冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
外交問題を恐れるあまり、及び腰になる日本政府の対応。
そんな姿勢に米国政府内では不満が高まっていた。
ダヤン将軍との会見の翌日、早朝にマサキの元を訊ねる人物があった。
マサキが朝食も取らぬ内に、大量のカタログや戦術機の資料を持って来て、話し始めたためであろう。
何時もは、半日かかる「ホープ」が入った煙草の箱も、2時間もしないで空っぽになってしまった。
だが、マサキの機嫌は上々だった。
「じゃあ、戦術機の
紫煙を燻らせながら、満足気に応じるマサキを見ながら、北米事務所の社長は、
「博士のシステムは、弊社の遠田が考えている構想そのものなのです。
どうか、参照にさせて頂けるならば、私共も協力は
と、満面の笑みで応じた。
多少、謝礼ぐらい要求しても問題はあるまい。
マサキはそう考えて、無体と思える要求をしてみた。
「フフフ、面白いやつよの。オートバイに自家用車が二台ほど欲しい。手配してくれ」
北米支社長は、唖然とした様子で、答えた。
「その様な、つまらぬものでよろしいのですか。
博士の、お役に立てるのでしょうか……」
流石に、自動車の無償提供は効いたのであろう。
不敵の笑みを浮かべながら、カタログをめくり、高級車と大型バイクを指差した。
車の方は、前世の本田技研工業の高級車『アコード』に似て居り、バイクは
「役に立つどころか、自分の足がない俺には、なくてはならない物なんだ。
貴様の所には、たくさん有るので何よりだがな」
新しい「ホープ」の封を開けながら、男の瞳を見つめて、
「貴様等には、俺の最新式のシステムを呉れてやる。
そして、俺は日米を股にかける、有名企業の
それを持って、俺はこの世界の戦術機業界に、乗り込む。
俺がバックに付けば、もう他の奴等に、邪魔される心配は無いぞ」
と、紫煙を燻らせながら、満足気に答えた。
茶を入れに来た、美久に視線を移すと、
「美久も、オートバイの一つでも欲しかろう。ハハハハハ」
と、オートバイの一つでも買ってやろうかと思っていたので、頼んでみることにしたのだ。
アイリスディーナの件で、やきもきしている美久の機嫌を取るためでもあるが、別な理由があった。
アンドロイドである美久は、推論型Aiというすぐれた人工知能のお陰で、オートバイの運転も得意だった。
かつて鉄甲龍の首領に拉致された時、オートバイに跨り、敵に乗り込み、単騎マサキを救出したことがある。
美久が運転するオートバイの背中に跨って、アメリカの
そんな事を考えていたのだ。
「博士ではなくて、奥様がオートバイですか。いや、驚きました」
支社長の称賛のひと声が、美久の電子頭脳に染み渡る。
その刹那、美久の面が、ぱあと赤く色づいた。
「お世辞でも嬉しいです。有難う御座います」
「いや、良い奥方ですな」
他人から称賛など、久しく聞いていなかったので、なおの事、嬉しかった。
「納車の方ですが、11月、遅くとも今年中には間に合わせます。
恐らく
「名義は俺で、俺の家と、関東の……」
思えば、この世界の日本における住居は、城内省が用意した京都郊外の一軒家。
関東には、拠点が無いのだ。
どうした物かと、悩んでいる時である。
丁度、白銀が入ってきて、
「おはようございます、先生。今日のご予定は……」
と、言い終わらぬ内にマサキが重ねて、
「白銀。丁度いい所に来た。お前の実家に、車を置け。
名義は俺の名義で、車庫にでも入れてすぐ使える様にしてな」
と、答えた。
「ええ、ちょ、ちょっと待ってください。俺の実家は神奈川ですよ」
「いや、いいんだ。埼玉の狭山から近いし、都合が良い。
家の親父にでも電話して、近くの
と、目を白黒させる白銀を無視して、契約書にサインしてしまった。
戸惑った様子の白銀を、横目で見ながら、
「あと、お前の
と、満面に笑みをたぎらせて、
「ただで新車が手に入るのだ。文句は無かろう。それとも車は欲しくないか」
「どうして新車なんかを……」
「新規事業立ち上げの前金だよ。言ってみれば記念品の手ぬぐい変わりだ。フハハハハ」
白銀には、面前で不敵の笑みを浮かべる男の真意が分かりかねた。
夕方の頃である、美久は、マサキからタバコを買ってくるよう頼まれて、ブロンクスにあるタバコ屋まで出掛けた。
マサキの吸っているタバコの銘柄は、専売公社の「ホープ」。
何時もは、カートンで買っておくのだが、
ただ、ドイツ駐留時は、ブリティッシュアメリカンタバコ*3の「ラッキーストライク*4」の両切りで、我慢していた。
そんな事を考えながら、頼まれた両切りタバコ6カートンを両手で抱えながら、帰ろうとした時である。
背後から、黒装束の男が、美久に近寄り、彼女の首筋に棍棒のような物をぶつける。
