HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話   作:ふりかけ@木三中

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27話目 2月11日 朝 第3の選択肢

 

 臓硯との戦闘の後、俺達は居間で休みつつもキャスターから綿密な健康診断を受けていた。

 黒化の後の眠りから目覚めたセイバーや臓硯の支配から解放された桜、そして『全て遠き理想郷』の効果で治癒されたとはいえ無茶な投影を繰り返した俺、それぞれの体に支障がないか調べるためだ。

 魔術を実際に使用して魔術回路に問題が無いかなんてことも試しながらキャスターからの診察を受けていると、それが終わるころにはすっかり日も昇ってしまっていた。

 

「とりあえず3人とも身体に影響は無いようね。セイバーの霊基も安定しているし、桜さんの意識も戻って間桐臓硯の精神は完全に消滅しているわ。坊やの投影による損傷も予定では桜さんと繋がった聖杯の力を利用して治癒しようかと考えていたのだけれど……まさかセイバーの宝具を坊やが持っていたなんてね」

 

 一通りの確認を終え、キャスターがそう診断結果を告げる。。

 3人とも特に問題ないというのは喜ばしい報告だ。しかし、キャスターの言葉を聞くに、桜が臓硯の支配から抜け出したのは何かキャスターが仕掛けていて元々予想していたことだったらしい。

 俺にそんな話は全く聞かされていなかったのだが一体どういうことなのだろうか?

 

「ごめんなさい、先輩。一連のことは私がキャスターさんに言わないでほしいと頼んだんです。先輩に迷惑をかけたくなくて……」

「……桜さんに頼まれてなくても言ってなかったけれどね。坊やはすぐに顔に出るもの。間桐臓硯に気づかれて別の策をうたれればご破算だし、それに……決して低くない確率で本当に乗っ取られてしまう確率もあったもの。その時に下手に希望を持たせておくのマズイと思ったのよ」

 

 謝罪する桜を庇うようにキャスターが口を開く。

 

 まぁ、こうして無事だったわけだし俺に黙っていたこと自体は別に構わないのだが、何故そもそも桜たちはそんな一芝居をうっていたのだろうか?

 キャスターの力で桜が乗っ取られる前に臓硯をなんとかすることもできそうなものだが……

 

「対処法もあるにはあったし、桜さんが本当に乗っ取られそうになった時のためにいくつか副案は考えていたのだけれどね。一番リスクが少ないのはこの方法だったし、今後の事を考えるとこれが一番よかったのよ」

「今後のこと?」

「えぇ、桜さん自身のこともあるけれど、聖杯戦争に関してもね。今後……今回の一件で得た。間桐臓硯の知識は必要になるわ」

 

 桜はあえて一度その体を臓硯に明け渡すことで、逆にその知識を得ることができたらしい。詳しい理屈は分からないがアーチャーの腕を取り付けられた俺が奴の記憶を垣間見ることができたことを考えればそれほど不思議な話ではない。

 

 しかし……キャスターは今後その記憶が必要になると言った。

 その言葉に気を引き締める。

 

 こうして桜とセイバーが戻ってきて臓硯という最大の敵も倒れた。

 だが、未だにアサシンが残っているし、汚染された聖杯の問題もある。

 

 まだ全ての問題が解決したわけではないのだ。

 

「あの……先輩、その、先輩の腕のことなんですけど……」

 

 そんなことを考えていると、桜が俺の腕……切り飛ばされて接合したアーチャーの腕を見ながら遠慮がちにそう切り出してくる。

 

「本当にごめんさい……ホントはもっと穏便に済ませたかったんですが、お爺様がまさかセイバーさんやランサーさんを使役するとは予想外でした」

「シロウ、そのことについては私にも謝罪させて欲しい。どんな理由があれ、私はあなたに剣を向けてしまった」

 

 桜とセイバーが二人が申し訳なさそうな顔をして頭を下げてくる。

 

