晴天を乞う者   作:LeaF_Esra

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クルペッコ、結構好きなんですけど、中々復活しませんねぇ。


九話・誰と向き合って

「大変だハンターさん、すぐに来てくれ!」

 

 早朝、慌てて扉を叩いた村人の声でヒズミは目を覚ます。

 

「ふわぁ……一体どうしたんだ……?」

 

 欠伸をしながら扉を開けるヒズミに村人は切羽詰まった様子で説明する。

 

「村の近くにモンスターが現れたんだ!」

「モンスターが!?すぐ行く。リーフ!」

「ウニャ!」

 

 即座に装備を身につけると、ヒズミとリーフは村人の案内に従ってモンスターの下へ急行する。

 朝の冷たい空気の中を走る内に眠気は振り払われ目はすっかり冴えていた。

 

「あそこだ」

 

 村人に案内されてたどり着いた先は、村に面する森の浅い場所。ここにモンスターが現れたとあれば村に被害が及ぶのも時間の問題だろう。火急速やかに対処しなくてはならないと相手の様子を伺うと、草木に紛れたモンスターの様子が顕になる。

 

「こいつは……」

「これまたずいぶんと弱ってるニャア」

 

 そこに居たのは極彩色の羽毛を持つ鳥竜種、クルペッコだった。クルペッコは素早い動きとその鮮やかな体色、そして何よりも「鳴き真似をする事で他のモンスターを呼ぶ」という極めて特異な能力故「トリックスター」と呼ばれる事もある厄介なモンスターだ。ヒズミとリーフに狩猟経験は無いが、他のハンターから話を聞いたことがあった。

 しかし今目の前にいるクルペッコは、全身の至る所から血を流し、ぐったりと力無く地に倒れ伏している。辛うじて息はある様だが、持って半刻と言ったところか。

 

「ハンターに付けられた傷じゃないな」

 

 近づき過ぎないように注意しながら観察を続けると、細い身体についた抉られた爪痕や、骨まで届く噛み跡が見つかった。喉袋が焼け焦げているのは自身の火打石が暴発したのか、それとも炎を扱うモンスターに襲われたのか。どちらにせよこのクルペッコの命は長くないだろう。

 

「待たせたね」

「遅れました、モンスターはどこですか?」

 

 少し遅れてキルリカとハートも合流する。ヒズミが倒れているクルペッコを指さすと二人揃って顔を顰めた。

 

「どうやら、ボク達の出番はあまりなさそうだね」

「なんというか……いたましいですね……」

 

 ハートは少し悲しそうな表情でクルペッコを見つめている。何か思うところがあるのだろうか。

 

「このまま放っておいても構わないが……万が一という事もある。ここで殺してしまった方が良いだろう。その方がこれ以上苦しむことも無い」

「ま、待ってください!」

 

 キルリカがアイアンガンランス改を振り上げた時、ハートが制止の声を上げる。

 

「どうしたんだい?」

「なんかあったニャ?」

「あ……その……いえ、なんでもありません……」

 

 狼狽えるような様子のハートに首を傾げる三人だったが、クルペッコが小さく鳴いた事で再び意識をクルペッコに引き戻す。

 

「ともかく、このクルペッコはここで殺す。異論は無いね?」

 

 ヒズミとリーフは即座に、ハートは少し震えて頷いた。

 キルリカはハートの事が気にかかりつつも、迷わずにクルペッコの首に刃を振り下ろした。

 

▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

「ハートは会議に参加しないのニャ?」

 

 村の外れで、山間を飛びゆく鳥をぼーっと眺めていたハートに、リーフが声をかける。クルペッコの解体後、ハンターと村の有識者が村長によって集められ会議が開かれていたが、ハートは「体調が優れない」とその会議を欠席していた。

 ハートは一瞬驚いたような表情をしたが、直ぐに微笑みを浮かべる。

 

「リーフさんこそ、こんな所にいていいんですか?」

 

「んニャ。村長達に『ハートの様子を見てきてくれ』って言われたニャ」

 

 リーフはハートの隣に腰掛けるとハートと視線を合わせた。人間と獣人では体の大きさがまるで異なるため、隣に座れば必然的に相手がより大きく見えるはずだが、リーフにはハートが自分とそれほど変わらないように思えた。

