HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話   作:ふりかけ@木三中

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17話目 2月9日 夜 老人の思惑

 

 空に月が昇り、宵闇に包まれる頃。

 士郎たちが臓硯に対抗しようと策を練っている裏で、当の臓硯もまた思索にふけていた。

 

 間桐邸地下、蟲が蠢く空間で桜の肉体を『調整』しつつ、その侵食率を確かめる。

 

「ふむ、やはり……桜の体に乗り移るのは時期尚早じゃったか……」

 

 そして、あまり芳しくない状況に一人ごちる。

 ジワリジワリと桜の精神を侵し、もはや肉体の主導権は完全に臓硯にあるが、あと少し決定的なラインが越えられない。

 

 本来は寄生させた蟲や聖杯の悪性を利用して、桜を心身共に弱らせてから、その肉体を乗っ取るつもりだったのだが、キャスターを警戒して時期を早めた影響なのだろう。桜の自我は未だ精神の奥底で燻りつづけている。

 流石にもはや目立った抵抗はできなくなっているようだが、この状態が長く続くことは好ましくない。

 

「さて……どうしたものか……」

 

 手っ取り早く桜の精神を壊す方法もあるにはある。

 この桜の体を使って、悪行でもなせばいい。さすれば、罪悪感から桜の意識は自滅してくれるだろう。

 桜の思い人である衛宮士郎や実の姉である遠坂凛あたりを殺せばさらにその効果は期待できる。

 だが、そうなれば桜も当然抵抗するだろう。ともすれば彼らを前にして決定的な隙を晒しかねない。あちらにキャスターがいる以上、下手に隙を見せるわけにいかない。

 

 慎二辺りがいればちょうどよかったのじゃがのう……

 

 そう考えながら臓硯は不満げに眉をひそめる。

 

 しかしあの不出来な孫は家にも帰らずどこかをほっつき歩いているらしい。

 間桐の魔術師に相応しくないという現実を受け入れ絶望したか、桜の肉体に乗り移った祖父を見て今更ながらに魔術師の業に恐怖でも覚えたのか

 何にせよ全くもって不出来な孫である。

 

 せめて死をもって間桐の贄にでもなればよかったものを……

 

 だが、いないものに文句を言っても仕様がない。苛立ちをぶつけるように臓硯が視線を移す。

 

 自らの手駒となった4騎のサーヴァント達。

 

 ランサーはただ悪趣味だとでもいうように蟲達が這いずりまわる部屋を眺めており、アサシンは主を守るように闇に潜んでいる。

 セイバーは黙して部屋の隅に佇み、ライダーは臓硯を……いや、正確には彼が巣食う間桐桜を気にかけるように見つめている。

 

 そのうちの1人……ライダーに対して臓硯が言葉を投げる。

 

「……ライダーよ、お主。先日のキャスターとの戦い、手加減しておっただろう。慎二がマスターだった頃はともかく、今の儂が……正確には桜の肉体がマスターである状態ならばキャスターを倒すことは難しくはないはずじゃ」

 

 セイバーと桜を奪った日の夜、本来はキャスターは倒してしまう算段だったのだが結局それは叶わなかった。

柳洞寺を拠点としていた頃と比べればキャスターが貯め込んでいる魔力量は減少している。低ランクとはいえ対魔力を持つライダーならば決して打倒できぬ相手ではなかったはずだ。

 

「いえ……手加減をしたと言う訳ではありません。確かにキャスターの攻撃は対魔力がある以上それほど脅威ではありませんが、やはり搦め手にも長けていてそう易々と討ち取れる相手では――」

「クカカ……見え透いた嘘をつく必要はあるまい。お主はキャスターをワザと見逃したのであろう?あのサーヴァントなら桜を助けられる可能性があるからの」

「…………」

 

 臓硯の言葉に対して、ライダーは何も答えない。

 

「ふむ、お主は目を隠してはいるが中々その感情は読めやすいの……確かに、今はまだ桜の自我は完全に消滅した訳ではない。神代の魔術師であるキャスターならば意識をサルベージすることは可能であろうな。そのためにはランサーやセイバーを倒し、儂を拘束でもして治療にあたる必要があるがの――まぁ成功する確率は露ほどの微々たるものじゃろうな。それでも、お主として一縷の望みに賭けるしかあるまいか」

 

 そこで言葉を区切ると、臓硯はライダーにじろりと視線を向ける。

 臓硯の肉体は現在、間桐桜のものであり、その暗い瞳にライダーの姿が映る。

 

「さて――儂としてはそのような企みが成功することはまずないと考えているが、それより心配なのはこのまま桜の意識を完全に乗っ取った時の事じゃ。もし桜の意識が消滅した時お主はどうするかな?儂を殺すか?桜の肉体ごと……」

 

 臓硯の言葉にライダーはギュッと指を握りしめ、悔しげに口を閉ざし何も答えない。

 

「クカカ……その沈黙は肯定か否定か、、どちらにせよ素晴らしき主従愛じゃな。桜はまこと良きサーヴァントに恵まれたものよ。しかし――もし土壇場で邪魔をされるような自体になれば、儂としても非常に困る」

 

 おどけたように、語りながら臓硯が左手をかざす。

 そして――

 

「令呪を持って命じる――」

 

 間桐桜の左手に刻まれた赤い印。

 3画からなされるその文様は、慎二に対して偽臣の書を作るために既に1つ消費されており、今また新たにその効力を発揮する。

 

「―――ライダーよ、命を賭してワシを守れ」

 

 キィンという音と共に、左手が赤い光を発し、令呪の1つが薄れていく。

 ライダー自体に特に変化は見られないが、彼女は不可視の戒めによって、臓硯の盾となることを強制され、同時に危害を加えることも禁止されてしまった。

 

 そんなライダーは訝しげに臓硯へと言葉を投げる。

 

「……1つ、問いたい。なぜ、私を令呪で縛ってまでわざわざ生かしたのですか?聖杯と繋がった桜の肉体に4騎のサーヴァント。戦力としては些か過剰すぎると思うのですが」

 

 残った敵はキャスターとそのマスター、そしてアーチャーやバーサーカーのマスターだけだ。

 聖杯たるイリヤスフィールの身柄は確保しなければならないが、それを考慮してもセイバー1人で充分に達成できる仕事だろう。

 どの道、聖杯を満たすためには、サーヴァントを殺してしまわなければならないのだから、ここでわざわざ令呪を消費するよりもライダーを殺してしまった方がずっと合理的な筈……何を企んでいるのだとライダーが問いかける。

 

「あぁ……そういえば、まだ説明しておらんかったの。確かにキャスターはもはや、いつでも潰せる。桜の抵抗を考えてもう少し時期は置くが、奴らの殲滅とアインツベルンの娘の捕獲はそう難しくなかろうて」

 

 ならば何故――と問う前に臓硯が口を開く。

 

「いや、なに、8人目のサーヴァントを倒すためには少しでも頭数が欲しくてな」

 

 8人目のサーヴァント、その言葉に近くで静観していたセイバーとランサーも僅かに耳を傾ける。

 

「そう……10年前のサーヴァントの生き残り、それを言峰綺礼が有しておってな」

 

 10年前という言葉にセイバーが、言峰綺礼という言葉にランサーが僅かに目を細める。そんな彼らの反応も横目に確認しつつ臓硯は高らかに宣言する。

 

「8人目のサーヴァント、英雄王ギルガメッシュ――奴は儂らの手で叩く」

 

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