HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話   作:ふりかけ@木三中

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20話目 2月10日 夕 最強の黒騎士

 

「ランサーよ、ルーンによる探索はすんだか?」

 

 冬木教会、月明かりに照らされた廊下を悠々と歩きながら臓硯が自らのサーヴァントに問いかける。

 標的はこの地に住まう教会の監督役の言峰綺礼、そして彼が保有するサーヴァントであるギルガメッシュだ。

 

「――教会の中に言峰の気配はねぇ、恐らくトンズラこきやがったなあの野郎」

「ふむ……奴は逃げたか、まぁ良い。聖杯と繋がっている以上、奴の命は文字通り我が手の中にあるようなものじゃ、始末することなぞいつでも可能よ」

 

 言峰綺礼の心臓は10年前に衛宮切嗣によって一度破壊されている。

 今、彼の中で動いている心臓は『この世全ての悪』と繋がることに得たものだ。

 そして桜の肉体が『この世全ての悪』と繋がっている以上、その心臓を潰すことなど訳はない、言峰綺礼の存在はもはや脅威に値しない有象無象と同義なのだ。

 

「さて……それよりも本命はかの英雄王じゃが……」

 

 臓硯は教会を見回すように眺めながらも緩めることなく歩を進める。

 後ろに引き連れたセイバー、ランサー、ライダー、アサシンのサーヴァントもただ黙々と付き従う。

 

「ほぅ……流石じゃの、原初の英雄と謳われるサーヴァントならば、この状況にも怖気ぬか」

 

 教会の中心、大聖堂のベンチに目的の男は腰掛けていた。

 

 英雄王ギルガメッシュ。

 

 黒いジャージを纏い、リラックスしたように訪問者たちを眺めている。

 

「随分と騒がしいと思えば……サーヴァントが4騎、よくもまぁ揃えたものだが……ふっ、雁首揃えて我に消されにきたか……」

 

 4騎のサーヴァントをサッと一瞥した後、臓硯を……いや、桜の体を見て僅かにその紅い目を細める。

 

「その娘……変異しきる前に死んでおけと伝えたのだが……その前に別のものに侵されたか、つくづく運のない」

 

 冷めた表情で呟くギルガメッシュ、そんな彼に臓硯の脇で控えていたセイバーが剣を構える。

 

「アーチャー……まさか先の大戦より今まで生き延びていたとはな……」

「セイバーか……再び貴様が召喚されたと聞いた時はいかにして我のものにするかと心踊ったのだがな……」

 

 ギルガメッシュがつまらなさそうにセイバーが構える剣を見やる。

 かつて黄金の輝きを放っていたセイバーの宝具は黒く染まり、その光を失っていた。

 

「堕ちたなセイバー、たとえ泡沫の如き淡い光であってもかつてのお前は美しかったが……今の貴様にはもはや興味もない……」

 

 そう言い終えると、ギルガメッシュの纏う衣服が金色の鎧へと変化する。

 同時に背後の空間が波打ち、その波紋の中から無数の剣が顔を覗かせる。

 

「ほう、これが『王の財宝』とやらか……なるほど、中々に壮観じゃの。じゃが……いかな英雄王と謳われるような英霊であろと、サーヴァントには変わりない。この影に呑み込まれれば逃れることはできん」

 

 そう言って黒い影を臓硯が呼び出す。後ろに控えるサーヴァント達も朱色の槍や鎖付きの短剣など各々の武器を手に取り戦闘態勢に入る。

 

「さて―――それでは始めようかの、戦争を」

 

 こうして、無限に等しい宝具を所持する英雄王と4騎のサーヴァント、そして黒き聖杯の力を持った臓硯、まさに戦争と呼べる戦いの火ぶたが今ここに切って落とされた。

 

 

 

 

「ッ―――坊や!街の方から魔力を感じるわ、誰かが戦闘をしているようよ!」

 

 夕食の片づけをしていると、不意にキャスターがそう告げた。

 

 戦闘?

