HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話 作:ふりかけ@木三中
「うっ…………?」
陽の光を浴びながら、目を覚ます。
どうにも視界はぼやけて、頭がフラフラしている。
「…………」
寝起きで思考がまとまらない。
何か、大事なことをしている最中だった気がするが……
ぼんやりと辺りを見回す。
ここは……俺の家の部屋の1つだな……ただ、いつも俺が寝ている布団のある部屋ではなく別の部屋で眠っていた。
あれ、なんでこんなところで寝ていたのだったか――?
「……坊や、目が覚めたのね」
未だ呆然とする俺に声がかけられる。
横を見れば、キャスターが安堵したように俺のことを見ていた。
どうやら、眠っている俺のそばにずっといてくれたらしい。
まるで看病でもしてくれていたようだ。
あれ…………看病?
そういえば、なにか体の調子が何かおかしいような……?
「状況は分かっていないようだけれど……とりあえず今は落ち着いてちょうだい。それから冷静に……ゆっくりと左腕を見て」
左腕……?
キャスターに言われて、自らの左腕を見やる。
「あ…………?」
なんだこれ?
俺の左肩から先……そこには普段見慣れたモノとは違う、誰か別の腕が生えていた。
「ぐっ――――」
そのことを認識した途端、体の全身が剣で串刺しにされたかのような痛みが走った。
「あっ……あっ、あっ…………」
燃える、燃える、燃える。
体が燃えるように熱い。
いや……正確には体ではない……左腕だ。
左腕から流れる血がマグマのように煮えたぎって体を駆け巡る。
同時に情報が、記憶が、濁流のように流れ込んでくる。
その『誰か』の記憶を認識している余裕はない、ただ流されないように必死に自分を保つ。
「ッ―――」
荒漠とした丘、辺り一面に剣が刺さった『奴』の世界。
そんな景色を一瞬、幻視する。
剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣
黒と白の夫婦剣が、竜殺しの剣が、山をも穿つ螺旋剣が様々な剣の構成情報が頭の中に流れ込んでくる。
――――知らない、俺はこんなものは知らない。
頭の中がパンクする、これはきっと■■■■が長き時を経て得たものだ。
そんなものが一度に入ってきて対応できるわけがない。
「坊や、落ち着いて。自分を保つのよ、回路を安定させて――左腕に堰を作って――」
「ッ――左腕を――?」
目を瞑り、心を落ち着かせる。
堰を作る――要するに左腕から流れ込んでくるものをせき止めれば良いのだ。
痛みの原因と対処法が分かればなんとかなる、必死で左腕を押さえつけ、魔力をコントロールする。
「はっ、ふぅ……ふぅ……」
じわじわと体から熱と痛みが引いていく。
とりあえずは――大丈夫だ、さっきのような滅茶苦茶に何かが流れ込んでくるような感覚はなくなった。
「はぁ――なんとか、落ち着いたよキャスター」
「そう……とりあえず、生死に関わるほどの拒絶反応はなさそうね。とはいえ……完全に適合するのはやはり難しいか……」
息も絶え絶えな俺をキャスターがじっと見つめる。
拒絶反応?適合?
なんのことだろうか?
