冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
彼は、アイリスディーナと話すうちに、段々と引き込まれていく。
泣き
1時間以上現れなかったことを根に持ったマサキは、仕返しをすることにした。
大方、男女の色恋のもつれで、揉めていたのだろうか。
ちょっとばかり、ユルゲンとベアトリクス、マライの三角関係を荒れさせてみたい。
その様な
マサキは、前の世界で、鉄甲龍のクローン人間が、三角関係で苦しむように仕向けた事がある。
男女の恋の
ベアトリクス達3人の様子を見回した後、まず一番
「茶の準備にしては、馬鹿に時間が掛かり過ぎたな」
彼の言葉を聞いたユルゲンは、真っ赤になって、うつむいてしまった。
その様を見たマサキは面白がって、茶々を入れることにした。
「だから、何かしてたんじゃないかって……」
マサキは、邪悪な
「どうした、
ベアトリクスも、また、含み笑いを浮かべるマサキの視線に、目線を
彼にちらりと覗き見らているような恥ずかしい実感が重なって、
「もう、止めて……」
思わず、
その
今度は、マサキは、乱れた髪を片手で
「大方、3人で
一方のマライといえば、急に言い放れた意味深な言葉に、首を傾げてみせた。
「の、
マサキの言葉に、そういって、軽く受け流す。
東独側の最年長者だけあってか、心の余裕を見せつけた。
だが、
マライの言葉に眉をひそめて、
「木原さんは、ずっと3時間も、この部屋で、私とお茶を飲んでいましたよ。
なんで兄さんたちは、そんなに真っ赤な顔をしてるんですか」
アイリスディーナを見るベアトリクスの表情が、みるみる変わって行く。
何か言いたくても言葉にならない、声にならないと言った表情だ。
しかし、怒っているようではなかった。
「もう、アイリスも馬鹿なこと言わないで。そんな事、放っておいてよ」
ベアトリクスは前にもまして真っ赤になり、プイっと顔を背けて見せた。
一連の流れから、同僚の混乱ぶりを見かねたヤウクは、マサキに反論した。
彼は、アイリスディーナの左脇から立ち上がるなり、
「君ね、どうだっていいけど、結構……
ヤウクは、必死に平静さをよそおって詰めかける。
だが、ぎこちなさは隠せなかった。
マサキは、そのヤウクの混乱ぶりを見抜いて、パッと顔をほころばせ、歓声を上げた。
「ほう、東独の
そして、赤面するヤウクを揶揄う様に、喜色を満面に
「
と、声高に笑って見せた。
それから、一頻り笑いぬいた後、マサキは周囲を見回すと、こう切り出した。
「ベルンハルトよ。お前は俺の同志になれ。
ソ連に乗っ取られたドイツという国を、俺と共に我が物にし、自在に操ろうではないか」
「ええ!」
「だが、安心しろ。次元連結システムの
マサキの一言に、ユルゲンは、文字通り腰を抜かした。
2時間近くかけ、寝室で3人で話し合いをしている間に、こんな事態になるとはと……
主客を放置して、
そんなユルゲンの気持ちは関係なしに、マサキはずけずけと、
「戦争とは、負けたほうが悪くなる。
勝者はすべてを手に入れ、敗者はすべてを失う。これが世界の鉄則。
だからこそ、この俺を頼ったのではないか。違うか」
そして出し抜けに、アハハと声を上げて笑い、
「これくらいにして、お前たちの
と、湯気の出る膳を指差す。
西ベルリンから持ち込んだ食材で作った、色とりどりの料理が並んだ。
現地で出される食事に、どの様な仕掛けがあるか、分からない。
故に、アイリスディーナに頼み込んで、台所を借り、
「勝手ながら、俺の好みで、
椅子に腰かけようとしたベアトリクスは、マサキの顔も見ずに、
「好き嫌いはないけど、自分が食べる物は自分で選びたかったわ」
と、嫌味を告げるも、マサキは、机の上で腕を組みながら
「それは、それは、承知しました。奥方様」と、不敵の笑みを
彼女の脇に立つユルゲンも、追随する様に、
「俺は良いが、他の連中は箸を使ったことがないぞ」と漏らすも、
「社会勉強だと思って、アイリスディーナに教えろ。