「あぁ……まぁ、いいよ、戦争に参加した時から死ぬことは覚悟の上だし、こうしてセイバーと桜は戻ってきてくれたんだしな。腕一本ですんでむしろ安いぐらいだ。キャスターのおかげで日常生活を送る分には問題はなかったしな」

 

 この言葉は気休めでは無く本心だ。

 腕は失ってしまったが幸いにも一命をとりとめることはできたし、確かにアーチャーの腕で生活するのは辛い部分もあるが魔術を使えばちゃんとした義手を作ることも可能らしい。

 聖杯戦争が終わって落ち着いたらちゃんとした義手に付け替えればいいし、こうして桜とセイバーが戻ってきたのだからそれ以上望むものなんてないだろう。

 桜とセイバーはそう言っても申し訳なさそうな顔をしていたので、問題ないと強く言い聞かせておいた。

 

「姉さ……遠坂先輩もごめんなさい、アーチャーさんを失うことになってしまって……」

「……別に謝られても困るわよ。これは戦争なんだから、やられたってのは私とアーチャーの実力が足りなかった、ただそれだけの話よ」

 

 桜の謝罪に対して、遠坂が彼女らしいセリフを返す。

 まぁ、アーチャーもきっとこうして桜と遠坂を守れて満足しているのではないだろうか。なんとなくそんな気がする。

 

「ま、これで桜たちの事情の説明と謝罪はすんだでしょ。それより……重要なのは今後の話よ」

「今後のこと……残ったアサシンと聖杯の話だな」

 

 確かに、重要なのはこれからの話だ。特に臓硯との戦闘中に逃亡したアサシンについては早急に対策を考える必要がある。

 

「キャスターの魔術でアサシンがどこにいるか分からないのか?」

「無理ね。戦闘していたり結界に侵入してきたりと行動を起こしているならともかく……本格的に潜まれると流石に探すのは難しいわ」

 

 そうか……アサシンのサーヴァントは暗殺が主とした役割であり、気配遮断のスキルを持っているらしい。

 そんな相手では流石のキャスターも後手に回らざるを得ないか……

 

「1番懸念すべきなのはマスターを失ったアサシンが魔力を保つために一般人を襲ったりすることだけど……」

 

 アサシンはもともと臓硯のサーヴァントであり、それは奴が桜の肉体をのっとていた時もそうだったのだが、アサシン自体が特殊な召喚方法と契約だったことや臓硯がすでに消滅してしまったこともあって、現在の桜との契約は完全に途切れておりフリーのサーヴァントとなっているらしい。

 とりあえず今はキャスターやセイバー達が何も感じていないという事は派手に暴れたりはしていないということだが、それでも警戒はしておくべきだろう。

 

「ちなみに、もう魔力切れとかで消滅してるってことはないのか?」

「それはないわね。消滅したサーヴァントの魂は小聖杯へと注がれる。アサシンが消滅すれば私かサクラが気づくはずだもの」

 

 俺の言葉を今まで横で話を聞いていたイリヤが否定する。

 聖杯と繋がっている桜とイリヤは、消滅したサーヴァントの魂を取り込む機能を持っている。そんな彼女たちが気づかないということはやはりどこかに潜伏しているのだろう。

 

「アサシンは単独行動のスキルを持っていないし、マスター無しではそういつまでも現界はしていられないはずよ。ランサーやライダーを喰らって強化されているとはいえ、そう何日も保たないとは思うけれど」

 

 キャスターがアサシンについてそう分析する。

 2騎のサーヴァントを喰らったアサシン、その力は最初に会った時よりも格段に上がっているのだろう。

 だが、どれほどアサシンが強化されようとサーヴァントだという事実は変えられない話でもある。間桐臓硯という現世への楔を失った奴はじきに消える運命にあるはずだ。

 

「うーん……何にせよ現状はこちらからアサシンを探す方法はないんだ、もし人を襲うような気配があればすぐに駆けつけられるように警戒しておくしかこちらとしては打つ手がないか……」

 

 そう言って話を締めくくる。

 このまま、何事もなく終わってくれればいいのだが……

 

