冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
その際、CIA工作員と接触し、謎の物質、G元素の回収を依頼される。
マサキは、ハバロフスクから遠く離れた西ドイツのハンブルグに転移した。
間もなく始まるB-52『
その一方を聞くやマサキは、自分を道具の様に使う、この世界の日本政府に呆れた。
昨晩より一睡もしていない彼は、命令を伝達した
無論、八つ当たりではあるが、彼の思考能力は、それほどまでに睡眠不足で低下していたのだ。
だが基地に戻るなり、彼はCIAの工作員と引き合わされた。
「貴方が木原博士ですね」
頭を出家僧の様に、綺麗にそり上げた、背の高いの白人の男が、声を掛ける。
右手に黒いリボンが着いた灰色のホンブルグを持ち、金縁のレイバンのサングラスをかけている。
上質なカシミヤ製の濃紺のブレザーを羽織り、灰色の純毛のスラックスに、ストレートチップ。
ブルックスブラザーズの服で固めた工作員は、
マサキは、椅子の背もたれに寄り掛かると、大きな
「手短に頼む。俺は昨日から寝ていないんだ」と、紫煙を燻らせる。
男はサングラスを取ると、茶色の瞳で、気怠そうな顔をしたマサキの顔を伺い、
「左様ですか。では貴方にこのハイヴ攻略が成就なさった後、米国で我等が研究のお手伝いをしてほしいのです」
たどたどしい日本語で話しかける工作員の方を振り向き、
「俺は、あの化け物共が持ち込んだ物質がどんなものか、さっぱり分からぬ。
その研究とやらを詳しく教えてくれ」と、こう告げ、左手に持ったコーラを一気飲みする。
面会して
「実は我々は5年ほど前、ハイヴから特別な物質を発見いたしました。
ロスアラモス研究所のグレイ博士が発見した物で、俗に『G元素』と呼ばれるものです」
と、自慢げに語り始めた。
『G元素』と呼ばれるもの。
それは、重力操作や強力な電磁波の発生など、未知の領域の技術発展の可能性を秘めた物質。
事の始まりは、1974年、カナダ・サスカチュワン州アサバスカに、BETAが落着した時に戻る。
その際、核飽和攻撃で殲滅した残存物から、人類未発見の物質が発見された。
手を持て余したカナダ政府により、米国のロスアラモス国立研究所に持ち込まれた。
同研究所の若手研究者、ウィリアム・グレイ博士が調査し、人類未発見の元素を発見する。
後に、彼の名を取ってを、グレイ元素と名付けた。
工作員からの説明を受けた彼は、興味深そうに頷くと、
「ほう。俺に化け物の巣穴を掘り返せと……」
タバコを灰皿に押し付けてもみ消し、斜め後ろに立つ美久に声を掛ける。
「美久、俺の部屋からファイルを持ってこい。それを此奴らの親玉に暮れてやれ」
野戦服姿の彼女は一礼をすると、部屋から出て行った。
その姿を見送った後、再び男の方を向いて、
「BETAの不可解な行動から、俺はある推論を立てた。
遠く銀河系の果てから来て、自己増殖を繰り返す化け物……世間はそう見ているが違う」
再び沈黙した後、ゆっくり眼を開け、
「奴等の狙いは地球上の資源集め。
カシュガルハイヴでの人民解放軍の調査にも協力したが、大変な量の埋蔵資源が持ち出された形跡がある。
中ソの核爆弾投下作戦失敗から、2週間足らずで光線級と言う、レーザーを出す化け物を作った所を見ると……」
と、胸ポケットより、ホープの箱を取り出し、
「少なくとも奴等の中継基地は14光日、或いは情報が往復することを考えて7光日の距離にあるとみることが出来る」
と、箱から、紙巻きタバコ抜き出し、咥える。
昨晩より一睡もしていないのが答え始めたのだろうか。
段々と眠くなってくる脳を刺激しようと、ふたたびタバコに火を点け、
