冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
騒がしくする周囲をよそに、世界征服の為の次なる目標を思い描いていた。
木原マサキが色香に惑わされた影響は、当人だけで済む話ではなくなっていた。
すでにソ連KGBの誘拐事件やGRUスパイとの接触を起こしてることを鑑みて、日本政府は重い腰を上げた。
彼を護衛する為のスパイを付けることにしたのだ。
無論、
彼は、情報将校としての側面があるので専属にするには惜しい。
新たに、マサキと年齢の近いであろう、有名大卒の若手工作員が派遣されることになった。
さて、当のマサキと言えば、
手始めに、チェコスロバキアの首都、プラハを公式訪問した。
さすがに前日の件もあって、自由行動をきつく戒められていたマサキは、勝手に出歩くことはしなかった。
だが、この男も、唯では済ませる人間ではない。
チェコに行くなり、モラヴィアにあるチェスカー・ゾブロヨフカ*1の工場見学中に、Cz75拳銃を2ダースほど購入したり、耳目を集める行動に事をかかなかった。
丁度、ZTS*2の本社工場があるスロバキア側のドブニカ・ナド・ヴァーホムを、訊ねた際の事である。
T-55、T-62などのソ連製戦車のライセンス生産品について、工場長より説明を受けてる折、
「なあ、工場長よ。一つ尋ねるが、BETAの光線を防ぐペンキなどは無いのか」
と、出し抜けに、周囲を困惑させることを言い放った。
日本語通辞から、その話を聞いた工場長は、驚きの色を隠せず、
「そのような物が有れば、我等も5年も戦争に時間をかけません」
と、半ばあきれ顔で返すも、訝しんだマサキは、
「じゃあ、作ってみるか」と、軽口をたたいた。
マサキの言を見るや、彩峰は、呆れた顔をし、
「木原、お前という奴は……もう少し静かに出来ぬのか……」
「俺は、不思議に思ったから聞いただけだが……」
「東ドイツでの件は、懲りてないのか」
マサキは、ちらりと彩峰の顔を覗き見て、
「それは……」
「なあ、解ってるなら余計な仕事を作ってくれるな。大体……」
さすがに客先で説教は不味いと思ったのか、
「まあ、まあ、大尉殿。
チェコスロヴァキアの案内役が困惑していますから、これくらいにしておいては」
と、彩峰の怒りを収めるような事を言った。
さすが陸大出の将校である彩峰は、周囲を見回すや、怒りを冷まし、
「あまりふざけた行動をしていると、後で始末書を書いて、本省報告してやるからな」と言い捨てた。
マサキが面白くない顔をしていると、先程の工場長が訊ねた。
「木原さん、あなたの言う光線級を防ぐペンキというのは、どの様な物なのか。
教えてくれまいか」
マサキは、途端に喜色をたぎさせ、
「試作段階だが、1秒間に75回の照射を浴びても、3万秒ほど持つ対光線ペンキは、出来ている。
ただ、耐候性に弱点があって、3か月ほどで劣化して、再度塗装をするしかない。
また、水分を含むと強度は増すが、重量も5パーセントから25パーセントほど増える欠点もある」
と、脇に居る美久から、資料の入ったトランクを受けとり、
「詳しい成分と化学合成式が、この中に書いてある。
特許料は、年間売り上げの0.5パーセントから1パーセントで良いから、
と、勝手に話を進めてしまった。
彩峰は、その様を見るなり、途端に
「貴様は、俺を蔑ろにするのか。毎度毎度問題ばかり起こして」
マサキの襟首に手を掛け、制服の茶色いネクタイを掴み、
「責任を取るのは、駐在武官や大使閣下、それに俺なんだ。
議会や陸軍参謀本部に、責任の負えない、特務曹長のお前は説明できるのか」
と、青白い顔色で、血走った目を向けた。
「お前も気が短い男だな」と、マサキが呆れてみせるや、
彩峰は、ますます興奮し、顔に浮き出た青筋を太らせ、
「貴様、欧州まで遊びで来てるのか。これは仕事だ、戦争だぞ。
殿下の顔に泥を塗るつもりか」と、周囲が驚くばかりの大声を上げ、一喝した。
彩峰は、一通り、うっぷんを吐き出した後、