「上手いことアサシンを倒したとして、聖杯に関してははどうするんだ?汚染された聖杯を浄化するって話もだけど。、イリヤと桜、小聖杯が2つある状況では貯蔵されるサーヴァントの魂も分断されてしまってそもそも聖杯として完成できないんじゃないか?」

 

 万能の願望器……聖杯にとって重要なのは器では無くその中身だ。

 召喚されたサーヴァントの魂で器を満たすことで、その力が発揮されるという。

 だが、器が2つある状況では中身が満たされず中途半端な形になってしまうのではないだろうか、どちらかにサーヴァントの魂を集めたりする必要があると思うのだが……

 

 そう思って口にした言葉に、何故か皆の顔が曇り沈鬱な雰囲気が流れる

 そして、しばしの沈黙の後、意を決したようにイリヤが口を開く

 

「そのことなんだけど……サーヴァントの魂を取り込むにはリスクがあるって話を前にしたの覚えてる?」

 

 あぁ……そういえばそんな話をイリヤが前に話してたな。その時は、現状では特に問題はないからといってはぐらかされてしまったがリスクとは具体的にはどんなものだろうか?

 

「そもそもね、中身が満たされるということは、聖杯として完成に近づくということでもあるわ。それはつまり――サーヴァントの魂を取り込むことは、器となるものの人間性の喪失を意味するってことなのよ」

「人間性の喪失?……それって、どういうことだよ?」

 

 イリヤの不吉な言葉に思わず詰め寄るように質問する。

 

「そのままの意味よ、聖杯に人間性なんていらない。サーヴァントを取り込んだ分のキャパシティを補うためにも、不必要な部分は切り捨てられる。それは例えば――体機能であったり、五感であったり、意思や記憶であったりね」

 

 意思や記憶までもが切り捨てられる……そうして、聖杯になったとしてもそれはもう元の桜やイリヤと呼べるものではないのではないのか……

 

「桜は臓硯に取り込まれる前から熱を出してたでしょ、あれは臓硯の影響もあるけれどそれ以上に聖杯として開花しつつあった影響でもあったのよ。今は、臓硯の知識を得て魔術師としての技能を身につけたことで、だいぶ抑えられてはいるようだけどね」

 

 チラリと桜を見ると、黙っていてごめんなさいと謝られた。

 今は何ともないというなら幸いなことだが、あの熱はそんな原因があったのか……

そういえば、いつぞやの公園でイリヤに桜の事を気をつけろと言われてたな……今にして思えばこの事を言っていたのだろうか。

 

「現在消滅したサーヴァントの数は5騎……ギルガメッシュの存在は想定外だったけれど、桜と私、それぞれで取り込んだ数が分かれてるからなんとか問題ないわ。でも……この状態で中身をどちらか移すようなことがあれば、器となった方は容量を満たし、その人格は間違いなく消えるでしょうね」

 

 セイバーに願いを叶えてやると約束したし、キャスターとの同盟も聖杯の存在を前提としたものだ。

 

 でも――もし聖杯を完成させることで桜とイリヤ、そのどちらかが死んでしまうというのなら――

 

「そんな雨に打たれた子犬みたいな顔をしないで頂戴。坊やの性格からして桜さんとイリヤスフィールを犠牲になんてできないということぐらいは予想がついてたわ。だからこそ、桜さんが臓硯の知識を得られるようにわざわざ面倒な手順を踏んだのだから」

 

 キャスターの言葉にバッと顔を上げる。

 

「どういうことだ、キャスター?小聖杯が2つあるような状況では聖杯は完成には至らず、かといってどっちかに中身を寄せるようなことがあれば器となったものは死んでしまうんだろ?何か他に方法があるのか?」

「何度も言っているけれど、重要なのは器ではなく中身よ。英霊達の魂を集めることで聖杯は願望器へと至る」

「いや……それは分かってるけどさ、だからといって桜とイリヤ、どっちを器にしても死んでしまうんだろ?そんなことは許可できない、でも器になるものが無いんだったら聖杯は完成することもない」

