冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
そこには、復讐に燃えるKGB長官が待ち構えていた。
ミンスクハイヴ攻略の行方は、マサキの運命は如何に。
12世紀末、世界史上に突如現れた蒙古王、
短期間に勢力拡大を成し、蒙古平原の奥底より全世界に打って出た。
それに伴い、ユーラシア全土をくまなく掠奪した事は、つとに有名であろう。
そのタルタル人の
その群れから運よく逃れている、この地・シベリア。
ソ連指導部は、そんな懸念から、米政府との間にアラスカ売却交渉に入った。
その矢先に現れた、無敵の
天才科学者・木原マサキ。
彼等が、喉から手が出るほど欲しがったのも、無理からぬ話であろう。
「ゼオライマーさえ、ソ連の物になれば……、ハイヴは疎か米国まで我等の物よ」
高らかに笑い声をあげるKGB長官。
「
薄い水色のレンズをした銀縁の眼鏡を取ると、周囲の人間を見回す。
「すでに2度、KGB特殊部隊を派遣したがすべて水泡に帰した。
君達がしくじれば、ハバロフスクを核で焼き払わねばなるまい」
どこからか、声が上がる。
「同志長官……」
右の食指を、ドアに向かって指し示す。
「ソビエト2億の民の運命は、君達の双肩にかかっているのだ!
居並ぶ男達は、老人に対して挙手の礼をする。そして力強く叫んだ。
「万国の労働者の祖国、ソビエト連邦に栄光あれ!」
再び色眼鏡を掛けると右手を上げ、挙手で応じる。
不敵の笑みを浮かべるながら、彼等を見送った。
「既に勝負はついたような物よ。
然しもの木原も、ゼオライマー単機のみでは、第43機甲師団の砲火より抜け出せまい」
奥に座るソ連邦最高評議会議長の方を振り返り、一頻り哄笑する。
「GRUの馬鹿者共と木原が共倒れすれば、残すは東独の反逆者のみよ」
そこに伝令が息を切らして、駆け込んできた。
「どうしたのだ!」
喉も破れんばかりの声で、こう告げたのだ。
「た、大変で御座います、同志議長。第43機甲師団との連絡が途絶いたしました」
「何、43機甲師団もか。何と言う事だ」
隣にいるKGB長官の顔から、先程迄の上辺だけの笑みは消えて、額に深い皴を刻み込んでいた。
「おのれ、木原マサキ、ゼオライマーめ……」
拳を握りしめ、身を震わせる。ただ眼だけが窓に向けられる。
窓からは、7月のシベリアの涼しい風が、吹き込んで来るばかりであった……
日が明けるとともに、議長の命を受けたKGB長官は、市中に避難したソ連首脳を集めた。
混乱する市外の喧騒を余所に、重武装の車列が一路ハバロフスク空港に向かう。
周囲を装甲車で固め、軍用道路*1を
走り去る車の中で、男達は密議を凝らしていた。
「議長、空港にはすでに大型ジェットが用意してあります。
そこよりウラジオストック経由で、オハ*2に落ち延びましょう…」
「アラスカの件は、どうなったのかね……」
不安そうな顔をするソ連邦議長の愁眉を開かせようと、KGB長官は語り掛けた。
「議長。心配なさいますな……。我等が手の物がすでに米国議会に潜入して居ります。
我国の領土となるのも然程時間が掛かりますまい」
車から降りた一行は、僅かな護衛と共に、ハバロフスク空港の滑走路に向かう。
離陸準備の整った、大型旅客機のイリューシン62*3に乗り込むべく、タラップに近寄った。
その直後、唸り声をあげた自動小銃の音が響き渡る。
AKM自動小銃で武装し、茶色い夏季野戦服を着た集団が、議長達一行を囲んだ。
彼等を掻き分ける様にして深緑色のM69
「同志議長。残念ですが、この飛行機は、我等GRUが使わせて頂くことになりました」
官帽を被った顔を向け、
「5分後には、ここは
貴方方は
と、不気味な笑みを浮かべながら口を開いた。
黒い革鞘に入ったシャーシュカ・サーベルを杖の様にして、身を預けるKGB長官は、
「此処を爆破すれば、貴様も生きては帰れまい。違うか……」と、疑問を呈した。
将校は不敵の笑みを浮かべるばかりで、ただ拳銃を向けた手を降ろそうともしなかった。
間もなくすると、羽虫の様な音を立てた航空機が3機、空港上空に現れた。
茶色い繋ぎ服を着て、厚い綿の入った降下帽をかぶった集団が落下傘で降下してくる。
「我々の負けの様だな……」と、議長は観念したかのように呟くも、
「持って回った言い方をなされますな、同志議長。
あなた方の殺生与奪は既に我等の手の中にあるも同然です」
60名ほどの空挺兵士達は着地をすると、姿勢を正してソ連首脳を囲む様にして駆け寄って来る。
「同志議長、核爆弾操作装置をこちらにお渡しいただけませんかっ!
