HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話   作:ふりかけ@木三中

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22話目 2月10日 夜 騎士王の見る夢

 

「ウっ…………」

 

 カーテンの隙間から僅かに漏れる月明かりに照らされながら、ぼんやりと目を開ける。

 

「…………?」

 

 なんだろう?右手に違和感がある気がする。

 何かを握っているような……

 

 視線を右手に落とす。

 

 俺の右手がセイバーの左手を握りしめていた。

 

「っ……セイバー!!」

 

 慌てて手を放し、セイバーの様子を見るがどうやらまだ気を失っているらしい。

 だが、体に特に外傷は見当たらず、スース―と規則正しい寝息を立てている。とりあえず命に別状がある感じではなさそうだ。

 

「セイバー……」

 

 彼女の金色の髪を撫でて、その名を呟く。

 

 確か、教会でセイバーを取り戻したまでは良かったが、その後気を失ってしまったのだ。

 こうして布団で俺たちが眠っているのを見るにキャスターが運んでくれたのだろう。

 

「そうだ臓硯達は―――!!」

 

 教会では身を引いた臓硯やランサー達だがこのまま見逃してくれるわけはない。セイバーの身がこちらに帰ってきた以上、奴らも俺達を本気で潰しに来るはずだ。

 とりあえず、今は戦闘をしてるって感じじゃないが、いつこの家に攻め込んできてもおかしくは無い。

 

「まずはキャスター達を探して……」

 

 状況を聞くため、キャスターの姿を探そうと布団から立ち上がろうとした時だった。

 

「っととと……」

 

 立ち上がったつもりが、足に力が入らずよろよろと前のめりに倒れてしまう。

 

「あれ……?おかしいな……寝ぼけてんのかな……?」

 

 どこか、嫌な予感を感じながらもごまかすように笑って今度こそゆっくりと立ち上がる。

 

 大丈夫だ……なんともない、さっきこけたのはたまたま脚から力が抜けただけで――

 

「――――――ッ」

 

 気を紛らわすようにそう考える俺だが、そんな思考を嘲るように眩暈が俺を襲った。

 

「ぐっ…………」

 

 ぐらぐらと揺れる視界、思わずその場にへたり込んでしまう。

 

「まだ寝ぼけてるってわけじゃ……ないよな」

 

 分かってる。自分の体のことぐらい把握している。

 

 これは代償だ。

 

 人の身にて英霊の力を振るった。

 

 セイバーとの戦いでの3回の投影……やはり無理があったか。

 

「ま……今更な話か」

 

 代償があるという話は既に承知済みだった。

 今更慌てふためくようなことはしない。

 

 3回も投影できて、セイバーを取り戻せただけ儲けものだと思うべきだろう。

 

「問題は後、何回投影できるかだけど――」

 

 感覚的にはあと1回はできる。

 あと1回『しか』と言うべきかあと1回『も』と言うべきかは分からないが、とにかくあと1回だ。

 

 あと1回投影すれば俺の体はきっと―――

 

「坊や―――目が覚めたのね」

 

 そんなことを考えていると、襖をあけてキャスターが部屋に入ってきた。

 なにか作業でもしていたのか、その額は少し汗で濡れている。

 

「あぁ……キャスター、おはよう……でいいのかな?教会からここまで運んできてくれたんだろう、ありがとな」

 

 体の不調を悟られないように、できるだけ明るいトーンでキャスターに話しかける。

 

「えぇ、全く。坊やが頑なにセイバーの手を離さないものだから、運ぶのは大変だったわよ」

「あぁ、キャスターには迷惑かけちゃったみたいだな。あの時はセイバーを離すまいと必死だったからさ………」

 

 そう言ってハハハと笑って見せる俺に、キャスターはスッと真面目な顔になって俺に質問を投げかける。

 

「…………坊やの体は大丈夫なの?」

「あぁ、問題ないよ。ぐっすり眠ったおかげで全然――『嘘ね、あれほどの投影となればそれなりのリスクを払っているでしょう』」

 

 俺の答えに被せるようにして、キャスターが口を開く。

 やっぱり、おみとおしか。この腕の治療をしたのはキャスターだもんな……

 

「……正直、かなりマズイかな。あと1回投影できるかってところだ」

「…………そう」

 

 キャスターはただ、静かに俺の言葉を受け止める。

 

「えり好みをしていられるような状況でもないし、投影を使うなとは言わないわ。ただ、守るべきものを、力を使うべき時を間違わないようにね」

 