 臓硯達が戦ってるのか?

 

 だがイリヤも遠坂も俺の目の前にいる。

 一体誰が相手なんだ?

 

 予想外の事態に困惑しつつも思考をめぐらせる。

 

「魔力の発生源は――確か、あの中立地帯の教会があるところね」

 

 教会……言峰がいるところか。

 ならば言峰が戦っているのか?

 

 あんなでも言峰は一応この戦争の監督役だ。

 サーヴァントを弄んだり、聖杯と繋がった桜の体を利用したりと聖杯戦争のルールから大きく逸脱している臓硯と言峰が対立したとしても不思議ではないが…

 

「妙ね……かなり膨大な魔力を感じるわ。無尽蔵の魔力に任せて宝具を乱射しているのかしら?一体なにをそこまで――」

 

 キャスターが訝しげな顔をする。

 

 言峰がどの程度戦えるのかは分からない。

 当然、魔術は使えるのだろうし監督役という役職なのだからなんらかの切り札を持っている可能性はある。

 かといって、サーヴァントの宝具の連発に耐えられるほど言峰が強いということは流石に考えにくい。

 

 なら、誰かサーヴァントが戦ってるのか?

 

 聖杯戦争に参加しているサーヴァントは全部で7騎。

 セイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーだ。

 

 だが、言峰が従えていたというランサーは、臓硯が影に呑み込むことでヤツの元へと下っている。

 他のサーヴァントも皆、消滅したか臓硯が従えているかだ。

 

 例外は今、俺の横にいるキャスターだけ。

 

 もはや臓硯に楯突くようなサーヴァントは他にいないはずだ……ならば、一体何者が戦っているのか……

 

 臓硯の陣営の中で仲間割れでも起こったのか?

 でも、それだとわざわざ教会で戦うとは考えにくいよな……

 

「状況は不明瞭だけれど……これはチャンスでもあるわ。今まで拠点に篭っていた奴が外に出ている、それにかなりの大規模な戦闘ようだし、隙をつける可能性もあるわ」

 

 キャスターがそう冷静に分析する。

 

 確かに……これはチャンスだ。

 

 魔術師の戦闘において自らの工房で戦うのと外で戦うのとでは大きく戦力が変わるらしい。戦闘をしているというのなら多少なりとも消耗しているだろうし、頭数で劣っているこちらとしてはこのチャンスを狙わない手はないだろう。

 もちろん、罠という可能性もゼロではないが、どちらにせよ俺たちが劣勢なのだ。ここで行かない理由はない。

 

「これが囮で俺達をおびきよせて、本命はイリヤって可能性もある。遠坂はここでイリヤと待機していてくれ」

 

 臓硯の戦力ならそんなまどろっこしい真似はしないと思うが念のためだ。イリヤだけはなんとしても臓硯の手から守らねばならない。

 

「でも戦力は多い方がいいんじゃない?私も一緒に……」

「いや、マズそうならキャスターの魔術なりなんなりで逃げるつもりだ。下手に数がいると混乱するし、全滅するような事態だけは避けたい」

 

 遠坂を説得して、キャスターと二人で教会へ向かう。

 

 しかし一体、何者が教会で戦闘しているのであろうか――?

 

 

 

 

「なんだ……これ、何があったんだ?」

 

 教会に赴くとそこは酷いありさまだった。

 戦闘の余波か壁や床にあちこち穴があき、まるでハリケーンにでも巻き込まれたのかというぐらい中はしっちゃかめっちゃかだった。

 

 破壊の後を眺めつつ、教会を探索する。一体どんな戦い方をすればこんなことになるんだ

 

「大聖堂の方から気配を感じるわ……けれど、もう遅かったかもね。既に戦闘をしている感じじゃないわ……」

 

 キャスターがそう報告してくる。そうか……戦ってる最中に横やりを入れるという形が一番理想的ではあったのだが、確かにもう戦闘音なんかも聞こえないし勝負は決してしまったのだろう。