言う通りにしていただければ、脱出用の航空機も爆破せず、あなた方の生命も保証しましょう」
KGB長官は、振り返る議長を宥める様に、
「此処は逆らうべきではありませんな……。いう通りにしましょう」
男は、そんな彼等の様を見て、不敵な笑みを浮かべる。
議長は、トランク型の核ミサイル誘導装置を手渡す。
受け取ったGRUの将校は、ひとしきり笑った後、態度を豹変させ、
「皆殺しにして、イリューシン62は我等が頂いていく」
「了解しました。同志大佐!」
その時、何処から聞きなれぬ自動小銃の音がすると空挺部隊の兵士達は姿勢を低くする。
小銃の槓桿を引き、弾倉から薬室に銃弾を送り込むと、射撃姿勢を取る。
スペツナズを指揮した特殊偵察班長*4の大佐は、KGB長官をねめつけ、
「こいつらは捨ておけぃ!どうせ死ぬ運命だ」と、言い残すと足早にジェットに乗り込んだ。
空挺兵士の乗ったイリューシン62は、轟音と共に離陸準備を始めた。
ソ連首脳陣は、空港の端の方に逃げるべく滑走路を横断し、ターミナルビルの方へ駆けこむ。
ふとKGB長官は立ち止まると、遠くより駆け寄って来る兵士達に敬礼をした。
『パナマ』*5と呼ばれる防暑帽を被り、カーキ色の開襟野戦服に編上靴の一群。
彼等は、KGB虎の子の部隊である、アルファ部隊の兵士達であった。
憤然とした長官は、遅れて来た兵士達に指示を出す。
「裏切者どもを撃ち殺せ!」
無線機を持った兵士が、空港に待機しているストレラ-10*6に連絡を入れる。
即座に赤外線誘導ミサイルが発射されると、ロケット弾は直進し、航空機に衝突し、爆音が響き渡る。
ほぼ同時に広がった眩い閃光と共に、白磁色の機体が滑走路に出現する。
天のゼオライマーは、ハバロフスク市内より空港に転移してきたのだ。
ゼオライマーより飛び降りて来る、帝国陸軍の深緑色の野戦服を着た男。
着地すると、姿勢を正すより早く拳銃を取り出す。
右手に構えた長銃身の
脳天から血を吹き出しながら、議長は地面に倒れ込んだ。
巨大ロボの出現に唖然とする彼等の目の前で、ソ連邦議長は暗殺された。
自動小銃を背負った日本兵が、回転拳銃を片手にソ連首脳に近づいて来る。
「何者だ。貴様は……」
男は、不敵な笑みを浮かべつつ、ロシア語での問いに、ドイツ語で応じ、
「俺は、木原マサキ。天のゼオライマーのパイロットさ」と答えた。
KGB長官は怒りのあまり、身体を震撼させ、右の食指でマサキを指差し、
「こやつを殺せ!」と、吐き捨てた。
周囲を警護する側衛官達が自動拳銃を一斉に取り出す。
雷鳴の様な音が周囲に響き渡ると同時に、 首相の体を幾筋もの弾道が通り抜けた。
濛々と立ち上がる白煙と、轟音の後、横たわる首相の遺体を前に、
「あなた方の指示が原因で、ソ連はゼオライマーに荒された……。
それが今はっきり判りました。その責任を首相に取ってもらったまでです」
と、側衛官の一人が呟いた。
唖然とするマサキを余所に、ソ連人たちは内訌を始めた。
側衛官の一人が拳銃をKGB長官に向け、
「勿論、貴方にも責任を取ってもらいますよ……長官」
政治局員の一人が、重い口を開いた。
「だが、その前に聞きたい。木原マサキの抹殺命令は、国益の為か……」
KGB長官は、一頻り哄笑した後、
「そうだ。ソ連国家100年の計の為、私は木原の抹殺を指示した。
残念なことに、その企てを知る首相を君達は殺してしまったのだよ」と、彼等の方を振り向く。
「嘘を抜かせ。はなから俺の事を狙っていたではないか。違うか……」
マサキは、ソ連人の間を掻き分けると、KGB長官に相対し、
「遺言があるのなら、俺が聞き届けてやるよ」
