冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
ベイルート沖に現れる米軍第6艦隊と特殊部隊。
今、米ソの熱い代理戦争の幕が開けようとしていた。
レバノン沖に展開する米海軍の空母打撃群。
その周囲を護衛する戦艦「アリゾナ」「ニュージャージ」「ミズーリ」「ウィスコンシン」
第二次大戦前に
BETA戦争での艦砲射撃の対地火力を再認識した米海軍は、モスボールされていた全戦艦と巡洋艦の現役復帰を命じた。
30有余年の眠りからたたき起こされた戦艦は、黒煙を上げ、
姉妹艦と共に16発のハープーン対艦ミサイルや32発のトマホーク巡航ミサイルなどで近代化改修を施されて。
さて戦艦「ミズーリ」といえば、我々日本人には忘れられぬ戦艦である。
武運
既に8月15日のご
日本民族が歩んだ苦難の7年間に関しては、
では、過ぎ去った歴史より、BETA戦争の世界の1978年に、再び視点を転じたい。
レバノン派遣艦隊の旗艦「アリゾナ」の
そこでは、艦長以下
「空母フォレスタルの調整は、まだか!」
艦橋内に、怒号が響き渡る。
副長の声に
「F4戦術機の兵装転換に、手間取っているそうです。
なんでも、新型のフェニックスミサイルの準備に……」
米海軍が準備した秘密兵器、フェニックス・ミサイル。
米海軍の技術陣とヒューズ航空機が開発した、新型の多弾頭型精密誘導ミサイルの事である。
一発で約100体のBETAの
一個中隊12機の運用によって、ミサイル攻撃を加えれば、恐るべきBETAの
そして、後に起きる大戦争の際にも、役立つと考えられ、米海軍は開発を急がせた。
敵対するソ連機甲師団を、大量のフェニックスミサイルによって、
「
副長は怒りのあまり、真っ赤になって叫んだ。
「戦術機部隊の出撃を待たずに、順次、艦砲射撃準備に移れ」
「
米海軍では、今日においても艦内での禁酒は、つとに有名であろう。
1914年のJ・ダニエルズ長官によって発令された「一般命令第99号」を
また、幾度の海戦経験から、引火の可能性がある艦橋内での喫煙も、ご
だが、その様なことを忘れさせるほどに、この空間は戦場の熱気で興奮していた。
「全艦、戦闘配備完了」
砲術長の掛け声の後、艦長席から立ち上がった艦長は、双眼鏡でベイルート市内を伺う。
そして彼は、艦橋を一通り見まわした後、次のように指示を出す。
「われらがゼオライマー救出作戦。砲術長、一つ派手に頼む」
「
レバノン派遣艦隊の旗艦「アリゾナ」の後ろから続く、駆逐艦「ジョン・ロジャース」を始めとする駆逐艦や巡洋艦数隻。
少し距離を離れて追いかけてくる、海兵隊の揚陸艦艇1隻。
その揚陸艦艇の一室に、響き渡る男の声。
「おはよう、デルタフォースの諸君!」
極彩色の部隊章が縫い付けられた深緑色のOG107
襟に輝く銀色の星型階級章。男が少将である事を示している。
レイバンの金縁のサングラスを取り、周囲を見渡す。
居並ぶ男達が来ている服は、俗に
顔は黒・緑・茶の三色のドーランで塗りたくられ、目だけが恐ろしいほど輝いていた。
最新式のイングラムM10機関銃や西ドイツ製のMP5短機関銃*1を抱えて、直立不動の姿勢を取る。
「1700時をもって、
これより、CH-47で発進。ベイルートで
隊員の誰かが口を開いた。
「もし、敵が戦術機を用いる場合は、如何しますか……」
「海兵隊より戦術機の航空支援をさせる。彼等に
もし、航空支援が間に合わなくて駄目なら、通信機器を取り除いた後、爆破して撤退しろ」
「
男達は力強く返した。
西の空が
航続距離2,252キロメートルを持つCH-47。
回転翼の爆音が響く中、一人の兵士は今回の作戦について隊長に尋ねた。
「
連中、南ベトナムやカンボジアと違って立派な軍隊持ってるじゃないですか」
隊員の誰の心にも、そう言った疑問がわくのには不思議はなかった。
「これはな、
「カンパニー*2案件ですか……」
隊長は、不安げに彼を見つめる隊員たちを、振り返った後
「
隊員たちの力強い返事が、機内に木霊した。
「
そのころ、マサキといえば。
ベトナム戦争の折、長距離偵察隊が使っていた布製の
彼らが背負う布製の背嚢は、LRRPラックサックと呼ばれるものである。
米国CIAの一部門、
深緑色の帆布、あるいはナイロン繊維製。
北ベトナム軍の背嚢に酷似した物で、四角い雨蓋に、外付けのポケットが2から3個ついていた。
この背嚢は、縦長のアタックザックより、横長のキスリングザックに似た