 キャスターはそれだけ言うと、この話題はおしまいだというように話題を変える。

 

「それでは、時間もないし現状の状況を説明するけれど……今のところは間桐臓硯からの攻撃はないわ」

 

 現在の時刻はちょうど日付が変わろうとする辺り。

 教会での戦闘が夜の18時ごろだったので、それなりの時間はたっているが追撃はないらしい。

 

「ただ、少し前から奴の使い魔である蟲が家の周りを飛び回っていてね……先ほどまでアーチャーのマスターやイリヤスフィールと共に結界の強化や竜牙兵の配備などをしていたところなのよ」

 

 窓からチラリと外を伺えば、家の周りに臓硯のものと思われる使い魔が飛び回っている。おそらく、キャスターの仕掛けた結界やトラップを警戒して偵察でもしているのだろう。

 

 そして……偵察という事は、それが終われば攻めてくる可能性は高い

 

 昨夜の臓硯は予想外のセイバーの敗北に警戒してランサー達を退かせたようだが、今度はサーヴァントと共に奴自身も出てくると思ったほうが良いだろう。

 桜の抵抗やギルガメッシュを取り込んだ負担なんかがあるとも言っていたが、それもどれほどのものかは分からない。

 少なくとも、すぐにでも攻撃されるかもしれないという覚悟はしておくべきだ。

 

「俺も何かできることはあるか?」

 

 結界だのの知識はほとんどないし、投影もまともにできない状況ではあるが臓硯の襲撃に対して何か対策できることがないかキャスターに質問する。

 

「えぇ、あるわ。セイバーのことでね」

「セイバーの?」

 

 その言葉に、思わず未だ眠ったままのセイバーに視線を向ける。

 

「セイバーの体を調べたけど、どうにも霊基が安定していないようでね。このままではセイバーは目覚めることは無いでしょうね」

 

 キャスターの話では聖杯の影響を受けたことや『破壊すべきの全ての符』で無理やりそれを断ち切ったことなどが原因でセイバーの霊基に負担がかかってしまい、それが原因でセイバーが眠り続けているのではないか、という話だった。

 

 キャスターの宝具、『破壊すべき全ての符』の効果は正常化ではなくあくまでも魔術契約の白紙化だ。

 

 昨日の戦いでセイバーを臓硯の影の影響からは解き放つことができたが、それはいわばウイルスに侵されたコンピュータを無理やり初期化して起動させただけ。

 なんらかの負担がかかっていてもおかしくはないし、きちんと動かすためには設定を再度合わせなければならない。

 

『破壊すべきの全ての符』でセイバーを開放して、1発解決となれば話は早かったのだが流石にそう都合よくはいかないようだ。

 

「それで……言い方からするにセイバーを目覚めさせる方法はなにかあるんだろ?どうしたらいいんだ?」

「えぇ、やることは簡単よ。セイバーと坊や、二人の契約を繋ぎ直すわ。それで霊基は安定するはず……」

 

 契約か……

 もともと俺とセイバーの契約は召喚した時から不具合があったようだがセイバーが影に呑まれた時に完全にパスは途切れてしまっていた。

 そして、臓硯のサーヴァントとなったセイバーを『破壊すべきの全ての符』で開放したことで、今のセイバーは誰とも契約していない状態になっている。

 

 サーヴァントにとってマスターがいない状態というにはかなりの負担らしい、逆に言えばマスターを得ることで霊基とやらが安定するのもまぁ納得できる話だ。

 

「それで、契約を繋ぎ直すって具体的にどうやればいいんだ?」

「そうね……要はセイバーと坊やを共感状態にするの、具体的な方法としては坊や魔術回路の移植だとか色々あって、通常の状態なら私のサポートもあればそこまで難しくなかったはずなのだけれどね…」

 

 さりげなく言ったが、本来魔術回路の移植なんてことまでしなければいけないことを、そこまで難しくないと語るキャスターの技量は余程のものだろう。

 だが、どうやら今回の場合はそう一筋縄でいく話ではないらしい。

 

「まず、1つは坊やの状態よね。現在の坊やはかなり危うい状態よ。そんな不安定な状態でさらに状況を乱すようなことはしたくないのだけれどね」

 

 ……契約するという事は、魔力のやり取りもしたりするのだろう。

 確かに今の状況ではあまり好ましいものではないかもしれない。

 

