あの後、三日間に分けてサクヤ、ソーマ、コウタと一緒に任務に出た。所詮、合同任務だ。正直に言えば、歯ごたえがないつまらないものだった。今回の任務には悪神共が創造したアラガミが一切出てこなかった。なので基本的にはフォローに回ることが多かった。そして今、俺はまた変態博士に呼ばれて抗議と言う名の束縛を受けていた。
今回の講義はアーコロジーについてだった。
アーコロジーとは『それ単体で生産、消費活動が自己完結している建物』をさす言葉だ。ここアナグラを中心としたフェンリル極東支部は一種のアーコロジーと言えるらしい。極端な話をすれば、ある支部を除いた全てのフェンリル組織が滅んでも、残った支部は単独で生産、消費活動を行い、今まで生きることが可能だ。
アナグラは地下に向かって食料や神機、各種物資の生産をを行うプラントがあり、外周部には対アラガミ装甲壁や、神機使いをはじめとした強固な防衛力がある。それこそがフェンリルの支部であり、人類を守るために最適化されたアーコロジーらしい。だが同時に問題も出てくる。その問題とは収納可能な人口が制限されるということだ。アナグラの周囲には広大な外部住居区が形成されている。だが、彼らすべてを収容するだけの規模はこの支部にはなう。よって、外周部に対アラガミ装甲壁を巡らせることが今できる最大限の対抗策だとのことだ。
だがそれだけで足りるわけがない。現に対アラガミ装甲壁は突破されている個所も出てきている。そしてそのフォローをするためにゴットイーターの防衛班も配備されているらしい。
本当はアナグラを地下に向けて拡大して内部住居区を増やす計画があったらしい。破棄になった理由は知らん。だがその代案として、より安全で完璧とされている『エイジス計画』が発案され、現在進行で進んでいる。だがこの『エイジス計画』がどうも怪しい。まぁ知ったこっちゃないけど。現状、アナグラの地下プラントの多くの資源リソースはエイジス建設に割り当てられているらしい。
まぁここで変態博士の講義は終了した。
☆☆☆
現在俺は、戦闘服に着替えてサクヤとリンドウのイチャイチャを眺めていた。ちなみに戦闘服とは名ばかりの、黒スーツだ。黒スーツに黒シャツ、黒のネクタイに黒の革靴。神の姿に戻るときは燕尾服だから、ある程度キチッとしている格好の方が楽になってしまった。それにスーツって意外に動きやすいしね。
二人は話すことを話し終えたのか、こちらを向いてきた。ようやく出発か。
今回の任務のメンバーは、俺、リンドウ、サクヤ、ソーマ、コウタだ。意外に濃いメンツだな………。だがまぁ実力はあるので文句はない。コウタ意外だからな?
「あ~、本日も仕事日和だ。無事生きて帰って来るように。以上」
「え? それだけ?」
「いちいちツッコんでると、身が持たないよ」
「くだらん」
コウタの言うことはもっともだが、別にそれでいいと思う。無事生きて帰ってこい。最高の命令じゃないか。
「一人を除いて、心が一つになっているようで何よりだ」
「それ俺のことか?」
「ハハッ、冗談だ」
この野郎………後でシバキ倒してやる。
「このメンツでは初の四人任務だが………まぁ、いつも通りやれってことで」
なるほど。分かりやすくて結構だ。ちなみにリンドウはこれからお忍びデートらしい。十中八九、お偉いさんと何か企んでいるんだろう。途中で端末に通信があったらしく、いつも通り四つの命令を出してさっさと行ってしまった。リンドウの去り際、サクヤが心配そうにリンドウに声をかけていた。よっぽどリンドウに惚れてんだな。
「さぁ、行きましょう」
サクヤの音頭で皆が行動を始める。音頭が取られた瞬間、俺は駆けだした。背後から静止を促すような声が聞こえるが無視をする。俺が駆けだした理由は簡単だ。
「破ッ!!」
『グギャッ!!』
アラガミの発見。これに尽きる。見敵必殺、サーチ&デストロイは基本だろ?