 

「ハートは何を悩んでるんだニャ?」

 

「悩んでなんかいませんよ」

 

「嘘ニャ。悩んでないヤツはぼーっと鳥を眺めたりしないニャ」

 

 そんな事はない。バードウォッチングが趣味の人だっているだろう。だが、ハートの様子はバードウォッチングを楽しむ者のそれではなかった。

 

「クルペッコになにか思い入れでもあったのニャ?」

 

 ハートの表情が重く陰る。話してしまおうか、いや、話さない方が……そんな葛藤が傍目から見てとれた。

 

「…………クルペッコが特別という訳ではないんです」

 

 熟考の末に、ハートは諦めたように、重々しく口を開いた。

 

「幼い頃、私はハンターが嫌いでした。『モンスターだって一生懸命生きてるのに、なんで倒しちゃうの』って……モンスターを可哀想に思うだなんて、今ではお笑い草ですけどね」

 

 一度堰を切ってしまえば、後は止まらなかった。

 

「でも、今だってさして変わらないんです……狩りの最中は『殺らなきゃ殺られる』って、人のためだって思っていられるから、気にしないでいられます。でも、狩りが終わって家に帰った時とか、今回みたいに狩場以外でこういう事が起こった時とかは……ダメなんです……」

 

 ハートの顔に暗雲が立ち込める。浅い付き合いながらも、ハート自身この事について深く悩んでいることは一目瞭然だった。

 

「じゃあ、なんでハートはハンターになったのニャ?」

「それしか、道がなかったんです……」

 

 ハートはぽつぽつと言葉を紡ぐ。

 

「私の家はとても貧しく、食べるものにも困るくらいでした。私はそれが嫌で嫌で、絶対にこの家から抜け出してやろうと思っていました。でも、お金なんてありませんし、痩せ細った子供に出来る仕事もありません……その時見つけたのがハンター訓練所でした。訓練所は、私に仕事をくれて、ハンターとしての訓練まで付けてくれて……それまで嫌っていた事なんて忘れて、私はハンターになりました」

 

 ハートの顔に立ち込めた暗雲は更に黒く渦巻き、やがて雨を降らせる。

 

「……たまに思うんです。私は、ハンターになってまで……多くのモンスターの命を奪ってまで、生きる価値のある人間だったのかって……変な話ですよね、狩りが成功すれば喜んで、でも命を奪った事を後悔して。どちらかに割り切る事も出来ない中途半端な気持ちでハンターを続けるだなんて」

 

 ハートはひとしきり話終えると、深く息を吐く。吐き出した事で多少楽になったのか、幾らか落ち着いた様子だ。

 

「なんか」

 

 リーフはぼんやりと呟いた。

 

「ハートもオレと似てるんだニャァ」

 

 ハートは驚いたような顔でリーフを見る。

 

「オレも昔は、争い事は苦手だったニャ。でも、ヒズミがハンターになるって言うから、仕方なくオレもオトモアイルーになったニャ」

 

 リーフは「懐かしいニャァ」と感慨深そうに頷く。

 

「最初の頃はモンスターと戦うのがイヤで、採集とか角笛での支援でヒズミをサポートしてたニャ。でも、襲いかかってきた小型モンスターを追い払ったり、大型モンスターに狙われて対峙せざるをえなくなったり……そんな経験をしてる内に段々慣れてきたニャ。人間、慣れれば何とかなるニャ」

 

 「まァオレは獣人だけどニャ」と笑うリーフに、ハートもつられて笑う。

 

「そう……ですよね。慣れれば大丈夫ですよね……!」

 

 雨は上がったものの、ハートの顔にかかった暗雲が完全には晴れていない。しかし今のリーフは、ハートに対してかけられる言葉をこれ以上持ち合わせていなかった。




お読みいただきありがとうございます。
訓練所のクエストってタダで受注できて、しかもアイテムも貰えて嬉しいですよね。最近では受付嬢から訓練クエストを受けられるようになりましたが、私は今でも訓練所を思い出したりもします。そんなお話です。
次話以降もよろしくお願い致します。
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