冥王来訪(ハーメルン投稿版)   作:雄渾

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 刻々と迫る、米海軍の艦砲射撃。
捕らわれの美久を救うべく、単身、敵中に潜り込むマサキ。
KGBに取り囲まれた、彼の運命は、如何に……


首都爆破 後編(旧題:奪還作戦)

 『ベイルート(こう)に、米国艦隊(あら)わる』

 その一報を聞いた、KGBの国際諜報団は、大童(おおわらわ)だった。

美久誘拐を指揮したKGB大佐は、巨漢を揺らしながら、部下たちに物品の搬出(はんしゅつ)を命ずる。

 

「急げ、黄色い日本猿(マカーキ)どもが来てからでは遅い」

そういって檄を飛ばすと、木箱に詰められた金銀財宝や文化財。

 彼が個人的に集めた古美術品、特にササン朝やアケメネス朝ペルシア時代の遺物。

古代ローマ時代の陶瓦(テコラッタ)塑像(そぞう)や、ビザンチン帝国*1時代の金貨。

 袋に詰められた25万ドル相当の500フラン*2紙幣(しへい)

アタッシェケースに並べられた、20万ドル相当の1000ドイツマルク*3紙幣。

総額45万ドル相当の現金の他に、5万ドル分の米国債などの有価証券、金塊(きんかい)500キログラム。

アラビア湾原産の乳香(にゅうこう)*4真珠(しんじゅ)、ペルシャ絨毯(じゅうたん)

 本来ならば、レバノン政府の許可なくば、持ち出せない物であった。

休みなくPLFPの戦闘員や現地協力者などの非合法工作員(イリーガルエージェント)が、トラックへと運び出す。

 

 

 複数止められたZIL-131トラックの荷台に次々と、美術品が積み込まれていく。

肥満体のKGB大佐は、美術品を運び出すさまを見ながら、流れ出る汗を()きとっていた。

「例の女衛士は!」

(むち)を持ったKGBの女大尉は、怪しげな笑みを浮かべながら、応じる。

「連れてまいりました。

あとは、ソ連科学アカデミーで、(くわ)しく解析(かいせき)するだけですわ」

 後ろ手錠(てじょう)猿轡(さるぐつわ)、腰縄を着けさせられた美久が、()()ってこられる。

女大尉は、美久の長い茶色の髪をつかんで、手元まで手繰(たぐ)り寄せる。

「この女の事さえわかれば、ゼオライマーの秘密を丸裸(まるはだか)にできましょう」

腰までの髪を乱暴につかまれ、腰縄の縄尻もろともぐいぐい引き寄せされる。

美久は、猿轡(さるぐつわ)をされた(くちびる)から、恐怖で悲鳴をほとばしらせた。

「ン、ウウンッ……」

KGB大佐は、美久の(あご)をつかんで、ゆっくりと顔を近づける。

「ウへへ、ヒャヒャヒャ」

恐れおののく表情をする彼女を、満足げに(なが)めながら、野卑(やひ)な笑いを漏らす。

氷室(ひむろ)よ。ウラジオストックについたら、タップリかわいがってやるよ」

2メートル近い巨体を揺らしながら、舌なめずりをした。

 

 カーキ色の戦闘服に黒覆面(ふくめん)を着けた、PLFPの戦闘員が近寄り、大佐たちに告げる。

「レバノン政府が、用意したバスがございます。

とりあえず、この場よりの脱出を……」

 軍用トラックの間に止まる、外交官ナンバーのついたマイクロバス。

フォルクスワーゲンのタイプ2を指し示す。

 大佐は、大きなため息をついた後、KGB工作員と戦闘員たちを見回し、号令をかける。

「では乗り込もう」

 

 タイプ2の後部座席にある、観音(かんのん)扉を開けた瞬間である。

背を向け、寝そべり、紫煙(しえん)(くゆ)らせている人物があった。

 深緑色のシャツとズボンを着け、茶革の軍靴。

その姿は、まさしく帝国陸軍の防暑(ぼうしょ)作業服、そのもの。

 