「キャスター……この腕は一体何があったんだ?」
「えぇ……そのことについてはちゃんと説明するけれど……その前にまず意識ははっきりしてるかしら?気絶する前のことはちゃんと覚えていて?」
気絶する前……
そうか、俺は単に眠っていたのではなく気絶していたのか。
未だ混乱する頭で、覚えている最新の記憶を引っ張り出す。
「確か……イリヤのとこに話し合いをしに行って、セイバー達と戦闘になって……最後はランサーの槍で――」
――左肩を貫かれたはずだ。
「記憶はちゃんとあるようね……そう、坊やの腕はランサーの槍によって引きちぎられてしまったのよ。治療も試みたのだけれど、彼の槍によって傷つけられたものはその傷を癒すことができないという呪いがかけられていてね。坊やの元々の腕を接合することはできなかったわ」
ランサーの宝具たる魔槍ゲイ・ボルク、因果逆転による回復阻害の効果を持ったその呪いはキャスターであっても対処することができなかったらしい。
ならば、今、俺の左肩から生えているこの腕は……
「でも……そのままでは当然、坊やは死んでしまうでしょう。だから……別のもので蓋をしたのよ」
自らの左腕を見る。
そこには本来の俺の腕よりも一回り大きい大人の男の腕がある。
キャスターは別のもので蓋をしたと言った。
ならば……この腕は……
「アーチャーの腕……か」
俺の言葉にキャスターがえぇ、と小さく肯定する。
「アーチャーは……どうなったんだ?」
「……消滅したわ、ランサーの槍が致命傷となってね」
……そうか、俺が見た限りでは傷こそ深かったが消滅する気配はなかったのだがな……
あるいは……俺にこの腕を渡したことが、最後の一押しになったのかもしれない。
赤い弓兵の姿を思い返す。
どこか皮肉げな口調と荒みきった目をした奴の姿を。
俺はどこか……奴に対して反発心のようなものを覚えていたように思う。
それでも奴は、俺にこの腕を残して消えた。
アーチャーの真意はもはや分からないが、きっとそれは重要な行為だ。
しばし、腕を見つめ感傷に浸る。
「…………でも、流石はキャスターだな。詳しい理屈は分からないけど、サーヴァントと人間の体を繋げるなんて簡単なことではないだろう」
魔術を使えば、現代医療を遥かに超えた治療行為なども可能になる。それでも他人の腕と体をくっつけるなど容易なことではないはずだ。
そう考え、キャスターにそんな言葉を口にしたのだが……
「…………えぇ、他の術師がサーヴァントの腕の移植なんて施術をすれば拒絶反応で死んでしまっていたでしょうし、仮に成功しても封印処置でも施してガチガチに拘束しておかなければならなかったと思うわ。だから、ある程度の日常生活を送れるほどに馴染んだのは私の魔術の腕前のおかげと言えるでしょうね……」
俺の言葉に何故かキャスターは顔を曇らせて答える。
「もっとも……それでも本来は霊体から生身への移植自体がほぼ不可能なのだけれどね」
「?……どういうことだ?」
「いえ……なんでもないわ、それより何か違和感はないかしら?私の魔術で抑えているのと、坊やが多少なりとも魔術の基礎が出来ていたおかげで比較的に症状は軽めですんでいるけれど、それでも腕と体との拒絶反応はあるはずよ」
その言葉に腕を軽く振り回したり、手を開閉したりして感覚を確かめる。
「違和感はもちろんあるけど……とりあえずは問題ない。目覚めた時はちょっとパニックになったけど今は落ち着いてる」
「そう……なら、ひとまずは安心だけれど……いい、決して魔術を使ってはダメよ。また後で詳しく見るつもりではあるけど、今の状況で魔術回路を起動したりすればどうなるか分からないわ。最悪、死んでしまうかもれないし、もう2度と魔術を使えないかもしれないという覚悟はしておいた方がいいでしょうね」
魔術が使えないかもしれない……
その言葉に目を伏せる。
命があっただけ儲け物だとは言え、この状態で魔術が使えなくなるかもしれないとは……
「まさかとは思うけれど……魔術が使えない程度の理由で今更この戦いから降りるつもりはないわよね?」
「あぁ、それはないよ。前にも言ったけどこの戦争を戦い続けようと思ったのは俺自身の意思だ。桜やセイバーのこともあるし、こんなところで止まるつもりはない」
キャスターの言葉に強く言い返す。
魔術が使えなくなったとしても、体が動く限りは……いや、動かなくなろうが生きている限りは戦いを続けるつもりだ。