「ただ、この世界のロケットエンジンがいかに進んでいるとはいえ、打ち上げ準備期間や燃料の問題から、そんな短期間で奴等の基地を破壊することは困難であろう」
唖然とする工作員を前に、下がった眦を上げて、笑みを作る。
「そうなって来ると、この俺に頭を下げに来たと言う事か」
マサキは、気怠さを吹き飛ばすかの様に、勢いよく立ち上がり、
「良かろう。この際、俺が露助共に先んじてG元素とやらを盗み出して、それをシベリア中にばら撒いてやる」
一頻り笑って、強がって見せた後、再び男の顔を覘く。
「強力な磁場を発生させて、二度と蛮族しか住めぬような土地に変えるのも悪くはあるまい」
と答え、深々と紫煙を燻らせた。
「只今お持ち致しました」
美久が持ってきた資料を一瞥した後、胸に刺したボールペンを取り、白紙の上を滑らせる。
マサキは悪筆ではないが、筆記体が読めぬ米国人が多いので、ブロック体を楷書で書いて、
「これをグレイ博士とやらに見せてくれ。俺からの頼みはそれだけだ」
そう言って白紙をファイルの中に挟むと、男に渡した。
CIA工作員の男が、部屋から退出した後、奥で座っていた
「おい彩峰!この世界の三菱重工か川崎重工でもいい。とにかく戦術機の研究をしている会社に連絡してくれ」
「木原よ、何故にそんな会社に連絡をするのだ。俺を通して陸軍の技術本部でも良いぞ」
「一か所に限定すれば恐らくKGBに情報を
マサキは、親ソ反米派の独断行動を恐れたのだ。
元の世界で、嘗ての世界大戦の際も各国に居た容共親ソの工作員の為に避けられる戦争が避けることが出来ず、一千万単位の人命が失われた事を苦々しく思い起こしていた。
ルーズベルト政権下で辣腕を振るったハリー・ホプキンス*1やアルジャー・ヒス*2などがGRUやNKVDの工作員であったのは公然の事実。
ソ連を生き延びさせた
彼の指示で、原材料のみならず、原爆制作キットと呼べるような半完成品の状態で、米国からソ連に送ったりもした。
ヒスは、GRUスパイとして、政権に参画し、国連創設に関与などもした。
そんな彼は、後にソ連スパイと米国共産党*3秘密党員であることが暴露され、収監された。
出所後、厚かましくも裁判を起こし、勝訴した後、恩給で悠々自適に過ごしている、と聞く。
防諜関係の厳しい米国でも履いて捨てるほどいるのだ。
ソ連に甘い、この世界の日本にはKGBの間者が居ないとは、言い切れない。
前の世界では、ソ連のせいで命を落としたマサキにとっては、気が気でない話だった。
彩峰はひとしきり悩んだ後、引き出しからラミネート加工のされた紙を取り出す。
そして、マサキに渡し、
そこに書かれていたのは、日本の主要な国防産業の連絡網だった。
「何がしたいが分からないが、俺の名前を出して電話しろ。取り次いでくれるはずだ」
マサキは、まじまじと電話帳を見る。
「彩峰……」
彩峰は引き出しから、ラッキーストライクを出すと、封緘紙*7を切り、開ける。
両切りのタバコを机に叩き付けながら、告げる。
「お前の頼みは聞いた。今度は俺の頼みを聞く番ではないのか」
両切りタバコの片側を潰して、吸い口を作るために、コツコツと
マサキは冷笑を浮かべた後、一言漏らした。
「ミンスクの化け物を消したら、暇をもらいたい」
そう言うと、唖然とする彩峰を無視し、彼は立ち上がる。
立ち竦む美久の手を引いて、ドアを開けると、部屋を後にした。
それから、マサキは単機ゼオライマーを駆り、ミンスクハイヴに向かった。
時刻は午前三時ごろで、夜明けとともに開始されるミンスクハイヴ空爆まで残された時間は、あと僅か。
ウラリスクやマシュハドの時の様に、さっさと片付ければ終わるであろう。
ただ今回はG元素を採取してきて欲しいとの依頼があったので手間はかかろう。
