冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
ミンスクハイヴ攻略を達した木原マサキは、ふと心の渇きを感じるのであった。
ソ連東欧撤兵の発表から、一か月ほど経った、8月7日。
彼等は、急遽帰国の途に就くことになった。
それ以前より
ミンスクハイヴ攻略まではと先延ばししていた。
だが、ゼオライマーの活躍によって僅か数時間でミンスクを
続々と東独に入るNATO軍や東欧諸国の部隊を横目に、明日のハンブルグ発ニューヨーク経由の成田行きの便で、帰路に就く事になった。
マサキの声が、彼の自室に響き渡る。
「何、
計算尺を机の上に置くと、眉を
「何でも戦術機の開発計画の件で呼び戻されるとか」
「そうか、じゃあここは一つ奴に土産でもくれてやるか」
そう言って奥より筒状の図面入れを出して、書き起こしておいた図面を放り込む。
美久が、大層驚いた仕掛けで呟く。
「それは苦心して、お書きになられた月のローズ・セラヴィーの図面ではありませんか……」
彼女の横顔を見ながら、不敵の笑みを湛え、
「これは、俺のリハビリがてらに書いたものよ。今更何の価値があろうものか」
と答える。
そしてタバコに火を点けて、紫煙を燻らせながら、
「このローズ・セラヴィーさえも色あせるような新型機の素案が出来つつある」
眼光鋭く、美久をねめつける。
「ゼオライマーの予備部品を組み合わせて、
天下無双の存在と言うべき巨大ロボ」
その様を恐れおののく美久の左頬を右手で撫でる。
「名付けて、グレートゼオライマーとな……」
そういうと、今書き起こしている図面を左の食指で指し示す。
ゼオライマーの全身に追加装甲が施されたかのような設計図に、思わず美久は仰天した。
呆然とする美久の顎を、右手で掴むと、マサキは顔を近づけ、彼女の唇を不意に口付けをする。
「な、何をなさるんですか」
美久は、色を失っていた頬の色がグッと赤みを増し、マサキの傍から無理やり離れ、
マサキは、腰まで有る
「決まっているだろう」と、満面に笑みを湛える。
真っ赤に
「篁を通じて米国のハイネマンを俺の目の前に誘い出す。これから奴を利用をするのだよ」
と告げ、部屋を後にした。
マサキは図面筒を引っ提げて、篁たちの部屋に
ダッフルバッグ型の
「こいつを帰国次第、国防大臣か、政務次官の
「そんなものは
「俺はドイツ人がそこまで行儀がいいとは思っていない。肌身離さず持って運んでいけば、それが安全であると考えている」
マサキは
幾ら、欧州連合*1領域内のKGB組織が弱体化したとはいえ、西ドイツにどれだけ浸透しているかは定かではない。
『ギヨーム事件』*2という、西ドイツ首相の秘書がシュタージ将校であることが判明してから、まだ4年の年月しか経っていない。
無論、警戒するに越したことはない。
また同盟国たる米国の中にも見えないソ連の工作の手を
自らの手によって握った銃剣を、KGB長官の
何れはこのグレートゼオライマーの設計も漏れよう。
余計な茶々が入る前に太陽系のBETAをどうにかせねば、この世界でも安穏としてはいられまい。
タバコを懐中より取り出して、火を点けると気持ちを落ち着かせる。
再び篁の方に顔を向けて、
「それに篁、お前は戦術機開発の技師。城内省の人間でもあるが国防省本部にも自在に出入りできるはずだ。
これを持参してどの様な物か説明してほしい」と伝える。
「そしてもう一つ頼みがある。
貴様の妻であるミラとやらにも見せて、1年以内、いや半年以内に作成可能か、教えて欲しい。
それによっては、月にあるハイヴ攻略の見立ても変わって来る」
篁と話している内に、ふと思い出した。
篁は、日米合同で立ち上げた曙計画のメンバーであるミラ・ブリッジスを妻に
どんなものを設計していたかは
日本政府の
ミラ・ブリッジスは、音に聞こえる、米国の天才戦術機設計技師、フランク・ハイネマンの恋人。
日本から来た篁に
彼から、その話を初めて詳しく聞かさた時は、大層気分の良いものでもなかったのを覚えている。
女の
ハイネマンと言う男も恐らくかなりの堅物で、彼女に気などをかけてやらなかったのではないか。
どの様な事情かは詳しくは知りたくもないが、篁の
「
と、額に手を当てて、思案する振りをしながら、生気のない顔で告げる。
マサキは、
一人、屋外の喫煙所で傾き始めた太陽を眺めながら、思案する。
たまたま次元連結システムで流れ着いたこの異世界。
深い関わりを持つうちに、複雑な感情を抱き始めていた事を、マサキは実感していた。
「大分、気分がすぐれぬ様なお顔をしていましたが……」と声を掛けて来た。
そんな彼女の問いに、マサキは、乾いた笑いを漏らす。
「篁の妻の事を思ううちに、
正直、口には出せぬ様な
「えっ」
仰天して、大きく目を見開いた美久の顔を睨みつけながら、
「地球上のBETAの
故に
ふと
一目見ただけで、すっかりベアトリクス・ブレーメに、
あの彼女の
以前会った時、
甘く
ユルゲンは、毎夜、白磁の様な玉の肌を、その胸に
一瞬、ベルンハルト中尉への
深い
この男こそが、思えば、一番人の
心の渇きを
美久は、推論型の人工知能を活用し、そう結論付けようとしていた。
マサキは、一頻り、
「天のゼオライマーを自在に操り、
こんな
クククと自嘲する様な笑い声を上げながら、段々と顔を上げ、
「人妻に
15年の歳月をかけて冥王計画を準備したように、気長に待つ事など造作もないのに……。
紫煙を燻らせながら、再び
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真壁零慈郎
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涼宮宗一郎
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鳳栴納
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クラウス・ハルトウィック
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テオドール・エーベルバッハ
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ジョン・スタンリー