「それから、セイバーの方も問題ね。共感状態にするにはセイバーの精神に触れる必要があるけれど、そうなればどうしてもセイバーからの抵抗があるわ。仮に了承を得ていたとしても無意識下の抵抗があったでしょうに、今の眠っているセイバーと無理やりパスを繋ごうとすれば尚更よ」

 

 抵抗……というものが具体的にどんなものかは分からないが、パスというのはサーヴァントとの霊的な繋がり。

 無理やり繋ごうと思えば抵抗があるのは当然といえる。

 

「問題だらけなのは分かったが、リスクがどうとか言ってる場合じゃない。いつ臓硯が攻めてきてもおかしくはないんだ。セイバーを目覚めさせる方法があるというなら、やらない手はない」

「そうね……他に選ぶ手段も、迷っている時間もないか……それでは早速始めましょうか」

 

 キャスターが意を決したようにそう決断する。

 

「それで、まずどうしたらいいんだ?」

「まずは―――寝るわ!」

「は?寝る?」

 

 思わぬ発言にキャスターの言葉をそのまま復唱してしまう。

 

「あぁ、寝るっていってもイヤラシイ意味じゃないわよ。単にセイバーの隣で眠るってことよ」

 

 いや、そんなイヤラシイ意味だとも思ってなかったけれど……あぁでもセイバーの横で眠らなくちゃいけないってのはなんか今更ながら緊張するな……なんて、現実逃避するように下らない事を考えながらキャスターの指示通り、布団で眠るセイバーの横に添い寝する。

 

「目的は霊的なパスを繋ぐことだけれど、そのためには肉体的接触もあった方がいいわ。そうやって近くで寝ていれば多少はマシなはずよ」

 

 ふぅん……そんなもんなのか……

 そんなことを考えていると、キャスターも布団に入ってきた。

 

「え!?キャスターも一緒に寝るのか?」

「当然よ、私のサポート無しで坊やにパスを繋げる訳ないでしょう。それより、肉体的接触もあった方が良いって言ったでしょう。もっと詰めて、セイバーとの接触面積を増やしなさい」

 

 狭い布団の中、セイバーとキャスターに挟まれながらギュウギュウと川の字で眠る。セイバーの金色の髪とキャスターの青色の髪が顔をくすぐって、思わずこみあげてくる邪念をなんとか振り払う。

 

「それじゃ目を瞑って……そう、そのままリラックスして……セイバーの体温を感じるでしょう?」

 

 目を瞑ると、自然に他の感覚が鋭敏になり、キャスターの言う通り、隣に眠るセイバーの体温がより確かに感じられる。

 

「その熱を自分の熱と溶け合うように意識して……セイバーと同調するように……深く……曖昧に……溶けて……落ちて……」

 

 キャスターの言葉を聞いていると段々と意識が曖昧になってくる。

 その感覚に逆らわず、フワフワとした浮遊感に身をまかせる。

 

 セイバーの暖かな体温と囁くようなキャスターの声。

 

 その2つを感じながら、ゆっくりと俺の意識は沈んでいった。

 

 

 

 

「ッ――――」

 

 瞬間、体の感覚が一変した。

 

 軽い――あまりにも体が軽い。

 肉体という枷を失い、むき出しとなる精神。

 

 加速する意識、駆け巡る回廊。

 精神だけのこの状況は、解放感よりも不安を煽る。

 

「これは―――」

 

 状況を確認する為に辺りを見る――いや感じる。

 

 四方に張り巡らされた複雑な文様、闇に包まれ、しかし光に溢れた空間。

 

 ここは一体―――

 

「ここは――セイバーの魔術回路よ」

 

 気がつくと、いつのまにかキャスターが隣に存在していた。

 

 これが……この空間そのものが、セイバーの魔術回路……パスを繋ぐために、俺達は意識だけの状態でそこに入り込んできたという訳か。

 

 改めて、一面に広がる彼女の魔術回路を眺める。

 

 流れる無数のラインに迸る無尽蔵の魔力。

 その光景は俺なんかの魔術回路と比べて余りにも巨大で、繊細で、緻密で、美しい。

 

 ただ、こうしているだけでも膨大な魔力と生命力を感じる。

 

「パスを繋ぐ為にはもっと深く繋がらなくては……さぁ行くわよ」

 

 いつまでも眺めていたい気持ちもあったがキャスターに促され、意識をより深く沈める。

 

 海の底に潜るように、深く、深く、セイバーの奥底まで……

 

「なんだ……?」

 

 途中で意識の降下が止まる。

 まるで俺たちの行く手を阻むように誰か人影が立っていた。

 

