HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話   作:ふりかけ@木三中

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18話目 2月10日 朝 お惚気キャスター

 

 荒漠とした丘に突き刺さる無数の剣。

 乾いた風が吹きすさび、灰色の空には錆びた歯車が浮かんでいる。

 

「…………」

 

 そんな殺風景な景色の中を誰かが歩いている。

 

 赤い外套を纏った白髪の男。

 

 向かい風の中、歯を噛みしめ苦悶の表情を浮かべている。

 

 だが、それでも男の歩みが止まることは無い。ただ、前を見据えて一歩一歩、果てのない荒野を歩く。

 

 男が歩むたびに荒野に存在する剣は数を増し、空の灰色はより暗みを増していく。

 

「………」

 

 男の歩みは止まらない。

 

 たった一人で、孤独に、剣の荒野を歩み続ける。

 

 果てもなく、終わりもなく、ただ孤独に……

 

 

 

 

「うっ……あっ……?」

 

 ゆっくりと目を開けると、見慣れた天井が視界に飛び込んでくる。

 先ほどまでの景色が目に焼き付いて、一瞬、自分がどこにいるのか分からなくなった。

 

 ここは我が家で、俺は今、布団の中で眠っていたのだ。

 それなら今しがたの光景は――

 

「夢……か」

 

 自らに問いかけるようにポツリと呟く。

 チラリと時計を見れば、まだ午前3時、流石に起きるには早い時間だ。

 

「…………ただの夢じゃないよな」

 

 マスターとサーヴァントはそれぞれパスでつながっており、互いに過去の記憶を夢と言う形で見ることがあるという。

 だが今のはキャスターの記憶って訳では無いだろう、今のはきっと……左腕を通して垣間見たアーチャーの記憶……いや、記憶というよりイメージとでもいうべきか、奴の生涯、その歩みを夢として見たのだろう。

 

「…………」

 

 未だ目が覚めたばかりで半覚醒の意識のまま、ぼんやりとアーチャーの腕に視線を向ける。

 日常生活を送る分には支障はないが、まだまだ魔術は使えそうにない。イリヤからアドバイスをもらった後、もう一度特訓をしてみたりしたが結果はさんざんだった。

 

「アーチャーの力……奴の歩みの果てに得たものか……」

 

 荒野を歩く奴の姿を思い返す。

 たった一人で歩く奴の姿に、俺は何を思ったのだったか―――

 

 そんなことを考えているうちに、俺の意識は再び睡魔に呑まれてしまった。

 

 

 

 

「少し寝過ごしちまったな……」

 

 すっかり日も昇り、時計が7時30分を回ったころ、顔を洗って食卓に向かう。

 いつもはとっくに目が覚めている時間なのだが、下手に2度寝したせいか魔術の特訓の疲れが残っていたのか、珍しく寝過ごしてしまった。

 

「おはよう、衛宮君。悪いけど勝手に朝食を作らせてもらったわよ。ちょうど今作り終わって呼びにいこうとしてたところなのよ」

 

 食卓に赴くと、そこにはすでに朝食が4人分並べられていた。

 遠坂が作ってくれたらしい、パンにベーコンに目玉焼きと、オーソドックスだがそれ故に食欲をそそる献立だ。

 

「悪いな、遠坂、本来は家主である俺が作るべきだったんだが寝過ごしちまって……」

「別に、お邪魔させてもらってるのはこっちなんだし、ご飯くらいは作るわよ。衛宮君もアーチャーの腕のこととかで疲れてるだろうしね」

 

 そんな話をしながら食卓に座る。

 すでにキャスターとイリヤも座っていて、俺が最後だったようだ。イリヤは既にパンをもぐもぐと食べ始めている

 

「それじゃ……いただくとするかな、にしても、いつもより少し食べる時間が遅いから、なんか変な気持ちだな」

 

 ぱちりとテレビをつけるが、いつもと朝食の時間が違うため番組の内容も異なっている。

 

「ま……どうせ学校は休むんだしいいんじゃない。衛宮君にはしっかり食べて寝て休息して、後はアーチャーの腕を使えるように専念してもらわなきゃ」

「あぁ……そういえば学校に休みの連絡いれとかなきゃな」

 

 流石に今の状況で学校に行くわけにはいかない。下手に病気だとか言って藤ねえに家に来られるのも困るし上手い言い訳を考えとかなきゃな……

 

「そういえば、坊やって宗一郎様の教え子だったのよね」

 

 なんと言い訳をしようかと考えていると、不意にキャスターがそんな質問をしてきた。学校の話で、葛木先生が教師で俺がその教え子だったということを思い出したのだろう。

 

