HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話   作:ふりかけ@木三中

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28話目 2月11日 昼 セイバーの願い

 

 3つ目の聖杯を作ろうと方針が決まってから、キャスター、桜、遠坂、イリヤの4人は早速その製作のための会議を始めた。

 設計図を書いたり、材料を何かで代用できないかだとか中々議論は白熱しているようだ。

 一方俺はと言えば、アーチャーの記憶を垣間見てある程度の魔術知識を得たとはいえ、流石に聖杯の詳しい仕組みは分かるはずもなく、いても邪魔になるだけなので大人しく昼飯でも作ることにする。

 同じく魔術に関してはそこまでの知識は無く、居づらそうにしていたセイバーにも声をかけ、昼飯を作るのを手伝ってもらう。

 

 台所に移動し、材料や調理器具を並べて昼食に準備を始める。

 セイバーも腕をまくり、青いエプロンをつけて準備万端といった風にこちらを見ている。 

 

 そんなセイバーを見て、なんとなく感慨深い気持ちになる。

 セイバーが臓硯によって影に呑まれ、俺たちと敵対することになった時はまさに絶望の二文字だったが、またこうして彼女と料理を作ったりといった何気ない日常を送れるなんてな……

 

「それで、シロウ。今日は何を作るのですか?」

「そうだな……それじゃあ、野菜炒めでも作るからセイバーは人参を切ってくれ」

「了解です」

 

 俺の指示に従ってセイバーは黙々と人参を切り始める。

 剣士のクラスってぐらいだから、包丁の扱いも上手いのかと思ったのだがそういう訳でもないらしく、不揃いな大きさの人参が積み上がっていく。

 

 よく言えば豪快、悪く言えば大雑把なその包丁捌きはお国柄なのか彼女自身の性格によるものなのか

 

 まぁ、セイバーの生涯を考えれば料理なんてほとんどしたことないだろうし、仕方のないことなのだろうか。

 

「セイバーの生涯か……」

 

 今しがた、自分の考えたことを知らず知らずのうちに小声で反芻する。

 脳裏に浮かぶのは、キャスターの手を借りてパスを結び直す際に見た、セイバーの記憶の数々だ。

 

 白亜の城、円卓の騎士……そして少女が選定の剣を引き抜くその姿。

 

「…………」

 

 横に立つ小柄な少女の姿を改めて見やる。

 俺の想像している英雄がその正体なのだとしたら、あまりにそのイメージと実像はかけはなれている。

 

 思えば俺は彼女自身のことについてほとんど知らない。

 彼女の真名も、生い立ちも、彼女が何を願ってこの戦いに参加したのかも、彼女自身の口からは聞いていない。

 

 それは、今まで意図的に聞かないようにしていたことではあるしセイバーも特に語ることは無かった。

 だが、今の状況はいい機会かもしれない。また、いつ臓硯にセイバーを奪われた時のように状況が一変するかも分からない。ここらで、一旦腰を据えてじっくりと話をするのも悪くないだろう。

 

「…………なぁ、セイバーに、いや……アーサー王に話を聞いてもいいか?」

 

 意を決して発した俺の言葉に、セイバーは包丁を動かす手を止めて、その緑の瞳がゆっくりとこちらを射抜く。

 

「……もう隠す意味もないとは思っていましたが、やはり私の真名に気付いていましたか」

「まぁ、ここまでヒントを出されたらな、鈍い俺でも流石に分かるさ」

 

 セイバーの記憶を垣間見ただけでなく、『勝利すべき黄金の剣』や『全て遠き理想郷』など宝具の真名まで分かっているのだ。

 もはや、連想ゲームをするまでもなくセイバーの正体には思い至る。

 

 選定の剣を引き抜いてブリテンを治めたという騎士王、アーサー王。

 

 それこそが彼女の真名だ。

 

「そう……我が名はアルトリア・ペンドラゴン、かつてのブリテンの王。それが私の真名です」

 