また、異なる文化に触れ、知識の引き出しを増やすのも、
箸を使いこなせれば、
と、余りにも堂々と言う物だから、呆れ果てた顔で、椅子に腰かけた。
四川料理は、本場・支那の味付けではなく、辛さを抑えた日本風だった。
マサキは箸を止め、アイリスディーナの方を向き、
「少々、料理の盛り付けも多かったか」と、目を細め、
「なかなか話してみれば社交的ではないか。兄や父親のお陰か」と訊ねた。
「……ありがとうございます」と、謝辞を述べた。
「ずっとベルリンで暮らしてたとか……両親は」
マサキは、ユルゲンに関しては、
だが詳しい話を、アイリスディーナ当人の口から伝え聞きたかった。
アイリスディーナは、顔色を
「幼い頃、離婚しました。私は
マサキは、じっと聞き入りながら、美久に注がれたコーラのグラスを取って、唇を濡らす。
「仕事熱心な父は、家庭を
その後、親権を勝ち取った父は、色々あって育児を放棄しました」
アイリスディーナは、実父ヨーゼフ・ベルンハルトが酒害の末、発狂したことは伝えなかった。
隠すつもりは無かったが、言えなかったのだ。
気分を損ねてしまったかと、恐る恐るマサキは、アイリスディーナの反応を伺う。
「それで、屋敷に居た、あの
表情を曇らせたアイリスディーナの事を見かねたユルゲンは、マサキの事を呼びかけた。
「言わせてくれ」
「貴方」とベアトリクスが袖をつかんで引き留めるも、立ち上がり、
「たしかに俺やボルツさん夫妻が、世間の辛い風も当たらぬように育て上げた。
何か問題でもあるのか」
心の底に隠していた
マサキは、静かに杯を置くと、不敵の笑みを浮かべて、ユルゲンを
「俺の心にかなった娘ゆえ、その背景までも、詳しく聞いてみたくなったものよ。
しかし、妻を持つ身にしては、男女の心の在り方も分からぬとは。相変わらず、
満面に喜色をたぎらせ、黒い瞳で、ユルゲンを
アイリスディーナは、
「兄さんも私も、無償の愛や家族の幸せなんて、信じられないのです。
全てまやかしのように思えて……。
幼くしてそんなことに気付いた兄さんは、母から出来るだけ距離を置き、自立しようとして入隊したのです」
マサキは、真剣な表情で、アイリスディーナを
「お前が、どこか年頃の男を近づけさせないのは、その為か」と漏らした。
アイリスディーナは、一瞬、
サファイヤ色の目を丸くさせ、
「何故……わかったのですか」
「単なる勘さ。お前の眼は、どこか
確かに、はじめから人を愛さなければ裏切られることはない」
再び喜色を表し、左の手で頬杖をつき、煙草を咥える。
そういって来たマサキに、アイリスディーナは、まごついてしまう。
(『私、どうにかしてる。誰にもそんな過去のこと話したことないのに……』)
アイリスディーナの体は、暑くもないのに
顔は紅潮し、汗で全身が湿り始めていたのを、はっきり実感するほどであった。
思わず、マサキの顔を見て、見つめ返され、視線をドアの方に向けてしまった。
ひどく狼狽した表情のアイリスディーナを横目で見つめながら、マサキは静かに紫煙を燻らせた。
いたたまれない
「アイリスディーナ」と叫ぶも、左手をベアトリクスに捕まれた。
彼女の顔色は青白く、一目見て体調が優れないが判るほどであった。
ユルゲンは、ベアトリクスの手を振りほどいて、彼女の背後に立つと後ろから抱き寄せ、
「随分調子悪そうじゃないか。最近機嫌も悪いし、何処か、おかしいのか……」
と、人目も気にせず、彼女の耳元でそっと
「こんな時だけ……、
ベアトリクスの
ユルゲンは、一瞬驚いた顔をするも、照れるベアトリクスの様子を見て、
脇で見ていたマサキは、抱き合っているユルゲンたちに、一瞬眉を
しばし沈黙した後、再び不敵の笑みを浮かべて、語り始めた。
「まあ、よい。
ともかく、欧州における俺の分身として、ベルンハルトという男を
その話を聞いたベアトリクスは、
「どう。ユルゲンはいい人でしょう。こんなの探しても中々いないわ」とマサキの言葉に、ただただ喜び抜ていた。
ベアトリクスの機嫌は一通りではなく、先程までとは別人だった。