 

「でも、まだ勝った方は教会の中に残ってるんだろ?これほどの戦闘なら消耗してるだろうし今がチャンスだ」

 

 意を決して大聖堂の中に踏み入る。

 そこには、よく見知った紫髪の少女……いや、正確にはその体を乗っ取った『奴』が立っていた。

 

「……臓硯!!」

 

 半ば予想していた通り、そこには臓硯が立っていた。

 サーヴァント達に囲まれた奴の姿を見る。その肉体は紛れもなく桜のものだ。

 

 俺の中の桜のイメージは制服の印象が強いが、今の奴は紫色の着物を着ていた。

 淡い紫色の生地に美しい花が描かれた帯、鮮やかさと落ち着いた雰囲気を両立していて普段の桜なら綺麗だと思ったところだろうが、臓硯の趣向なのだとしたら悪趣味だとしか思えない。

 

「アイツが桜の体を使って外にでてくるとはな……」

 

 使い魔ごしではなく桜の体を使って直接出向くとはそこまで侵食が進んでいるのか……まさか、桜はもう――

 

「落ち着きなさい、まだヤツの体の中で多少の魔力の乱れがあるわ……桜さんの自我はまだ完全に消えていない証拠よ」

 

 絶望しかけた俺にキャスターが耳打ちする。

 桜はまだ消えていない――その一言に安堵するが、同時に気も引き締める。

 桜への侵食が進んでいるのは間違い無いだろう、ここで下手に動揺してこのチャンスを逃すわけにはいかない。

 

 改めて状況を確認する。

 

 敵はまず、臓硯。

 キャスターの話ではまだ完全には桜の意識は消えてはいないらしいが、わざわざ出向いてきたことから考えるに、もうほとんど完全に臓硯が肉体を操っていると考えた方が良いだろう。

 

 次に臓硯の周りに控えるサーヴァント達。

 黒い剣を持ったセイバー、朱い槍を携えたランサー、髑髏面を被ったアサシン。

 

 待てよ――1人足りないぞ、奴は4騎のサーヴァントを従えていたはずだ。

 元々慎二が従えていたサーヴァントで、今は奴が従えていると思われるサーヴァント、ライダーの姿が見えない。

 

「あれは……!!」

 

 キャスターが息をのむように驚きの声を上げる。

 何事かと、キャスターの視線をたどる。

 

「まさかあれは……ライダーか!?」

 

 キャスターの視線の先――部屋の隅でライダーが倒れ伏していた。

 体には無数の剣が突き刺さり、左足の膝から先がちぎれ跳んでいて、おびただしい量の血が床を濡らしている。

 

 なんだ……これは?

 あいつらはここでライダーの処刑でもしてたのか?

 

「カカカ……随分と不審そうな顔をしているな。衛宮士郎よ」

 

 状況が読めないでいる俺に、臓硯が不気味に笑う。

 

「ふむ、どうせだから教えてやろう。ここには前回の聖杯戦争の生き残りであるサーヴァントがおっての、この世の全ての財を手にしたという英雄王ギルガメッシュ……流石にどうしたものかと頭を悩ませておったのじゃが……」

 

 そこでこらえきれないというように臓硯がニタニタと笑う。煩わしい問題が解決して嬉しくて仕方がないという感じだ。

 

 それにしても前回の聖杯戦争の生き残り……ギルガメッシュか。そんな奴がこの教会にいたとはな。

 言峰は何も言っていなかったがアイツのことだから知っていて真相を俺達には黙っていたのかもしれない。

 

「多勢に無勢ということもあってギルガメッシュは既に散った。これでバーサーカーにギルガメッシュ、懸念事項であった存在はもはや消えたことになる。後は……残った小物を狩るだけじゃ」

 

そう言って臓硯がじろりと俺達に視線を向けたが、すぐに傷だらけで倒れ伏すライダーに視線を移す。

 

「じゃが、その前にいらなくなったものの処分もしておかなければな」

 

 いらなくなったもの……?