 日本兵の軍服を着た男は、ゆっくりと背中のほうに顔を向けて、

「寝ている子を起こすなよ」と、低い声で答える。

東洋人を見て、彼らは途端に驚愕(きょうがく)の色を示す。

 

 誰もいないはずのワーゲン・タイプ2の中にいる野戦服姿の日本兵。

あっけにとられたKGB大佐は、食指で男を指し示す。

「貴様、この水も漏らさぬ警備をどうやって……」

「ハハハハハ」

満面に喜色(きしょく)をたぎらせながら、流暢(りゅうちょう)なロシア語で答えた。

「次元連結システムのちょっとした応用さ」

女大尉の表情が、にわかに険を帯びてくる。

「誰だ、お前は……」

 

男はM16自動小銃を抱え、立ち上がると、相好(そうごう)を崩す。

「俺は、木原マサキ。天のゼオライマーのパイロットさ」

 

 鎧衣たちと潜入したマサキは、外交官ナンバーのついたタイプ2を見つけると乗り込む。

銃を抱えたまま、後部座席に寝そべって、敵が来るのを待つことにしたのだ。

 

 マサキは、満面の笑みで、唖然(あぜん)とするKGB将校たちを見る。

他人(ひと)人形(おんな)を盗んだ罪、その命で払ってもらうぜ」

そういうと、吸っていたホープの紙巻煙草(シガレット)を軍靴で踏みつけた。

 

 

 マサキの目の前に現れた肥満漢のKGB大佐は、懐から何かを取り出す。

「ま、待て。撃ってみろ。

こいつは何だと思う。ベイルート港にある石油貯蔵施設の自爆スイッチだ。

これを押せば、即座に指令が飛んで、ベイルート港は火の海になる」

坊主頭のKGB大佐は、マサキに見せつける様に、右手で爆破装置を高く掲げた。

「飛んで火にいる夏の虫とはこのことだな、日本野郎(ヤポーシキ)

ここが、お前たちの墓場となるのだ」

 

 

 マサキは、それに動じるような人物ではなかった。

既にこの世界に転移して以来、KGBの卑劣なやり口を見てきた彼にとっては、むしろ好都合だった。

 美久を人質に取ったので、危険を感じて全員射殺した。

その様な言い訳ができると、こころから喜んでいたのだ。 

 

余裕綽々のマサキは、KGBを揶揄して、彼らを挑発することにした。

「早くやれよ。ここレバノンは、俺の国じゃない。

それに、港を壊されても、俺は困らない」

不敵の笑みを浮かべて、恐れおののく表情をする美久を見つめた。

 

 マサキは、美久が銃撃されたくらいでは、何ともないのを知っている。

彼女は成長記憶シリコンという、特殊な形状記憶機能のある人工皮膚で覆われたアンドロイド。

多少、人工皮膚が破れたり、貫通してもゼオライマーには影響はなかった。

 また、マサキの腰にあるベルトは、次元連結システムの子機が内蔵されていた。

それは、自己防衛機能で、範囲250キロメートルからの攻撃動作に感応する装置である。

外部からのあらゆる攻撃が仕掛けられても、緊急で物理攻撃を無効化するバリア体が発生する。

 次元連結システムの応用で作られた、ゼオライマーと同様の秘密道具。

この防御装置を前にして、銃弾や剣戟(けんげき)など(おそ)るるに()るものではなかった。

 

 

