雄英の事件を別の学校から見るヒロアカ   作:御代川辰

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No.4 訪問

 合格通知からさらに五日が経(た)ったその日、紺色の長袖詰め襟とワイシャツ、ワインレッドの長ズボン、黒い靴下に黒いロングブーツを履いた一人の少年が立っていた。

 

「研磨!普段の勉強と同じくらいヒーロー科の授業頑張れよ!」

「応援してるからね研磨!萌絵画ちゃんのこともちゃんと見てあげてね!」

 

 普段より一時間早く起床し、まだ日が顔を出したばかりの時間から身支度を整えた研磨はまだ玄関先に立っている。

 父良広(よしひろ)と母巴(ともえ)に確(しっか)と手を握られ、鈍い痛みと輝きに満ちた目を向けられては、苦笑いを浮かべ冷や汗を垂らしているのは無理もないだろう。

 

「ああ……うん。行ってくるよ」

 

 まだ登校前だと言うのに疲れきった心境のまま自宅を後にし、恐らくまだ登校準備中であろう萌絵画の自宅へと向かう。

 進む道中、山間(やまあい)から顔を出したり隠したりする太陽は煌々と輝き、人通りも車も少なく、静かで穏やかな住宅街を、制服姿で一人歩く研磨の表情は微(かすか)かに暗い。

 

「寒(さぶ)っ……」

 

 

 

 日光に温(あたた)められながらもなお肌を刺す肌寒さに顔を顰(しか)めながらしばらく歩き、何事もなく色筆家まで到着した。

 

「ごめんください、萌絵画起きてます?」

「ふわぁ~あ……まだ寝てるよう……」

 

 扉を叩きながら呼び掛けると、萌絵画の父が眠そうな表情であくびをしながら出迎えた。ちなみに研磨の視界に映っているのは玄関の奥にある小綺麗な廊下と居間ではなく、すでに四十代後半という年齢にも関わらず幼児のように小柄な体格と少女のように華奢(きゃしゃ)な体躯で、そして腰を覆い隠すほどの長髪と少年そのものな童顔を持つ中(・)年(・)の男である。

 寝間着代わりの長袖のワイシャツの袖(そで)と裾(すそ)も延びきっており、ただでさえ小さな体がさらに幼く見える。

 

「…………起こして来て頂いても良いですか?」

 

 萌絵画の父、色筆(いろふで)水墨(みなすみ)は目を擦りながら、「いいよ」と一言呟いて案内を始める。どうやら前日に娘の合格祝いをした際、普段飲まない酒をたらふく飲んだようで、寝惚(ねぼ)け眼(まなこ)であることと酔いも覚めきっていないことも重なり、ふらふらと不安定で今にも転びそうな情けなく頼りない千鳥足で歩いていた。

 

「萌絵画ぁ、起きなさぁい。研磨くんがお迎えに来たよぅ……ふわ……」

 

 萌絵画の自室の前に立ち、眠たげに間延びをした声で呼び掛けるとすぐにあくびをし、朝食の準備をしようと台所(だいどころ)へと向かって行く水墨の後ろ姿を見送りながらため息を一つ。

 色筆家の面々はなぜ何時何時(いつなんどき)に顔を合わせても残念な部分を曝(さら)け出すのか、理解に苦しむと言わんばかりにもう一度大きく息を吐きながら萌絵画の部屋の扉に手をかけた。

 

 

 

「萌絵……」

「研き(・)ゅ(・)ん(・)!」

 

 扉を開けた瞬間、研磨と同じく紺を基調としたブレザーにワインレッドの長ズボンを穿いた萌絵画が弾丸の如く飛び出す。

 

「うわっ!」

 

 いきなり飛びかかって来た萌絵画の姿に驚き、体当たりの勢いそのままに押し飛ばされて廊下の壁に体をぶつける。

 

「痛(い)ってぇなおい……」

 

 壁に強(したた)かにぶつけた頭をおさえながら、自身に抱き付く少女を非難するように睨み、一方の萌絵画は「ごめんね」と祈るように両手を合わせて頭を下げている。

 

「それをやめろって言ってるのが分からないのか?」

 

 呆れを通り越してもはや興味すら失ったような冷たくドスを利かせた口調が萌絵画の鼓膜を震わせるが、彼女は全く反省の意思を見せず逆に甘えたがりの子猫のような仕草で研磨の胸に顔を擦り付けている。馬の耳に念仏とはまさしくこのことであろう。

 

「だってお父さんのエナジーだけじゃエナジーがぜーんぜん足りないんだもん!」

(ファザコンがここまでだと水墨さん“たち”も大変だな……)

 

 

 

 その後、水墨が用意した朝食のマフィンをほくほく顔で頬張る萌絵画を急(せ)かしながら最寄り駅へと走る研磨なのであった。




NAME:色筆水墨(いろふで みなすみ)
QUIRK:イマジナリーフレンド・憑依霊
WEIGHT:43.41kg
HEIGHT:142.19cm
PERSONALITY:温厚篤実

ヒロインの父親で、誰の目から見ても小学生男子にしか見えない見た目だけ幼児な中年親父。
変身や擬態ではなく本当に幼児のように小柄な体格であるために、夜中の帰宅中、または早朝の出勤中に家出と勘違いされ警察・ヒーローのお世話になることもしばしばある。
「自分以外の人間には姿が見えず、触れることもできず、意志疎通も不可能」な「個性に似た特異な能力を持つ空想上の存在」を生み出す“イマジナリーフレンド”と、「イマジナリーフレンドを自分自身に憑依させてその姿に変身できる」という“憑依霊”の二つの個性を持つ。
ちなみに現(・)在(・)の(・)イマジナリーフレンドの総数は14体。
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