 

 どうにも堂々巡りをしているように感じる。

 聖杯を完成させるためには、イリヤか桜の犠牲が必要で、当然そんなことを許容することはできない。

 かといって、聖杯がなければセイバーとキャスターは願いを叶えることもできない。

 

 手詰まりだ。

 

 桜とイリヤ、そのどちらかの犠牲が必要だという時点で。

 

 そう悩む俺にキャスターが口を開く。

 

「そもそもね、桜さんかイリヤスフィール、どちらかを犠牲にしなければいけないと思っているからダメなのよ。他に選択肢がないのなら作ればいい、それだけの話よ」

 

 キャスターが謎かけをするかのようにそう語る。

 

 他の選択肢――?

 でも、そんなものは――

 

「だから文字通り作ればいいのよ、新しく。桜さんでもイリヤスフィールでも無い――――新しい小聖杯をね」

 

……………新しい小聖杯?

 

 確かに、その発想はなかった……

 第3次聖杯戦争までに用いられていた聖杯も元々は無機物だったらしいしそれならば器となった者が死ぬこともない。

 

「でもさ、聖杯を作るって……そんなこと可能なのか?詳しい仕組みは分からないけど凄い魔術やら素材やらで作ってるものなんだろ?」

 

 俺なんかの魔術知識ではその仕組みは想像もつかないが、サーヴァントを召喚し、その魂を使って願いを叶えるなんて代物だ。そう簡単に作れるとも思えないが……

 

「えぇ確かに、冬木の聖杯は、奇跡がありふれたものとして存在していた時代を生きた私から見てもなかなかの代物よ。そう簡単に再現はできないでしょうね。でも、それは一から作ればの話。今回の場合、大聖杯という術式は既に存在していて、燃料となるサーヴァントも召喚されている。問題となっているのはそれを受け止める小聖杯だけよ」

 

 俺の疑問に対してキャスターがそう解説する。

 

「小聖杯に関しては元々、聖杯戦争のたびにアインツベルンが製作していたのでしょう。なら、また新たに作れない道理なんてないわ。特に今回は聖杯を作った始まりの御三家、その末裔達が集まっているし、本来使われるはずだった小聖杯たるイリヤスフィールと前回の聖杯のカケラを宿した桜さんがいる。設計と技術に関してもはや問題はないわ」

「お爺様は小聖杯を所有するアインツベルンを出し抜くためにそういった研究はかなり進めていましたからね。きっとその知識で私も先輩のお役に立てるはずです」

 

 桜が誇るようにエヘンと胸を張る。

 確かに、桜は200年前の大聖杯の術式の設置に携わった臓硯の知識を持っているのだ。大まかな仕組みなんかは分かってはいるのだろうが……

 

「残る唯一の問題は材料だけれど……こちらもまぁ、何とかなるわ。流石に一朝一夕でという訳にはいかないけれど、聖杯を作ること自体はそう難しくないわ」

「ふぅん、3つ目の小聖杯とは面白そうね。聖杯の管理をしているアインツベルンとしては見逃せないんだけど、バーサーカーを失って今回の戦争で勝ちの芽は無くなったし、神代の魔術師が作る聖杯となれば少し興味もあるわね。いいわ協力してあげる」

 

 イリヤも乗り気なようだ。

 聖杯の製造をしているアインツベルンの知識とそれを出し抜くために長年暗躍していた臓硯の知識をもった桜、そこにキャスターの魔術の腕まで加われば確かに問題は無さそうな気もする……

 

「よし、じゃあ今後の方針は決まったな。潜伏しているであろうアサシンに警戒しつつ、新しい小聖杯を作る」

 

 俺の言葉に皆も頷く。

 方針は決まった、アサシンを倒し、新たなる小聖杯を作って聖杯自体も浄化する。

 

 そして……それが終われば、その後は残ったサーヴァント同士の戦い……つまりセイバーとキャスターの戦いが待っていることとなる。

 

 

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