コンテナ20ケース程を拾い集めたら、ソ連赤軍が使えぬように原子レベルで灰にするつもりだ。
ハイヴ内にはG元素に相当する物を作る精製設備があるのではないかという米軍やCIAの報告書を基に直近に転移した。
以前より数を減らしたとはいえ、多数のBETAが群れる様にして周辺を
ざっと見た所、恐ろしい溶解液を吐き出す、要塞級などが50体ほど確認できた。
ベルンハルトが、非常に怖がっていたのを思い出すも、貧弱な機体に頼らざるを得ない戦術に疑問を抱く。
一面に火砲を並べ、一斉射撃をし、光線級を消せば済むだけではないか。
この無敵のロボット、天のゼオライマーがあれば、容易い。
あの目玉の化け物共を、100キロ先からも狙い打てる次元連結砲に、必殺のメイオウ攻撃。
G元素などに
『あのカシュガルにあった、タコの化け物が何かの指令を中継する装置だったのであろうか』
マサキの脳裏にふと疑問が浮かんだが、どうせ吹き飛ばす存在故に、どうでも良くなった。
次元連結砲を連射して、手当たり次第にBETAを駆逐すると、地上構造物に突っ込む。
東京タワー程はあろうかという高さの構造物を、即座にメイオウ攻撃で破壊。
天に向かって、ぽっかり口を開けた深い縦穴に向かって降りる準備をする。
底知れぬ深さの、
ゼオライマーの地中探査レーダーの測定結果は、1200メートル。
ざっと、自由落下の速度を計算したが、153メートル毎秒……
勢い良く飛び込むと、加速が掛かり、強烈な
落下する寸前、自動制御でブースターが掛かり、軟着陸をする。
薄暗いホール状の空間の中央に近づくと、やがて青白い光を放つ異様な物体が浮かび上がって来た。
まるで卵に似た形状をしており、よく見ると表面はまるでパイナップルの様なデコボコとした姿が見える。
恐らくこれが化け物共を誘導する装置なのではないか……
形は違えども、カシュガルで見たタコ足の生えた気色の悪い化け物と同じ類ではないか……
CIAの資料に在った反応炉というのは、此の事であろう。
もしこの巣穴の主ならば、遠い異星との通信を担当しているのであろうか。
ならば、この場から信号を送られ、地球に向けて増援を寄越される事態になってからでは遅い。
躊躇せず、メイオウ攻撃で原子レベルまで
マサキは着ている深緑の野戦服を脱ぐと、強化装備と
できれば
人体にどの様な悪影響を及ぼすか、不安だったため、嫌々ながら装備を付けたのだ。
持ってきたスコップで、コンテナボックスに残土を拾い集めている時、機内に居る美久が訊ねて来た。
「何か、向こう側から、呼びかけのような反応が、ありましたが……」
マサキは、ふとスコップを落とした。
『俺は、勘違いをしていたのかもしれない』
マサキは、BETAが一種の生体ロボットであることは類推していた。
カシュガルでのタコの化け物がコンピューターを、美久を乗っ取ろうとしかけていた事から、そう考えていた。
故に、今回も電子機器に何かしらの反応があると踏んで、次元連結システムをフルに活用し、反応を調べていた。
だが、めぼしい反応がなかったと諦めていた矢先に、この話を聞いて思い悩んだ。
彼女は今、鉄骨のような状態で、次元連結システムの
秘密を知る八卦衆も、ラストガーディアンの沖のいない、この世界では、彼しか知らぬ秘事中の秘であった。
もし、今の事が事実ならば、BETAはシリコン、詰り珪素に反応したという事……
有機生命体である人類や哺乳類を生命として認識しているか、疑わしくなってきた。
間もなく彼は、一つの結論に達した。
『やはり奴等は、母星から滅ぼさねば……』
そうなって来ると、この地球を支配する事より、まず先にBETAの母星に乗り込んで、本拠地ごと
