貴女と共に輝きたい   作:Wisteria

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第三話

 喫茶店から退出した二人は楽器店に向かいながら会話をしていた。

 

「あれ、そういえば直人くんって受験生? こんな遊んでて大丈夫なの?」

「一応それなりに勉強できるのでたまに遊ぶくらい平気です。そういえばもうカップルごっこしなくていいんですか?」

「私は別に大丈夫だけど直人くんはしたい感じ?」

「別に悪い気はしなかったんですけど、恥ずかしかったのでもうお腹いっぱいです」

「そっかそっか、直人はもうしなくてもいいって言うんだ」

 そう言っておもむろに直人に近付くさおりはそのまま直人の腕へ抱きついた。直人は自分の体にかかる重力を感じて右を向くとそこにはドアップのさおりの顔が映し出される。 身長差によって生みだされた上目遣いに直人は心臓の鼓動を加速させ、顔の色を染めることしかできなかった。

「さおりさん?! からかってるつもりでもそれはダメです」

「大丈夫。こんなことできる男の人、直人くん以外にはいないからさ。……お店着いたね。私は少しイジって行くけど直人くんはどうする?」

「今日はこの後買い物しないといけないのでここでお暇しようかと。今日はすっごく楽しかったです。また、その、デ……お会いできますか?」

「もちろん。また()()()しようね、直人」

 自分は上手く紡ぐことができなかったその言葉をいとも簡単に言われてしまった恥ずかしさと抱いていた気持ちはさおりも同じだったのだと気付けた安心感で直人の心はいっぱいだった。そのため目の前にいる少女の顔が仄かに紅く染まっていることを認識する事なく少女と別れてしまった。

 

 §

 

 両手にこれでもかと膨らんだ買い物袋を持った直人は帰宅すると家にまだ誰も居ないことを確認すると買い物袋に入っている食材たちをテキパキと冷蔵庫に詰め始めた。全ての材料を入れ終わるとそこから必要な物を取り出す。人参に玉ねぎにジャガイモに鶏肉。今日の夕餉はシチューかカレーか。そして忘れていたようにピーマンを追加した。こちらも手際よく切っていくと玄関の方から何やら騒がしい声が聞こえてきていた。

「お邪魔します。今日のご飯はカレーだね」

「え〜、いやいやシチューでしょ」

「カレーでもシチューでもピーマンは入らないだろ、兄貴ぃ!」

「そんなに怒らないの。お兄さんだってしのぶのことを思って入れてくれているのよ?」

 四者四様の反応を見せるPeaky P-keyのメンバー達。たわいもない会話をしながらも料理を進めていく直人に待ったの声がかかった。

「ねぇ、直人さん。私にも作るの手伝わせてよ。いつもは料理してもらってるだけだからさ」

「いいって。新しい曲作ってるんだろ? ならそっちに集中しなって。曲作る時に響子いないとしのぶのヤツ機嫌悪くなるし」

「じゃあ手伝わせてくれないなら直人さんがDJ.bangboooとして活動してるってことしのぶに言っちゃおっかな〜」

 そう言い寄って直人を脅す響子こと山手響子。直人は自分自身がDJをやってるいことを身内に明かしていない。しかし響子にはバレてしまったのだ。

 数ヶ月前、直人がPeaky P-keyの楽曲作りを手伝っている時だった。音楽というものは造り手の影響を受ける。『この曲この人が作曲してそうだな』等々、そんなふうなことを思ったことがある人は多いのでは無いだろうか。軽い編曲のつもりだった。しかしながら音楽のカリスマはその機微に反応できてしまったのだ。疑惑が出来てしまったのなら勿論問いただして白状させる他ない。しかしそれで、はいそうです。と認める直人ではない。しかし響子の方が上手だったか、カマをかけられて見事嘘を見抜かれてしまったのである。今では脅迫のネタにされ今日まで続くわけだ。

「本当にそれ言ったら二度と新曲作りも手伝わないしハンバーガーも奢らないし料理も響子の分だけ作らないからね!」

「分かってるよ。それでさ、なんで直人さんはしのぶに打ち明けないの? 直人さんの曲だったらしのぶも気に入ると思うんだけど」

「気に入っちゃうからダメなんだよ。俺の作った曲を『兄貴の作った曲』として好きになったら変に意識するだろ。実際には何も思わないかもしれないけど、その、深層心理? 的なやつでさ」

「へぇ、直人さん優しいんだね」

「しのぶの音楽……Peaky P-keyの音楽が好きだからだよ。それにただでさえ俺としのぶには呪いがかかってんだから」

「呪い?」

「ん、まぁな。他人に気付かされちゃ意味ないからしのぶには言うなよ。ってことで俺も響子に内緒だ」

 料理を続けながら深刻な顔立ちで喋っていく直人。意味深なことを言った手前響子に質問されるが上手い具合にはぐらかした。そこから十数分後、後は煮込むだけの状態になったところで直人は手を止めてご飯が出来たことを知らせるべく、しのぶたちがいる方へ足を向けた。

 

 

「おーい、飯できたぞ」

「おぉ〜いい香り! 流石センパイ。ワタシ盛り付けやるね」

「なら私も手伝うわ」

 駆け寄る二人の少女は笹子・ジャェニファー・由香と清水絵空。二人の紹介や直人との馴れ初めはここでは割愛しよう。

「ありがと。絵空はそこの棚からパン取ってくれる? ……しのぶもちゃんと働け」

「今日は直人の当番なんだからいいだろ」

「せっかくお客さんが来てくれてるのにもてなしの一つもできないなんてな。あ、由香。しのぶのピーマン多めによそっといてね」

「あー、うっさい!! やればいいんだろ、やれば! 由香ぁ! それ他の食材入ってないじゃん!」

「よし、偉い。しのぶ、スプーン持っていって」

 さりげなくしのぶの頭を撫でる直人。昔からの癖なのだろうか、他意がありそうには見えない。少し俯きがちなのに気が付いた由香はしのぶの脇を小突きながらからかう。

「さてはしのぶ。お兄ちゃんに褒められながら頭なでなでしてもらって嬉しいんだな〜?」

「ちがっ、違う。そりゃ久しぶりで驚いたけどさ」

「ふ〜ん? センパイには内緒にしといてあげるね」

 由香に借りを作らされたしのぶと共に直人お手製のシチューを食べる一行であった。

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