雄英の事件を別の学校から見るヒロアカ   作:御代川辰

5 / 7
No.5 登校

『次の停車駅は港南中央(こうなんちゅうおう)。当電車は港南中央(こうなんちゅうおう)駅行きです』

 

 目的地の一歩手前の停車駅から電車が離れる時刻が近付き、車内放送が響く。日の光によって変わり行く窓の向こうの景色を眺めながら、研磨は電車内に漂う生暖かい視線に苛立っていた。その薄(うす)ら生暖かい視線の原因は、当然のように自身の腕に抱き付く萌絵画の姿にある。

 

「なあ萌絵画……」

 

 ため息を一つ吐(つ)き、抱き付く感覚と柔らかな膨らみに挟まれる感覚がある部分に視線を動かせば、自分に向けられる視線に気付いた二つの感覚を与える主が嬉しそうに見上げて来た。

 視線を向けられたことがよほど嬉しいのか、走り出したばかりの電車の揺れで二つの膨らみが腕を刺激するのもお構い無しに腕の力をより強くしている。

 

「子供じゃねぇんだからいい加減離れろよ」

 

 無論この程度の文句に従うような相手ではない。研磨の注意が気に入らなかったのか目に見えて不機嫌な表情になり、視線を全く意に介さず反論を垂れる。

 

「子供じゃないもん、恋人だもん」

 

 「子供扱いされたことの反論がそれか」と思わず呆れかえり、ますます生暖かさを増す乗客たちの視線に怒りを覚えるが、萌絵画の個性が個性なので面倒な問題を起こして警察に迷惑をかけるような騒ぎにはしたくない。

 言葉を間違えれば事件にも繋がりかねないのでぐっと堪(こら)えた。

 

「まだ交際してるわけじゃないだろ……」

「恋人みたいに見られてるって言ったの!」

 

 恋人と言うよりは女が積極的で男が堅物なバカップルではないのか、と研磨が思うのも自然。しかし公衆の面前でよくも堂々と恋人宣言ができるものである。

 他(ほか)の乗客の中には口元を手で押さえ、笑い声を堪(こら)えるのに必死な者も居る始末。

 

「いい加減人目の付くところで堂々と奇行をするのはやめてくれ……」

 

 言葉遣いは悪いが、確かに萌絵画の行いは奇行ではある。だが彼女にとってはスキンシップの一つに他ならないため、やめろと言われて直ぐにやめるような思考回路 はしていない。

 

「研き(・)ゅ(・)ん(・)だって普段ぼーっとしてる癖に」

 

 この瞬間、笑いを堪えていた乗客の何人かが遂に吹き出した。異性をきゅん呼びする女性を初めて目にするのだから当然ではあるが、呼ばれ慣れていることもあり研磨は全く動じずに切り出す。

 

「だからそのき(・)ゅ(・)ん(・)呼びをやめろ。水墨さん泣いてたぞ」

「お父さんに言われてもこの呼び方だけは譲れないから!」

 

 一組の男女の言い争いは、大地輪(おおぢわ)校の最寄り駅で目的地である港南中央駅に到着するまで続いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。