マサキは、途端に不安になった。
今のゼオライマーの装備では、次元連結砲以外の武装が無いのが、最大の弱点だ。
未だ人類未到達の月や火星にあるハイヴに乗り込んだ際に近接戦闘に持ち込まれたりすれば、防ぐ手立てはない。
マサキは、そう思うと、背筋に冷たいものを感じた。
天のゼオライマーは、他の八卦ロボとは違い、無限のエネルギーを有する。
それ故に、ほぼすべての武装を遠距離攻撃を主とするものに限定して設計した。
月のローズ・セラヴィーのように近接戦闘に対応する武器がない……
山のバーストンの如く、多段ロケット連装砲のような補助兵装も無ければ、火炎放射器やビーム兵器の類も無い。
天候操作や人工地震の発生も一応可能だが、風のランスターほど十分ではない。
やはり新型機を、この世界で作るしかないか……
この世界のロボット建造技術があれば、元の世界で10年掛かる所を半年で出来るかもしれない。
鉄甲龍に残った同僚・ルーラン*8は15年の歳月を掛け、自分が破壊した八卦ロボを再建した。
異界の天才技術者の手を借りるのも、悪くは無い。
そうなると、先んじて戦術機と言う大型ロボットを開発した米国の知見を利用する。
悪くないように思える……。
早速基地に還った後、戦術機の技師である
その様な事を考えながら、コンテナを機内に回収すると、コックピットに乗り込む。
椅子に腰かけて、地上に発進する準備をしている最中に、
「未確認の機影が多数接近。その数50機ほどです」
と、美久の報告を受け、通信を聞いたマサキは、
「恐らく米空軍だ」と、思わず、不愉快な顔をする。
事前連絡の有った通り、大規模な絨毯爆撃が開始されるのであろう。
新型の高性能爆薬S-11の威力は、未知数。
余計な損耗を避けるために一刻も、早く脱出するのが得策。
操作卓を右の食指で強く打刻すると、即座に機体は転移された。
マサキは、一旦、ミンスクハイヴから西方に30キロほどの位置に後退すると機体を着陸させる。
場所は、ラコフと表示され、リトアニアのビルニュスに向かう街道沿いの村落である事が判った。
爆撃を一通り終えた後、最後の仕上げとして白ロシアの東半分を廃墟にするためであった。
段々と東の空が明るくなって来ると、深い
廃墟となったロシア正教の寺院と思しき建物が目に入る。
その様を見ながら、マサキは過去の追憶へ沈潜していた。
ソ連は、マルクスの言う所の『宗教は人民の阿片』という共産主義の原理に基づいて、あらゆる宗教を否定した。
ギリシア正教の流れをくむロシア正教は言うに及ばず、イスラム教、仏教、土着信仰の類まで徹底的に弾圧。
王侯貴族の墓所を暴き、金銀財宝を略奪したばかりではなく、古代から崇拝の対象になっていた権力者や各宗教の聖人の墓所を暴き、屍を弄んだ。
各宗教、宗派から荘園や寺院を暴力で取り上げ、僧侶や神父などの聖職者の大部分は、刑場の露と消えた。
ロシア正教の
モスクワの救世主ハリストス大聖堂*10など、代表的な施設は爆破されて、無残な姿をさらした事を思い起こす。
爆破の指令を出したスターリンは、神学校出の強盗犯であったのは、何という皮肉であろうか……
何れや、BETA戦に一定の目途が着いた暁には、この世界から共産主義者を滅することを心に誓った。
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18禁外伝のURLと題名は下記に乗せました(あとで表紙に乗せます)。
「ベアトリクス・ブレーメの淫靡な夢」です。
URL:https://syosetu.org/novel/289469/
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