「あれは……セイバー?」

 

 鎧を身にまとい、剣を地面に突き立ててこちらを睨む金髪の少女。

 

 セイバーがそこには立っていた。

 そのにじみ出る威圧感はまるでここから先は通さないとでも言っているようだ。

 

「恐らく、あれは彼女の表層意識の具現。断りもせずに入ってきたのものだからこれ以上は通せんぼされているのでしょう」

 

 あれがセイバーの表層意識の具現……

 ここはセイバーの精神世界だ、あの『セイバー』をどうにかしない限りここから先には進めないということなのだろう。

 

「どうすればいいんだ……?」

「簡単よ。断りなく入ってきたから通せんぼされているのだから、許可をもらえばいい。それだけの話よ」

 

 なるほど、それは確かに道理だな。

 

「それじゃ、坊や、セイバーの説得は頼んだわよ」

「え?俺がやるのか?」

「当然よ、私は立場上セイバーの完全な味方って訳では無いのよ。それよりはセイバーのマスターである坊やの方が多少は説得もしやすいでしょう」

 

 キャスターは現在俺たちに協力してくれてはいるが、あくまでも同盟関係であり、セイバーも完全に心を許すことは難しいだろう。

 それよりは、マスターである俺が説得したほうが確かにセイバーの精神的な障壁もマシになるだろうが……

 

「やり方は坊やに任せるれど、とにかくセイバーに、この先に行きたいと伝えて」

「あぁ……分かった」

 

 複雑な話ではない、ただ現状のありのままを目の前に立つセイバーに伝える。

 

「セイバー、契約を結び直すためにこの先に行く必要があるんだ。臓硯たちに対抗するためにもセイバーの力はいる。だから頼む、ここを通してくれ」

 

 そうセイバーに頼むが、反応は無い。

 ただ澄んだ瞳で俺を見据える。

 

 反応が無いのは困るな……こちらからどうアクションしたらいいのか分からない。

 あの『セイバー』は表層意識の具現らしいが、もしかしてそんなにハッキリとした知性があるわけじゃないのか……?

 

「ほら、セイバー、ここ通してくれたら今日のご飯は山盛りに作るからさ、そこをどいてくれないか?」

 

 俺の言葉にセイバーから感じる威圧感が増す。

 

「ちょっと、何言ってるのよ!もっと他に言い方があるでしょ!」

「いや、ごめん、難しい話するより食欲とかで釣った方がいいかと思ったんだが……確かに、こんな状況でかける言葉じゃなかった」

 

 確かに……今の言葉は少しデリカシーに欠けていたか……

 もっと真摯に、そして丁寧に頼まなければならない。

 

「セイバー、頼む!今、臓硯達に勝つには俺の力だけじゃ無理なんだ。セイバーの力がどうしてもいる。そのためには契約を結び直さなければいけない。だからそこをどいてくれ……頼む……」

 

 そう言って目の前に立つセイバーに懇願する。

 しかし、彼女は俺にリアクションを返すことは無い。

 

「……頼む、このままじゃ俺もキャスターもセイバーも遠坂もイリヤも皆やられてしまう。それに……桜だって取り返せない。そんなのは嫌なんだ。だから――また俺と一緒に戦ってくれ、セイバー」

 

 その言葉を告げると同時に、今まで目の前に立っていたセイバーが姿を消し、今までどこかぼんやりとした暗闇だった景色が別の景色へと塗り変わっていく。

 

「これは…………?」

 

 風景が切り替わる。

 どこかの城――白い壁と煌びやかな調度に囲まれた美しい場所。

 

「どうやらセイバーに認められて表層意識から次の階層へと進んだようね……これは多分セイバーの記憶でしょうね。それもおそらく生前の」

 

 セイバーの生前の記憶……か。

 盗み見ているようで少し申し訳ないが、精神体である今の状態では目を瞑ることもできない。

 ただ、流れるセイバーの記憶を眺める。

 

 円卓を囲む騎士たち、美しい白亜の城、駆け抜ける戦場、血まみれの武器、荒れ果てた大地、積まれた屍。

 

 そんな光景を眺めながら、セイバーの精神をただ深く潜る。

 

「あれは……」

 

 そして、ついにこの記憶の探索も終わりを迎える。

 

 視界に映る。赤い湖面

 あれこそは魔力回路の終着点、セイバーの力の源だ。

 

「竜の炉心――か、流石はセイバークラスで呼ばれるサーヴァントは一流というわけね。こんなモノまで持っているとは」

 

