HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話   作:ふりかけ@木三中

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9話目 2月6日 昼 剣技の極致

 時刻は午後3時。

 先ほどの魔術の特訓の後、少し休んで疲れも取れ、桜がまだぐっすりと眠っているのを確認した後、商店街に食材を買いに出かけることにした。

 最近藤ねぇは来ていないがそれでも4人前だから食料の減りが中々はやいのだ。

 

 今日の夜ご飯は何にしようか……

 桜は食欲なさそうだし、消化に良いうどんでも作るか……

 そんなコトを考えながら食材を買い込んだ帰り道、俺は昨日イリヤと遊び再会の約束をした公園へと立ち寄る。

 

 イリヤは来てないか……か。

 ちゃんと待ち合わせの時間を指定していなかったのは間違いだったな。

 

 困ったな……別に俺だけだったのなら何時間でも待ってもいいのだが、今は家で熱を出して眠っている桜がいる。

 大人しく眠っているようだし、キャスター達もいるからイリヤと少し話す時間ぐらいならと思ったのだがイリヤがいないのではな……

 かといって、このまま帰ってしまってはイリヤとの約束を破ることになってしまう。

 さて、どうしたものか……

 

 そう悩んでいると、突然世界が反転するような感覚が俺を襲った。

 

 これは――まさか暗示か!?

 

 先程の特訓でキャスターから受けたソレと同じような感覚が走る。

 あれよりは少し弱いが、不意打ちだったこともあり前後不覚に陥る。

 

 ぐっ、落ち着け、さっきの要領でやれば――

 

 魔術回路を励起させ、それを支えとして感覚を取り戻す。一瞬、体がグラリと傾き掛けたがなんとか足に力を入れて地面を踏みしめる。

 

  しかし、暗示ということは近くに敵のマスターがいるのか?

険しい目つきで辺りを見回し、周囲に警戒する。

 

「あれ……シロウなら、目視だけでも暗示をかけられると思ったんだけどな。失敗しちゃった」

 

 だが、聞こえてきたのはイタズラに失敗しちゃったというように軽い口調。後ろを見れば、銀髪の少女が立っていた。

 

「イリヤか……なんだよ、敵かと思ってびっくりしたじゃないか……」

「シロウがあんまりにもボンヤリと突っ立ってたから喝を入れてあげようかと思ったんだけどね。失敗しちゃった、それにしても今のレジストは中々見事だったわ。さほど強力な暗示では無いとは言え、あっさり弾かれちゃうとは思わなかったもの」

「あぁ、実はキャスターに魔術防御の方法を習ってな。そのおかげだと思う。キャスターはちょっと厳しいけど実力は確かだしな」

「ふーん、キャスターに魔術を習ってるんだ。まぁ確かにバーサーカーと戦ってるとき見せた魔術の腕はかなりのものだったし、師としては悪くないか……」

 あぁ……そういえば、イリヤ達とキャスターは俺がキャスターを拾う前に既に戦闘していたのだったか。

「イリヤがキャスターと戦った時ってさ。イリヤ達が柳洞寺に攻め入ったのか?」

「えぇ、攻めると言っても様子見半分だったんだけどね……ただ、倒せそうなら倒すつもりだったんだけど、さすがにそこまで簡単にはいかなかったわね」

「ふーん……ならさ、キャスター以外のサーヴァントもいなかったか?アサシンのサーヴァントがいたはずなんだけど」

「あぁ、いたわよ。サムライっていうのかしら?長い刀を持って妙な剣技を使うサーヴァントが」

やっぱりか、時系列的に元々のアサシンがやられたのは俺がキャスターと出会う直前だろうから、イリヤ達とは交戦しているだろうと思った。

「いや、キャスターからそのアサシンの話を聞いたんだけどさ。日本出身の英霊だったみたいだしどんなやつか気になってさ」

「あぁ、なるほどね。うーん、でも何て説明したらいいかなぁ。私はあんまり東洋の英雄には詳しくないし、そもそも正規の英霊じゃなさそうだったし……あの剣技は面白くはあったけど…………そうだ!」

 イリヤが何かをひらめいたように声を上げると、ズイッとこちらに体を寄せる。

「ほら、シロウ、しゃがんで」

「えっ……あぁ……」

 言われるがままにしゃがむ、するとイリヤがコツンと俺の額に自分の額を当ててきた。

「これが一番わかりやすいだろうし、私の記憶を見せてあげる。今度はさっきの暗示みたいにレジストしちゃだめよ、目を瞑って心を空にして」

 記憶を見せる……そんなこともできるのか。言われた通り、目を瞑ってイリヤを受け入れる。

 

 すると突然、俺の視界が切り替わった。

 

 

 

 

「やっちゃえ、バーサーカー!」

 

 そんな叫び声が自分の喉元から聞こえる。

 瞬間、自分が乗っている何かが物凄い勢いで動いた。

 

 これは……イリヤの記憶か?

