晴天を乞う者   作:LeaF_Esra

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四話・咆哮

 

「いないようだね」

 

 エリア1、4を通り抜けエリア3に侵入すると、先頭を歩くキルリカが小さく呟いた。

 エリア3にはブナハブラが数匹飛んでいる程度で、大型モンスターの気配は無い。

 

「そのままエリア2へ行ってみよう」

 

殿(しんがり)を務めていたヒズミが指示を出し、キルリカは頷いて再び慎重に歩を進める。

 

「あれは何でしょうか」

 

 水場の横を通り抜けようとしたところでキルリカの後ろを歩いているハートが指をさした。その方向を見ると、水場を漂う三日月形の何かがあった。

 

「近づいてみる。みんなは警戒して待っていてくれ」

 

 一歩一歩慎重に近づいて行く。水場に近づくにつれ、それの詳細な外見が見えてきた。

 ゴツゴツとした焦茶色の表面は岩を思わせ、上方に空いた(あな)からは空気が噴出している。

 一定のリズムを刻んで空気を噴出するそれに不気味な感覚を覚えながらヒズミは歩みを進める。

 水場に足を踏み入れた。ヒズミの脚から波紋が広がってゆき、それにぶつかった。

 

「グ オ オ ォ ン !」

 

 次の瞬間、泥の中から巨体がが飛び出す。

 

 乾いた大地のような茶色の甲殻と、城郭を思わせる巨大な頭部。後脚で大地を踏みしめ体の各部に泥を纏うその姿は、資料に描かれていたボルボロスそのもだった。

 

「なっ!?」

 

 ヒズミ達が見ていたのは呼吸用に出していたボルボロスの鼻孔だったのだ。

 泥の中から地上へ出てきたボルボロスは、ヒズミを視認すると大きく咆哮をあげる。

 

「グ ォ ォ ォ ォ ッ!!」

 

「くっ」

 

 大型モンスターの発する咆哮はただ大音量なだけでなく、生物としての原初の恐怖を呼び起こすため、聴覚保護のスキルを持たない限り身体の硬直は避けられない。

 

 耳を塞ぎしゃがみこんでしまっていたヒズミが立ち上がると、ボルボロスは頭殻を大きく振り上げ、叩きつけの体制に入っていた。

 

「まずいッ」

 

 ヒズミは急いで後退し難を逃れた。一瞬前までヒズミがいた場所にボルボロスの頭殻が叩きつけられる。地面には凹みが出来ており、もし直撃していたらとヒズミは内心冷や汗をかく。

 

「リーフ!ハート!キルリカ!」

 

 後方で待機している仲間達に声を掛けると、既に駆け出していたのだろう、すぐさまキルリカがボルボロスの目の前に躍り出る。

 

「まずは一撃!」

 

 駆け寄りざまにアイアンガンランス改を抜刀し顔面に突き、そしてそのまま砲撃を食らわせる。さしたるダメージでは無いだろうが、目の前で砲撃された事を煩わしく思ったのかボルボロスは左右に頭を振る。

 

「おれも負けてられない!」

 

 ボルボロスの後脚に駆け寄って抜刀斬り、突き。ボルボロスがキルリカに狙いを向けていることを確認し、更に切り下げ、踏み込み斬りへと続ける。

 

「いい感じっ!」

 

 途切れることなく連撃が決まり気分が昂ぶる。それと同時に勇ましい旋律が響き渡った。

 

「攻撃力強化【小】の演奏です!」

 

 狩猟笛は特定の旋律を奏でることで味方に様々な効果を付与出来るのだ。ヒズミは初めて体感したが、体の奥から力が湧き上がってくるような感覚がする。

 

「体が軽いな!」

 

 キルリカが感動したように呟く。連続で突きを繰り出す様子は軽やかで、それでいて力強く、演奏の効果は明らかだった。

 

「はああぁぁっ!!」

 

 ヒズミも、気合の乗った掛け声と共に斬撃を繰り出す。演奏の効果によって威力が上昇した刃は、ボルボロスの纏った泥を弾き飛ばし、頑強な甲殻をも容易に削り取る。

 

「まだまだっ!」

 

 演奏の効果に後押しされ、ヒズミは夢中になって攻撃を繰り出す。踏み込み斬り、突き、切り下げ。

 一撃が与えるダメージは微々たるものだとしても、連続で繰り出せば大きなものとなるのだ。

 

「グオォォッ!?」

 

 頭部にキルリカ、脚部にヒズミの攻撃を受けて耐えかねたのか、ボルボロスはたたらを踏む。

 

「行ける、行けるぞ!」

 

 ボルボロスが見せたそれは、ヒズミ達に自分の力が大型モンスター通用するという自身を持たせると同時に、同時に慢心を産むものでもあった。

 

「グ オ ァ ァ ァ ッ ッ ! !」

 