 周囲のKGB工作員や戦闘員たちの、ソワソワする様子を見て、

『もしかして、米軍の攻撃でも始まるのか。だとすれば都合が良い』

KGB大佐たちと話をして、米軍の艦砲射撃まで十分(じゅうぶん)に時間を稼ぐことにした。

安全装置をかけると、自動小銃を地面にゆっくりおいた。

「落ち着け、未開人(バルバル)、この俺は懐の深いほうでな……」

そういうと、両手を肩より上の位置にまで持ってきて、万歳の姿勢をとる。

「それにいろいろ飽きてたところだ。一つ派手な花火ショウでも見てみたいものよ」

 マサキの周りを、ぐるりとPFLPの兵士たちが囲んだ。

AKMやVZ58小銃の銃口を突き付けられても、彼の表情は変わらなかった。

「この期に及んで減らず口を抜かすとは……、たわけた男よの。フォフォフォ」

「もったいぶらずに言えよ。露助ども」

「では死ぬ前に、木原よ。ひとつ、貴様から聞きたいことがある。

貴様は、なぜ東ドイツの犬畜生(サバーカ)*5どもに肩入れをする。

その訳も聞かせてくれまいか」

 大佐の問いかけはマサキをして、会心(かいしん)()みを(いだ)かせたに違いない。

「フハハハハ、言うまでもない事よ。

俺がやつらを如何(どう)こうしたわけではない。

奴らが、(みずか)ら頭を下げ、俺に助けを求めたのだよ。

共産主義という匪賊(ひぞく)の集まりからも追放されて、行き場もなくなった」

KGB大佐も、女大尉も、そう聞くと、顔いろを変えた。

「世界の孤児(こじ)、となった東ドイツの連中。

そのみじめな姿が、あんまりにも可哀想(かわいそう)なんでな。俺が拾って世話してやることにした。

こうも()びを売ってくるとは、逆にかわいいものよ」

 

 KGB大佐は、マサキの顔を覗き込んで揶揄(やゆ)する。

「アーベル・ブレーメも、強いものに、しっぽを()山犬(やまいぬ)でしかなかった。

奴が目の中に入れても、痛くないほど可愛(かわい)がっている牝狼(めすおおかみ)にでも、()れたのか」

「なんのことだ」

「知らぬとは言わせぬ。

美女と、評判(ひょうばん)のアーベル・ブレーメの娘、ベアトリクスよ。

彼奴(きゃつ)が祖父にあたる男は、我らが同志エジョフが直々(じきじき)に引き抜いた男であったが……」

 

 

 ニコライ・エジョフ。

彼は、KGB機関の前身組織である内務人民委員部(エヌカーヴェーデー)の初代長官である。

1930年代にソ連全土を粛清のあらしが吹き荒れた際、先頭に立ってその被疑者を銃殺刑に処した人物である。

「エジョフシーナ」と称されるその時代、前任者のゲンリフ・ヤゴダを断頭台に送り、スターリンに取り入った小男でもある。

 ある時、スターリンの急な呼び出しに、エジョフは出かけなかった。

自宅でへべれけになるまで泥酔(でいすい)し、御大(おんたい)の怒りを買うこととなった。

 間もなく逮捕され、厳しい拷問にかけられる。

すると、男色家(ホモ・セクシュアル)の罪*6と米英のスパイである事を、自白した。

後に見せしめの裁判での弁明の機会すら与えられず、即座に刑場(けいじょう)(つゆ)と消えた。

 

 

 

 

 

「裏切り者の、アーベル・ブレーメの奴め。

我らの軍門に(くだ)るふりはしていても、所詮(しょせん)ドイツ人(ニメーツキ)

犬畜生(サバーカ)以下の存在に、我らKGBもまんまと一杯()わされたものよ」

マサキの表情が先ほどとは打って変わって、(けん)()びたようになる。

「口を開けば、奇異(きい)なことを言う……」

マサキの真剣な表情を見て、おもわずKGB大佐はこらえきれずに吹き出してしまう。

「フォフォフォ。日本猿(マカーキ)にはわかるまい」

 

 マサキは、自分が気にかけているユルゲンやベアトリクス。

彼等が、犬畜生(サバーカ)と馬鹿にされたことには、腹が立たなかったわけではない。

 ただ、KGBの自由な発言は、独ソ関係を悪化させる材料としては、都合が良い。

そう思い、彼らの自由にさせて、テープレコーダーや小型ビデオカメラに録音していたのだ。

 

