雄英の事件を別の学校から見るヒロアカ   作:御代川辰

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No.1 入試

 神奈川県横浜市に所在する“国立御総(みふさ)”学院大学附属“大地輪(おおじわ)”高等学校。未来のヒーローを育てるヒーロー科を擁する高等教育機関の中でも屈指の名門、雄英・士傑両校のヒーロー科と並ぶ名門校として知られ、その偏差値は78と高い。

 そして大地輪高校ヒーロー科の門戸を叩(たた)く少年少女も実に三桁を数え、この年の倍率は10倍を越えていた。

 

「筆記試験の時とは大分減ったけど、やっぱりすっごい数いるね。雄英の試験会場もこんな感じなのかな」

 

 受験生の一人が独り言を呟いた。彼の名は【砥石(といし)研磨(けんま)】と言い、東京都在住でありながら雄英から離れた大地輪に試験を受けに来た謂わば変わり者である。

 

「研き(・)ゅ(・)ん(・)頑張って!私も研き(・)ゅ(・)ん(・)の踏み台として頑張るから!」

 

 研磨の隣に立ち、明らかに間違った方向に張り切りとやる気を見せる少女、【色筆(いろふで)萌絵画(もえか)】もまた大地輪高校ヒーロー科の入学試験の受験生である。

 字面と読み方だけ見れば名前負けしているような印象を受けるが、実際に会ってみれば名前に偽り無し、女優やタレントとして通用する容姿とコミュニケーション能力を有する人物なのだが…………

 

「あのさぁ萌絵画……き(・)ゅ(・)ん(・)呼びは今回を持って卒業してくれないかな。薄気味悪いマニアみたいな言葉遣いの所為(せい)で不快感が臨界点を突き抜けそうなんだけど」

「照れなくていいんだよ研き(・)ゅ(・)ん(・)!私のラブエナジーを受け取って欲しいんだよ!」

 

 萌絵画の最大の欠点は、研磨の言葉はどんな内容であっても肯定的・好意的なものとしか受け取らない上にしつこく粘着する依存性だ。彼女自身の“個性”も性格に影響しているのもまた一因である。

 

「はぁ…………」

 

 研磨はため息を吐き、思い足取りで試験会場へと歩みを進め始めた。

 

 

 

『間もなく実技試験の開始時刻です。受験生の皆様は席に着いてお待ちください』

 

 スピーカーから音声が響く実技試験会場の待合室で、研磨は意識集中と暇潰しを兼ねて自身の個性を使い手遊びを始めた。彼の掌の中には持参した錆(さび)が目立つ金属球が一つ握られており、重量も1kg近くはあろうかという代物である。

 

(他の受験生(ひと)たちも緊張してるんだな)

 

 研磨と同じように暇潰しをしている者、自身の個性の調整のため集中している者、特に考えるわけでもなくぼんやりとしている者など、一つの部屋に異なる行動を取る人間がいることをいやと言うほどに自覚させられる時間。

 そして…………

 

『実技試験開始時刻になりました。受験番号順でお呼び致しますので、番号を呼ばれた方は随時試験室に入室してください』

 

 実技試験開始のアナウンスとともに、透明感のある白銀色の輝きが現れるまでに磨きあげられた金属球を握りしめる。

 

(絶対に合格してやるよ。待ってろヒーロー科!)

 

 研磨は決意を新たに、唇を片方持ち上げた。

 

 

 

 待つこと一時間程度、受験生が部屋から出たタイミングで不正監視員から声を掛けられて立ち上がった。

 

「受験番号318番、入室してください」

 

 異形型の個性を持つ試験官が声を掛けると、外開きの扉の蝶番が軋む音とともに研磨が試験室へと姿を現した。やはりと言うべきか、同じく部屋に入って来た不正行為の監視を務める教員の手には指紋の跡一つすらない金属球が一つ。

 

「それでは、318番の実技試験を始めます。席に着いてください」

 

 面接を兼ねた実技試験の内容は[志望動機の説明]と[自己PR]、[個性の説明]と[個性の利用例の実演]の四つだけではあるが、受験生の人格と個性の扱い方に問題がないかを確認するため非常に厳しいものとなっている。

 

「まず本校ヒーロー科への入学を志望した理由を説明してください。時間制限は1分です」

 

 面接官の合図とともに、最後の試験が始まった。

 

「私自身の目標であるヒーロー免許の取得を成すにおいて、御校への入学と御校の卒業が最も確実な道筋であると考えた上で、社会の実情を正確に理解しかつ勉学と目標の両立を目指す過程の場として相応しいと思ったからです」

 

