冥王来訪(ハーメルン投稿版) 作:雄渾
この新兵器をめぐる波乱に、木原マサキも巻き込まれていくこととなった。
F-5戦術機は、その開発経緯から純粋に貸与機として考えられていた。
後進国の軍への技術指導と訓練以外で、米軍内部での使用予定はなかった。
しかし、供与国からの実績要求を受けて、 米軍内で試験的にF-5戦術機隊の編成が行われた。
そしてBETA戦争において、対地攻撃に用いられることになった。
日本は、元々F-4ファントムを採用し、
その様な経緯から、系統の違うF-5フリーダムファイターには興味すら示さなかった。
だが、ミラ・ブリッジスが来日したことによって、F-5フリーダムファイターへの認識が改められた。
彼女は、米海軍との関係が深いグラナン社で研究開発を進めていた
ハイネマンとともに、新型の空母艦載機F-14の設計担当していた。
城内省の提案を一笑に付し、自身が書いた絵図面を見せつける事件を引き起こした。
純国産期の生産を急いでいる城内省にとって、この女技術者の持ち込んだ設計ノウハウは大きかった。
城内省に、F-5由来の新型機の絵図面を、持ち込んだ事件。
それは、F-4改造案を進めていた
反英米派の大伴は、この事件を利用して、ソ連に近づく姿勢をより強めることになる。
その話は、後日機会を改めてしたいと思う。
マサキ自身もF-5フリーダムファイターへの関心がない訳ではなかった。
彼の認識を改める事例があった。
それは、先のレバノン空軍に配備されたミラージュⅢとの実戦経験である。
この小型戦術機は、有視界戦闘の際は、高速機動によって発見するのが困難な機体。
美久の不在時にゼオライマーで対応したが、
仮に、サイドワインダー等のミサイルと電子妨害装置を積んだ数百機のF-5戦術機。
それが攻め寄せたら、さしものゼオライマーでも損害が出たであろう……。
マサキも、空恐ろしくなったものであった。
もし仮に、後進国の指導者ならば、拠点防衛用の戦術機として、F-5を導入するであろう。
そう考えさせられたものであった。
さて、フランス軍との朝食会を終えたマサキたちといえば。
大臣の部屋で、次官たちが今後の戦術機開発計画の行く末を話し合っていた。
「
先に気が付いていた事を、資料を見てあらためて確認したようだとみてであろう。
大臣は、彩峰を指名する。
「はっ、個人的な所感となりますが……」
と、彩峰は前置きしたうえで、
「個々の開発方針は、ともかくとして。
欧州側の開発計画において、戦術機の強化とは……機動性、射撃能力の向上。
あるいは、近接戦闘能力の向上を目指していると、小官は愚考いたします」
「そんなところだな。
忌々しい事に、欧州勢の中で、ダッソーの計画だけが独自性を持っているわけだが……
まあ、今はそれはよい」
大臣は、脇に立つ
「では……」
と、いかにも爽快らしく、われから言った。
「米国の動きとしてはどうなのだね。榊君」
「米海軍のヘレンカーター提督を中心とする研究チームによって、新型兵器を開発中と聞いております」
「それは、いったいどういう事なんだ」
「海軍より依頼を受けたヒューズ航空機が、フェニックスミサイルの製造を開始したとの事です」
「フェニックスミサイルだと……」
「今までのクラスター弾を数倍上回る、戦術機に搭載可能な、超強力なロケット弾です」
ここで、クラスター弾に関して、簡単な説明を許されたい。
クラスターとは果実の房や塊を語源とし、そこから一塊の集団を指す言葉になった。
その言葉の通り、親爆弾と呼ばれる容器には、数百の子爆弾が内蔵されている。
親弾からばら撒かれた子弾により、戦車群や地上部隊、軍事施設を一度に壊滅させる兵器である。
今日、国際条約で禁止されているクラスター弾。
その歴史は意外と古い。
世界初の空中投下型クラスター弾は、ソ連が開発したРРАБ-3収束焼夷弾である。
これはノモンハン事件の折に、ごく少数が運用され、効果を上げた。
その後、ソ連のフィンランド侵攻である冬戦争で、都市部に使われた。
日本の都市攻撃に使われた、米陸軍の焼夷弾は、ほぼこの形式である。
まず構造に、関してである。
親弾と呼ばれる容器に、数個から数百個の子弾が内蔵された。
親弾が空中で開くと、大量の子弾が広範囲に散布される。
空中投下型の他に、地上発射型が存在し、別名を集束爆弾ともいう。
地上発射型は、攻撃目標の上空で展開されるように時限設定されている。
爆弾1発がもたらす被爆面積は、その価格の割に非常に広範囲であった。
米軍のクラスター弾・CBU-87/Bの効果範囲は、200メートル×400メートルの8万平方メートル。
航空爆弾・Mk.82の効力範囲が、80メートル×30メートルの2400平方メートル。
正に、格段の差である。
効果範囲が大きいと言う事は、民間人の誤爆被害も大きかった。
また数百の子爆弾は10から30パーセントの割合で不発弾が出た。
戦後復興の妨げの一つとされ、悪魔の爆弾と称される原因でもある。
しかし、物量を誇り、波状攻撃を仕掛けるBETAには最適であった。
クラスター弾は、広範囲に攻撃が行える面制圧能力を備えた最高の装備であった。
「そいつはすごい。もし手に入れば……」
榊の言葉を、大臣は興奮した様子で尋ねる。
「たしかに、ヒューズ航空機にしか、作れない代物なのだな」
「その通りです。問題はいかにして我々の手に入れるか」
「そいつは簡単だ。新型の戦術機ごと導入するのよ」
「ミサイルどころか、機体ごとですか……
開発中のものは複座の戦術機で、空母での運用を前提にした艦載機ですよ」