 何も事情を知らないKGB大佐はひとしきり笑った後、マサキにこう問い詰めた。

「フフフ、我々にも協力者を(さば)く権利がある。違うかね……」

 黄色い乱杭歯をむき出しにし、マサキに近寄ってくる。

奇麗に丸めた頭をマサキのほうに向けて、勝ち誇ったように彼をねめつける。

 マサキは、深いため息をつくと、左胸のポケットに右手を伸ばす。

胸ポケットより、ライターとホープの箱を取り出すと、タバコに火をつける。

「俺は間違っていたのかもしれない」

マサキがタバコを吸い始めたので、観念(かんねん)したかと思ったKGB大佐が満面の笑みで問いただす。

「木原よ。(おの)(おろ)かさを認めるというのか」

濁った眼で、紫煙を燻らせるマサキの顔をながめやった。

 

 マサキは、途端に、落胆(らくたん)の色を顔中にあらわす。

「俺は……貴様たちを()いかぶりすぎていた」

KGB大佐は、思わず(まゆ)(ひそ)める。

「なんだと……」

マサキは、紫煙とともに深いため息を吐き出しながら、答えた。

「やはり、民族としての成熟度(せいじゅくど)が、驚くべきほど低すぎる……」

KGB大佐はその言葉に赫怒(かくど)し、顔を紅潮(こうちょう)させる。

「何を!」

禿頭を左右に振り乱しながら、体を怒りで震わす。

「お前たちが、近代文明に接するには、あまりにも早すぎた」

KGB大佐の怒りは、心の底からメラメラと燃えて、どうにもならないほどであった。

 

 

 

 マサキは、満面に喜色をたぎらせながら、答える。

「では、お前たちの言葉で説明してやろう。

ベルンハルトを犬畜生(サバーカ)、ベアトリクスを牝狼(ヴォルチハ)といったが……」

PLFPの兵士たちはKGBの指示がない限り、銃撃してこないことを確かめながら、続ける。

「犬は有史以来、人類にとって与えた影響は計り知れぬ。

畜生(ちくしょう)の中で、牛馬に比類(ひるい)する存在だ。

また、猫や豚と違い、教育次第でどうとでもできる優秀な畜生だ。

支那人どもも『犬馬(けんば)(ろう)』と称すほど……」

そっとベルトのバックルを左手で触れて、瞬間移動の準備を始める。

「狼は遺伝(いでん)的にいえば、イヌのそれとほぼ同等だ。

体格も大きく、知的で警戒心が強い。

言いかえれば、内向(ないこう)的で臆病(おくびょう)であり、人に(なつ)くまでには時間がかかるが……

幼体のうちから人手で飼えば、(なつ)き、犬同様に()でることもできる。

ひとたび主従関係を結べば、愛玩用の室内犬に比して、その関係は強固なものとなる。

それに犬と狼は交雑(こうざつ)でき、数世代でほぼ同化する」

フィルターの間際(まぎわ)になったタバコを、足元に捨てて、軍靴で踏みつける。

「そのようなことも分からぬとは……(まこと)蛮人(ばんじん)よの。ハハハ」

 

 

 白い歯をカチカチ鳴らし、怒りをあらわにするKGBの女大尉。

縛り付けていた美久の腰ひもを手放すと、ギャリソンベルトに付けた鞭を引き抜く。

「言わせておけば、そのような世迷言(よまいごと)を!」

 女大尉が、鞭でマサキをたたきつけようとする瞬間、その場に崩れ去った。

彼女は何者かによって狙撃され、頭がザクロの様にはじけ飛んだ。

 