 改めてセイバーが自身の真名を名乗る。

 アルトリア……それがセイバーの本当の名前か、予想はしていたとはいえ、今、目の前にいる少女がアーサー王なのだと告げられるとやはり驚きはあるな。

 

 それにしても、意外にセイバーはあっさりと自分の正体を認めたな。

 まぁ、元々俺に真名を教えないようにしていたのは、俺を通じて敵にセイバーの真名がばれないようにするためだ。俺がセイバーの正体に思い至っている段階ではわざわざ隠す必要もないか。キャスターもはっきりとは言っていないがセイバーの記憶を垣間見ることでその真名には大体行きついているだろうしな。

 

「それで……私に話を聞きたいとのことでしたが、一体何を知りたいのですか?」

 

 話を促すようにセイバーが口を開く。

 

 そう……今はセイバーに聞くべきことが、今までは聞かないようにしていたことがある。

 彼女の生前についての話ではない、それについても確かに非常に気になるが、今聞くべきは別の質問だ。

 

「セイバーの願いってのは、一体何なんだ?」

「……………」

 

 俺の質問に対して、セイバーは言い淀むように口を閉ざす。

 セイバーの性格的に予想はしていたが、やはりそうペラペラとは話してくれないか。

 

「――何故、今になってそのようなこと聞くのですか?」

 

 俺の質問に対して、逆にセイバーが質問を投げかけてくる。

 何故、セイバーの願いを知りたいのか、か――

 

「そうだな……1つは単にこの戦争の終わりが見えてきて気になってきたってのはある」

 

 残るサーヴァントは3騎、セイバー、キャスター、アサシンだけだ。

 聖杯に関する諸々の問題もキャスターたちのおかげで解決のめどが立ったし、そろそろ終わりに向けて考え始めてもいい頃だろう。

 

「後はまぁ……キャスターのことだな」

「キャスターの?」 

「あぁ、俺自身は聖杯にかける願いはないがセイバーの願いは叶えてやりたいと思っている。けど、それは……キャスターの願いを否定するってことでもある」

 

 聖杯に願いをかけることができるのは、その聖杯を手にしたサーヴァントとマスターのみ。

 セイバーの願いを叶えるという事は、当然キャスターの願いは叶わないという事だ。

 

「それは……まさか、キャスターと戦いたくないという意味でしょうか?」

「いや違う。別にキャスターを贔屓したいって言ってるわけじゃないぞ。元々、最後はキャスターと戦って決着をつけるって話だったんだ。その時が来たら、戦うこと自体に異論はない」

 

 そう……キャスターとは元々、他のサーヴァントを倒すまでという条件で同盟を結んでいる。

 もちろん、今までの共に戦い暮らしてきたキャスターには感謝してるし情も湧いている。それでも、戦いに関しては話が別だ。ここで、戦わないなんて言い出すのはセイバーに対する裏切りだ。

 

「俺が言いたいのは、キャスターの願いを否定する以上は、こちらも相応の姿勢で挑みたいって話だ」

 

 キャスターの願い。

 それは葛木先生を蘇生させることだ。

 

 その願いの是非はともかく、キャスターがどれほど強く葛木先生を想っているかは知っている。

 俺たちと手を組み、何度も危険な目に遭いながらもキャスターはその願いを叶えるために戦い続けてきたのだ。

 俺としても一度セイバーを失った時にパートナーを失う辛さは痛いほどによく分かった。キャスターの願いの痛切さは理解できるつもりだ。

 

 だからこそ……そんなキャスターの願いを否定してせいの願いを叶えるならば、こちらも相応の覚悟で挑みたい。

 

「今の俺はセイバーの願いを知らない。もちろん俺は何があってもセイバーの為に戦いたいと思ってる。けど、それはセイバーが俺のサーヴァントだからじゃなくて、ちゃんとセイバーの願いを知った上で戦いたい」

 