 

 ということは今、俺が見ているのはイリヤの視点なのだろうか。

 

 落ち着いて状況を確認する。これはイリヤ達とキャスター達との戦いの時の光景だろう。

 今いる場所はキャスターがかつて根城としていた柳洞寺の山門のようだ。

 

 俺……つまり当時のイリヤはバーサーカーの肩に乗るようにして戦っていたようで、ジェットコースターのような物凄いスピードで動くバーサーカーにしがみつきながら、柳洞寺の階段を駆け上がっていく。

 

 その目前には2人の敵がいた。

 

 1人は空に浮かぶキャスター。

 ローブを目深に被り、マントを羽根のように広げている。

 その背後には紫色の魔術陣をいくつも展開させ、こちらに狙いを定めていた。

 

 もう1人の敵は門の前に立つ紺青の羽織を纏った細身の男……なるほど、あれがキャスターが召喚したというアサシンか。

 

 アサシンは猛スピードで迫るバーサーカーを前にしても顔色を変えることはなく、ただ優雅に風に髪をなびかせて立っていた。

 

「■■■■■■――!!」

 

 バーサーカーの咆哮と共にその腕に握られた巨剣がアサシンへと振るわれる。

 

 アサシンはこの段になっても特に行動をおこすそぶりを見せない、上空でキャスターがヒステリックに避けろと叫んでいるのを愉快そうに聞き流しているだけである。

 

 そして、巨剣がもう少しでアサシンの身を粉砕すると思った瞬間、シャランと言う鈴のような音が響いた。

 

「うそ――――」

 

 驚きの声はキャスターのものだったか、イリヤのものだったか。

 

 一瞬、何が起こったのか俺には分からなかった。

 

 まるで、バーサーカーの巨剣の軌道が滑るようにアサシンからズレたように見えた。

 

 いや……違う。

 バーサーカーの巨剣がズレたんじゃない……アサシンによってズラされたのだ。

 

 一拍遅れて、俺はアサシンが何をしたのか理解する。

 

 いつのまにそれを抜いたのか、アサシンの手には日本刀が握られていた。

 

 それもただの日本刀ではない。2メートルほどはあるだろう異様な長さの刀身に月が反射し、妖しい紫の光を放っている。

 アサシンがゆらりとそれを振るう。

 

「ふむ……こんなものか、確かに目を見張る怪力ではあるが、それだけでは我が身には触れられんぞ」

 

 涼しげなアサシンの声が響く。

 

「■■■■■■――!!」

 

 その言葉に応じるようにバーサーカーが再びアサシンに攻撃を始める。

 

 バーサーカーの巨剣が滅茶苦茶な軌道で振るわれる。

 その一撃一撃が大地を砕くような威力が込められた必殺のモノ。そんなバーサーカーの嵐のような猛攻の中、まるでアサシンは舞い踊るかのように戦っていた。

 

 恐らく力で言えばバーサーカーの方が数段上だろう、僅かでも受ける角度を間違えればアサシンの刀と体はその瞬間に砕け散る。それぐらいの力の差があるはずだ。

 

 それでもアサシンはすでに何度も攻撃を受け流していた。

 曲線を描くように刀の軌跡がきらめく、それだけでバーサーカーの攻撃は吸い込まれるかのように横へと逸れていく。

 苛立ったようにバーサーカーがその拳でアサシンを握りつぶそうとするが、ひらりと風に吹かれる木の葉のようにアサシンが避ける。

 

「フッ――――」

 

 バーサーカーの攻撃を受け流し、ガラ空きとなった脇へとアサシンがその刀を振るう。

 

 だが――

 

「■■■■■■ーー!!」

 

 バーサーカーに効果はない。

 奴は宝具によって概念的な守りを得ているらしい。どれほど超越した技量があってもランクが足りていなければあの巨人の纏った神秘を打ち破り、攻撃を加えることはできない。

 