俺の返答にキャスターも満足そうな顔をする。
「そういえば……遠坂とイリヤはどこにいるんだ?無事なのか?」
「えぇ……坊やのおかげで彼女達には傷1つ付いてないわ。さっきまで彼女達も坊やの治療を手伝ったりしてくれたのだけれど、ちょうど休憩してもらっていたところなのよ」
その言葉にホッと一息をつく。
彼女達にまで何かあったら本当に目も当てられない状況だった。
「坊やが眠っている間に色々と情報交換もして、大まかな状況は見えてきたわ。その辺りの話もしたいし、彼女達を呼んでくるわ」
そう言ってキャスターは部屋を出て行く。
静かになった部屋に俺だけが1人ぽつんと残される。
部屋にかけられた時計を見てみれば朝の7時を指していた。
昨日イリヤ達のところに向かったのも朝方だったから、丸一日眠っていたのだろう。
「…………」
部屋に残された俺は手持ち無沙汰になり、何とは無しに変わり果てた左腕を見る。
セイバーと桜を失った時は悲しみのどん底だと思ったが、まさかこんなことなるとはな……
セイバーとランサーは臓硯の下につき、頼みの綱であったバーサーカーとアーチャーは消滅した。
俺の腕もこんな有様だ。
状況はまさしく絶望的と言って良いだろう。
「シロウ!気がついたのね!」
気分を沈める俺とは対照的に弾んだ声が部屋に響く。
扉を開けると同時に弾丸のような勢いでイリヤが俺に抱きついてきたのだ。
少し驚いたが、なんとか受け止めその頭を撫でる。
「ありがとうイリヤ、心配してくれていたんだな」
そうしていると、少し遅れて遠坂も部屋に入ってきた。
「調子はどうかしら、衛宮君?」
「あぁ……とりあえずは落ち着いている。それと……アーチャーのことだけど……」
残された右腕で接合されたアーチャーの左腕を撫でながら、遠坂と目を合わせて口を開く。
「……遠坂、すまない。俺の独断でアーチャーを失ってしまった。謝って済む問題じゃないけど……謝らせてくれ」
あの時、ランサーとの戦いにおいて、もともとあの場所に残ると言ったのは遠坂だった。それを俺は独断で転移させ、結果的にアーチャーを失うことになってしまった。
謝罪する俺に、遠坂は髪を掻き分けながら口を開く。
「別に……あの時はああ言ったけれどあの場に私が残って生き残れたという保証はないわ。それに……その腕を残したのもアーチャー自身の意思よ。衛宮君が気に病む必要はないわ」
そう語る遠坂だったが、やはりその口調には僅かに悲しみの色が含まれていた。
「まぁ……あいつの最期を見届けられなかったのはちょっと残念だけどね。気づいたら契約が切れるという形で終わっていたから……」
遠坂が令呪の刻まれた右手を見つめつつ、そう語る。
そうか……アーチャーは遠坂の元へと帰ることもできなかったのか。
サーヴァントを失う悲しみは俺も分かっているつもりだ。
自らの相棒を失うその悲しみは。
「ま、今は過去を惜しむよりはこれからのことを話すべきよ。あいつの犠牲を無駄にしないためにもね」
一瞬、深い悲しみの色を滲ませた遠坂だったが、切り替えるように力強い口調でそう語る。
確かにそうだ。俺たちが今すべきことは、後悔をすることではない。まずは現状の確認とこれからの方針を決めなければ。
「俺は結構長いこと寝てたみたいだけど、その間に臓硯達に何か動きがなかったのか?追撃してきたりとかは?」
「いいえ、現状は特に何も動きは無かったわ」
キャスターが俺の質問に答えてくれる。
そうか……
俺の家の場所は臓硯に割れているだろうし、奇襲をかけられる心配もあったが、今のところはそのような兆候はないらしい。
「襲ってこないのは桜さんの体が馴染むのを待っているのと余裕の表れといったところかしら。ただ……いずれは必ずくるでしょうね」
「あぁ……奴に敵対する残ったサーヴァントはキャスターだけだもんな」
聖杯を満たすためには他のサーヴァントは倒さなければならない。遅かれ早かれ奴は必ず動くはずだ。
「えぇ……それもあるのだけれどね。ただ……奴の真の目的は恐らく彼女……イリヤスフィールよ。アインツベルンの奇跡たる彼女の捕獲こそが間桐臓硯の狙い」
そう語り、キャスターがイリヤに視線を向ける。
そういえばランサー達はイリヤのことは執拗に狙っていた。俺や遠坂のことはそこまで拘っていないという雰囲気だったので、単純にマスターであるという理由以外にも何かイリヤを狙う理由があったのだろうか。
