冥王来訪(ハーメルン投稿版)   作:雄渾

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ミンスクハイヴからG元素を運び出そうとするマサキに、KGBは襲撃を掛ける。
極度の疲労の為、判断の低下し始めたマサキの運命は、如何に。


雷鳴止まず 中編

 太平洋艦隊の母港であるウラジオストック。

この地は、古くから蒙古や鮮卑系の渤海(ぼっかい)や金の一部で、外満洲(がいまんしゅう)と呼ばれる地域。

ロシア人到達以前より、同地は支那王朝の影響下にあり、明代は永明城、清代は海參崴(かいさんい)と称した。

 17世紀末、毛皮交易と称して領土拡張の野心を抱くモスクワの意図を汲んだロシア人が侵入。

数度、武力衝突があったが、康熙(こうき)28年*1、清朝によって国境が策定された。

世に知られている尼布楚(ネルチンスク)條約である。

 しかしロシア側は、次第に国境を無視。清朝の領土を侵食。

太平天国の乱*2で混乱する清国を、一方的に武力で威嚇。

咸豊(かんぽう)7年*3と咸豊9年*4には、帝政ロシアに有利な領土条約を一方的に結んだ。

これにより、黒龍江左岸の外満洲はロシア領の沿海州になった。

 

 

 そのウラジオストック防衛のために金角湾を臨む丘の上に(そび)える要塞。

19世紀末に極東の不凍港として開発された際に設置されたもので、対日、対米の軍事戦略上、重要視された。

同要塞にはソ連時代に入ると赤色海軍・太平洋艦隊司令部が置かれた。

 

 司令室に着いたブドミール・ロゴフスキー中尉は、黒山の人だかりに驚愕した。

ソ連邦構成15か国の代表団で、ごった返す入り口を、脇から警備兵と共に強引に入り込む。

奥に入ると、一人の男が、グルジア代表団との討議をしている最中であった。

 大将の階級章を付け、夏用将官服を着た男は、ソ連赤軍参謀総長。

彼は、臨時の『前線視察』と言う事でウラジオストックに先立って入市していた。

結果的に、ゼオライマー襲撃から運良く難を逃れていたのだ。

 

 

「既にハイヴ攻略が成されたとなれば、我々はソ連構成国より独立させていただく所存です」

勤務服(キーチェリ)姿の青年将校の言葉に、上座に腰かける参謀総長は、

「即時離脱は、私の処断で認められない」というを口実にし、

「だが、国連加盟なら許す方向にもっていくつもりだ」と、別な提案をして見せた。

 

 

 1924年のソ連憲法、1936年のスターリン憲法に在っても、ソ連構成国の独立する権利は文書として認められていた。

建前上、ロシア・ウクライナ・白ロシア・ザカフカスの四か国代表の合意のもとにソ連建国が成されたという形をとっていた。

故に1944年の国際連合結成時、独立国としてウクライナ・白ロシアの個別加入が認められ、ソ連は国連に3議席を持つことが出来た。

 無論、完全な独立国ではなかったが、英国による英領インドの国連加盟を認める取引の為に、この二か国は独立国として国連に議席を持つことになった。

 

「もっとも党中央委員会(ツゥーカ)で議決を取ってからだ。同志、頭を冷やし給え」

サムブラウンベルトを付け、深緑の勤務服を着た将校たちは、一斉に立ち上がる。

「残念ですが、貴方方と同じ夢を見ることは出来なさそうです」

そう若い将校が吐き捨てると、グルジア人たちは部屋を後にした。

 

 グルジア人たちが引き上げたのを見計らった後、ロゴフスキー中尉は、

「どうしますか……例の日本野郎(ヤポーシキ)

我等の方針に不満で、勝手にハイヴに突っ走てるんですよ」と、上座の参謀総長に声を掛ける。

前日、(もたら)された戦術機による首都壊滅の報は、より緊張を高めた。

「己の力を全世界に示して、主導権を自分たちの物にしようと…… 

「ゼオライマーか……」

参謀総長は、不敵の笑みを湛え、

「思い通りに動いてくれたってことさ」

若い中尉は、予想外の答えに絶句した。

「えっ……」

勢いよく参謀総長は立ち上がる。

「同志ロゴフスキー……、木原みたいな存在は、そういう行動をさせるに限る。

だからこそ、使い道がある」

立ち尽くすロゴフスキー中尉の顔を見つめ、

「シュトラハヴィッツがはたして、どういう対応を取るか……。

ゼオライマーは、絶好の捨て石になる」

 

 

 その頃、濛々(もうもう)と土ぼこりを挙げた、ソ連の戦術機部隊が、マサキの元に迫っていた。

漆黒の塗装がされた、Mig-21バラライカ、総勢50機の大部隊。

そして、約20機ほどのハインドヘリコプターに、数十名の工作員を乗せ、ラコフに接近していた。

 

 KGBは、西ドイツ国内にいる間者の情報によって、マサキの動向を察知した。

リトアニアのビルニュス*5支部からアルファ部隊を派遣。

ハイヴ攻略により、疲労困憊したマサキから、G元素を奪取する作戦であった。

 

 このミンスクハイヴを破壊すれば、地上におけるBETAの侵略拠点は、全て無くなる。

5年の長き戦いが終わるのだ。どことなく兵士たちの心に安堵(あんど)に似た感情が湧いていた。

 

「同志大尉、例の日本野郎(ヤポーシキ)は如何なさるんで……」

「G元素を持ってきたところを襲って、それを()(さら)い、リガ*6まで退却する。

あとはそこから戦艦『ソビエツキー・ソユーズ』*7に乗って、ウラジオストックまで帰る。

実に簡単な仕事だ。諸君等は悩む必要はあるまい」

タタール人の男は、マサキの扱いを隊長に訊ねた。

「じゃあ、後は俺達が好きにしていいんですね」

タタール人は硬い表情を崩すと、舌を舐めずる。

 