「ふむ、避けることは容易いがこちらの攻撃もまるで効いておらん、いやはや、これは困りものだな」

 

 バーサーカーの驚異的な宝具を目の当たりにしながらも、アサシンはどこか愉快そうに肩をすくめる。

 

「くっ――ええい、喰らいなさい!」

 

 空中を浮かぶキャスターが魔法陣から眩い光弾をいくつも放つが、それらはバーサーカーの岩のような皮膚を貫くことができない。

 イリヤにも何発か光弾が迫るが、バーサーカーがその巨大な手で覆うようにして彼女の身を守っている。

 

「アサシン、いい加減お遊びはやめなさい。もし、この山門を突破されるようなことがあれば――」

「ふむ、別に遊んでいるという訳ではないのだがな……我が主はさらにその主のことが心配で堪らないらしい。少し本気を出すとするか――」

 

 そう言ってアサシンがゆらりと剣を構える。

 今まで構えらしい構えをしなかったアサシンが初めて溜めの動作を取った。

 

 敵に背を向けるように立ち、顔だけをこちらに振り向けて剣を水平に構える。

 敵に背中を見せると言う行為は危険なものに見えるが、先程までの剣技も単純に無駄のない合理性と言ったものとは違う境地にあるように見えた。

 ならば、奴の奥義であろう技の構えもまた、到底常識では計り知れないものであるのは、ある意味では道理なのかもしない。

 

「ゆくぞ――」

 

 アサシンの雰囲気が変わる。

 今まではどこか飄々としてつかみどころのなかったそれに、確かな殺気が混じる。

 

「秘剣――燕返し」

 

 高速できらめく刀の軌跡。

 次の瞬間、その太刀筋が3つに分かれた。

 

 比喩表現ではなく、目の錯覚でもない。

 その刹那、アサシンの刀は確かに3つ同時に存在していた。

 

 眼球、首筋、脇腹。

 人体の急所へとそれぞれ吸い込まれるかのように刀の切っ先がバーサーカーに迫る。

 

 だが――――

 

「■■■■■ーー!!」

 

 バーサーカーの皮膚に触れた所で、刀の軌跡がピタリと止まる。

 アサシンの奥義を持ってしてもバーサーカーの神秘に守られた肉体は切り捨てることは叶わないらしい。

 

「ほう!いや、これは参った。我が秘剣が通じぬとはな……私のような邪剣使いではまだまだ至れぬ領域があると言うことか……」

 

 刀を下ろし、落胆のセリフを吐きながらも、どこか楽しげな笑みを浮かべるアサシン。

 

「恥じるコトはないわ、多重次元屈折現象。第2魔法の真似事をまさかこんな所で見るとは思わなかったもの。あなたの技は見事だったわ、並みのサーヴァントなら今ので必殺の一撃足り得たでしょうね。でも私のバーサーカーは並みじゃなくて最強なの。ただそれだけの話よ」

 

 そのアサシンに対してイリヤが認めるかのような賛辞を送る。

 

「チッ――何をしているのアサシン!バーサーカーに通じないのならばマスターを狙えばよいでしょう。あなたの技ならそれも可能のはずよ」

 

 空中からキャスターの怒号が響く。

 そんなキャスターに対してアサシンはやれやれとでも言うように肩をすくめて答える。

 

「それはあまりお勧めはせんなぁ。確かにこの巨人は理性を失っているようだが、その瞳には僅かに慈愛の色が見てとれる。仮に主を殺した所でこの巨人が消えゆくまでの間に我らはくびり殺されてしまうだろうよ」

「くっ、減らず口ばかりを――まぁ良いわ。魔力を練るには十分な時間だったもの。アナタがやらないのなら私がやるわ」

 

 そんな、キャスターの言葉と共に、先程光弾を放ったものよりも更に大きな魔法陣がキャスターの背後に浮かび上がる。

 縦横に何重にも円が重ねられた魔法陣は唸るように回転し、そして――

 

「消えなさいバーサーカー!