でも、イリヤが一体全体なんで臓硯達に……
「うーん……そうね、そもそも坊やは聖杯とはどんな形をしていると思う?」
「なんだ突然?聖杯の形って……そりゃ、杯って言うくらいなんだからコップみたいなのじゃないのか?」
藪から棒なキャスターの質問に答える。
伝承などでは黄金の杯とかで描かれることが多い、俺もそんな感じのものを漠然とイメージしていのだが……
「えぇ、最初は私も聖杯というのは器のような形をしているものだと思ったのだけどね……」
その言い方だとどうやら聖杯は俺がイメージしていたものとは全く違う形みたいだな……
「分かんないな、結局聖杯ってどんな形なんだ?」
俺の質問にキャスターは答えず、ただ黙ってイリヤを目線で示す。
「?」
意図が分からず、イリヤを見つめる。
イリヤもただ無表情で俺の事を見つめている。
「分からないかしら?彼女こそが……イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。アインツベルンの末裔である彼女こそが此度の戦争で用いられる聖杯なのよ」
「は……?イリヤが……聖杯?」
理解が追いつかず、呆然と言葉を返す。
「そう……私が、今回用いられるはずの聖杯……天の杯、万能の願望機よ」
どこか、厳かな口調でイリヤがそう告げる。
「一応、隠してるつもりだったんだけどね。キャスターにはすぐに見破られちゃったわ。さすが神代の魔術師ね」
「えぇ、わたしも最初は狂化したヘラクレスを従えるなんてよく魔力が保つものだと疑問に思っていたけれど、影を従える桜さんを見て理解できたわ。小聖杯であるのならあの膨大な魔力にも納得がいくもの」
2人が何やら話しているが、こっちは訳が分からない。
イリヤが聖杯ってどういうことなんだ?
疑問符を浮かべる俺に対して、イリヤが説明するように口を開く。
「かつての聖杯はシロウの言う通り杯の形をしてたんだけどね、第3次聖杯戦争で聖杯が奪い合いの最中に破壊されてしまったの。それを踏まえて第4次からは自ら意志を持ち自衛のできる生きた聖杯が用いられるようになったの」
第4次から……そういえば、臓硯は桜の体に前回使われた聖杯のカケラを埋め込むことで、桜を聖杯にしたと言っていた。
その時は人間を聖杯にすることなど可能なのかと思っていたが、むしろ元が人間なのだとしたら納得もいく。
「なるほど……それで今回、使用させる聖杯がイリヤの体ってことなのか」
「うん、まぁ大体そういう理解でいいけれど。もう少し、詳しく話すとね。正確には私は鍵……小聖杯と呼ばれるもので、大聖杯と呼ばれる術式は別にあるの」
イリヤの説明では聖杯戦争そのものを仕組み作る大規模な魔術炉心である大聖杯と、敗退したサーヴァント達の魔力を溜め込み、いわゆる願望機として機能を果たす小聖杯というものがあるらしい。
そして、イリヤこそが此度の第五次聖杯戦争で使用されるはずの小聖杯であった、ということらしい。
「けれど……今回の聖杯戦争では大きなイレギュラーが起きた。サクラの……もう1つの聖杯の存在よ」
臓硯は桜を聖杯に仕立て上げたと言っていた。
桜を小聖杯とすることで大聖杯に不正にアクセスし、あの膨大な魔力やサーヴァントを取り込む影の力を手にしているのだろう。
お陰で此度の戦争ではイリヤと桜、小聖杯が2つ存在すると言う異常な事態になっている。
「2つ存在する聖杯に対してサーヴァントを取り込んだ時の魂の総量は変わるわけではない。今のままではどちらの聖杯も満たされることなく此度の戦争は中途半端に終わってしまうでしょうね」
それは当たり前だな。
小聖杯を量産するだけで願いが叶うならこんなめんどくさい戦争はそもそも行われていないだろう。
重要なのは器ではなく中身なのだから。
「なるほど……つまり、臓硯たちはイリヤを捉えて、その中にある消滅したサーヴァントの魂を回収しようとしてるのか?」
「いえ……多分、臓硯は自分自身は聖杯として成るつもりはなくて、私の方を魔力で満たして、聖杯として使用するつもりだと思うわ。どちらにせよ臓硯が私を狙ってくるだろうことには変わりないだろうけど」
「ん?なんで、臓硯が桜の体を聖杯として使わないって分かるんだ?既にアイツの手中にある桜を使う可能性の方が高くないか?」