「なあ、木原よ。なぜ、先ず我々に相談しないんだ。
手助けするにしても、我々に最低限の連絡が欲しい。
貴様が何がしたいのか分からければ、我等も動きようがない」
珠瀬も、困り果てた彩峰を助ける様に、
「木原君、君がしたいことは分からんでもない。だが事前の話し合い無しに行動されては困る。
ましてや、今回の件は技術的な話だ。化学産業のメーカーや技術本部にも相談が欲しかった」
と言いやると、幾分白髪の混じった頭を掻きむしり、
「で、彩峰大尉殿、どうしますか」と、問いかける。
「今の話はオフレコにしてもらって、俺がこの場を収める。
あと、チェコに居る商社マンを呼んで、都の化学メーカーでも頼るしか有るまい。
実現可能か、どうかは、ともかく、一度外に出てしまった話だ」
と、あきらめの言葉を吐いた。
その様を見たマサキは、暫し考え込んだ表情をした後、
「俺の方も少し、はしゃぎ過ぎた」と申し訳なさそうに呟いた。
無論、この男の事である。本心からの謝罪ではない。
頭の中には、グレートゼオライマー建造計画の事でいっぱいだった。
グレートゼオライマーを手早く完成させるには、日本企業の力添えも必要。
故に、形ばかりの謝罪をしたのだ。
翌日、ハンガリーに招かれたマサキ達は、首都ブタペストの参謀本部に行った。
そこで、ハンガリー軍の青年将校団との討議がなされた。
マサキは質疑応答の殆どを、彩峰に任せ、椅子の背もたれに寄り掛かっていると、
「木原さん、
と、向こうの参謀総長から問いかけられた。
マサキは、頬杖をつきながら、
「光線級吶喊に関しては、失うものが大きく、得るものが少ない」と率直な意見を述べた。
彼の素っ気ない答えに、
「ええ!」と、驚きの声を上げた参謀総長は、
「貴方は東独軍と行動を共にしたと聞いてますが、先のソ連軍のセバストポリ攻防戦はどうお考えですか。
あの時は、ソ連軍は戦術機隊でBETAを食い止めたではないですか」
と、問い質した。
マサキは、出し抜けに声を上げて笑うや、
「あれはソ連側の国外向け宣伝の好例だ。戦火が実情より誇張され過ぎる。
貴様等は、条約機構軍としてソ連に軍を派遣して、それ程の事も分からぬとはな」
と、満面に喜色をたぎらせ、
「まあ、良かろう。
俺自身、支那での戦闘でその辺は実感している。
セバストポリの件は、最後の決め手となったのは、黒海洋上からの火力投射だ。
端的に言えば、巡洋艦や駆逐艦から艦砲射撃と、核ミサイルの飽和攻撃が勝因となった。
BETAの
ベルンハルトより光線級吶喊の厳しさを聞いているし、また奴が考案した光線級吶喊の問題点。
端的に言えば、実際の戦果以上に誇張されたとの証言は、カセットテープに録音してある。
詳しい話は、脇に居る彩峰に問い合わせてくれ」と、話を振った。
彩峰が熱心にハンガリー将校団に説明して居る折、マサキは一昨日の事を振り返っていた。
アイリスディーナとの見合いの際に、マサキは只では帰らなかった。
次元連結システムを応用したペンダントを渡したばかりではない。
ユルゲンを秘蔵の酒で泥酔させ、西側に
彼女が、健康で気を張っていた状態ならば、おそらく止められたであろう。
人の
副官のヤウクや、お目付け役として派遣されたハイゼンベルクにも、大分聞かれたろう。
だが、構わず、マサキは、旨酒に不覚を取ったユルゲンから情報を抜いたのだ。
無論、対価として鎧衣の方から、ソ連へのアラスカ割譲に関する米国政府の秘密文書を渡した。
彼等が喉が出るほど欲しがった情報だが、既に古い情報なので、鎧衣は
その返礼としてではないが、
旭日章は制定以来、日本人男性を対象とした勲章で、外人に授与されるのは稀であった。
外国元首や首脳、軍司令官、艦隊の提督に送られることはあっても、一介の衛士に出されるのは前代未聞の出来事。
表向きは、マサキ達の勲章授与の返礼であったが、光線級吶喊の詳報を提出した感謝の意味を込めて、城内省直々に送ったのである。
無論、日本政府もその辺のバランス感覚を考慮して、東独首脳にも勲章を授与した。
東独議長には、