彼は、インサイドホルスターに回転拳銃を仕舞うと男の方を向いた。
長官服を着た老チェキストは、右に立掛けたサーベルを取ると、鯉口を切る。
老人は、流暢なドイツ語でマサキの問いに応じた。
「この場所に君が来た時点から、君の負けは決まっていたのだよ……、木原マサキ君」
抜き身のサーベルを振りかぶり、マサキの顔に近づける。
頬を白刃の峰で、ひたひたと叩かれるも、マサキは身動ぎすらしなかった。
「木原よ……聞こう。貴様の望みとは何だ」
マサキは鋭い眼光で、目の前の老人を睨みつけた。
「俺の方こそ聞きたいね……何故俺を付け狙う」
薄く色の付いた眼鏡のレンズが夏の日差しを受け、怪しく光る。
「私個人の感情としては、我が甥ゴーラ*7の
黒く太い秀眉を動かす。
「ゴーラだと……聞いた事がないな。そんな雑兵」
冷笑を浮かべた老人は、左手で色眼鏡を取ると懐に仕舞い、
「せめてもの慈悲だ、教えてやろう。
ゴーラこと、グレゴリー・アンドロポフはKGBの優れたスパイとして東ドイツに潜入。
シュタージの少将にまでなった。その名をエーリッヒ・シュミットと変えてな!」
と、しいて苦笑してみせながら、
「故に、貴様の動きは逐一、この私の耳に入ったのだよ……。
今頃は駐留ドイツ・ソ連軍の中にいるKGB部隊が暴れ回る手筈。
シュトラハヴィッツ少将と忌々しいベルンハルト中尉、議長諸共殺している事であろう」
と、勝ち誇る様に、言い放った。
長官の話を聞いたマサキは、アハハと、一頻り哄笑し、
「何がおかしい」
長官の目の前に、じりじりと歩み寄ると、腰のベルトから何かを差し出し、
「ハハハ……。今の話、すべてばっちり記録させてもらった」
そう言って、満面の笑みで、右手に握った携帯レコーダーを見せつける。
「貴様……」
長官は、再び怒りに身を震わせ、ナガン回転拳銃*8を、腰から取り出した。
吊り紐で背負ったM16自動小銃を取ろうとした矢先、左手に握った六連式の拳銃が火を噴く。
「お互い銃は抜きだ……、お前も
剣技で決めようではないか」
そう言って拳銃を捨てると、馳け寄ったKGB長官は、サーベルを振りかざして、
「死ねぃ!」と、斬り下ろした。
マサキは思わず後ろに引き、間一髪のところで一撃を避ける。
必死の思いで
銃を抜こうとする兵士達に向けて、長官は言い放った。
「諸君。手出しは無用だ、私の好きなようにさせてくれ。
ソ連を守る盾であるKGB長官の私が、今こそ、このたわけ者に思い知らせてやるのだ」
剣を構えたKGB長官は、さながら憤怒した豹を思わせた。
マサキは、レコーダーを仕舞いながら、失笑を漏らした後、
「面白い。茶番に付き合ってやろう」と、M16小銃から20連発の弾倉を外す。
左腰より銃剣を抜き出し、着剣した刃の先を、老人に向けた。
薄ら笑いを浮かべる老人は、サーベルを持ちながら段々と、にじり寄って来る。
マサキの繰り出した銃剣の一撃を難なく
「あっ……」
マサキの顔に、不安と
もう一度、銃剣を繰り出すも、サーベルを払い落とすどころか、寸での所で弾き返されてしまう。
火花が散り、カチンと鈍い金属の音が不気味に響き渡る。
身を
このままいれば、
「何を怯えている。さあかかってこい、木原よ」
喜色をみなぎらせた老人は、左手で煽る様にマサキの事を手招きする。
マサキは再び小銃を構えるが、負けを悟った……。
このままでは勝てない……。
だが薬室には、挿入した5.56x45ミリ NATO弾が一発は入っている。
至近距離なら外しはしまい……。
戦いとは情け無用なのだ。KGB長官のお遊びも終わりにしよう……。
僅かばかりの勇気を振り絞って、男の胸目掛けて銃剣を着き出す。
老人は身をかわすと、左手で銃身を握りしめ、サーベルで彼の肩から切りつけた。