 不審げにする俺をよそに臓硯がライダーに歩み寄る。

 

「ライダーは盾として実によく役立ってくれた。儂の体が傷つくということは桜の体が傷つくということじゃからの……必死になってギルガメッシュの宝具から儂を庇ってくれたよ。令呪の縛りもあったとはいえ本当に健気な姿であったぞ。おかげで儂の体には傷一つついていない、礼を言うぞライダー」

 

 感謝の言葉を口にしつつも、嘲るような色が込められたセリフを吐く臓硯。

 ライダーはもはや反応する体力もないのか、ただ静かにうなだれている。

 

「じゃが、ギルガメッシュはもはや消えた。盾代わりの存在はもはや必要ない、聖杯を満たすためにもお主はここで退場じゃ……」

 

 そうライダーに静かに語ると、チラリとアサシンに視線を投げる。

 

 アサシンは応じるようにコクリと頷くと、手に巻いた布をほどき魔力を溢れさせる。

 

「――――妄想心音」

 

 それがアサシンの宝具の名なのだろう。

 解放された真名と共に、アサシンの体から魔力が溢れ、異形の形をした左腕がライダーの胸を貫き、鮮血と共に彼女の心臓を引きずり出す。

 

「ギ――シンゾう、シンゾウ!!」

 

 ライダーの心臓をバクリとアサシンが喰らう

 耳障りな咀嚼音と共にびちゃびちゃと赤い血がアサシンの口元を濡らす。

 仮面に覆われていてその表情は見えないが、どこか歓喜に打ち震えているかのように感じられた。

 

「……………」

 

 セイバーもランサーもその様子をただ、冷めきった目で見つめている。

 

「……捕食による自己改造……霊気の強化には手っ取り早いでしょうけど味方を喰らうなんて……」

 

 キャスターが嫌悪感をにじませた声でアサシンの行動を分析する。

 

「ッ――――さ、くら—―――」

 

 元々満身創痍だった状態に加え、アサシンにとどめを刺されたライダーの体が光の粒となって消えていく。

 

 そんな彼女が最後に発したのは桜の名前だった。

 どこか、切実な思いが込められた声。

 

 俺はライダーのことはよく知らない。

 彼女がどんな性格だったのか、彼女が何のために戦っていたのか。

 今際の際の表情もバイザーに隠れて読み取ることはできなかった。

 

 でも、ライダーが最後に発したそのセリフから桜のことを想っていたのだろう。

 

「……………」

 

 ギリっと奥歯を噛みしめる。

 

 ライダーが消滅した。

 それは俺たちにとって有利になる事態のはずだ。

 だが、何故だろうか。メラメラと怒りの感情が湧き上がってくる。

 

 それはきっと臓硯に対してのものだ。

 もう必要なくなったからといって、あっさりとサーヴァントを切り捨てた奴への怒りだ。

 

「おぉ、怖い怖い。そう睨むでないわ」

 

 憤る俺に対して臓硯がカラカラと笑い声をあげる。

 

「ふむ……本当ならワシも遊んでやっても良いのだが、先程のライダーを殺したことで桜がまた暴れ出しての、それに加えてこの小僧を直接殺すとなれば必死に抵抗するじゃろう。ギルガメッシュを取り込んだことによる負担もある。後のことははお主達に任せるとしよう」

 

 そうサーヴァント達に指示を出すと、臓硯は自らの足元に真っ黒な影を広げ、その中に潜るようにして姿を消していく。

 

「くそっ……待てよ!!」

「かかか……お主の相手は儂ではなかろう……自らのサーヴァントに斬り殺されると良い」

 

 臓硯に殴りかかろうとする俺を遮るように、人影が立ちふさがる。

 

「っ……セイバー!」

 

 黒い剣を俺たちに向けるセイバー

 最強の騎士が、俺達の前に立ちふさがっていた。

 

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