アンマン王宮での物ごしといい、シリア軍に囲まれた中での交渉の際の態度といい、今の戦場にも、すこしも事に動じない様子が、白銀には驚異だった。
『これは風変りな人だ。いや、まだ青年だが、近ごろの若い学者とは、こうしたものであろうか』
つくづく感心したような
感心といっても、意外な感を持ったにすぎないが、白銀はひそかに、
『帝国陸軍も、妙な男に、興味を持ったものだ……』
と、参謀本部の考えに、思わず苦笑をおぼえたものだ。
30分ほど歩いて、基地の全体が見える丘に差し掛かった時、マサキの口が開く。
「ここでいったん別れよう。3人とも一度に捕縛されたら、お
彼の言葉に、白銀はゾクと、何か身のひきしまる思いがした。
「私も、その意見に同感だ。
ただし、明朝までに米海軍の空母フォレスタルに集合できなければ置いていくことになるが……」
鎧衣は、いと
まして今日は新月だ。目印になる月明かりもない。
そのゆえに、夜間作戦は、至難中の至難とされた。
よほどな剛気と勇猛の士でなければ、その大役は果せぬものといわれている。
「地中海で、クルージングと
カナダドライとドクターペッパーで、カクテルパーティーでもしたいものよの」
マサキの
「先生、通信装置は」
「この次元連結システムがあれば、KGBに盗み聞きされる心配もない。
それに、ベイルートからニューヨークのピザ屋に
鎧衣は、何か、もっと言いたげであったが、依然として、まだマサキの
『木原先生は、こらえているのだ』
マサキの方こそ、何か、護衛の鎧衣に対して、
白銀の眼は、そばでそう眺めていた。
白銀は、それと見て、
「鎧衣の
と、歩みをすすめた。
さて鎧衣たちは、ソ連の秘密基地の爆破準備を急いでいた。
駆けながら、鎧衣は、首から下げたBAR軽機関銃の負い紐を握りしめ、白銀に尋ねた。
「米海軍の大艦隊が近づいているからと言って、ベイルートから逃げたとはどうしても思えない」
白銀は、周囲を警戒しながら、UZI機関銃を構え、周囲を見回す。
「同感です。敵の目を
「ベイルートは、いろいろと古い建物も多い。隠れ場所としては、最高だ」
背嚢の中にあるC4爆薬を、基地中に設置し終えた頃、
白銀は、UZI機関銃の
「どうやらあの建屋の中で何かの実験を行ってるようですね」
ニコンのポロプリズム式双眼鏡で、後ろから覗く鎧衣も同意を示す。
「なんとか、あの中に
そっと白銀は、鎧衣に耳打ちする。
「じゃあ、僕が行ってきます」
「行ってくれるのか」
背負ってきていた布製の背嚢を置くと、再びUZI機関銃を構える。
「気をつけろよ」
白銀は、音もなく建屋へ向かった。
偶然とは恐ろしいものである。
デルタフォースの精鋭工作員たちは、厳重な警備が敷かれた建屋を見つけた。
「見つけたぞ」
「この建物は、KGBの秘密基地だぜ」
「ようし、それならKGBの工作隊ごと、爆破してやるか」
デルタフォースとはいえ、
マサキたちの救出を命ぜられた彼らは、基地爆破の一環として、この建屋を破壊することにしたのだ。
XM177コルトコマンドーを装備した特殊部隊員が、夜の警備陣地を駆け巡る。
その刹那、照明弾が上がり、数名の特殊部隊の姿が煌々と照らし出される。
非常事態を知らせる警報音が、秘密基地中に鳴り響く。
「動くな」
KGB特殊部隊『アルファ』の兵士がぐるりと周囲を囲む。
黒装束の上から、深緑色の鉄帽と6B2ボディーアーマー*4を付けて。
その場から脱出を図った米兵の足を、暗視スコープを載せたAK47で素早く撃つ。
太ももを打ち抜かれた米兵は、迷彩柄のズボンを真黒く染め、その場に倒れこんでしまった。
背後から、じっと彼らの姿を見て居た鎧衣は、
「早まったことをしてくれたものだ!」
そういうと、BAR軽機関銃をゆっくりおいて、忍び足でKGB工作員の背後に向かった。
まもなく暗闇から、濃い象牙色の将校服を着た男が、20連射のスチェッキン拳銃を構え、姿を現す。
後ろから来た隊長は、乱杭歯をむき出しにして、勝ち誇ったようにニヤリと笑う。
「
満足げに笑うアルファ部隊の兵士の後ろから、忍び寄る影。
兵士が気付くより先に、鎧衣は強烈な飛び蹴りを食らわせる。
振り返った別の兵士に向け、袖口より、棒
兵士たちは悲鳴を上げる暇もなく、手裏剣を首に受けて、こと切れた。
「ミスター鎧衣!」
デルタフォースの隊員が驚きの声を上げるも、鎧衣は、彼らの背中を押して、退却を
後ろを見る。
敵の土けむりだ。
「早く、逃げるんだ」
