に通されると、部屋の中では小柄な男が寛いでいた。
彼等は、灰色のズボンに白い開襟シャツを着て、椅子に背を預ける男に深々と一礼をする。
大使は顔を上げると、男の方を向いて、こう告げた
「
男は、今にも夕立が来そうな暗い表情で言った。
「率直に申しましょう。我々は今の所、北方に割ける兵力は御座いません。
何より我が国に反動的な立場を取る
話の内容は、北ベトナムへの軍事侵攻を匂わせる物であった。
大使は肘掛椅子に腰かけると、脇に立つ護衛に手紙を渡した。
ここにいる人間は、恐らく中共調査部*8か、中共中央統一戦線工作部*9の物であろう。
皆、護衛と言えども、筋骨たくましく恰幅が良く人間ばかりだ。
長らく続いた文革とBETA戦争で人民は飢えて食うや食わずの生活をしている。
共産主義とは言っても、所詮田舎の人間は奴隷*10なのだ……
遠い商*11代の
気を取り直して、手紙の事に関して言及し、
「先ずはこれをご照覧を」
手紙を見るなり、男の表情は凍り付く。
其処には驚くべきことが記されていた。
BETAが、一種の電気信号で動く生体ロボットと類推される。
「これは日本政府の見解ですか、俄かに信じられません……」
男は、ぼうっと目の前が暗くなって、目の前にあるすべての事象が、自分から離れていくのを感じ取った。
しかもどこか知れぬ、深淵に引きずり込まれるかのような感覚に陥っていく。
この話が事実ならば、この5年に及ぶ地獄の歳月は何であったのであろうか……
得るべき成果は無く、多くの尊い人命が失われたのは無駄であったのか。
あの化け物共が、ただの機械の類と言う話を受け入れることが出来なかった。
「そんな馬鹿な……、絶対にありえようはずがないではないか」
20年前、火星で生命体が発見された事を喜んだことも、10年前の月面でのBETAとの初接触の衝撃も何の価値も無かったのか……
だが、そう言って打ち消せば打ち消すほど、彼の想像ははっきりと、理屈ではなく事実として脳裏に映し出される。
大使はテーブルの上に有る熱い茶を両手で持つと、蓋碗で扇ぐ様にして冷ます。
血の気を
「私も正直驚きましたよ……。陸軍参謀本部ではその様に分析して居ります」
「やはり、あのゼオライマーを作った木原博士が関わっているのですか……」
「面白い事を仰りますな」
彼はそう告げると、不敵の笑みを浮かべた。
一瞬、男の顔色が曇る。
「この話をソ連は……」
「公式、非公式にも伝達して居りません」
両切りタバコを二本立て続けに吹かした後、押し黙る彼等の方を振り向き、
「中ソ国境、中蒙国境で近々大規模演習を行う予定が御座います」
暗にソ連侵攻を匂わせる発言をする。
「7年間の抗日戦争*12を上回る、このBETA戦争の惨禍から復興……。
日本の力無くして為し得ません。故に我等は過去を一切水に流すつもりでおります。
その事を皇帝陛下並びに殿下*13に宜しくお伝えいただきたい」
男の言葉を最後まで聞いた後、大使はおもむろに立ち上がり、
「分かりました」と慇懃に挨拶をして、室内を後にした。
一部始終を聞いていた鎧衣は、困惑していた。
思えば、木原マサキと言う得体の知れない男が現れてから、全てが変わった。
何百億ドルも費用をかけて実施した国連のオルタネイティヴ計画……。
ソ連が熱心に推進していたオルタネイティヴ3計画は、いともたやすく捨てられた。
数百人いたとされるESP発現体も研究施設も核爆発の下、全て消滅。
「あの木原マサキと言う男がオルタネイティヴ計画の中止に関わっているのだとしたら……」
彼は、慌てて打ち消した。
第一、そんな想像は自国の諜報組織や科学者たちに対する侮辱だ。冒涜だ。
日夜秘密工作に従事する諜報員たちが役立たずであるという事ではないか。
とても理屈に合わないように思えた。
場所は変わって、米国・バージニア州ラングレー。
そこにある、
「長官、今回のゼオライマーの件は……」
じろりと、長官の目に強い
「実はな……現在調査中なのだよ。大統領直々に
「御剣公……、たしか将軍の親族でしたよね。
長官は、重苦しく頷く。