『神官魔術式・灰の花嫁《ヘカティック・グライアー》』!!」

 

 魔法陣から眩いばかりの光の柱が発せられる。

 まさに極太のレーザー、膨大な魔力が込められたそれがバーサーカーに迫る。

 

「■■■■■■■……!!」

 

 流石にバーサーカーも本能的にその光を警戒したのだろうか、大きく横に飛び退くが、イリヤを乗せているのと逆側の左半身が光の奔流に呑まれてしまう。

 

 数秒の後、光が止む。

 

 そこに立っているバーサーカーの左半身は完全に消滅していた。

 

「あら……流石に甘く見過ぎてたかな。まさか、バーサーカーが殺されちゃうなんて」

 

 そんなバーサーカーを見て、事もなさげにイリヤが呟く。

 

 流れる僅かな沈黙。

 左半身を失ったまま立ち竦むバーサーカー。

 

 しかし、変化は一瞬で起きた。

 無くなったハズのバーサーカーの左半身がまるで巻き戻すかのように再生していく。

 

 バーサーカー……ヘラクレスは数多の冒険を経たのちに、神々によって不死を与えられたと言う逸話がある。

 恐らく、あれはその伝承が宝具と化したもの。低ランクの神秘を弾く肉体は副産物に過ぎない、あの不死性こそがバーサーカーの真の宝具なのだろう。

 

「ほう……これはこれは、流石は古今東西の英雄達が集う聖杯戦争か。岩をも砕く怪力に我が剣をも寄せ付けぬ肉体……更に不死の類とはな……」

「くっ……神々より難行の報酬として得た『十二の試練』、狂化ではその宝具は失われないというわけね……」

 

 アサシンが愉快そうな声を、キャスターが忌々しげな声をあげる。

 

 そんなキャスター達を前に、イリヤはバーサーカーの肩から飛び降りる。

 そしてひらりとスカートをつまんで優雅なお辞儀をしてみせた。

 

「今日はこの辺りでお開きとしましょうか、最初から様子見のつもりだったし、あんまり追い詰めて私ごとの相打ちを狙われてもちょっと面倒だしね。アサシンの剣技もキャスターの魔術も中々面白くはあったわよ」

 

 殺そうと思えばいつでも殺せるが、今日は見逃してあげる。

 

 そんなコトを言外に滲ませた、一方的な終戦宣言をイリヤは告げると、そのままくるり踵を返して柳洞寺の階段を降りて行く。

 

 こうして、俺の知らぬ間に行われていたキャスター達とイリヤ達の対決は幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

「――――ッと」

 

 そこで意識が元に戻り、垣間見ていたイリヤの記憶から現実世界へと引き戻される。

 

「どうだった、アサシンの剣、中々面白かったでしょ。まぁ、私のバーサーカーには全然敵いっこないんだけどね」

「あぁ――そうだな」

 

 確かにバーサーカーの宝具を破るコトこそ叶わなかったがアサシンの剣技は見事のものだった。

 

 改めて、彼の刀と太刀筋を思い返す。

 

 きっと――あの技と刀はきっと何か1つの極地を目指して振るわれてきたものだ。

気の遠くなるような時間、ただ他の一切を削ぎ落とし、常軌を逸したような執念の果てにようやく辿り着いた領域。

 バーサーカーの攻撃を受け流したりもしていたが、あれはその過程でたまたま身につけたに過ぎないのだろう。

 

『秘剣――燕返し』

 

 バーサーカーに放った奥義、3つの太刀からなる必殺の剣。

 彼にとってはあの技こそが生涯の終着の果てに体得した唯一のものなのだろう。

 

 その後、イリヤから、いかにバーサーカーが強いか

 なんて話を散々に聞かされていると、そろそろ帰らなくてはならない時間になってしまった。

 

「悪い、イリヤそろそろ帰らないと。桜……学校の後輩が風邪で寝込んでてな。あんまり家を空けちゃマズイんだ」

「……そう。それじゃ仕方ないわね……まだ話し足りないけど、許してあげるわ」

 

不満そうに口をへの字に曲げながらもイリヤが渋々と頷く。

 

「それじゃあな、イリヤ」

「うん、シロウも」

 

 イリヤは別れの挨拶をして手を振って公園の出口へ向けて歩いていく。

 

「言おうか迷ったんだけど――」

 

 もうすぐでイリヤが公園から出ると言うところでチラリとこちらを振り返った。

 

「サクラには……気をつけた方がいいわよ」

 

 それだけ呟くと、今度こそイリヤは公園から出ていった。

 

 気をつけるって……桜の熱のことか?

 イリヤは桜のことは知らないはずだが心配してくれるなんて優しいな。

 そんなことを考えなら、俺も家への帰路につくのだった。

 




最後コピペミスで変な文が挿入されてたんで直しました、誤字脱字多いので気をつけたい…
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