 その刹那(せつな)、兵士たちの持った機関銃や自動小銃が、一斉に連射される。

銃砲は咆哮(ほうこう)をあげ、ごうッと、凄まじい一瞬の音響とともに、マサキの影が見えなくなった。

 やがて弾倉の中が空になり、遊底の動きが止まる。

硝煙が晴れ渡ると、血だまりの上に、上半身が血まみれの遺体が力なくうつぶせで倒れていた。

ズボンは返り血で真っ黒に染まり、軍靴まで()らすほどであった。

 周囲には、偽装網のついた日本軍の鉄兜が転がり、

ボロボロにちぎれた上着に、両手をひろげ、力なく横たわるばかりであった。 

「これで奴はお終いだ」

「あとは奴の死体を検分するだけよ」

 

 

 KGB大佐の命を受けたPLFP兵士が、横たわる遺体にだんだんと近づいていく。

遺体が身に着けている軍服の色と軍靴の形が違うことに。

「この服と軍靴は……日本兵のではない」

 

 

 その違いは一目でわかるものだった。

PLOやPLFPの兵士が履いていたのは、フランス軍の軍靴*7に似た短靴。

 一方、マサキが履いている軍靴は、空挺半長靴とよばれる物。

空挺部隊でないマサキが持っていたのは、形を気に入った彼が私物で買い求めたものだった。

全体が艶がかった茶色の革で、コーコランジャンプブーツ*8に近似したつくりである。

 

 また軍服も違った。

マサキが着ている軍服は、防暑服*9とよばれる熱帯専用の戦闘服だった。

 オリーブ色に近い色合いの薄手生地で、シャツは開襟のボタン式。

通常の野戦服の様に、真鍮のファスナーで開け閉めするつくりではなかった。

 履いているズボンは、切り込みポケットがなく、太ももに大きいカーゴポケット。

また上着を中に入れるため、股上が深く、やや太かった。

 

 

 PLOの戦闘員たちの軍服は、上下カーキ色で、日焼け防止のために生地はぶ厚かった。

上着は折り襟のシャツ型で、ズボンは細身のストレート型。

カーゴポケットはなく、ベルト通しのついたポケットがない簡素なものだった。

 

戦闘員は、確認のため、56式自動歩槍に付けられたスパイク型銃剣で遺体を突っつく。

力いっぱい倒れた男の上半身を転がし、顔を確認すると、彼らは気が付いた。

「これは……」

 銃撃で殺されたのはマサキではなく、PFLPに参加した日本人の革命戦士(テロリスト)だった。

 

 

 不意に。

耳もつぶれるような小銃の音が(とどろ)いた。

林立する貨物倉庫は、その銃声と同時に、硝煙(しょうえん)につつまれて、ダ、ダ、ダダダッと、凄まじい物音を起した。

 大木の転がるような、また、土砂のくずれ落ちてゆくような音だった。

だが、それは皆、弾に(あた)った人のかさなり落ちてゆく響きだった。

「て、敵だ」

 愕然(がくぜん)と、うしろを見た眼は、すぐ真後ろに、立っている敵を眉の前に感じた。

砂漠の地形に対応したカーキ色の戦闘服に、熱帯帽(パナマハット)をかぶり、胸に胸掛式弾帯(バンダリア)を着けているが、(こつ)として、(わき)き出た亡霊の如く見えた。

最新式の暗視装置БН-2を装備し、SVD小銃や専用のフラッシュハイダーを着けたRPK機関銃を手に手に持って、KGBの行く手を阻む。

『マブータ』*10と呼ばれる、丈の短い上着と、対のカーゴポケットのついたズボンという恰好。

GRU特殊部隊(スペツナズ)の姿は目撃されないまでも、GRUのそこに在ることが証せられていた。

 そこの陰から一度に起った銃声と硝煙(しょうえん)が、たちまち戦闘員の姿をばたばたと野に倒した。

燃えさかる倉庫へ、さらにさんざん砲や小銃をうち浴びせる。

GRU特殊部隊(スペツナズ)は、すばやく美久を奪い取ると、数台の車両へ飛び乗り、シリア方面へ逸走(いっそう)した。

 