マサキは、その様子を見て思う所が在ったものの、酒席と言う事もあって、あえて問い質さなかった。
そんな折、現れた鎧衣は、マサキにそっと声を潜めて、日本語で耳打ちをする。
「木原君、屋敷の周囲は、ぐるりと警備兵がいる。油断は出来ぬと……」
「そうすると、俺は最初からアイリスと一緒にならなければ出られぬと言う事か……」
懐中より取り出した、2箱目のホープの包み紙を開けながら、
「鎧衣よ、貴様もしてやられたな。で、武器は……」
「今持ち合わせてるのは、西ドイツ製の
しばしの沈黙の後、ライターを出し、おもむろに紫煙を燻らせた。
「俺は今、最高にいい気分だ。
喜色をみなぎらせたマサキは、満足気に答えて見せた。
間もなく、美久が熱い茶を用意して
茶葉は西ドイツのロンネフェルトで、ダージリンの
東ドイツでも特権階級層に人気で、ユルゲンやベアトリクスが好きな物を用意した。
マサキが気を使って、用意した茶を飲まないベアトリクスを見かねた、アイリスディーナは、
「あら、ベアトリクス。紅茶飲まないの。冷めちゃうわ」と、遠回しに
「最近、紅茶を受け付けなくて……」と力なく答える。
その話を聞いたマサキは、途端に
(『ま、まさか……』)
立ち上がって、アイリスディーナの脇に居る、ヤウクを手招きし、命令する。
「おいロシア人、灰皿を仕舞って、俺を喫煙所に案内しろ」
すると彼は、ロシア人との
マサキは、世間一般の慣習としてヴォルガドイツ人が、ロシア人として扱われていることを
ヤウクは、面白くなさそうな顔をして、不満を漏らした。
「出し抜けになんだい。僕は君の召使じゃないよ」
マサキはそんな事もお構いなしに、ヤウクに指示を出す。
「
喫煙所に着くや否や、マサキは渋い顔をしながら、紫煙を燻らせた。
正面に立つヤウクに、
「おそらく、俺の見立てでは……ベアトリクスは妊娠している」
「何だって!」
ヤウクは思わず、聞き耳を立てずにいられなかった。
「俺は産科医ではないから、正確な事は言えんが……。
以上の事から、十分可能性が高い」
「でも、吐き気や頭痛を訴えてなかったし……」
「病気もそうだが、性ホルモンや妊娠による人体の変化は人によって
一応、次元連結システムで調べてやるが、医者の診断を仰げ。
最悪、裏場に待機している軍医でも呼んで来い」と、青い顔をして、伝えた。
途端に、ヤウクは納得したような顔をして、何処か安堵した様子だった。
そして右手を額に
「しかし、あの
「まさか」と、ヤウクは、あきらめの表情を見せる。
「たしかに18の小娘を、考えなしに
その様に、ヤウクは、酷く戸惑いの表情を
「じゃあ君は
むっとしたマサキは、
「妊娠に関しては、肉体的には16歳前後でも大丈夫だが、あの娘は精神が完成して居まい。
22、3歳の頃でも良かったのではないか」と、持論を展開した。
やはりマサキは、現代の日本人である。
高級将校になる人物の妻には、夫を支えるだけの知識や教養、行儀作法なども必要と思い、そう答えたのだ。
早婚の東欧諸国、ソ連圏では、異質な見解であった。
学生結婚がザラで、妊娠を機に退職や休学をし、後に復学や復職が一般的価値観だった彼等からすると奇異。
意図せぬ形で、マサキは異世界の人間であることをヤウクに伝えたのと同じであった。
日没の頃、共和国宮殿に着いたマサキ達は、待ちかねていた
抜け出したユルゲンたちを見送った後、マサキは、アイリスディーナに別れの挨拶をかける。
「今日は
マサキは、
「お前がこんな魅惑的とは知らなんだ。女として自信を持て」
幾分自信なさげに見えたアイリスディーナを、励ました。
「これで、何かあったら連絡して来い」
懐中から次元連結システムを内蔵したペンダント取り出すと、彼女に手渡した。
そして、何時もの如く不敵の笑みを浮かべ、ヤウクに向かい、
「ロシア人、ベルンハルトを頼む」と、肩を叩き、そしてマライの方を振り返り、
「ベルンハルトの
そうせねば
マサキは満面に喜色をたぎらせながら、満足気に哄笑すると、車に乗り込み、その場を後にした。