 大尉は、男のその様を見るなり、冷笑を漏らした。

「例の男に関しては、G元素さえ、手に入れれば問題ない。煮るなり焼くなり勝手にしろ」

その返答を受けて、男は下卑(げび)た笑い声を上げる。

「ありがてえ話でさあ」

 

 

 機内で、いつの間にか転寝(うたたね)していたマサキは、警報音に目を覚まされる。

(わずら)わしく思っていた矢先、美久から、

「接近する機影、およそ30機。ソ連軍の戦術機部隊と思われます」

と、連絡を受けると、不愉快そうに操作卓を叩きつける。

 

(『やはり、KGB長官とソ連最高評議会議長を殺しただけでは、終わらなかったか』)

 そう思って機密兜(ヘルメット)を脱ぎ去り、座席の下に放り投げた。

重く鬱陶(うっとう)しい機密兜もそうだが、着心地の悪い強化装備は、彼を苛立(いらだ)たせた。

元の世界でゼオライマーを動かしたときも、殆んど専用のパイロットスーツを着なかった。

 

「美久、奴等の接近までどれほどある」

「あと、5分ほどです」

「着替えるのに十分だな」

そういって、強化装備の軟化剤を注入するボタンを操作する。

粘土の様になった特殊保護被膜を、いきおい良く引きちぎり、

「しかし、不愉快な服だ」と捨て去り、一度赤裸(せきら)になる。

そして下着の上から、帝国陸軍の野戦服と軍靴を付けるや、

「美久、KGBの連中を血祭りにあげるぞ。この世に奴等が居た、証しすら残らぬほどにな」

と、推進装置を全開にした。

 

 

 まもなく、戦術機隊は、一体の巨人が目に入った。

全身にBETAの血煙を浴びて、白い装甲板は所々赤黒く染まっており、黄色い宝玉の様な目が爛々(らんらん)と光り、両手を胸の位置で構えていた、不気味な様は、攻め寄せる大軍を圧して、

「あれこそ、ゼオライマーか」と、眼を見張らせるばかりだった。

 

 そのうちに陣頭から、アルファ部隊隊長のKGB大佐、その部下の大尉と共に、

「木原を討って取れ」

と、呼ばわりながら、アルファ部隊の強兵をすぐって、ゼオライマーへ迫った。

 敵が打鳴らすジェットの(とどろ)きを耳にしながら、

「動くな。奴等を近づけろ。次元連結砲だけで仕留める」

 マサキは、美久を制しながら、落着き払っていたが、やがて、500メートルの間に近づいたと見るや、

「ソ連のロボット如きに、俺を止められると思うな!」

と、号令一下、推進装置を全開にし、群がるKGB工作隊の中へ突入して行った。

 

数十の戦術機は、風に伏す草の如く、たちまち、ゼオライマーに蹴ちらされて、突撃砲も滑腔(かっくう)砲も、まるで用をなさなかった。

「そんな豆鉄砲など、このゼオライマーの前では問題にすらならん」

下部スラスターから砂塵をあげて追いかけにかかると、その時、横合いから突然、

「黙れ!日本野郎(ヤポーシキ)。今まで受けた屈辱(くつじょく)、今日こそ果たさせてもらうぞ」

と、10メートル以上ある長刀を舞わして、勢いよく打ってかかった者があった。

 

「何!」

ゼオライマーは動きを止めて、きっと振返った。

バラライカと違い、全身が細く、頭部にはメインカメラを守るために鋭い刃が、バイキングの兜の鼻当ての様についている。

黒の新型機が振りかぶってきた一閃を、右の手甲で受け止め、

「この木原マサキに、何の用だ」と、ロシア語で訊ねた。

「G元素と貴様の命、貰いに来た」と、左手で下から短刀を繰り出す。

ゼオライマーも素早い動きで、迫りくる短刀を弾き返すと、

「俺は、命もG元素も渡す気は、ない」と、長剣を弾き、右手を繰り出して、

「死ぬのは貴様だ。KGBめ」と、次元連結砲で、一撃の下、管制ユニットを貫いた。

 

「束になって、かかって来い」

と、マサキは、努めて嘲笑(あざわら)う姿勢を見せつけた。

数十の戦術機を物ともせず、暴れ回るゼオライマーの姿に、

『このままでは全滅だ』と思ったのか、アルファ部隊の隊長が、

「この勝負預けた」と、言い捨てて、ヘリコプター部隊と共にリトアニアの方に引き返した。

 

 18時間近い戦闘の影響で、極度の疲労に達していたマサキは、

「どうせ奴等は、米空軍の絨毯爆撃で死ぬ。捨ておけい」と言って、操作卓に倒れ込んだ。

 敵機が尻尾を巻いて逃げたので、緊張の糸が切れたのだろう。

そう考えた美久は、自動操縦でハンブルクの基地へ、ゼオライマーを転移させた。

 

*1
1689年

*2
1851年から1864年におきたキリスト教を元にした新興宗教の反乱。この影響で、清王朝は軍閥の拡大と中央集権の弱体化が進み、外国勢力の侵略を許すことになった

*3
1858年

*4
1860年

*5
リトアニア共和国の首都

*6
ラトビア共和国の首都

*7
ソ連で、1930年代に計画されていた戦艦。史実では世界大戦の煽りを受けて中止されるが、マブラヴ世界だとスターリンの死後、予定された4隻の戦艦を建造した




 暁の方で一度ボツにした話を推敲した物を書き足しました。

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