刀は背中から着けていた×字型の
力いっぱい小銃を振り回して、老人の手から離す。
マサキは、胸元に銃口を突き付けると躊躇いなく小銃の引き金を引いた。
絶妙の剣技で攻め立てた老チェキストの亡骸から銃剣を引き抜くと、周囲を見渡す。
興奮が醒めて来たマサキは、恐る恐る左肩を見る。
強烈な一撃を喰らうも、背負紐の金具によって裂傷は防げた模様。
だが痺れるような痛みが、左手の指先まで広がって来るのを実感した。
小銃を負い紐で背中に回した後、右手でぐっと抑える。
左肩の傷は段々と痛みを増して来て、下に着ている肌着を
額から流れ出る汗を拭う事もせずに、マサキは、並み居る赤軍兵を一瞥。
右手をベルトのバックルに当てると、眩い光とほぼ同時に衝撃波が広がっていく。
光球は素早く移動し、ゼオライマーの元に向かった。
ゼオライマーの操縦席に転移したマサキは、背負っていた自動小銃を脇に投げ出す。
左肩を押さえ、やっとの思いで背凭れに座り込むと同時に合図した。
「美久、出力80パーセントでメイオウ攻撃を仕掛ける」
彼は、操作卓のボタンを右手で手早く連打する。
「了解しました」
ゼオライマーの手の甲に付いた球体が光り輝き、周囲を照らす。
次元連結システムを通じて、異次元空間よりエネルギーが集められ始まる。
力なく垂れ下がっていた機体の両腕が、勢い良く肩の位置まで上がった。
市街地より濛々と土ぼこりを舞い上げ、勢いよく前進して来る40機余りの集団。
恐らく試作機か、新型機であろうか。後方よりMIG-21を引き連れ、突進してくる。
件の機体は、ずんぐりむっくりとしたMIG-21バラライカとは違い、ほっそりとしている。
各部の意匠や全身が角ばった装甲板が配置された外観は、従前のバラライカとは大きく異なった。
刃の切っ先を思わせる様な鋭い面構えに、ソ連技術陣の期待の高さを伺わせる。
轟々と空より、響き渡る跳躍ユニットの音。
西の方角より匍匐飛行で、80機余りの灰色の塗装の施されたMIG-21が現れた。
右肩に大きく描かれた赤い星……、ソ連赤軍を示す国家識別章。
左肩に書かれた連隊番号が
横一列に隊列を組んで、段々と低空飛行で接近してくるのがレーダーで確認できた。
如何に多数の戦術機を運用するソ連赤軍とはいえ、今回の損失は如何ばかりであろうか……
ふとマサキは思ったが、この手で消し去る存在。どうでも良くなった。
「かかれ!奴はたった一機だ。我がソビエトの為に打ち取れ」
隙間なく降り注ぐ弾丸の雨が、ゼオライマーを覆う。
背部兵装担架に懸架している二門の突撃砲も含めた計四門の火砲から浴びせられる攻撃。
何事もないかのように、ゼオライマーは射撃準備を取り続けていた。
胸の球体から、灼熱の太陽を思わせる様な強い光が放たれる。
直後、僚機から戸惑いの声が上がる。
「ええ!」
「何だ、アレは……」
全部隊の状況を確認する余裕は隊長にはなかったが、必死の思いで指示を出す。
「全機後退!タミナール・ビルまで退避ぃ!」
ただ隊長にさえも説明する時間などなかった。
ゼオライマーの攻撃準備を確認する間さえなく、滑走路の路面が大きく割れ始める。
戦術機に搭載可能な兵器では満足に削る事さえ困難な強度を誇るコンクリート……
まるで綿あめのように溶けていく様を見ていると、光に包まれた。
新型機の管制ユニットに、強烈な衝撃が走る。
「此処で退けばソ連の運命は……」
男の駆る灰色の戦術機は、全身を完全に消し去っていった。
数台のソ連空軍汎用ヘリコプター『Mi-8』。
その機内から遠く離れたハバロフスクから上がるキノコ雲を唖然と見つめていたものがいた。