「たまには運動しないとな!!」
というわけで、今回は《二天龍の双龍刀》を使わずにアラガミを殺す。残りのアラガミは三体。種類は―――――ふむ、どうやら通常種ではないようだ。また悪神共が創造したアラガミのようだ。というか、俺が出張るとぜったと言っていいほど悪神共が想像したアラガミが出現しているような気がする。もしかして俺のせいで悪神共の創造したアラガミが出現しているのか? ………可能性としては否定できないな。
そんなことを考えている間も身体の動きは止めない。今回のアラガミはチーター型。瞬発力は凄いが力を弱い。ついでに防御力も。なので―――――
「ワーンパーンチ!!」
『『『グギャァァァ!!』』』
神速で移動して腹に本気の右アッパーを喰らわせれば一撃で沈む。いや、沈むどころか消し飛ぶ。なんせ本気だからな。
「もぅ!! 勝手に突っ走らないでよね!! ってなにその手!? 血塗れじゃない!!」
どうやらサクヤ達が追いついてしまったようだ。ちなみに全て返り血だ。アラガミを消しとばした時にどうしても血がね。ちなみにコウタが返り血を見て叫んだのは言うまでもないだろう。
☆☆☆
アナグラに帰った俺達四人は、リンドウの下へ向かった。というより、リンドウが先に帰っていて、すぐに見つけたので向かっただけだ。
「先に帰ってたのね。お疲れ様」
「あぁ、何とか早めに切り上げられた。そっちはどうだった?」
「ご命令に従って、『いつも通り』だ」
「そうね。任務は滞りないし、人も欠けていないわ。………まぁヤイバくんが少し張り切ったくらいかしらね」
別にそこまでのことはしていないんだけどな………。というか、サクヤ。最初のやり取りは明らかに夫婦のやり取りだろ。もうさっさと結婚しろよ。
「俺達四人の華麗な連係プレイを見せたかったよ!!」
「お前そんなに役立ったか?」
「なっ!?」
コウタとソーマも結構仲良くなったな。初めは結構ギスギスしていたのに、今ではこの程度の会話を難なくしている。
「そうか、これならこっちももう少しデートの回数を増やしてもよさそうだな」
「まず俺に女の子を紹介するのが先じゃないすッかね?」
「………ふっ、お前の手には負えないと思うぞ?」
なんだその言い方………。また面倒事か? もうやめてくれ。
『業務連絡。本日第七部隊がウロヴォロスのコアの剥離に成功、技術部員は第五開発室に集合してください。繰り返します。ウロヴォロスのコアの剥離に成功、技術部員は第五開発室に集合してください』
業務連絡か………。確かウロヴォロスの容姿ってかなり気持ち悪いよな。ちなみにウロヴォロスは俺も殺したことがある。気持ち悪かったので神力を弾幕上に放ち、そして重力を操ってブラックホールを創造し、残りカスを全て呑み込ませた。コアの剥離など全く考えていないし、考えられなかった。
周りから、先ほどの業務連絡に関してのつぶやきが聞こえてくるが………まぁどうでもいいか。
「ウロヴォロスって………何? 強いの?」
コウタよ、ゴットイーターになったのだからその程度のことは覚えておけよ。
「ゴミだ。気持ち悪い。キモい。弱いの三拍子そろったクソみたいなアラガミだ」
「なんか気持ち悪いって二回言わなかった?」
「大事なことなので、二回言いました」
しょうがないじゃないか。凄く気持ち悪かったんだから。生理的に受け付けなかったんだから。
「そんなわけないでしょ!! まぁ私たち三人じゃまだ無理じゃないかな?」
サクヤはしっかり俺を外している。俺には倒せると分かっていたんだろう。あと先ほどの会話から察したのだろう。
「マジでぇぇぇぇぇぇぇ!? このメンツでも? って三人?」