 そう言ってセイバーをじっとセイバーを見据える。

 

「……………」

 

 セイバーは俺の話を聞いて尚も押し黙っている。

 だが、その瞳は僅かに揺れ動いており何かを悩んでいるようでもあった。

 

……実はもう一つ、セイバーの願いを聞きたい理由はあるだが……こちらはセイバーには言わないでおく。

 

「……分かりました。頑なに隠しておく理由もありませんし話しましょう」

 

 そうして、しばらく待っていると俺の説得が効いたのか、セイバーが根負けしたように口を開いた。

 さて、セイバーの願いは一体どんなものなのか……耳を傾けてセイバーの言葉を待つ。

 

「私の願い……それはかつての選定のやり直しです」

「選定のやり直し……?それってどういう意味だ」

「シロウも私の記憶を垣間見たのなら、知っているでしょう。私が選定の剣を引き抜いた結果ブリテンがどのような結末を迎えたかを」

 

 そのセイバーの言葉に、垣間見た彼女の光景がよぎる。

 

 澄み切った青空の下、選定の剣を引き抜く少女の姿。

 赤く染まった丘の上、血に塗れた槍を持ってただ孤独に佇む王の姿。

 

 それが、かの騎士王の始まりと終わり。

 

 それは知っている。

 だが、それが何故、選定のやり直しなんて話に繋がるのか……

 

「私はあの最期の時、カムランの丘にて思ったのです。もし選定の剣を引き抜いたのが私でなければ、また違った結末があったのではないか、より良い幕引きを迎えることが出来たのではないかと」

 

 それはつまり……自身の統治が間違っていたのではないか、自身の人生が失敗だったのではないのかとセイバー自身が思っているということだ。

 

「仮に……その選定のやり直しとやらを聖杯に願ったとして、セイバーはどうなるんだ?」

「そうですね、具体的に聖杯がどのように願いを叶えるのか、細かい条件は分かりませんが、恐らく『英雄としての私』はその存在を消し、『英霊としての私』は契約に則り、抑止の守護者として戦い続けることになるでしょう」

 

 詳しく聞けば、セイバーは聖杯を手に入れるために世界と契約することで彼女は生前の時間からそのままサーヴァントとして召喚されているらしい。

 だから、仮に歴史を変えて「アーサー王」という存在が消滅しても、世界の駒として彼女は戦い続ける運命にあるのだという。

 

 そんな説明をただ淡々と俺に話すセイバー。

 

 なんだよそれ……それはつまり、彼女が聖杯に願いをかければ、生前の彼女の存在は歴史から姿を消し、死後の彼女は今のサーヴァントのような形で戦い続けることになるってことなのか――?

 

「――それでいいのか?過去の自分を消して、未来の自分を売り渡して……それで本当に良いとセイバーは思っているのか?」

「?……良いも何も、私はその願いを叶えるために今こうしてここにいるのです」

 

 そうはっきりと断言するセイバー、その声音には感情は篭っておらず、ただ当たり前のことのように彼女は話す。

 その様子から、彼女が自分の願いに対して全く迷いが無いことを悟る。

 

「……キャスターから、サーヴァントは聖杯に第2の生を願って受肉する奴も多いって話を聞いた。セイバーは第2の生には興味ないのか?」

 

 前回の聖杯戦争の生き残りだという8人目のサーヴァントの存在について、恐らく受肉してこの10年間を生きてきたのだろうという話をキャスターから聞いた。

 そういった第2の生を望む者は英霊たちの中にも多いらしいし、セイバーも興味があるのではないだろうか?