車の姿が見えなくなるや、困惑した表情のマライは、そっとアイリスディーナに近づき、
「アイリスさん、あなた本当に木原マサキという男と一緒になるの……」と訊ねた。
アイリスディーナは、マライの方を振り返り、
「ハイゼンベルクさん」と笑顔で応じた。
「とても不気味な男よ、心配で……。今だって顔色が良くないし」
アイリスディーナは、両方の頬に両手を当て、微笑む。
「大丈夫です」
何時もは、胸の奥深くに秘する思いを、齢も近い、ユルゲンの同僚に思わず、打ち明けた。
「一生をこの国に捧げる積りでしたし、自分が結婚するなんて夢にも思っていなくて」
アイリスディーナも、また不幸児であった。
生母の不倫という形で、幼少期に両親の離婚を経験し、家庭と言う物に絶望しか感じていなかった。
そのためか、恋愛や結婚をあきらめている節があった。
「木原さんは、そう、良い人に思えますし……」
(『どこか、心をざわつかせ、組み敷かれるような威圧感はある不思議な人。
だけど、たぶん、心の優しい方。
中国政府からBETA退治を依頼された時も、ミンスクハイヴ攻略も、結局、聞き届けてくれた。
自分の犠牲をもいとわずに……』)
アイリスディーナは、心の中で、知らず知らずのうちに、そう思った。
そんなアイリスディーナの姿を見かねた、ヤウクは、
「アイリスちゃん、君は拒否する権利があるんだよ。
ここは、婦人の基本的人権が認められた民主共和国だ。ボンの貴族社会とは違う。
嫌ならはっきり、いいなよ。ユルゲンに気を使ってるのかい」
と、諭すように告げ、優しい顔で
「君は、未だ二十歳にもならない
ヤウクは、木原マサキと言う人物を、心から
天のゼオライマーを駆り、世界を股にかけ、周囲の迷惑を顧みずに、好き勝手振舞う様は、まるで鬼神が如し。
そんな人物に、可憐なアイリスディーナを嫁がせることを、
「君は人が好過ぎる。心配だ」と、
さて、マサキ達と言えば、3台の公用車でハンブルグへの帰路に就いた。
チェックポイントチャーリの厳重な検査を抜けた後、西ベルリン*2に給油のために立ち寄る。
ソ連製の石油と中東産の石油は品質に違いがあり、また東独の精油施設は西独よりはるかに劣っていた為でもあった。
東独高速道路網は、ソ連軍の管理下にあり、東独交通警察や人民軍はいないも同然の扱いだった。
東独領内のインターチェンジの立ち入りは、厳しく制限され、ベルリン駐留の米英仏軍ですら容易に近づけなかった。
再び、西ベルリンより
帰りの車中は、いたって静か。
もうブランデンブルク門の影もかすんでから、美久はそっと言った。
「まさか、本当に一緒になるおつもりなのですか……」
それまで、感傷に浸っていたマサキは、左脇の彼女に顔を向けると、
「人形の貴様が
くつくつと声を上げて笑い、
「この際だ、よく言っておこう。俺は、
「あんな
「何より、愛に全てを
愛と、言っても肉欲の愛ばかりが愛ではない。
肉親への情愛、自分が所属する共同体への献身、民族愛、そして愛国心……」
と、いうと
マサキは、激情が収まった後、再び口を開き、
「俺は、たしかにベルンハルトの妻に
だが、やはりそれは、あのどこか、
思えば、アイリスディーナと比して、あくどく感じる。あの清らかさは、得難きものだ」
と、正直に言った。
不敵の笑みを浮かべ、
「この
「ええ……」
「だが俺が
その為には、月面と火星に居る化け物共を、
遠く、銀河の
やがては、次元連結システムによって、存在そのものを、この宇宙、次元から消滅させる。
準備も、既に
マサキの瞳は、
男女の色恋の話なので注釈はグッと減らしました。
ハーメルン掲載分のこの話に関しては、くどいくらいの心情描写を追加しました。
ご意見、ご感想お待ちしております。
どの様な形であれ、評価いただけると嬉しいです。
今後、登場してほしいキャラに関して質問(暁の方にも影響します)
-
真壁零慈郎
-
涼宮宗一郎
-
鳳栴納
-
クラウス・ハルトウィック
-
テオドール・エーベルバッハ
-
ジョン・スタンリー