「そうよ。ヤイバくんなら余裕でしょ?」
「まぁな。五秒以内に片付く。いや、片付ける」
「ほぇ~………」
やはりサクヤは分っていたようだ。
「まぁアレだ。生き残っていればそのうち倒せるだろう………今は余計なことを考えず、とにかく死なないことだけ考えろ」
確かにリンドウの言う通りだ。余計なことを気にして死んだら意味がない。
「そのセリフ。いい加減聞き飽きたぜ」
「………あぁ。特にお前には何度も言っておくわ。ほっとくと一人で勝手に死にに行っちまうような奴にはな」
「チッ………黙れ………」
「へいへい。さ、俺は次のデートに備えて精のつくものでも食ってくるかな」
リンドウはそう言い、一人歩いて行った。ていうかさ、案外リンドウとソーマは仲がいいんじゃないか? 悪口を言い合える程度までにはね。
☆☆☆
今日は新型の神機使いがロシア支部から来るようだ。そのため、俺、レティシア、リンドウ、サクヤ、コウタ、ソーマはソファのあるスペースで待機をしていた。ちなみに全員ソファに座っているが、レティシアは俺の膝の上に座っている。
「ふふっ♪」
ご機嫌そうでないよりだ。まぁ俺もまんざらじゃないんだけど。
しばらくすると、ツバキが一人の女の子を連れてきた。
「紹介するぞ。今日から、お前達の仲間になる新型の適合者だ」
「初めまして、アリサ・イリーニチナ・アミエーラと申します。本日一二〇〇付けで、ロシア支部から、こちらの支部に配属になりました。よろしくお願いします」
容姿はいい、というよりも最高じゃないか? 紅いチェックのベレー帽に、黒いノースリーブベストでヘソと下乳だしの上着。赤いチェックのミニスカートに太股がチラ見できる程度まで丈がある黒い編み込みのブーツ。エロいな………。痴女、ではないだろう。だがさらに気になるのは―――――
「女の子なら大歓迎だよ!!」
コウタが急に叫びだした。まぁ気持ちは分からなくはない。かなり可愛いしな。
「よく、そんな浮ついた考え方でここまで生きながらえてきましたね………」
「へ………?」
コウタは唖然としている。まぁ仕方がないか。いきなり毒を吐かれたんだから。だが気になる。そんな事よりもどうしても気になることがある。
「彼女は実戦経験こそ少ないが、演習では抜群の成績を残している。追い抜かれないように精進するんだな。アリサは以後、リンドウについて行動するように、いいな?」
「了解しました」
リンドウを見る目が少し怪しいな。あの目は………。
ツバキがリンドウに一緒に来るように言った後、俺達には持ち場に戻るように言った。二人が去った後、コウタが懸命にアリサに話しかけるが、どれも軽く返されてしまった。完全に脈なしだな。
「―――――アリサ」
「なんですかヤイバさん。そう言えばあなたも新型なんでしたね」
「新型というよりも神型、真型という表現のが正しいかもしれないな」
「それで? なんですか?」
さっさと話せと言わんばかりにまくし立ててくるアリサ。
「お前のここ………ボロボロすぎじゃねぇか? つぎはぎだらけで、さらに誰かに何か仕込まれてる。一体何があったらそんなことになるんだ?」
そう言いながら俺は自分の胸の辺りをトントン、と叩く。
「はぁ………? 一体何のことですか?」
「わかっていないか………レティシア行くぞ」
「うむ。了解した」
かなりマズイかもしれない。自覚がないということは余程前から刷り込まれたのに違いがない。それもかなり大きいショックの後にだ。多分記憶消去か何かされた後に洗脳されたな。その洗脳がどういうものなのかまでは分らないが。
はぁ………また面倒事か。全く、退屈しないね本当に。