「……サーヴァントの魂を取り込むとなれば、それなりに負担になるわ。臓硯は桜の体を乗っ取るつもりなんだし、そういうのは嫌うはずよ」
「負担って……サーヴァントの魂を取り込むとやっぱりマズイのか?」
聖杯の詳しい仕組みは分からないが、やはりサーヴァントの膨大な魔力を取り込むというのはリスクのある行為なのだろうか。
イリヤや桜の体に負担になるのだとしたら、それは問題だ。
俺の言葉にイリヤは一瞬考え込む様子を見せてから返答する。
「まぁ……その辺はまた今度説明するわ。少なくとも現状はそんなに気にすることないわよ。敗退したサーヴァントはまだ2体。そのうちバーサーカーの魂は私の方にきてるけど、アーチャーの方は取り込めてない。多分……あっちに取られちゃったのね……とにかく、それぞれ1体ずつぐらい取り込んでも別に大したことはないわ」
バーサーカーの魂はイリヤへ、アーチャーの魂は桜の元へと向かったのか。
キャスターが召喚したというアサシンに関しては、真のアサシンへと変貌したという扱いなのでカウントはしないらしい。
サーヴァントを取り込んだ時の負担とやらは気になるが、イリヤが問題ないというのなら、とりあえず今は大丈夫なのだろう。
「さて……まぁ、聖杯についてはこんなところかしらね。後はセイバー達のことだけれど……」
話を変えるようにキャスターが口を開く。
セイバー……
黒い鎧を身に纏った彼女の姿、その冷たい瞳を思い返す。彼女の変貌ぶりは一体何があったのだろうか。
「セイバーの変貌については、おそらくあの影に呑まれた影響でしょうね」
臓硯もそんな感じのことを言っていたな……やはり、あいつの魔術か何かか……
「私の見立てでは臓硯と言うよりは、正確には汚染された聖杯に原因があるのでしょうね。聖杯すらも染めるほどの悪性、それによってセイバー達も変貌してしまった」
なるほど……セイバーもランサーも結局は聖杯に呼び出されたサーヴァントだ。大元である聖杯を汚染するほどのモノには当然影響を受けるだろう。臓硯はそれを使ってセイバー達を操っているのだろうか。
「操られている……とは少しニュアンスが違うかしらね。言うなれば、別側面……オルタナティブとでも言ったところかしら」
オルタナティブ……セイバーオルタとでも言うべき存在か。
あの黒い騎士は汚染された聖杯によってその魂を歪められているらしい。操られているのではなく、その意識はセイバー自身のもののようだが、今のセイバーと以前のセイバーは別物だ。
「一応言っておくけれど、あれが彼女の本性って訳ではないわよ。聖杯によって歪められ誇張された一面でしかないわ」
それは分かっている。
あの氷のように冷たい瞳……セイバー自身はきっとしないだろうから。
彼女はセイバーではあるが、俺の知っているセイバーではないのだ。
「それで……セイバーを元に戻すことは可能なのか?」
原因は分かったが、一番重要なのはそれを解決できるかどうかだ。
俺1人ならばどうしようもなかっただろうが、キャスターならばセイバーを元に戻すこともできるのではないだろうか。
「そうね……今のセイバーは穢れた聖杯の影響を受けてあんな事になってしまっている。ならば……その干渉を断ち切ってしまえば、元に戻すことはおそらく可能よ」
そう言ってキャスターは自らの宝具を手元に現す。
『破戒すべき全ての符』
桜の場合は蟲が物理的に巣食っていることもあって、その宝具では臓硯の支配を断ち切れないらしいが、セイバーの場合は影による魔術的な繋がりのみだ。
これなら契約破りの短剣でその繋がりを断つことができるかもしれない。
「まぁこの宝具を使っても何かしらの影響が残ることは十分に考えられるし……それに何より、1番の問題としてどうやってセイバーにこの宝具を突き立てるのかと言う問題もあるけれどね」
確かに……今のセイバーは完全に俺たちと敵対している。
みすみすこんな短剣に当たりに来てくれるとも思えないし、対魔力を有している以上キャスターの圧倒的な不利は変わらない。
「でも……とりあえず今後の方針は見えたな。今の俺たちには圧倒的に戦力が不足している。とりあえず、まずはなんとかしてセイバーを取り戻す」
こちらにも遠坂とイリヤが増えたとはいえ臓硯は現在セイバー、ランサー、ライダー、アサシンの4騎ものサーヴァントを引き連れている。
今のままではまず勝ち目がないが、セイバーをこちらの陣営に取り戻せば多少は勝機も見えてくるはずだ。