 

「受肉……ですか、確かにそれを望むサーヴァントは多いでしょう。しかし、私の場合は先ほども説明したように厳密にはまだ死んでいませんし、仮に他のサーヴァントと同じように英霊として召喚されても、やはり受肉は望まないでしょう。私の願いは――未練はあの選定の日に私が剣を引き抜いてしまったことですから」

 

 そんなセイバーの言葉を聞きながら考える。

 

 ……やはり、セイバーから多少強引にでも願いを聞いておいてよかった。

 

 彼女が願いを言いたがらないのは、別にその願いが邪なものだからだとか、人には言えないような恥ずかしいもだからではないだろうといことは何となく予想はついていた。

 セイバーとはそれなりの期間を過ごし、彼女の記憶まで垣間見ているのだ、その人となりはもう分かっている。

 こうして無理にセイバーの願いを聞きだし本当の理由がそれだ。

 

 彼女が抱くだろう願いはきっと世界征服だとか、不老不死だとかそんな我欲にまみれたものではない。

 むしろ、きっと、自分を犠牲にしてでも何かを救いたいというような、強く、美しく――そして痛ましい願いだろうから。

 

「…………セイバーの願いは分かったよ」

 

 彼女が何を願い、何をしようとしているのかは理解できた。

 

「正直言って、その選定のやり直しって願いで本当にブリテンが救えるのかは俺には分からない」

 

 俺にはセイバーが救おうとしている当時のブリテンの詳しい状況は分からないし、聖杯の詳しい仕組みも分かってない。

 仮にセイバーが願いを叶えて、本当に思い描いていたような結果になるかは俺には想像もつかないことだ。

 

「でも……もしも、それで本当にブリテンが救えたとして、セイバーは……どうなるんだ?」

「どう……とは?先程説明したはずですが?英雄としてのアーサー王は歴史からその姿を消し、本来の私は契約に伴い抑止の守護者となるでしょう」

 

 セイバーは当たり前のことのように、先程の説明を繰り返す。

 その姿にもどかしさを感じて、思わずセイバーに怒鳴るように詰め寄ってしまう。

 

「だから!仮にそれでブリテンが救えても、セイバーがあまりにも報われないじゃなかって話をしてるんだ!」

 

 セイバーが消えるだとか、これからも戦い続けるだとかそんなの冗談じゃない。

 それじゃブリテンが救えても、セイバーがあまりにも報われない。

 

「報われる、ですか?しかし、これは私の未練でもあるのです。ですから……」

「その話はもう聞いた。セイバーがそういう奴で、今までもそうしてきたんだってことは分かる」

 

垣間見たセイバーの記憶でもそうだった。

彼女は常に自らを押し殺し王として振る舞ってきた。

そうして今も、聖杯を求めて戦いに身を投じている。

 

「俺は……頑張った奴が報われないのは嫌なんだ」

 

こんなに頑張っているセイバーが幸せになれないなんてのは間違ってる。

そんな想いを俺はセイバーに素直にぶつける。

 

「…………シロウならば、分かってくれるだろうと思ったのですが……」

 

だが、セイバーは残念そうに一瞬、目を伏せると、顔を上げて改めて俺を見据える。

 

「……シロウが私の身を案じてくれているのは分かりますし、私のマスターとして戦いに参加してくれたことには深く感謝しています」

 

 セイバーはそんなセリフと共に、深々と俺に頭を下げる。

 けれど、それは俺の意見を聞いて願いを取りやめるつもりになったからなどではないだろう。

 

「ですが――私はやはり、私の願いを捨てることはできない」

 

 ――あぁ、分かっている。

 セイバーはこういう奴だ。でなければ、そもそもそんな願いを持って、こんなバカげた殺し合いには参加していない。

 

「シロウが私の願いに反対だと言うなら、別に無理に賛同してもらおうとは思いません。その場合は、私一人になっても戦うだけです」

 

 そう強い意志をこめてハッキリと宣言した後、セイバーは黙り込んでしまう。

 その様子から、今ここで言葉を重ねたとしも、その程度では彼女の決意は揺らがないことを悟る。

 

「…………」

 

 そうして、俺はセイバーを説得できず、セイバーも俺に何か言ってくるわけでもなく。

 無言のまま、気まずい昼食作りを終えるのだった。

 

 

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