エリア4に差し掛かると、ボルボロスがエリアの隅で頭を垂れていた。
「あれは……?」
「オルタロスを食べているんだろう……多分」
ハートの問にヒズミが答える。一度本で読んだだけの知識だったため不確かだったが、ボルボロスの足元に散らばるオルタロスの甲殻が情報の正しさを証明していた。
「なら、今が好機だな」
キルリカはアイアンガンランスを展開しボルボロスの足元へ近づいて行く。
「何をするつもりニャ?」
「竜撃砲さ」
竜撃砲とは、ガンランスに備えられた必殺の機構。火竜のブレスを元に構想されたそれは、職人の技術の粋を集めて完成された。
キルリカが足元まで近づくが、ボルボロスは食事に集中しているのか目もくれない。
銃身側面に配置されたレバーが引かれると、銃口にエネルギーが収束する。内部に充填された燃料を燃やし尽くし、銃身が赤熱する程に熱が高まったその瞬間。アイアンガンランスは文字通り火を吹いた。
ドゴオォォォン!!
大タル爆弾をも凌ぐという高火力。キルリカ自身も反動で後退してしまっている。そしてそれを喰らったボルボロスもタダでは済まなかった。
「グオォォン!?」
口にしていたオルタロスを吐き出し、ボルボロスは再び横倒しになる。直撃した左脚の甲殻は焼け爛れ、竜撃砲の威力の凄まじさを如実に表していた。
「さあ、今のうちに!」
キルリカに呼ばれるまでもなく、既に駆け出していた三人は各々の武器を振るう。
ヒズミとリーフは手近な尻尾や後ろ足を狙ったが、ハートは一人頭部を狙っていた。
「はあぁぁぁッ!!」
振り回されたボーンホルンがボルボロスの頭殻と激突する度、ドゴッという鈍い音が響く。
先程ハートが提案したのはボルボロスの頭部の部位破壊。叩き付けや突進など、危険な攻撃に使われる頭部の部位破壊が出来れば狩りを有利に進められるのではないかという提案だ。
ボルボロスが起き上がると、ヒズミとキルリカはなるべく頭部側に位置取りをする。ボルボロスが方向転換しないようにするためだ。
キルリカとヒズミが攻撃を受け流し、出来た隙にハートが攻撃。ハートに攻撃が向きそうな時はリーフが気を引く。
地道ながらも堅実に。四人が各々の役割を果たし、着実にボルボロスの頭殻にダメージを蓄積させる。
「さ、流石に硬いニャァ……」
幾度と無い応酬に四人にも疲れが見える。単純な肉体的疲労もあるが、モンスターと正面から相対するのは、特に精神面の疲労が大きい。
「まだ、まだ……ッ!」
この作戦を提案したハートも、あまりの頭部の硬さに焦りを感じているようだ。
「グオォッ!」
「今だッ!」
キルリカがボルボロスの噛み付きをガードし、ハートに呼びかける。
「はあぁぁッ!」
渾身の叫びと共に振り下ろされたボーンホルンが激突すると、ボルボロスの頭殻はピシッという音と共に亀裂が入る。ハートはそれを見逃さず、続けてもう一撃を叩き込む。
「もう、一回!!!」
バギッ
再び叩きつけられたボーンホルンの衝撃に、遂にボルボロスの頭殻も悲鳴を上げ砕け散る。大小様々な破片を飛び散らせる自身の頭部に、ボルボロス自身驚いているようにも見えた。
「ゴアアァァッ!?」
ボルボロスが一際大きい叫びを上げる。
「や、やった!」
思わずガッツポーズをするハートを現実に引き戻すように、ボルボロスは咆哮する。
「ゴアァァァァッッッ!!!」
目は血走り、口からは白い息を吐く。崩れた頭部からも、蒸気機関が如く荒く鼻息が噴出する。
ヒズミ達が心身共に疲弊しているように、ボルボロスの体にも数え切れない程の傷跡が見える。甲殻はところどころ剥がれ落ち、頭殻の砕けた頭部からは肉が見えている。
冠こそ失えど、その悠々たる姿は王とでも呼ぶべき威厳を湛えていた。
「さあ、決着を付けようか」
キルリカの言葉から数瞬の間の後、全員が同時に動き出す。
斬撃が、打撃が、銃撃が、ボルボロスを追い詰めて行く。しかしボルボロスとてただやられるだけではない。尻尾で、牙で、砕けた頭殻で、自身に纏わりつく人間を排除せんと暴れ回る。
呼吸を忘れる程の激戦の中。不意にその時は来た。
「グゥ……ォォ……」
強く大地を踏みしめていた脚からは力が抜け、自重に耐えられないとでも言うようによろめく。重力に逆らうことはもはや叶わず、ボルボロスは短い鳴き声と共に、崩れ落ちるように地に伏した。
「やった……のか……?」
また起き上がって来るのではないか、そんな不安が脳裏をよぎり、武器を構えたまま動けないままでいた四人。崩れ落ちた亡骸に虫が集まり始めてようやく、自分たちがボルボロスを討伐出来たのだと実感出来た。
互いに顔を見合わせる。疲労も見えるが、それ以上に達成感と喜びに満ちた顔をしている。
「ニャ!早く剥ぎ取りした方が良いニャ!」
「おっと、そうだった」
喜びに浸るヒズミ達をリーフが現実に引き戻す。既に集まり始めている虫然り、早く剥ぎ取りをしなければ自然の働きによりモンスターの素材はダメになってしまう。
「そのまえに」
ヒズミは小型の銃を取り出すと、バシュン、と音を立てて天に向かって打ち上げる。ペイントの実の成分が尾を描き、空高くピンクの柱が登る。クエスト終了の合図の信号弾だ。この信号弾が打ち上がったのを見たギルド職員が、狩猟されたモンスターの亡骸を回収、研究所等への運搬をしてくれるのだ。
「俺も剥ぎ取りしなくっちゃな」
ヒズミがボルボロスの体から素材を剥ぎ取っていると、後ろからハートとキルリカが声を掛けてくる。
「おういヒズミ君、リーフ君、見てくれよコレ」
「破壊した頭殻、そのまま素材に出来そうです!」
ハートが自分の胴体程もある大きさの頭殻を抱え上げる。
「おお、すげえ!」
「でっかいニャ!」
ヒズミとリーフは興奮したように騒ぐ。帰路に着きながらも、狩猟の四人は盛り上がっていた。
四人での初めての狩猟は騒がしさと共に幕を下ろした。
七話お読みいただきありがとうございました。
また、ボルボロス戦にお付き合いいただきありがとうございました。
一年間更新途絶した上、一気に六話投稿するという奇っ怪な動きをしてしまいましたが、次回以降はちゃんと定期的に更新出来るよう頑張ります。
次話もよろしくお願いします。