冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
極度の疲労の為、判断の低下し始めたマサキの運命は、如何に。
太平洋艦隊の母港であるウラジオストック。
この地は、古くから蒙古や鮮卑系の
ロシア人到達以前より、同地は支那王朝の影響下にあり、明代は永明城、清代は
17世紀末、毛皮交易と称して領土拡張の野心を抱くモスクワの意図を汲んだロシア人が侵入。
数度、武力衝突があったが、
世に知られている
しかしロシア側は、次第に国境を無視。清朝の領土を侵食。
太平天国の乱*2で混乱する清国を、一方的に武力で威嚇。
これにより、黒龍江左岸の外満洲はロシア領の沿海州になった。
そのウラジオストック防衛のために金角湾を臨む丘の上に
19世紀末に極東の不凍港として開発された際に設置されたもので、対日、対米の軍事戦略上、重要視された。
同要塞にはソ連時代に入ると赤色海軍・太平洋艦隊司令部が置かれた。
司令室に着いたブドミール・ロゴフスキー中尉は、黒山の人だかりに驚愕した。
ソ連邦構成15か国の代表団で、ごった返す入り口を、脇から警備兵と共に強引に入り込む。
奥に入ると、一人の男が、グルジア代表団との討議をしている最中であった。
大将の階級章を付け、夏用将官服を着た男は、ソ連赤軍参謀総長。
彼は、臨時の『前線視察』と言う事でウラジオストックに先立って入市していた。
結果的に、ゼオライマー襲撃から運良く難を逃れていたのだ。
「既にハイヴ攻略が成されたとなれば、我々はソ連構成国より独立させていただく所存です」
「即時離脱は、私の処断で認められない」というを口実にし、
「だが、国連加盟なら許す方向にもっていくつもりだ」と、別な提案をして見せた。
1924年のソ連憲法、1936年のスターリン憲法に在っても、ソ連構成国の独立する権利は文書として認められていた。
建前上、ロシア・ウクライナ・白ロシア・ザカフカスの四か国代表の合意のもとにソ連建国が成されたという形をとっていた。
故に1944年の国際連合結成時、独立国としてウクライナ・白ロシアの個別加入が認められ、ソ連は国連に3議席を持つことが出来た。
無論、完全な独立国ではなかったが、英国による英領インドの国連加盟を認める取引の為に、この二か国は独立国として国連に議席を持つことになった。
「もっとも
サムブラウンベルトを付け、深緑の勤務服を着た将校たちは、一斉に立ち上がる。
「残念ですが、貴方方と同じ夢を見ることは出来なさそうです」
そう若い将校が吐き捨てると、グルジア人たちは部屋を後にした。
グルジア人たちが引き上げたのを見計らった後、ロゴフスキー中尉は、
「どうしますか……例の
我等の方針に不満で、勝手にハイヴに突っ走てるんですよ」と、上座の参謀総長に声を掛ける。
前日、
「己の力を全世界に示して、主導権を自分たちの物にしようと……
「ゼオライマーか……」
参謀総長は、不敵の笑みを湛え、
「思い通りに動いてくれたってことさ」
若い中尉は、予想外の答えに絶句した。
「えっ……」
勢いよく参謀総長は立ち上がる。
「同志ロゴフスキー……、木原みたいな存在は、そういう行動をさせるに限る。
だからこそ、使い道がある」
立ち尽くすロゴフスキー中尉の顔を見つめ、
「シュトラハヴィッツがはたして、どういう対応を取るか……。
ゼオライマーは、絶好の捨て石になる」
その頃、
漆黒の塗装がされた、Mig-21バラライカ、総勢50機の大部隊。
そして、約20機ほどのハインドヘリコプターに、数十名の工作員を乗せ、ラコフに接近していた。
KGBは、西ドイツ国内にいる間者の情報によって、マサキの動向を察知した。
リトアニアのビルニュス*5支部からアルファ部隊を派遣。
ハイヴ攻略により、疲労困憊したマサキから、G元素を奪取する作戦であった。
このミンスクハイヴを破壊すれば、地上におけるBETAの侵略拠点は、全て無くなる。
5年の長き戦いが終わるのだ。どことなく兵士たちの心に
「同志大尉、例の
「G元素を持ってきたところを襲って、それを
あとはそこから戦艦『ソビエツキー・ソユーズ』*7に乗って、ウラジオストックまで帰る。
