「いたぞ」
先程はペイントボールを投げ忘れていたため探すのに少し手間どったが、無事エリア3でボルボロスを発見することが出来た。
ボルボロスはまた頭頂部のみを水上に出し、泥の中に潜っていた。
「ペイントボールを投げます」
ハートの投げたペイントボールは綺麗な弧を描き露出していたボルボロスの頭殻にぶつかる。特有の臭気が広がると同時にボルボロスが水場から飛び出した。
「グ オ ォ ォ ォ ッ!!」
「予定通りキルリカは奴の注意を引いてくれ。ハートは演奏、おれとリーフはとにかく攻撃!」
「「「了解!」」ニャ!」
「さあ、こっちを向きたまえボルボロス!」
キルリカがボルボロスの顔面に突きを食らわせる。研がれたばかりの刃は堅牢な甲殻にも弾かれることなく傷をつけた。
「グルゥゥ……」
狙い通りボルボロスはキルリカを睨みつける。
「いいぞ、そのままこっちを向いていたまえッ!」
二度三度と連続で突きを繰り出すキルリカ。ボルボロスは完全にキルリカを標的に定めたようで、キルリカに向かって威嚇している。
「おれたちも続くぞ!」
ヒズミとリーフが走り出すと同時に、ハートのボーンホルンから勇猛なメロディが響き渡る。攻撃力強化【小】の演奏だ。戦意を高揚させる旋律はヒズミの身体を駆け回り、ヒズミの攻撃を後押しする。
「はああぁぁぁッ!」
気迫の籠った斬撃がボルボロスの左脚を捉える。一撃では止まらず二撃三撃と繰り返し太刀を振る。その間、ボルボロスの様子を伺うことも忘れない。
「グオォォォッ!」
「そうだ、もっとボクを見たまえ!」
ボルボロスは相変わらずキルリカに執心している。対するキルリカは、ボルボロスの攻撃を上手く盾で受け止めながら、隙を見て突きや砲撃を繰り返しているようだ。
視界の端でハートが駆け寄ってくるのが見えた。狩猟笛は演奏だけでなく、鈍器としてモンスターを攻撃する事も可能なのだ。
「せぇいッ!」
接近したハートがボルボロスの左肩を殴りつける。遠心力により勢いのついたボーンホルンは人間が喰らえばひとたまりも無いだろうが、ボルボロスは気にも止めない様子でキルリカを狙っている。
「それならっ!」
ハートは更に何度もボーンホルンを振るう。
「おれも見てる場合じゃないな」
ヒズミは意識をボルボロスに戻すと、攻撃を再開する。
縦斬り、突き、斬り上げ、縦斬り……訓練所で習ったように、基本に忠実な動きで地道に傷を増やしてゆく。ボルボロスの細かい位置取りの変化にも対応しつつ幾度となく繰り返される斬撃に、甲殻にまとわりついていた泥は弾け飛び、強固なはずの甲殻さえも剥がれ始めていた。
「グルゥ……」
突如ボルボロスが動きを止めた。姿勢を低くして力を溜めるようなその姿勢に、ヒズミは弾き飛ばされ動かなくなったハートの姿が脳裏に浮かぶ。
それはボルボロスを挟んだ反対側にいたリーフも同じようで二人は同時に叫んだ。
「「キルリカ、避けろ!!」ニャ!!」
それと同時にボルボロスは力強く地面を蹴り上げ、低く構えた頭殻で砂埃を巻き上げながら走り出す。
二人の呼びかけが間に合ったのか、キルリカ自身もこれからボルボロスが起こすであろう行動を読んでいたのか、キルリカはボルボロスの正面から逸れ、盾を斜めに構える事で衝撃を最小限に抑えていた。それでも十分な威力があるようで、後ろに仰け反ってしまっていた。
「助かったよ、二人とも!」
「もっかい来るニャ!」
リーフの警告に全員が散り散りにその場を離れる。次の瞬間、折り返して来たボルボロスが先程までヒズミ達のいた場所を蹂躙した。
「あっぶなかった、ありがとうリーフ!」
「ニャア!」
ヒズミの礼に短く返すと、リーフは立ち止まったボルボロスにドロスネコネイルを叩きつける。
ヒズミもすぐさま駆けつけると、今度はこちらに向けていた尻尾を切りつける。高い位置にあるため少し狙いづらいが、太刀のリーチがあれば当てること自体は難しくなかった。
「せやぁぁぁッ!」
骨刀の刃がボルボロスの尻尾に喰らいつく。上手く甲殻の隙間に刃が入り込み肉を断つと、普段味わうことの無いであろう痛みにボルボロスは悲鳴を上げた。
「グオァァッ!?」
「効いてるぞっ!」
確かな手応えとボルボロスのひるみにヒズミは思わず小さくガッツポーズをする。しかしそれでも手は止めず、連続で太刀を振り下ろす。今度は泥や甲殻の破片を弾き飛ばすのみだったが、それでも十分。
リーフやキルリカの積み重ねもあり、ボルボロスに付着していた泥のほとんどは剥がれ落ちていた。
ボルボロスは泥を飛ばそうと身体を揺らすが、わずかに残った泥が飛び散るのみ。
攻撃とも言えぬ泥の
「うおぉぉぉぉッ!」
ヒズミが雄叫びを上げて太刀を振り下ろすと、骨刀【豺牙】は細かい鱗を弾き飛ばしながら肉を断つ。
ボルボロスは疲弊しているのか動きを止めており、攻撃を当てる事は容易だ。この隙を逃す手はないと四人は連撃を繰り出す。
四方から与えられる攻撃に遂に耐え兼ねたのか、ボルボロスは足をもつれさせて転倒する。
「ここで畳み掛けるッ!」
モンスターが転倒する事は狩猟において千載一遇のチャンスだ。攻撃、回復、態勢の立て直しなど、短いながらも狩猟の重要な転換点となりうる時間だ。
他の三人を見ると、キルリカは背中、ハートは頭、リーフは前脚をそれぞれ攻撃していた。
ヒズミが狙うのは尻尾、先程傷を付けた箇所だ。今はボルボロスが倒れているため尻尾も地に着いている。これ以上に狙いやすい位置は無いだろう。
ヒズミは骨刀【豺牙】を振り下ろす。ボルボロスがもがくのと同時に尻尾も多少動いたが、それでも頭上で揺れているよりは余程狙い易かった。
「うぉおおおおおおッ!」
雄叫びと共に振り下ろされた刃は、先程と同じ傷口を抉る。
「グゥォ」
一瞬ボルボロスの動きが鈍ったような気がした。
切りつける度に傷口は広がり、乾いた大地に血が染み込んでゆく。
「グゥオオォォォ!」
もう一撃、とヒズミが考えたところでボルボロスは立ち上がる。
「グルルルゥゥゥ……」
ボルボロスは立ち上がってすぐさま歩き出す。
「エリア移動ですね」
ハートの言う通り、ボルボロスはエリア4へ向かって真っ直ぐ進んでいる。その足取りはどこか不安定で、しかも口からは涎を垂らしている。
「早く追いかけよう」
「少し待ってください、やってみたいことがあります」
気持ちの
狩りの終着が近づいている事はこの場の誰もが感じていた。
五話お読みいただきありがとうございます。
次回いよいよ決着です。
次話もよろしくお願いします。