榊は、ちょっと目をつよめて。
「わが帝国海軍からは、既に空母機動部隊の運用ノウハウが失われて30年の月日を経てます。
まず問題になるのは、操縦席が複座という事でしょう。
操縦士とレーダー管制官を乗せる問題は、スーパーコンピューターでも積めば、解消するでしょうが……」
彼の話を、彩峰が受けて、深刻そうに大臣にうながした。
「たしかに、
その問題を解決しない限り、採用から時間を置かずに退役をするのは、火を見るより明らか……。
我が日本の国情を考えますと、そう思われます」
すると大臣は、彩峰に聞き返した。
「そうか。ハイネマン博士の作品は、それほどまでに高くつく
「わが国の
「どうもロボット工学の研究者というものは、工業デザイナーというより芸術家なのです。
彼らの作品は、工業製品としての兵器というより、数十人の技術者が作り出した芸術品なのです。
性能自体は間違いなく、一線級なのでしょうが……」
榊は、やや間をおいてから、
「それに、今欧州勢が開発中なのはF-5系列の機体。
ですから、F-4系統を使っている我が国に導入するにしてはノウハウも役に立たない」
と、明答した。
すると、ククク、と噛みころし切れない笑いを白い歯に漏らした、マサキが脇から現れる。
大臣の側近は皆、緊張していた氷の様な空気にひびいて、それは常人の笑いとも聞えなかった。
どこかで、べつな
「早い話が、グレートゼオライマー建造と違って役に立たないんだろう」
人を吸いこむような柔らかい顔でいながら、マサキは
ぐっと、みな息をつめ、そしてどの顔にも、青味が走った。
「木原。貴様、脇から口をはさむとは何事だ」
ちらと、マサキも眼のすみで彩峰のそれを射返した。
「技師としての
ほとんど無表情にちかい大臣のつぶやきだった。
「金も時間も無駄にするような話はお終いにする。そういう事さ」
と、マサキは言いつづける。
「だが、ミサイルとロケットランチャーに関しては俺は有益と思っている。
開発中の新型機F-14にだけではなく……。
F-4や、その系列機にハードポイントを追加して、使える様にすればいいだけだ」
左右の側近たちは、ぎょッと顔から顔へ明らかなうろたえを表に出した。
「まず、ミサイル運用の前提として、燃料タンクの巨大化。
そして、コックピットの複座とシステムの問題がある」
大臣は、何度も頷いて聞きすました。
「燃料タンクは、
それにシステムはグレートゼオライマーに搭載予定のスーパーコンピューターの簡易版を乗せればいい」
俄然、榊の調子も、するどく変って来て。
「スーパーコンピューター?」
「そうだな。グレートゼオライマーだから、GZコンピューターと名付けよう。
様々な記憶や情報収集を兼ね備えた制御装置で、俺の指示で自立走行可能なシステムの事さ。
こいつがあれば、その超強力なミサイルどころか、空母への離陸着艦も容易になる」
GZコンピューターと呼んではいるが何のことはない。
美久に搭載された推論型AIの簡易版である。
マサキとしては、このAIをもってして、ファントムやサンダーボルトに搭載し、月面偵察の際に使おうと考えていたのだ。
「GZコンピューターが完成すれば、今までのような人的被害は最小に抑えることが出来る。
ただし、BETAの妨害工作に関してどれほど有用か、未知数だがな」
彩峰は、仰天しても足りないように眼をむいた。
「一応、その簡易版なら、俺が8インチのフロッピーディスク20枚に焼いておいた。
それを戦術機のコンピューターに差し込めば、変わるはずさ」
その話を聞いて、大臣は腰が抜けそうになった。
「どうやって、そんな情報量を圧縮したのだね」
「これも、次元連結システムのちょっとした応用さ」
マサキは、ちょっと、改まって。
「なあ、貴様らがほめそやすミラとやらに、会ってみたくなった」
彩峰は、冷たい肌を
あの
「
「木原君、遊ぶなとは言わんが……」
と、途方に暮れたように、マサキを笑った。
「シュタインホフ将軍の孫娘、キルケ嬢の件と言い、少しはわきまえるべきじゃないのか」
「……ち」
マサキは唇を鳴らした。
ミラの名前を出しただけで、これである。
思い人のアイリスディーナの場合はどうだろうか。見てはいられない。
「貴様にそんな質問をする権利は、あるまい」
と、明答した。
だが、ひとり彩峰は、マサキの落胆の色を、烈しい鞭のような眼つきでにらんだ。
マサキのもろい一面を、彼は知り抜いていたからだろう。
マサキの意志のくずれを怖れたのだ。
マサキは硬めていた体をほぐして胸を上げた。
そして面には微笑に似たものをもって、あわれむような眼差しをじっと凝こらして、
「キルケの件は……なんの、いらぬ
と、判然と応じ、
「宴の席ゆえ、少々常より酒の過ぎたまでのことよ」
そして大臣のうなずきを見るなり、すぐ部屋を後にした。
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マサキの恋愛路線に関する質問
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女と遊びながら、戦う
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色恋より戦闘描写
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別な原作ヒロインと逢瀬
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現状維持