実に簡単な仕事だ。諸君等は悩む必要はあるまい」
タタール人の男は、マサキの扱いを隊長に訊ねた。
「じゃあ、後は俺達が好きにしていいんですね」
タタール人は硬い表情を崩すと、舌を舐めずる。
大尉は、男のその様を見るなり、冷笑を漏らした。
「例の男に関しては、G元素さえ、手に入れれば問題ない。煮るなり焼くなり勝手にしろ」
その返答を受けて、男は
「ありがてえ話でさあ」
機内で、いつの間にか
「接近する機影、およそ30機。ソ連軍の戦術機部隊と思われます」
と、連絡を受けると、不愉快そうに操作卓を叩きつける。
(『やはり、KGB長官とソ連最高評議会議長を殺しただけでは、終わらなかったか』)
そう思って
重く
元の世界でゼオライマーを動かしたときも、殆んど専用のパイロットスーツを着なかった。
「美久、奴等の接近までどれほどある」
「あと、5分ほどです」
「着替えるのに十分だな」
そういって、強化装備の軟化剤を注入するボタンを操作する。
粘土の様になった特殊保護被膜を、いきおい良く引きちぎり、
「しかし、不愉快な服だ」と捨て去り、一度
そして下着の上から、帝国陸軍の野戦服と軍靴を付けるや、
「美久、KGBの連中を血祭りにあげるぞ。この世に奴等が居た、証しすら残らぬほどにな」
と、推進装置を全開にした。
まもなく、戦術機隊は、一体の巨人が目に入った。
全身にBETAの血煙を浴びて、白い装甲板は所々赤黒く染まっており、黄色い宝玉の様な目が
「あれこそ、ゼオライマーか」と、眼を見張らせるばかりだった。
そのうちに陣頭から、アルファ部隊隊長のKGB大佐、その部下の大尉と共に、
「木原を討って取れ」
と、呼ばわりながら、アルファ部隊の強兵をすぐって、ゼオライマーへ迫った。
敵が打鳴らすジェットの
「動くな。奴等を近づけろ。次元連結砲だけで仕留める」
マサキは、美久を制しながら、落着き払っていたが、やがて、500メートルの間に近づいたと見るや、
「ソ連のロボット如きに、俺を止められると思うな!」
と、号令一下、推進装置を全開にし、群がるKGB工作隊の中へ突入して行った。
数十の戦術機は、風に伏す草の如く、たちまち、ゼオライマーに蹴ちらされて、突撃砲も
「そんな豆鉄砲など、このゼオライマーの前では問題にすらならん」
下部スラスターから砂塵をあげて追いかけにかかると、その時、横合いから突然、
「黙れ!
と、10メートル以上ある長刀を舞わして、勢いよく打ってかかった者があった。
「何!」
ゼオライマーは動きを止めて、きっと振返った。
バラライカと違い、全身が細く、頭部にはメインカメラを守るために鋭い刃が、バイキングの兜の鼻当ての様についている。
黒の新型機が振りかぶってきた一閃を、右の手甲で受け止め、
「この木原マサキに、何の用だ」と、ロシア語で訊ねた。
「G元素と貴様の命、貰いに来た」と、左手で下から短刀を繰り出す。
ゼオライマーも素早い動きで、迫りくる短刀を弾き返すと、
「俺は、命もG元素も渡す気は、ない」と、長剣を弾き、右手を繰り出して、
「死ぬのは貴様だ。KGBめ」と、次元連結砲で、一撃の下、管制ユニットを貫いた。
「束になって、かかって来い」
と、マサキは、努めて
数十の戦術機を物ともせず、暴れ回るゼオライマーの姿に、
『このままでは全滅だ』と思ったのか、アルファ部隊の隊長が、
「この勝負預けた」と、言い捨てて、ヘリコプター部隊と共にリトアニアの方に引き返した。
18時間近い戦闘の影響で、極度の疲労に達していたマサキは、
「どうせ奴等は、米空軍の絨毯爆撃で死ぬ。捨ておけい」と言って、操作卓に倒れ込んだ。
敵機が尻尾を巻いて逃げたので、緊張の糸が切れたのだろう。
そう考えた美久は、自動操縦でハンブルクの基地へ、ゼオライマーを転移させた。
暁の方で一度ボツにした話を推敲した物を書き足しました。
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今後、登場してほしいキャラに関して質問(暁の方にも影響します)
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