「あぁ、一応学校では葛木先生から倫理の授業を教わってたな」

「宗一郎様って、そのガッコウとやらではどんなご様子だったのかしら?」

 

 葛木先生はキャスターの元マスターだ、そんな先生の職場で様子なんかが気になったのだろう。

 

「うーん、担任とかじゃないからそこまで話さないし、授業でも雑談とかはほとんどしない人だったからなぁ……」

 

  キャスターの質問に答えようと、葛木先生の学校での様子を思い返そうとするが、淡々と授業を進めていた光景しか思い出せない。

 簡潔で分かりやすい授業ではあったが、キャスターが聞きたいのはそういうことではなく葛木先生の人となりなんかの話だろう。

 

 思えば、俺は葛木先生についてほとんど知らない気がするな。最初の授業で一応自己紹介はしてたけど、履歴書に書いたプロフィールをそのまま話しましたって感じで、身の上話とかは全く聞いたことがなかった。

 

「逆に俺は葛木先生がキャスターといる時、どんな感じだったんだったのか気になるな。学校と私生活とで違ったりしたのかな」

「そうね……どうと言われても、必要のないことをペラペラ話すような方ではなかったけれど……」

 

 キャスターと一緒にいる時もやはり寡黙だったのか、学校でのイメージ通りだな。

 

「あぁ、言っておくけれど私のことを無視していたとかではないのよ、むしろ、私が現代の生活に不慣れで困っているとさりげなくフォローしてくれたりと優しい人だったわ」

 

それもなんとなくイメージできるな、学校での葛木先生も細やかな気配りができる人ではあった。それを一々恩着せがましく言ったりする人でもなかったから、あまり意識するようなこともなかったけれど。

 

「ただ、正直何を考えているのか少し分からないところはあったわね。私が何か粗相をしていないか、心配になることもあったわ」

「うーん、それは大丈夫じゃないかな、ホントにダメだと思ったらちゃんと言う人ではあると思うし、言わなかったってことはキャスターに不満はなかったんじゃないかな」

「そうかしら?……うん、きっとそうよね」

 

 俺の言葉に少しキャスターが嬉しそうな顔をする。

 それほど葛木先生に悪く思われてないか心配だったのだろう。

 

「というか、そもそもキャスターって柳洞寺でどうしてたんだ?霊体化してたわけじゃなくて、先生や僧侶の人達と一緒に生活してたんだろ?いきなり暮らし始めてよく怪しまれなかったな」

 

 キャスターの風貌は異国感溢れる美女と言う感じでかなり目立つ。

 俺はセイバーをこの家に住まわせる際に、藤ねえや桜には切嗣の知り合いの旅行者と説明しておいたが、キャスターはどういう名目で柳洞寺に住まわせてもらっていたのだろうか?

 

「あぁ……それね、その……少し恥ずかしいんだけど……」

 

 何故か、気恥ずかしげに顔を赤らめて言いよどむキャスター。

 

 そして、少し間をおいてから口を開く。

 

「その……ね、実は宗一郎様の婚約者ってことで柳洞寺には住まわせてもらってたのよ」

「「「婚約者!!」」」

 

 キャスターの言葉に、俺だけでなく横で聞いていた遠坂とイリヤも驚きの声を上げる。

 

「あぁ、もちろん本当に婚約してた訳ではないのよ。ただ、私が知らない間に宗一郎様がそう説明してたみたいで後には引けなくなったっていうか……」

「へぇ……先生も随分思い切った言い訳をするのね……」

 

 キャスターの言葉に、遠坂が再度驚きの声を上げる。

 確かに……もし仮に、聖杯戦争が順調にいって葛木先生とキャスターが生き残ってたとしたら、その後どうするつもりだったんだろうか。

 まさか本当に結婚するつもりがあったわけじゃないよな……いや、でも葛木先生なら流れでそのまま結婚してもおかしくなさそうな気もするな……キャスターも先ほどからの態度を見ているに割と満更でもなさそうだし。

 

「方便だったとはいえ、一応婚約者ってことになってたんでしょう?2人でデートとかしたのかしら?」

 

 イリヤが興味津々といった感じでキャスターに尋ねる。

 そんなイリヤの質問に、キャスターは葛木先生との日々を懐かしむように語る。

 

「別に……出会いこそは劇的ではあったけれど、その後特別な何かがあったわけではないわよ。ただ、平穏に食事を食べたり、他愛のない話をしたりして……何もない穏やかな日々だったわ」

 

 どこか、遠くを見つめるようにしてそう回想するキャスター。

 何もない穏やかな日々、か……

 

 あるいは、それこそがキャスターの求めていたものなのだろう。

 生前に国を追われ、故郷に帰れなくなった彼女にとって、何気ない日常こそ価値のあったモノなのかもしれないな。

 

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