第一戦車軍団を率いたシュトラハヴィッツ少将にも、
つまり、マサキも、日本政府も、ただ同然で有意義な情報を手に入れたのだ。
『この謝礼として、あとでハイヴの奥深くから持ち出した資源でも渡そうか。
ユルゲンの周りにいる女どもに、誕生石の原石でも20キロばかり、袋に詰めてくれてやろう』
マサキが、そんなことを考えてながら、タバコを取り出す。
紫煙を燻らせながら、一人想う。
『
この上で、ソ連の戦術機関連の秘密文書でも手に入れば、面白いことになる……
その記録にはKGBやGRUに頼まれて、西側技術を盗み出した連中も詳しく書かれていよう。
ソ連軍事力の源泉で、その協力者も、日米の政財界にかなりいるはずだ……
それが俺の手に入る。上手く使えば、この世界に根を下ろせるかもしれないな』
と、ほくそ笑んでいた。
夕刻、ブタペスト市内のホテルに戻った際、バルコニーから市街を眺めながら、思案に耽った。
隣国、オーストリアからかなりの数のCIAや西ドイツの間者が入っている事には気が付いていたが、知らぬふりをしていた。
こちらが興味を持っていなくても、向こうは違うらしい。
ハンガリーの諜報機関関係者らしい人間がずっとマークしているほかに、時折鋭い眼光を見せる百姓や旅行者風の人間が目につく。
シュタージほどにあからさまではないが、ソ連に痛めつけられた国とは言え、社会主義国なのだなと、あらためて実感した。
一人感慨にふけりながら、紫煙を燻らしていると、美久が熱い紅茶を用意した。
茶葉は、リプトンのアールグレイで、安価なティーバックだった。
「明日はポーランド訪問です。少し休まれたら、いかがですか」と、不安な面持ちで声を掛ける。
「なあ、美久。この戦争でソ連は弱体化した。歯牙にもかけない存在になろう、ただ……」
「なにか、気掛りな事でも」と答え、マサキの方を振り向く。
マサキは、静かに茶碗を置くと、ずかずかと五歩ほど近寄り、右手で上着の上から美久の乳房を掴む。
火を噴かんばかりに顔を赤くする美久の、驚く様を楽しみながら、
「ソ連に、資金提供した国際金融資本の存在だ」と、耳元で
引き続き、
「奴等は、1920年代の資金封鎖の際も、制裁を迂回し、バクー*4油田の開発などをした」
と言いやり、
マサキは、吸い殻を灰皿に投げ入れると、
「怖いのはテロ組織や過激派ではなく、裏で金を用意する連中さ」
と、驚くようなことを口走り、くつくつと笑い声を上げ、
「俺は、元の世界で、
その組織を作るにあたって、隠れ蓑として、或いは資金源として
そして、不敵の笑みを湛えながら、
「それほどまでの事をしても、俺は国際金融資本に手も足も出なかった。
故に
と、美久のわななく唇に濃厚なキスをし、甘い口腔に深々と舌を差し込んで、
「頼む、美久。俺に力を貸してくれ。二人で国際金融資本へ挑戦しようではないか」
と、垂れさがる彼女の
マサキのその言葉に、美久は色を失うも、
「それは、やり過ぎではありませんか。
多くの系列企業を傘下に持つ国際金融資本を打倒すれば、市井の徒を苦しめる遠因になります」
と、興奮する彼を
マサキは、不安な面持ちをする彼女を抱きすくめながら、
「いや、良いのだ。やり過ぎでも何でもない。
世界を二分し、
その事によって俺は、武力ばかりでなく、全世界の富の大部分も我が手に
資金力さえあれば、この腐敗した社会など簡単に買収できよう。
権力の源泉たる武力と資金力を手にし、世界をほしいまま操る」
と、美久に胸の内を吐露した。
そして、満面に喜色をたぎらせて、アハハと哄笑し、
「木原マサキは、混乱する世界を制した後、まさに世紀の帝王として、この世に君臨しよう。
天のゼオライマーは、その時こそ、光り輝き、世界最強のマシンたり得る」
マサキの胸の中で、唖然とする美久を一瞥した後、
「これは、天のゼオライマーの世界制覇の為の、正に戦争なのだよ。
そのシナリオを描くのも、また楽しい。ハハハハハ」と、天を仰いだ。
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