 2メートル近い身長のあるKGB大佐は、その巨体から考えられぬような速度で、一目散に消えていった。

ひろい闇の中に、ひッきりなし小銃の音がパチパチと鳴りひびくと、護衛たちを置き去りにして。

まもなく、広間から隣の指令室に逃げ込むと、時限爆弾の装置を操作する。

「おのれ、木原マサキめ。こうなったら、このベイルート港ごと爆破してくれるわ」

屋上の階段につながるドアが開かれると、兵士が入ってきて、

「同志大佐、ヘリの準備ができました」

「よし、出発だ」

 

 警報音が鳴り響き、爆風と硝煙のにおいが立ち込める基地から、一台の回転翼機が離陸した。

ソ連製の汎用(はんよう)ヘリコプター、Mi-8。

砂漠迷彩に赤い星の国家識別章を付けたこの機体は、勢いよく上昇する。

「木原よ、アラブの地に骨をうずめるが良い。フォフォフォ」

その機内で、KGB大佐はだんだんと遠ざかっていく地面を見ながら吐き捨てた。

 

 

 

 その時である。

漆黒(しっこく)の闇の中から天空に向けて、一筋の光線が駆け抜けた。

光の玉は、テール・ブームと機体の間に直撃し、エンジンオイルタンクに誘爆。

轟音とともにKGBのMI-8ヘリコプターは、爆散した。

 

 直後、空を覆っていた雲が晴れ渡ると、星月夜(ほしづきよ)が基地全体を照らす。

漆黒の闇の中から、星明かりによって照らされる、一台の戦術機。

その大きさは15階建てのビルに相当し、全身が白かった。

 

 逃げ出そうとしたソ連KGBのヘリに向けた、謎の攻撃。

まさしく、天のゼオライマーの必殺武器である、次元連結砲の攻撃であった。

 マサキは、自身が銃撃される直前に、ゼオライマーに乗り込んでいた。

この機体は、米国ワシントン州シアトル郊外のタコマより一万キロを瞬間移動したのだ。

 

 ゼオライマーの機体が、不気味な声を上げて咆哮(ほうこう)する。

必殺の攻撃、メイオウ攻撃発射の合図であった。

「フハハハハ。かけら一つ残さず消え去るがよい」

彼はコックピットの中に座り、操作卓にあるボタンを押しながら、悪魔の哄笑(こうしょう)をこぼすのだった。

*1
東ローマ帝国の俗称

*2
1978年当時、1フラン=45円

*3
1978年当時、1西ドイツマルク=115円

*4
熱帯の地域に育つ常緑低木であるムクロジ目カンラン科ボスウェリア属の樹脂。染み出した樹液は透明から乳白色に変ることが名前の由来

*5
собака。ロシア語で犬を指し示す言葉であるが、同時に信頼できない人物や身持ちの悪い人物を罵る言葉である

*6
1917年、ソ連が成立すると同時に同性愛は合法化されたが、1934年当時のOGPU長官ゲンリフ・ヤゴダの建議によりスターリンによって再び非合法化された。ソ連刑法によれば、懲役5年の刑罰であったが、1930年代の大粛清期には反革命罪と同様に銃殺刑の対象とされた

*7
フランス軍では1947年から2017年までツーバックルの革ゲートルが付いた軍靴を使っていた

*8
第二次大戦中、コーコラン社のブーツは米軍空挺部隊で使用されていた

*9
陸上自衛隊で、1972年(昭和47年)に、沖縄進駐部隊のために制定された作業服で、カンボジアPKO派遣にも使用された

*10
ザイール、今日のコンゴ民主共和国の独裁者モブツの名前に由来する。この制服は、1970年代初めに同国での特殊作戦で使われた




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  • ミラ・ブリッジスをめぐる騒動
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  • 米国の陰謀及びソ連の復讐
  • アイリスディーナの軍隊生活
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