ソ連赤軍婦人兵のラトロワで、グルジア人たちとウラジオストックに向かう途中であった。
「ハバロフスクが……」
心配そうに西の方角を見つめる彼女の背中に、カフカス人の若い男が近寄る。
M69将校勤務服を着た黒髪の男が、そっと包み込む様に両手で肩から抱きしめた。
「フィカーツィア。親父が……俺を逃がした理由は分かるか」
左側に立つ男の顔を覘く。緑色の瞳がじっと彼女の顔を捉えた。
「親父は、最初から
抱きしめられたラトロワは、男の体の震えを背中越しに感じ取っていた。
「親父はグルジア共産党第一書記として、グルジアの自主独立の道を探っていた。
30年余り
グルジア保安省大臣も務めた男だ……。
あのゼオライマーと言う
男の潤む
「俺に落ち延びる様に命じたのは、何れグルジア再独立の際に……」
込み上げる感情で、男は、
ソ連はBETA戦争初期、ロシア系市民以外の少数民族の戦線投入を実施した。
しかしBETAの迫りくる物量の恐怖は、プロレタリア独裁の専制政治を遥かに凌駕した。
時折、仏心を見せたKGBとは違い、BETAは機械の様に動き回り、ソ連を無慈悲に
最前線での脱走や反乱は日常化し、指揮系統の維持は困難を極めた。
そこでソ連政権の採った方策は、スターリン時代以来、禁忌の存在であった民族問題。
同民族での部隊編成や、終戦後の民族共和国ごとの自主独立をソ連政治局の指令で認めた。
しかし同時に、楔を打ち込むことは忘れなかった。
出生した乳児は、生後間もない段階で軍事施設に送り込む、政治局指令を合わせて発令。
1936年以来、家庭保護、母性の尊重を続けたソ連の家族政策を一変させる出来事であった。
人々は、かつて孤児が徒党を組み、街を練り歩き、婦女子を辱め、店を破壊したを思い起こす。
家族制度の否定による、道徳なき時代の再来を、心から危惧した。
男は、志半ばで倒れた亡父を想い、
ラトロワは、背中で男の温もりを感じながら、静かに聞いていた。
「ソ連の銀狐の息子として……、グルジア第一書記の息子として……」
言葉に詰まった男は、思わず天を仰ぎ、
「自分の遺志を継いで、政治の表舞台に立ってほしいという事だよ。俺はそう思っている」
そう告げると、男は悲痛な面持ちのまま、項垂れた。
傷心の男を慰めようと、機内にいる人物の口々から発せられる。
抱き着く男の前に佇むラトロワの耳にまで、カフカス訛りの強いロシア語が聞こえて来た。
「若……」
「無念で御座ります……」
男の頬から流れ出る
1978年7月3日。
その日、帝政ロシア時代より続いた120年に及ぶハバロフスクの歴史は終わった。
マサキは、
機密性の高い操縦席で喫煙をするのは、ご法度ゆえ、一人機外に降り立っていた。
マサキは痛む左肩を庇いながら、懐中より紙巻きたばこを取り出す。
ホープの紙箱よりタバコを抜き出すと、口に咥え、右手に持つライターで、炙る様に火を点けた。
「あまりにも
そうつぶやくと、紫煙を燻らせながら跡形もなく消えたハバロフスク市街を一人歩いた。
暫し考え込んだ後、煙草を投げ捨てると、再び機内に乗り込む。
荒野に吹く一陣の風と共に、ゼオライマーは姿を消した。
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年明けからは、暁での連載に追いついて来ているので、不定期投稿とさせていただきます。
拙作18禁外伝のURLについて
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全年齢版なのでNG
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