 息を切らさず、言い淀みもなくすらすらと答え切り、研磨はしばし思考を巡らせる。

 

(“相応しい”はさすがに失言だな……)

 

 内心で自省しつつ、次の質問を待つ。

 

「続いて、自己PRがあればお答えください。制限時間は2分です」

 

 

 

 その後に続いた自己PRの内容も難なく答え切り、残すは自身の個性の説明とその実演の二つだけとなった。

 試験官の一人から席を立つように指示を受け、椅子から腰を上げてまっすぐ試験官たちを見据える。

 

「それでは、砥石研磨さん。まずはあなたの個性名と個性の詳細を教えてください」

 

 試験官からの問いに思わず「いよいよ来た」と呟きそうになるのをぐっと堪(こら)え、研磨は瞼(まぶた)を閉じて静かに深呼吸をした。そして改めて目を開き、試験官からの問いに答える。

 

「私の個性は“摩擦(まさつ)”です。両掌(りょうてのひら)と両足の裏の摩擦係数を操作して、滑走、錆(さび)や汚れの取り除き、液体で手が濡れるのを防いだり、摩擦熱での発火などができます。あくまで自分自身の体の摩擦係数を上下させるだけで、触った物の摩擦係数の上下を操作できるわけではありません。以上で説明を終わります」

 

 摩擦係数を上下させるというシンプルな能力の応用をできるだけ具体的に説明した事が影響したのか、何人かの試験官が興味深そうに資料を開き始めた。

 しかし、部屋の角でその様子を見た試験監督官と思われる大柄で筋肉質な教員が制止を促し、研磨の方に向き直って「失礼しました」と一言告げる。

 

「ありがとうございました。最後に個性の使用例を実演してみてください。準備時間は5分です」

 

 いよいよ面接・実技試験の最後だ。拳を握って「押忍(おす)!」と力と気合いを込め、汚れた雑巾と水を張ったバケツを用意するため、一度試験室を後にした。

 

 

 

「ふぃ~……すっげぇ緊張する」

 

 学校側から拝借したバ雑巾の確認をしながら、研磨は大きめのバケツに満たした冷たい水に手を浸(ひた)して心を休め、個性の状態を調整していた。

 適度にリラックスした状態を維持しないとどんな失敗をしでかすかわからない以上、心を落ち着けることは何よりも重要である。

 

(落ち着かなきゃなぁ。けどまた事故起こしたくないし……)

 

 水の表面に写った自分の顔を眺めながら幼少の頃の記憶を思い出す。「病院の鏡に映ってた自分の顔もこんな放心したような表情をしてたな」と微笑みつつ、水に浸していた手を顔に押し付けた。

 

「さて、準備時間が後3分ちょっと……行くか」

 

 冷たい手の感触で覚醒した研磨は、実技試験に臨むために試験室へと戻った。

 

 

 

 実技試験の準備を終え、試験室に戻った研磨は部屋の中央に水が満杯のバケツを置き、片手には埃とゴミにまみれた汚れきった雑巾を持っていた。

 表情もどことなくリラックスしており、何時試験が始まっても動じない心理状態であることが窺(うかが)える。

 

「それでは、最後の試験を始めてください」

 

 試験官がブザーを鳴らし、実技試験が始まった。研磨はまず水に雑巾を浸すと、個性で摩擦係数を上昇させた掌全体で汚れを擦って落としてゆく。

 雑巾に染み着いた汚れは瞬く間に水を黒っぽく染めていき、いかに雑巾が汚れている状態かが分かる。

 その後も黙々と擦り続け、わずか1分には黒い染み汚れが纏わりついたような状態だった雑巾が、わずかな汚れもないきれいな白色に変わっていた。

 

「はい、これで雑巾がきれいになりました!」

 

 自信を表すように少し力を込めて声を出す。教員たちは思わず拍手しそうになるも、試験官が「お疲れ様でした」と労(ねぎ)らいの言葉をかけて我に帰り、研磨もまた実技試験終了とともに帰宅の準備をするため部屋を後にした。




NAME:砥石研磨(といし けんま)
QUIRK:摩擦
WEIGHT:65.19kg
HEIGHT:167.37cm
PERSONALITY:マイペースな苦労人

本作品の主人公。人間社会の観察の一環としてヒーローを目指しており、その一番の近道であると確信して大地輪高校ヒーロー科を受験した。
冒頭に登場した色筆(いろふで)萌絵画(もえか)とは幼馴染であり、強引で依存気味な彼女の奇行に振り回されている。
個性は摩擦で、掌と足の裏の摩擦係数を上下させる能力を扱える。
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