鎧衣は、負傷した兵士のズボンをナイフで切り裂くと、懐から包帯と衛生パッチを取り出し、手早く巻き付ける。
手負いのデルタフォース隊員を担ぎ上げると、一目散に自分たちが乗ってきたジープに向かった。
さしものKGBも逃がしてくれるほど、やさしくはなかった。
「火線を開け」
指揮官の
一斉に、対戦車砲や自動小銃が
RPK機関銃による、ひときわ激しい砲火が、鎧衣たちに向けられた。
鎧衣たちは物陰に隠れると、小銃で応射する。
複数の銃砲火によって、彼らは
混乱の中にあって、米軍特殊部隊と、彼らに囲まれる形になっていた鎧衣は、ひとかたまりになって、
鎧衣は、
流石、デルタフォースの隊員である。
冷静さを取り戻した彼らは
背嚢にしまってある伸縮式の携帯対戦車砲M72LAWを取り出し、砲身を引き延ばす。
射撃準備が整うと、即座に前方の闇の中に向けられる。
雷鳴に似た鋭い砲声が、闇夜を引き裂いた。
M72LAWから発射された砲弾が、KGBの秘密基地の至近で炸裂する。
漆黒の闇夜を背景に、猛烈な火の手が上がる。
「なんだ!どうした」
あたりは急に騒然とし、
壮絶な銃撃戦が始まったことを受けて、後方の建屋にいるKGBのレバノン支部長は慌てた。
「ハッ!」
しかし、爆発は夢でない。
何が起ったのか。
意表を突かれたKGB大佐は、
「この肝心な時に……敵が攻めてくるとは」
KGB支部長の
米軍の特殊部隊襲撃の事情に通じていなかった彼らは、種々雑多な
「こうなれば、手当たり次第に出撃させろ」
支部長は、振り返って、後ろにいるKGBの工作員に指示を出した。
KGBの微妙なうごきが、
道路にも、砂ほこりが、遠く望まれ、二、三千の敵兵が、いよいよ攻勢をとり始めた
まもなく、兵士たちを満載した数十台の武装トラックが、鎧衣たちの陣地めがけて、乗り込んでくる。
チェコ製のスコーピオン機関銃とVz 58自動小銃で武装し、黒覆面にカーキ色の戦闘服の一団。
彼らは、
KGBの追跡隊は、
「撃て、放て」
と、
「よしっ、突っこめ」
敵の乱れをのぞんで、武装トラック、ジープが、どっと駈けこんだ。
大軍勢の接近によって、戦闘は激化の一路を辿っていった。
激烈な掃射の間を縫って、何者かが鎧衣の目の前に現れる。
追いこまれていた白銀が、敵中突破に成功して、やっと鎧衣の元へたどり着いて来たものだった。
「なんだ、白銀君、君一人かね」
白銀の姿を認めると、鎧衣の顔に落胆の色がありありと浮かんだ。
マサキと合流して連れてくるなどと、白銀は一言も言っていないのだが、ひそかに期待していたようだった。
「鎧衣の旦那、基地の爆破準備をしている途中で、はぐれたデルタフォースの隊員と合流できました。
あとは脱出するだけです」
20名ほどの特殊部隊員が、彼の後ろから音もなく現れる。
鎧衣の表情が、にわかに曇りだす。
「このままでは、まずい」
思わず、うつむいて沈黙してしまった。
「どうした、ミスター鎧衣!」
デルタフォースの隊長の声を聴くと、静かに顔を上げて、深々と息を吸い込む。
込み上げてくる不安を何とかして抑えようとしている様子だった。
「君たちは氷室さんを救出に着た部隊であろう。
本隊のほうには、何名残っている」
「向こうのほうには、数名の部隊しかおりません」
「彼らは
その場に、衝撃が走った。
隊長をはじめ、みな凍り付いた表情である。
その場が氷のようにしんとなったところで、隊長は、腕時計を
「あと1時間で戦艦アリゾナからの艦砲射撃が始まります。
ここは、ひとまず退却しましょう……」
「幾多の犠牲を払って、氷室さんの救出作戦を組んだ。
今更やめるというのかね……」
隊長は、カッとなって鎧衣のネクタイをつかんだ。
だが、逆に血の気の引いた顔をする鎧衣に諭された。
「今、木原君とその彼が作ったマシーン、ゼオライマー。
もしそれがKGBの手に渡ったら、デルタフォースの犠牲よりもっと大きい犠牲が出る。
それに……」
「それに何ですか。これ以上犠牲が出れば……」
隊長の目を見ながら、鎧衣は冷酷に告げる。
「君個人の責任
木原君の力を借りて、BETAとの戦争にけじめを付けねば……
冷戦という、
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(アンケート期間は第5章終了まで。一番多い結果を採用させていただきます)
作者に書いてほしい話に関して(暁の連載にも影響します)
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