 キャスターの言葉を聞きながら、眼科に映る赤い湖面を観察する。

 どこかドロリとした質感にマグマのようにボコボコと煮えたぎるそれ。

 

 キャスターは『竜の炉心』と呼んだが――なるほど言いえて妙だ。

 あれは炉心、巨大な魔力回路の源らしい。

 

 現在は機能していないようだが、少しきっかけを与えて動かしてやればあの赤い湖面は燃え上がり、魔力を燃焼することとなるだろう。

 

 だが、その湖の中心で何者かが鎮座している。

 

「あれは――ドラゴン、か?」

 

 赤い鱗を纏い、大きな羽と牙を備えて、灼熱の炉心の中に存在するソレ。

 

 あれは――『竜』だ。

 

 竜――あらゆる幻想種の頂点に位置する存在。

 巨大なドラゴンが湖の中から俺たちを睨んでいる。

 

「――――――!!」

 

 竜が雄叫びをあげる。

 ただ、それだけで俺の存在なんて吹っ飛んでしまいそうになる。

 

「先ほどのが表層意識なのだとしたらこちらは深層意識……いわば本能よ。セイバーが坊やを受け入れていようがどうかに関わらず、あの竜はただ異物は排除しようって訳らしいわね」

 

 なるほど……この竜はいわゆる免疫、白血球と同じだ。

 セイバーの『中』に入ってきた異物を、彼女の意思にかかわらず排除する防御システム。

 

 あの赤い竜がセイバーの無意識の具現か……

 

「確か――アーサー王の象徴は『赤い竜』だったよな……」

 

 人智を超えたほど強大で凶悪でで偉大なる赤き竜。

 そんな竜を眼下に見下ろしながらそう呟く。

 

 セイバーから直接聞いたわけではないが、彼女が使用した宝具『約束された勝利の剣』と先程垣間見た記憶から考えるに、その真名は『アーサー王』で間違い無いだろう。

 

 そして、あの『赤い竜』あれこそがセイバー……アーサー王の力の源泉であり、人智を超えた者の証なのだろう。

 

 あれがセイバーの防衛本能なのだとしたら、先ほどのように言葉をかけたところでこの竜を突破することはできないだろう。

 かといって力ずくでも突破できるとは思えないし――

 

「坊やはそこで見ていなさい。後は私がやるわ」

 

 キャスターがサッと前に出る。そんなキャスターを竜は排除対象と認識したのか、そのアギトを開き、巨大な牙を覗かせる。

 

「キャス……!!」

 

 思わず叫びかけるが、どうやら杞憂だったらしい。

 キャスターは臆することなく、竜へと近づき、その顎をゆっくりと撫でる。

 

「■■■■■■■」

 

 キャスターが何か俺には理解のできない言語を呟く。

 おそらく、なんらかの呪文だ。

 

「…………」

 

 キャスターの呪文を子守唄にするようにして、竜がその瞼を下ろし、縮こまってぐっすりと眠る。

 

 そういえばキャスター……メディアには竜を鎮めたという逸話があったな。

 

 金羊の皮を求めた英雄イアソン、そんな彼の冒険を助けた王女メディア。

 火を吐く牡牛退治に火避けのクスリを与えたり、青銅の巨人と対峙した際には踵が弱点であることをイアソンに助言したりと冒険の端々でイアソンに力を貸し与えたメディア。

 そして金羊の皮を守る竜との戦いでは、メディアが竜を眠らせることで、イアソンは目的の宝物を得ることができたという伝説があったはずだ。

 

 思えば、今の状況はそんな伝説と少しに通っているかもしれない。

 もっとも今回は竜の先に待っているのは金羊の皮ではなく、金髪の少女だが。

 

「さぁ……あとは坊やの役目よ、セイバーの魔術回路の深奥、そこに触れることで2人のパスはつながるわ」

 

 キャスターに促され、赤い炉心に手を浸す。

 

 そして変化は一種だった。

 

 俺の中に何かが入り込んできたのを感じ、それに呼応するように赤い炉心は煌々と黄金色に輝き出す。

 

「セイバー…………」

 

 熱の発する気流に押し返されるように体が――意識が浮上していく。

 

 パスはこれで繋がったはずだ。

 頼む――目覚めてくれよセイバー。

 

 




ゲームは全年齢版しかもってないのでセイバールートの全年齢版ドラゴン君が出てくるシーンが本当はどんなシーンなのか知らないんですよね…
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