HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話 作:ふりかけ@木三中
「え……なんだ、これ?」
困惑しつつも、体を見回す。
淡い光が俺の体を包んでいる、その光に触れると体に刻まれていた傷もなめとるように消えていく。
ランサーの槍で貫かれたはずのわき腹は時間を巻き戻すかのようにパックリとあいた傷口が埋まる。
投影の負担によって破壊されていた、筋肉、内臓、骨――そして魔術回路までも同じように癒えていくのを感じた。
「なんだ?……キャスターの魔術か?」
ランサーが、いぶかしげに呟くがそうではない。
確かにキャスターにも、強化魔術をかけてもらったがアレは身体能力を上げるためのものであって、再生や治癒能力の類ではないはずだ。
にもかかわらず、投影による代償とランサーによって傷つけられた傷が和らいでいくのを感じる。
限界を超えた痛覚を覚えたとき人間はアドレナリンやらドーパミンやらを出して、その痛みをまぎれさせるという話を聞いたことがある。
けど、これはそんな錯覚じゃあない、実際に体の傷が癒えている。
「投影開始――」
限界を超えたはずの体で、投影を行う。
左腕から流れ込んだ魔力が炎のように体を焦がす、比喩ではない、実際にそれは俺の体を蝕んでいる。
だが、同時に何か暖かな光が俺の体を包みこんでいる。
淡く輝く黄金の光。
俺の体から湧き上がるように、光のオーロラが傷を包み癒していく。
「…………」
俺の中からあふれる光、だが当然これは俺の能力じゃあない。
この光はきっと――
「いくぞ……ランサー」
フッと軽く息を吐き、ランサーを睨みつける。
投影したのは、アーチャーの双剣、その切っ先を奴に向けそして振るう。
「ハァ―――!」
「どんな手品か知らねえが……傷が治ったからと言って俺に勝てるってわけじゃねえだろ!」
双剣とランサーの槍、その軌跡が混じり合い火花を散らす。
確かに、傷が治ったとはいえそもそもの地力が俺と奴では異なる。
何度か打ち合いを続けるが、次第に押されいく。
致命傷こそは何とか避けるが俺の体には無数の傷が刻まれ、ついに手に持った双剣が砕かれてしまう。
追撃するように迫る、奴の槍。
「ッ―――投影開始」
瞬間、新たに双剣した剣で奴の攻撃を弾く。
投影による負担自体が消えたわけではない。
未だ、投影を行うたびに魔力が暴れまわり、俺の体をさいなんでいる。
魔術を行使するたびに走る激痛。
治癒できるからといって、投影のリスク自体が消える訳では無く、あくまでもできた傷を即座に治癒しているに過ぎない。
体の傷は塞ぐことはできても、走る激痛そのものが俺の精神を削る。
「は……ははっ」
にもかかわらず、俺の顔には僅かに笑みが浮かんでいた。
分かる――先ほどからの治癒能力、それはきっと――
「さっきから中々に強力な治癒能力みてぇだが――なら、頭蓋を貫かれても生きていられるか!?」
明確な殺気と共にランサーが槍を突き出す。
先ほどまでの攻撃は様子見や牽制でしかなかったのだろう、今回の攻撃は今までのものより数段階早い。
もはや回避も防御も不可能。
槍の切っ先が俺の眼前へと迫る。
次の瞬間には槍は俺の頭を貫き、鮮血をまきちらすことになるだろう。
だが、恐怖はみじんも感じない。
だって感じるからだ、俺の中にある2つの繋がり。
キャスターと『彼女』の魔力パス。
詳しい原理は分からない。
だが、先ほどからの治癒能力、きっとこれは彼女に由来するものだ。
それなら、きっと―――
「ッ――――」
キンッ――と響く金属音。
一陣の風と共に、視界の中で青いスカートがひらりと翻る。
「遅くなりました―――シロウ」
黄金の剣を携えた騎士が俺の前に立っていた。