 ボルボロスが二度目の咆哮を上げる。

 

「ぐっ……」

 

 攻撃を仕掛けようとした所に咆哮を喰らい、ヒズミは思わず骨刀【豺牙】を取り落としてしまう。

 武器は人間がモンスターに対抗するために磨き上げた牙であり、爪であり、それを手放す事はモンスターへの対抗手段を失う事に他ならない。

 一刻も早く拾い上げねば。そう焦るヒズミを嘲笑うかのように、ボルボロスの尻尾がヒズミを襲う。

 

「ぐあっ!」

「ヒズミっ!!」

 

 吹き飛ばされ、地面を転がるヒズミにリーフが駆け寄った。

 

「大丈夫ニャ?」

「俺は大丈夫だけど、武器が」

 

 骨刀【豺牙】はボルボロスの足元に転がっている。取りに行こうにもボルボロスが移動しない限り拾うのは難しいだろう。

 

「おびき寄せます!」

 

 ハートが大音量でボーンホルンをかき鳴らす。音に反応しボルボロスがハートの方を向くと、キルリカもそれに追随して立ち位置を変える。

 

「グオォォッ!」

 

 ボルボロスが頭を低くして静止する。何事かと様子を見ようとした次の瞬間、ボルボロスは弾かれたように走りた。

 頭殻で地面を抉りながら突進する様はまるで岩石が猛スピードで突き進んでいるかのようだ。

 

「ハートっ!」

 

 威圧感からか、キルリカに名前を呼ばれてようやく回避する。しかし生じてしまった一瞬の隙はボルボロスが距離を詰めるのには十分だった。

 

「くぁっ!……うぅ……」

 

 激突。ハートの装備しているボーンシリーズは初心者向けの防御力に優れない装備な上、動きやすさを重視した構造(つくり)となっているため、ボルボロスの突進に耐えられるような強度はない。弾き飛ばされたハートは地面を転がり

 

「リーフ、ハートを頼む!」

 

「了解ニャ!」

 

 ヒズミはリーフとは反対方向に駆け出し、骨刀【豺牙】を拾い上げると、踵を返してボルボロスに接近する。

 

「こっちを向けッ!」

 

 ボルボロスの尻尾を切りつける。キルリカが引き付けていたため意識していなかったのか、背後からの攻撃にボルボロスは驚嘆(きょうたん)の声を上げる。

 

「グオァッ!?」

 

 ヒズミの思惑通りボルボロスはヒズミに標的を変え、ハート達に背を向ける。

 

「良いぞ、そのままこっちへ来い」

 

 キルリカがハートの助けに入った事を確認すると、ヒズミはジリジリと後退しボルボロスを引き寄せる。このままエリアの端まで連れて行ければ安全に撤退出来るだろう。

 

「グオォッ!」

 

 ボルボロスが頭突きを繰り出すが、余裕を持った位置取りで難なく躱す。

 この距離感では太刀が届かず攻撃が出来ない。目の前にモンスターがいるのに手出しができない状況にもどかしく感じたが、今の自分の役目はリーフとキルリカがハートを救出するまでの囮を務めることだと思い直し、再び回避に専念する。

 

「グゥ……」

 

 続く尻尾振り回し、噛みつきも同様に回避する。もとから避ける気で距離を取っていれば、そこまで難しい事では無かった。またその頃にはハート達は隣のエリア4まで退避していた。

 

「そろそろおれも離脱しなくちゃな」

 

 立て続けに攻撃を避けられたからか、ボルボロス苛立った様子で唸っている。こちらの様子を伺っているのか足を止めており、逃走するならおそらく今だ。ヒズミが走り出そうとしたその瞬間

 

「ゴ ア ア ァ ァ ! !」

 

 ボルボロスの咆哮が響き渡った。

 しゃがみ込みながらボルボロスの様子を見ると、目は血走り頭頂部の鼻孔からは蒸気が吹き上がっている。怒り状態だ。

 こうなったモンスターはハンターを執拗に追いかけ回し、例え隣のエリアまで逃げようとも振りほどく事は出来ない。

 

「これじゃあ三人と合流出来ない……!」

 

 怒り状態のモンスターは身体能力が向上するいわば''本気''とも言える状態。それはつまり、モンスターがハンターを全力で排除すべき存在であると認識したという事。

 ヒズミは骨刀【豺牙】を引き抜く。

︎ ︎ ︎ ︎ ︎そっちがその気なら、こっちだってやってやる。

 

「掛かってこい、ボルボロス!」

 

「グオオッ!」

 

 ヒズミの啖呵に呼応するかのようにボルボロスも大きく吼えた。

 




四話お読みいただきありがとうございました。
ボルボロスは砂漠に登場するモンスターの中でもかなり好きなモンスターで、是非小説に登場させたいと思っていました。
次話もよろしくお願いします。
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