電撃が全身を走ると同時に、美久は意識を失った。
まもなく何者かが近づき、彼女の事をBMWのリムジンに乗せて連れ去ってしまった。
マサキは、二時間ほど
20時を過ぎたころ、目が覚めた彼は、
最悪の場合、次元連結システムを応用した位置情報の追跡を行えばよいだけなので、然程気に留めなかった。
ただ、ゼオライマーは、今ワシントン州シアトルにある日系企業の倉庫で、整備中。
次元連結システムを使って呼び出すにしても可能だが……。
そんな事を、思案していた矢先である。
鎧衣が訊ねてきて、
「氷室さんが誘拐されたとの情報が入った。大使館まで急ぎ来てくれ」
さて領事館では、誘拐事件の件で話し合いが始まっていた。
総領事は真剣な面持ちで、
「外交官ナンバーの車に連れ去らわれただと……」と白銀と鎧衣に訊ねた。
白銀は、平謝りにわびた後、
「申し訳ありません。ですが、ナンバーは控えてあります」
「どこだね」
「イエメン民主人民共和国の国連代表部の車です」
「南イエメンか。我が国と外交関係がない。
それに空港から逃げられたら、どうすることも出来んぞ」
それまで黙っていたマサキは、
「で、土曜の深夜22時なのに、なんでみんな集まってるんだ。
まさか、今から南イエメンに殴り込むのか。
じゃあ、俺が
と、笑って見せた。
その場に、衝撃が走った。
総領事はじめ、みな凍り付いた表情である。
「フフフ、白銀、ゼオライマーを準備しろ」
白銀の表情は、暗かった。
「南イエメンは、ソ連の支援を受けたアラブの社会主義国……」
マサキが、思っていた以上に、ソ連の魔の手は長かった。
「ですから、中東やインド洋におけるソ連の足場となっています。
もし、先日の復讐に燃えるGRUの特殊部隊が待ち構えていたら、どうしますか」
と、その心にある不安を、一応あきらかにした。
白銀は、インドシナでの経験から、GRUの怖さを嫌という程、知っていた。
ラオスでの軍事作戦の際、スペツナズに苦しめられていたのもある。
だが、古今東西を問わず、諜報の社会では常識だった。
GRUの特殊任務部隊、通称「スペツナズ」
スターリン時代に、GRU内部で密かに作られた偵察部隊を起源とする組織である。
「スペツナズ」の言葉は、単純に特別任務隊を示す言葉であった。
だが、1950年以降、その意味が変わる。
GRUの対外破壊工作の部門として西側だけではなく、コメコン諸国からも恐れられた。
その一例を挙げれば、「プラハの春」のときである。
1968年8月21日、ソ連軍と東独軍を主力とするワルシャワ条約機構軍が国境に集結していた頃。
GRU
毅然としてマサキは、総領事の方を向き、
「知った事か。そんな、ソ連の操り人形の国、俺が滅ぼしてやるよ」と、大言を吐く。
「氷室さんは……どうするのだね」
マサキは、鎧衣の方に顔を向け、
「美久がいなくても、暴れるだけ、暴れてやるさ」
と、喜色を明らかに、うそぶいて見せた。
さて、米国政府の対応といえば。
ゼオライマーのサブパイロット氷室美久の誘拐を受けて、治安当局者は
ホワイトハウスの中では、今まさにFBIのニューヨーク支部の職員たちが
閣僚を前にして、
「外交官ナンバーの車だからと行って見逃しただと、君達はそれでもFBIの職員かね」
と、青い顔をする職員を一括する。
「大切な同盟国のパイロットの護衛を任されておきながら……」
職員は、閣僚たちに平謝りに詫びながら、
「しかしながら長官、仮に我々が職務質問をし、停車させた所でも……。
外交官特権を理由に、応じるとは思えません」
「で、どこの国だったのだね」
「67年11月に英国より独立した、南イエメンです」
FBI長官は、
「しまった!南イエメン!中東におけるソ連の
……確か、国連総会出席で、総領事一行が、ニューヨークに滞在中だったな」
と口走った。
FBI長官の発言を受けて、CIA長官も同調するように、大統領に意見を述べた。
「よし、日本政府と相談して、正式に抗議しよう」
興奮するCIA長官を、国務長官が止める。
「まちたまえ、外交問題にも発展しかねないのを承知で……」
「同盟国のパイロットを見捨てろというのかね。
それに裏にはソ連がいるのは明々白々。黙って見過ごすわけにはいかんのだよ」
副大統領は、喧騒をよそに、大統領のほうに顔を向け、
「日本の危機管理能力は、
と嘆くと、大統領も一緒になって、嘆いた。
「史上最強のマシンパイロットを
日本という国の甘さを、世界中が認識した」
副大統領は、日本の危機管理能力に、ふかく失望を感じて、
「これは、今の元枢府を廃して、われらの意向を反映する政権を立てたほうが……?」
と、いう大陰謀が、早くもこの時、彼の胸には芽をきざしていた。
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