「そうだ。ゼオライマーの行動次第によっては、今後に東アジア情勢に変化を与えるのは必須。
岩国から京都まで密書を送り届けたばかりだよ……」
「何故準備も不十分なうちに……」
長官は紫煙を燻らせながら、室内を何度か往復し、
「時間が経てば経つほど、KGBの
答えた長官は少しばかりおいて、周囲の反応を見ていた。
「中ソ関係には影響は与えるでしょうか……」
再び、男の方を振り返り、
「10年前に熱戦*14を繰り広げた間柄だ。
中ソ関係は、対日、対米、対BETAで一応同じ立場を取っているが……、例えば対印や対越では立場が分かれる。
なので、第二次大戦時の時の連合国のようにはならない可能性が高い」
そう言って、灰皿を引き寄せる。
「一例を挙げれば、軍事分野でも中国は対空兵器はソ連に依存している。
それ故に技術移転を度々打診しているのだが、ソ連の反応は決して芳しい物ではない。
それくらい微妙な関係なのだよ。あの二国関係は……」
静かにタバコを灰皿に押し付けた。
「確実なのはBETAによって、もたらされた米ソ間の偽りの平和……。
その様な時代は終わりつつあることだよ」
ふと男は、下卑た笑いを唇に浮かべ、
「今一度、アムール川あたりで衝突が起こって、中ソ対立して欲しいものですなぁ……」
ニタニタと笑う男の顔を、長官はまじまじと見た。
「なに笑っているのだね」
「中ソ双方の弱体化は、決して我が国にとって悪い事ばかりではありますまい」
男は長官の
取り持つような言葉に呆れて、放心したかのようにぐったりしている長官に、
「中断しつつあるパレオロゴス作戦の件はどうなりましたか」と、男は再び声を掛けた。
長官は気を取り直して、答えた。
「実はな……ルイジアナのバークスデール空軍基地から50機ほどのB52を飛ばして焼き消すつもりだ」
長官が口にした「
翼幅56メートル、8基のターボファンエンジンを搭載した5人乗りの大型機。
同機は31トン超の爆弾やミサイルを搭載可能。最大航続距離は14,000キロメートルを超える。
空中給油を受ければ、即座に全世界に展開可能だ。
米国の核戦力の中核を担うとされている。
初の実戦配備はベトナム戦争で、1965年から開始された、「北爆」で絨毯爆撃を行い、様々な戦果を挙げた。
BETA戦争では航空機を一撃で消滅させる光線級の影響も大きく、時代遅れと思われていた機体。
ゼオライマーの活躍によってBETAの攻勢が落ち着きを見せてきたことによって、再び日の目を浴びたのだ。
「明朝……、7月4日の6時には、ミンスク上空から爆弾の雨を降らせるつもりだ」
「202回目の独立記念日に合わせた花火大会ですか……」
タバコを取り出すと、火を点け、ゆっくりと紫煙を燻らせると、再び語り始める。
「国際世論の反対を懸念して、核弾頭ではなく、新開発のS-11爆弾を使う。
無益な殺生によって、ポーランドやバルト諸国の青年たちの命が失われるよりは良かろうよ……」
超高性能指向性爆薬・S11。
戦術核に匹敵する破壊力を持つ高性能爆弾で、ハイヴ破壊を名目として開発された。
一部では戦術機に搭載して『特別攻撃』をするプランもあったが、米軍では却下された。
多大な費用をかけ、育成した戦術機パイロットを自爆攻撃で失わせる……
費用対効果からしてもあまりにも馬鹿々々しい作戦故、否定された。
放射能汚染の危険性がない核にも匹敵する威力の新型爆弾。
一見魅力的に見えるが、あまりにも高価なために実戦配備が進んでいなかった。
「グレイ博士が作っている新型爆弾は実現するのでしょうかね……」
男はそう告げた後、椅子から立ち上がる。
「何もそんなものがなくても心配はするまいよ……。我等には無敵の機体ゼオライマーがあるのだから」
ドアの前まで行くと、ドアノブを掴みながら尋ねた。
「木原と言う男が信用できますか……」
「ミンスクの件が終わったら、私の所に呼ぶつもりだよ」
そう言うと、部屋を去る男をそのまま見送った。
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